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4.宮廷付き魔術師軍団じゃ


 会議が終わった。

 日はまだ高い。

 明日、戦争に出発じゃ。

 これはもうどうにも準備が足りん。バナナはオヤツに入るのかの? 乳酸菌飲料を水筒に入れてもいいのかの?

 

 ワ、ワシは魔法使い30人が放つ攻撃魔法をどうにかできる能力なんぞもっておらん! 敵が2名以上だとすぐ死ねる!


 それはそれとして、今日中に片付けておかねばならぬ事が、山ほどある。

 まずは、部下の宮廷付き魔術師達に、指示を出しておかねばならん。

 使えそうな部下を戦場に引っ張り出さねばならん。

 高みの見物のつもりじゃったのに、トホホホ。




 さて、我が仕事場、魔術師室のドアを乱暴に開けた。


「皆のもの、大事な話がある!」


 働いているのは5人。数日前はジョルジュ君とその部下がまだ捕まってなかったので、もっと多かったのじゃが。


「騎士団が明日出撃する――」

 ここで台詞の続きを思いとどまった。

 明日戦場へ行く事が決まりました! などといきなり言えん。


「話がある。今日の仕事はこれで切り上げじゃ。みなで飲みに行こう」

「それって仕事ですか?」

 え? 部下に切り替えされちゃった?


「時間外手当が出るんですか?」

「ただでさえ人数が少なくなっているのに!」

「パワハラじゃないんですか?」

 上司が酒に誘うのがパワハラかの? ワシの若い頃は――。


「失礼しまーす!」

 イレーズがワシの後ろから顔だけ覗かせておった。なんちゅー軽い挨拶じゃ!


 5人が一斉に作業を中断し、ワシの方を見ておる。

 動きを止め、光の宿った目で、口をポカンと開けて……。

 あ、違うわ。

 連中、見ているのイレーズだわ。


「な、な、なんでござるか!?」 

 いきなり話し方が代わったのぅ?

 こやつ、ニンジャの潜入要員じゃったのか?


「ビ、ビショウジョ! ビショウジョでござる! だれかビショウジョの綴りを教えてほしいでござる!」

 たしか前にビショウジョって書けと言ったら、字の綴りを知らん者が大勢いたのう。


「生まれて初めて女性を見た! あなたが神でござるか!?」

 おまえの母が男だったとは、初耳じゃった。


「ちがう! これは幻でござる! 現実じゃないんだ! 僕は信じないでござる!」

 目の前の存在を否定するのね。


「僕は魔法聖処女ピエレッタちゃんと結婚したのでござる!」

 おちつけ、ピエレッタちゃんは2次元じゃ。次元の壁を1つ越えるには世界創世のエネルギーが必要じゃ。


 ってか、ニンジャ率が多い職場じゃの。


「イレーズ、見た通り、これは駄目じゃ」

「うむ、たまには儂も間違える事があるのじゃ」


 ずばばっ! 

 これは!? 部下達の戦闘力が上がった?


「のじゃ? 今確か『のじゃ』と?」

「のじゃ姫だ!」

「のじゃ姫! ウキャッ!」


 姫・姫と狂うのように連呼する野郎共。騒がしいのも程がある。


「静まれ! 静まるのじゃ、みなの者!」

「姫、姫!」

「ひーめっ! ひーめっ!」


「宮廷付き魔術師長として命ずる! 静まれ!」

「ウキャー!」

「ウッキー!」


 ナックルウォークによる迷走がいっこうに納まらん。目が血走っていて怖い。こいつら、魔法と真理を探究する理数系研究者じゃったはずだが?


「静かになさい!」

 ぴたり。


 あれ? イレーズの一言で静かになった。ワシの命令より優先度が高いの?


「よしよし、良い子良い子。では、手っ取り早く適性の無い者から落としていきましょうか?」


 イレーズは、ワシに目を向け、同意を求めてきた。

 従軍できそうにない者だけを落とし、少しでも可能性のある者を連れていく。その方が手っ取り早いかもしれんのう。

 ワシは重々しく頷いておく。


「全員起立! この中で、明日以降、わたしと行動が共に出来る者、挙手!」


 しゅたっ!


 イレーズの問いに、音を立てて挙手する大きな子ども達。全員が挙手した。

 目をキラキラさせながら。


「第3段階以上の攻撃魔法が使えない者、挙手!」


 手を下げる者はおらんかった。


 ワシはこそっとイレーズに耳打ちした。内緒話じゃ。


『イレーズや、攻撃魔法が使える魔法使いは全部ジョルジュといっしょに牢屋の中じゃ』

『ドンキーよ、そなた何を部下共に教えておった? つーか、採用基準は何じゃった?』

『やる気と血筋じゃ』

『儂が悪かった。ドンキーは平和脳持ちじゃったのを失念しておった』 


 初めてお師匠様(イレーズ)に勝利したのじゃ。

 ワシに活劇を求める時点で敗北が決まったようなものじゃったのう! ホッホッホッ!


「レベルを少し下げましょう。一泊二日以上の野営を経験したことの無い者。挙手!」


 全員が手を上げたままじゃ。


「もっとレベルを下げなければならない、っと……、では、同条件で旅行へ行った事の無い者、挙手」


 全員が手を上げたまま……。


「では、バーベキューの経験がない者」


 それは下げすぎじゃ、失礼じゃろう! と言おうとしたが、手は上がったままじゃった。


「一日で外食が占める食事の割合が平均6割を超える者」


 まだ上がったままじゃが、上げた手がプルプルと震えだしておる。

 こやつら腕を上げる筋肉がついておらんのか?


「あ、貧血が!」


 うずくまる者が一人二人。起立してから3分と経っておらんよ?

 こいつら、ここまで貧弱じゃったか?


「師匠、駄目です!」

「うむ!」


 ワシらは目と目を見つめ合ってうんと頷いた。

 改めて考えてみると……。魔法を探求するのがメインのお仕事じゃ。引きこもりの性格異常者でなければ勤まらん。青びょうたんになるのは自然の理。無理矢理戦争に引きずり出した所で使い物にならん。


「ましてや、攻撃魔法を弓よりも遠くに飛ばせる連中は、ジョルジュ君と一緒に牢屋の中じゃ」


 攻撃魔法の研究班はジョルジュ君の仲間じゃったからの。

 あの連結魔法は戦争と相性の良い魔法じゃったのー……。まさかフランクリン王国に研究成果が流れてはおらんよね? 怖いので考えるのを辞めよう。



「仕方ありません。わたし達二人だけで出ましょう」

「それが良いとワシも思うのぅ」


 ま、下手に人数出して、戦力としてカウントされるよりましか。

 ……逃げるとしても、少人数の方がよい。


「ワシは明日、騎士団と共に出陣する。これから仕事の引き継ぎをしよう」

「そんな事より、魔術師長。そこの女性は……」


 仕事の引き継ぎをそんな事と一言で片付けてしまわれたわ!


「こやつはワシの弟子じゃ」

「いままで弟子を取らなかった魔術師長が弟子!?」

「つまり、宮廷付き魔術師に入る?」

「それって同僚?」


 再びざわつきだした。 


「魔術師長の弟子のイレーズでーす!」

「イレーズちゃん!」「イレーズちゃん!」「イレーズちゃん!」

 この部屋はよく木霊するのう。


「よろしくお願いします先輩!」

「先輩?」「せんぱい?」「センパイ?」「ウッキー!」

 猿はもういい!


「まずは、このお部屋を綺麗にしましょう! わたし、埃アレルギーなんですよ。埃っぽかったり黴っぽかったりするお部屋に入れないんです。このままじゃ先輩達と一緒にお仕事が出来ません!」


「お掃除ですね! 僕の得意とする所です!」

「いえすまいまじぇすてぃ!」


 毎日のように5Sを命じておるのに、いっこうに片付かんかったんじゃが……こいつら!




 それから、イレーズは猿共の調教を始めおった。


 臨時の組織を立ち上げ、各グループに任命した責任者の指示の元、スムーズに業務を実行できるように組織を整えおった。


 あいつら仕事が増えるを嫌がるくせに、よく説得できたと感心する。

 見た目小娘のイレーズにコントロールできるとは思えんかったのじゃが……。

 部下共は、猿回しの猿のように働き出した。


 一人ずつ上目遣いでお願いしておっただけなのじゃが……。





 ……それな!



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