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2.パーティーなのじゃ

第一話と第二話、連続投稿します。

 新人騎士の叙勲式が終わった。実に厳かな式であった。


 本来であれば、これより数日の間、華やかな催し物があったり、武威を示す展覧試合が執り行われたりして、首都ゼルトニアがお祭り騒ぎになるんじゃがのう……。

 屋台の焼きソバが楽しみだったんじゃがのう。

 迫り来る戦争の気配に、貴族も庶民も暗い顔をしておる次第じゃ。



 フランクリン王国よりの介入(ちよつかい)。女王陛下を含めた国の重要人物の暗殺未遂事件(ワシも重要人物の一人じゃよ)。テロと同期させ、フランクリン王国が戦争を仕掛けてくるやも知れぬ。いや、すでに軍を動かしている可能性もあるのじゃ。その対応に国家組織が動かされた。よって手が回らず、儀式の殆どが中止になったんじゃ。


 たしかに国難じゃ。古式ゆかしき式典をのんびりやってる場合じゃない。もっとも、形式が国難より大事と声を大にしてはばからん貴族もそれなりの数、居ったがの。

 その件に関して、イレーズが記録(チェツク)しておったのが気になるがのぅ。


 軍部は戦争準備に大慌てじゃし、前兆をつかめなかった外務大臣は責任を痛感し、己が存在を掛けた大情報収集作戦を展開しておる。頭の堅い連中にかまっておる者は少なかったのう。


 じゃがしかし、さすがに新人騎士就任を祝うなと言う者はおらんかった。一晩だけのお祭りじゃ。就任祝賀パーティーが開かれる事になったのじゃ。陛下や主立った重鎮が出席する、正式なパーティーじゃ。


 パーティーにはワシもお呼ばれしておる。新人騎士に並んで、ワシも主賓の一人じゃからの。……幸か不幸かと言えば不幸かのぅ?


 考えようによってはアレじゃ。一晩くらい、賑やかな雰囲気を楽しんでも良かろう。

 重鎮の方々は、翌日に対フランクリン王国会議じゃ。大変じゃのー。お国の為、頑張ってくだいよー。

 ま、関係の無いワシは出席せぬから、外野から見守っておるでのー。


 さてさて、一時はどうなることかと思うたが、どうにかスローライフ路線に戻せそうじゃ。




 ってなわけで、ワシとイレーズはパーティに参加中じゃ。


 社交界デビュー前のイレーズも、今回だけ特別に参加が許可されておる。古臭いしきたりを重んじる我が国ゆえ、魔術師長たるワシの護衛という回りくどい名目を付けておるがのう。


 そのイレーズはというと……はしゃいでおる。


「似合うじゃろ? これ似合うじゃろ? こう言うこともあろうかと、密かに用意しておいたのじゃ! 目と髪の色に合わせて作ってもらったのじゃ! のじゃ! のじゃ!」


 いつ用意したのか、深みのある赤いドレスでめかし込んでおった。一体だれに作らせたのじゃろうか?


 ……イレーズのこと、魔法が介入しておる事は、動かしがたい事実であろうの。


「なに目をつぶっておるのじゃ、ドンキー?」

「被害者に黙祷を捧げておくのじゃ。あ、いかん!」


 皆に先駆けて最高司祭である神祇大臣が会場入りしてこられた。

 ワシ、この人、苦手なんじゃよね。


 魔法を忌むべきものとして毛嫌いしておる御仁じゃ。神に仕える者として、見た目、奇跡と同じような作用の魔法が気に入らんのじゃろうな。


 また、「聖」と逆の「魔」の法を使う魔法使いと誹られておる。ワシら魔法使いに言わせると言葉遊びじゃがのう。何かに付け、ワシら魔法使いへの風当たりが強い。とくに長であるワシを嫌っておる。虐めというより宗教弾圧じゃな。


「これはこれはブロウガン魔術師長殿。良かったですなぁ」


 良かった? なんじゃろ? 文脈がなんか変?

 まいいか、機嫌良さそうだし。無難な返事を選んでおくか。


「これはご丁寧にありがとうございます。ワシとしては陛下が無事でなによりでした」

「いえいえ、違いますよ。てっきり魔術師の内乱で処断されたと思っていたら、こうしてまた相見えることが出来た事を喜んでおるのですよ。ではまた」


 あ、駄目じゃ。ワシやっぱこの人苦手じゃわ。

 はっ! イレーズが噛みつく反応を関知したのじゃ!


「イ、イレーズ?」

 慌ててイレーズを静止しようとしたが、彼女はポカンと口を開けて間抜けな顔をしていた。


「こ、これは、香ばしい! なかなか良いキャラではないか!」

 目がキラキラとしたものに。


「いかんよ、いかん! 変に絡んではいかんよ!」

「儂って、貴重なサンプルは丁寧に扱うタイプじゃよ。あ、ほら、お歴々の方々が!」


 内務、大蔵、司法大臣に、ワシら宮廷付き魔術師を管轄する宮内大臣らが続けて会場入りしてこられた。

 さすが歴々たるお方々。お召し物がパリッとしておられる。


 ワシもパリッとしておるよ!


「今更ながらだけど、その靴は何?」

 人が集まってきたので、イレーズも口調をあわせだした。


「さすがイレーズ。よくぞ気づいた! 最新鋭の靴デザイナー、ロベルト先生の本年度モデルじゃ!」

 つま先がくるっと丸まったデザインが特徴。おニューの靴じゃ。


 ワシの趣味は靴収集じゃ。お家に靴専門のクローゼットがある位じゃよ!

 ロベルト先生はまだ若いが、素晴らしいセンスの持ち主なのじゃ。ワシのメタルなソウルが叫んでおる! この靴がその集大成なのじゃ!


「玉虫色のスパンコールをふんだんに使い、通常よりヒールを高くしてある。デザインだけじゃないぞ、靴底に薄い鉄板を貼り付けておってじゃな、靴音にも気を使っておられるのじゃ!」


「……機能性は?」


「うむ! スパンコールが魔術師のローブに引っかかりやすかったり、男物にしては高いヒールのせいで素早く動けなかったり、足底に貼り付けた鉄板のせいで滑りやすかったりするのじゃが、デザインは機能を凌駕するのじゃ!」


「それ、だれの言葉?」


「デザイナーのロベルト先生じゃ!」

「……本人が良いというのなら、口出ししないけどね。近いうちにレアなアイテムになるから大事にしなさいよ。ブランド自体がもうすぐアレって意味で」


 うむ、イレーズもロベルトブランドの希少性を理解したようじゃの。良きかな良きかな!


「おお、陛下のお出ましじゃ。イレーズ、ここからは一層お淑やかにの」


 大臣格の騎士隊長と、目の下を黒く変色させた外務大臣が、ギリギリで会場入りしておられた。

 陛下の登場をもって正式にパーティの開始となる。


 さてパーティは序盤を過ぎ、さらにダンスの時間も過ぎ、あとはワイワイと酒につまみに手を出しながら歓談の場となった。


 ワシは先ほどから騎士隊長に捕まったままじゃ。相変わらずフルプレートアーマーをTシャツ並に着こなしておられる。

 悪いことに、神祇大臣も捕獲されておったのじゃ。


 先日の荒事を褒め称えること数次にわたる。つまり酒に酔って何度も同じ話を繰り返しておるのじゃ。騎士隊長の話によると、ワシらは、背中を預け合う戦友らしい。


 一方、神祇大臣が迷惑そうな顔を隠そうともせず、ワシをメッチャ睨んでおる。

 この空間だけ、気まずい空気に占拠され、幾人かが避けるようにしておるのじゃが……。

 そんなことはお構いなしに、神祇大臣の前でワシを褒め続けるものじゃから、針の筵じゃ。


 助けてイレーズさん!


 ワシの護衛をしとるはずのイレーズは、遠くの方で同年代の女子に囲まれて嬉しそうにしておる。ワザとでしょ? 逃げてるでしょ? イレーズさん!


 騎士隊長がカップに口を付けた。喋りすぎて喉が渇いたのだろう。一時、話が途切れた。


「つまみを切らしました。すこしばかり失礼しますよ」


 話が途切れた隙に神祇大臣が離れた。身分の高い者は直接食べ物を取りに行ったりしない。控えている者に取ってこさせるのだが、気持ちはわかる。


「イレーズの様子を見てきます」

 ワシもイレーズにかこつけて、騎士隊長から離れることにした。

 騎士隊長はすぐに次の犠牲者を捕まえおったから問題なしじゃ!


 小腹が空いたので何か食べるとしよう。

 生ハムメロンが美味しいのう。おっと、湯気を立てた腸詰め肉も旨そうじゃ。

 体の向きを変え……すぐ横で神祇大臣が腸詰め肉を食べておった!?


 こりゃまずい!


 間に小者がおるので向こうはワシに気づいておらん。

 今のうちに逃げようとしたんじゃが、慌てたのがいかんかった。


 慣れないヒールの上、金属を貼り付けた靴底が災いし、足をぐねった上、滑らせてしもうた。


 それでも神祇大臣殿にぶつからぬよう体を捻った。小者に抱きついて、転倒を免れようとしたんじゃ。小者もワシのピンチに気づいてくれたようで、腕を支えてくれた。


 ……あれ? 支えてくれた腕に熱を感じて……。


 左の腕から、銀色のナイフが生えておる?


 ナイフの柄を小者が握っておって――


「邪魔をするな! 神祇大臣! 覚悟しろ!」

「痛い痛い! ちょ、痛い!」


 ナイフを抜こうとするのじゃが、がっつりと刺さっておって抜けん。無理に抜こうとぐりぐりされてムッチャ痛い!

 ああ、血が出た! ピューって! ピューって出てる!


 ワシの悲鳴に神祇大臣が気づいた。


「ひえー!」

 尻餅をつく神祇大臣。

 ワシも腰が抜けたので、ナイフにぶら下がった体勢のまま引きずられておる。余計に痛いのじゃ!


「ドゥナー・ドゥー・ダッグ!」


 イレーズがマジックミサイルを発射した。通常、4本のところ、12本飛び出した。全弾小者に命中。5メートルは吹き飛んだ。


「我が親友に何をしとるかー!」 

 騎士隊長が、戦友から親友へ昇格したワシを助けに来てくれた! 


 放物線を描いて空中を飛ぶ曲者に鎧装備のフルタックルをぶちかました。

 器用じゃの。

 さらに飛距離が伸びる。曲者君、生きておるのじゃろうか?


 ううイカン! 刺された腕が痛いのじゃ!

 あまりの痛みで、床に転がる。泣きそうな顔をした神祇大臣が、ワシを覗き込んでおった。


「ブロウガン魔術師長殿! 私を身を挺して助けてくれたのか!」


 いえ、偶然です。

 足を滑らせてしまって――。っと言うつもりじゃったが、口から出てきたのは「ウググ」って声だけ。


「あんなにお主に酷いことをしておった私を! 国の為だな? 国の為なんだな? 何て愛国心に溢れたお方だ! 許しておくれ、ブロウガン殿ーッ!」


 神祇大臣殿、ワシを揺すっておる暇があったら、ヒーリングをかけて欲しいのじゃ。ほら、血がだくだくと!


「おお、そうだ! 神の御業を! スペシャル・ローリング・サンダァー(左)ヒーリング! キエェェーッ!」


 みるみる傷口が塞がっていく。

 みるみる腕が青黒く変色し、腫れ上がっていく。


「だめよ! 毒が使われているわ!」

 イレーズが神祇大臣の秘蹟を強制中断させた。


「毒だと? さすがの奇跡も解毒は出来ぬ」


 毒と一言で言っても、何十種類もあるのは皆も承知の事じゃろう。このことが奇跡による解毒が出来ない理由なのじゃ。

 どーしょう? ワシ、死ぬの? ねえ死ぬの?


 イレーズが胸元のリボンをほどいて、ワシの腕をきつく縛っておる?


「お師匠様、少しの我慢を」

 何するのイレーズさん?


 手にしているのは切れ味鋭そうなナイフ?

 ワシの口に丸めたハンカチを押し込む?


 グサ!

 再び出血。


「モガァー! (=意:せめてスリープの呪文をかけて、お願い)」


 それから後のことは、気を失っておったので記憶にないのじゃ。人生初めての失神じゃった。






 目を覚ましたのは王宮の医務室。清潔なベッドの上じゃった。イレーズが眠たそうな目をしておった。


「気がついたかドンキー! 徹夜で看病しておったのじゃ。い、いちおうドンキーの師匠じゃしな。そ、それと未然に防げなかったのは儂の手落ちじゃ。別に心配しておった訳ではないからの!」


 寝不足なのか、顔と目が赤い。それを指摘した所、グーで殴られた。

 解せぬ。


 イレーズによると、毒は全て体外へ出せたそうじゃ。

 出血毒じゃったらしい。あのまま放っておくと、内出血が止まらず腕が腐ってポロリする所じゃったそうな。だからといって、傷口が開いたままじゃったら、出血死だったそうじゃ。


 恐るべき二択。


 おや? 怪我をした左腕が細くなっておるのじゃが?


「切って血を流してはヒーリング。切ってはヒーリングを繰り返し、力ずくで毒を流し出したからの。再生にエネルギーをたくさん使ったのじゃ。細くもなろう。なあに心配はいらん。一月もすれば元に戻る」


 乱暴な処置方法にキャンタマがキュッとなったが、結果まで聞いて安心した……。まてよ?


 これを理由に早期引退する道が開かれたのではないかの?

 怪我による引退。慰労金が退職金に上乗せ。

 よし! 機を見て申し出てみよう。

 俄然、未来が明るくなってきおったわい!


「あー、ところで、襲撃犯はどうなったかの?」

 最後に見た光景は、二段攻撃の後、エジプタの壁画のような姿勢で壁にへばりついておったが。



 犯人は一命を取り留めた模様で、今は我が親友(自称)騎士隊長直々の手により、人権には十分配慮したから全く問題の無い地獄の尋問を受けておるそうじゃ。


 今はいつなのか? 事件があった翌朝という事じゃ。てっきり3日ほど寝込んでしもうたと思っておったが、回復が早かったのう。


 身を挺して暴漢より助けたとうことで神祇大臣が大層感動したらしい。

 かき集めるだけかき集めた秘蹟の使い手が、総出かつ最大出力で物量ヒーリングを掛けてくれたのじゃ。HP(体力)回復の奇跡もかけて頂いたので、スッキリ爽やかじゃ!



 この後が大変じゃった。お見舞い客がひっきりなしに訪れてきたのじゃ。


「お許しくだされブロウガン殿! あなたを誤解しておった! ブロウガン殿こそ神の教えを体現するお方。これよりブロウガン殿を父として兄として敬いまする! おお! 御身に幸あれ! ピカー!」


 だれ憚ることなく泣きじゃくる神祇大臣殿。そんなに無造作に聖別して良いのかの?

 ワシはただ転けただけなんじゃがのー。

 あと、ワシは神祇大臣より年下じゃ。


「目を覚まされたか、我が友よ! 魔術師長が睨んだ通り、フランクリン王国が一枚噛んでおるようですぞ!」


 騎士隊長が飛び込んできた。いつもより3割増しで装甲が厚くなっておる。

 それと、この件に関して、ワシは一言もフランクリン王国とは言っておらんのじゃが?


「カタキは大親友であるこの私がとってくれよう!」

 とうとう大親友に昇格してしもうた。


「ただし、暗殺者に聞くことを聞いた後でだがな!」

 ニヤリ。

 もし世紀末覇王とやらが笑ったら、こんな笑顔なんじゃろうな。見ただけで気が遠くなりそうな笑顔じゃ。


「失礼する」

 恐れ多くも陛下の代理人が、お見舞いに来てくださった。


「ブロウガン殿に功績(メリツト)勲章の授与が内定致しました。これからのご活躍を陛下も期待されておりますぞ!」


 勲章って……ワシ、足を滑らせただけなんじゃがのー。

 代理人は侯爵の肩書きを持ってられる大貴族じゃ。寝たままでは失礼にあたるので、体を起こした。


「それと今日の戦略会議には、ブロウガン魔術師長も出席せよと命ぜられました」

「え? 何故ゆえ、戦争の会議に魔術師長が参加するのじゃ? ワシらの主な仕事は魔術の有効利用とその開発じゃぞ」


「またまたご謙遜を。ブロウガン魔術師長におかれましては、戦略戦闘オブザーバーとしての意見陳述が求められております」

「戦や政治のことなどワシは、からきしの素人じゃよ?」


「何をおっしゃる我が親友よ! 魔術師長殿の悪を見抜く目、なにより2つの陰謀を暴いた優秀な戦略眼が宮廷内で高く評価されておりますぞ! ガッハッハッ!」


 悪を見抜く目とか、戦略眼って何? ソバの善し悪しを見抜く目しか持っておらんのよ。

 騎士隊長が笑っておるが、ワシは笑えん。


 そこ、神祇大臣殿、なに穏やかに笑っておるの?


「そうとも、我が兄、魔術師長殿は二つの企みを未然に防いだ。その情報収集能力は我がゼルビオン王国の外交情報部を悔しがらせておりますぞ! さぞや優秀な情報網をお持ちなのでしょうな! ……ハッ! もしや?」


 ワシは何も持っとらんよ! ワシ、ニンジャの件は被害者なのよ! 美味しいザル・ソバの情報網しか持っておらんのよ!

 ワシはイレーズに目配せした。この二人を黙らせるのじゃ!


「神祇大臣閣下!」

 イレーズが声を荒げた。そうじゃイレーズ、いつものパワハラ毒舌でガツンと言ってやるのじゃ!


「これ以上は!」

 イレーズは指を一本、唇の前に立て、左右に視線を走らせる。


 ……ああ、これって最速で黙らせる方法ね……。

 ねえ、わざと意思誘導しとるじゃろ?


「はっ!? そこまで御座いますぞ! 神祇大臣閣下!」


 騎士隊長殿、何に気がついたかは知らんが、それは勘違いで間違いないのね。

 ごつい手のひらを神祇大臣殿の胸に当て、台詞を静止させておるのじゃ。あまつさえ、素早く周囲を見回し、耳までそばだてておる。


「お、おお! 私の気が利かぬばかりに!」

 もろに狼狽える神祇大臣。そこまで青い顔する必要は皆無じゃ。別の方向に気を利かせてどうするの?


「魔術師長殿、是非とも戦略会議に! 魔術師長の持つ情報を開示して頂きたい!」

 おなじくイレーズの芝居に乗せられた代理人殿まで焦り出す始末。

 ザル・ソバの情報を開示しても何も得る物があるまい?


 ワシを取り巻く環境が、より悪い方に傾いたようじゃの……。 


 いやじゃ!

 荒事は苦手じゃ。キャラが違う! そんな会議、お断りじゃ!

 よし、ワシのお芝居スキルが発揮される時は今!


「ワシはこのとおり、本調子ではないので。なあ、イレーズ?」

「その通りで御座います。師匠はまだ通常業務を執り行うことが出来ません」


 やはりイレーズは心の底でワシの味方じゃ! ありがたいのう。そのまま病欠路線で押すのじゃよ!


「……もし、どうしてもとおっしゃるなら、介添人が必要です」

 イレーズさんや、なにその悪い笑顔は?


「ならばイレーズちゃんが介添人になればよい!」

 騎士隊長殿! そなたはワシの身方ではなかったのか?! そして何故「ちゃん」付け?


「おお、イレーズちゃんなら魔法の腕も確かだし頭脳も明晰! 私からも推薦しよう!」

 神祇大臣殿? あなたも「ちゃん」付けですかのう。


 二人とも、イレーズに籠絡されておるじゃろ?


「解決ですな!」


 あっはっは、うっふっふと和やかな笑い声に包まれる病室。


 わ、ワシのスローライフはどこへ行ったのじゃ? 

 


 おまえだけは笑ってはいけないのじゃ、イレーズ!




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