1.宮廷付き魔術師長のまったりスローライフのお話なのじゃ
第一話と第二話、連続投稿します。
僕の名はドンキー・ベンジャミン・リックダム。ベンジャミンと呼んでくれ。魔法使いらしくないので、ドンキーとは呼ばないでほしいです!
下層男爵家の4男だ。
将来有望なんで女の子にだってモテモテさ! ほら美人で有名な「麗しのトラント亭」のエッダちゃんいるだろ? あれ、たぶん僕に気があるぜ!
14才の時、偉大なる魔女アメリア・ブロウガン先生に弟子入りした。現在、住み込み修行中で、まもなく27才になる。
……師匠は「あと3年したら自動的に魔法使いじゃ」とおっしゃるが、意味が解らない。噂に聞く魔法の深淵? その一部であろうか?
もちろん魔法の腕は、いっぱしのものを持っている。
たった13年でここまで上達できたのは偉大なお師匠様と、我が才能? かな?
自慢じゃないが、僕は一般的とされる魔力量を(僅かに)超える魔力量の持ち主なんだ。
アメリア師匠は弟子をとらない事で有名だ。生涯ただ一人の弟子として迎えられたのは、僕に天賦の才があったからだろう!
いや、ちゃんと試験に合格したよ! ラッキーも幾つか重なったけど!
お師匠様のアメリア様は超有名糞ババア、……じゃなくて魔女。この世界で名を知らぬ者はいない。
尊敬するお師匠様の腕はマジ魔王、とにかく異常! パワハラが超激しかった
全属性の魔法に通じ、既存の魔法を改造し、オリジナル魔法まで開発する規格外者。
「氷河の至高魔術師」「魔法の勇者」「大賢者」「もう許してください」など、二つ名は数多い。
なかでも外道勇者と暗黒大魔王を一纏めに始末した逸話が有名だ。パワハラが激しいが。
よって、今も名のある大国から就業要請がひっきりなしに来る。だけど全部断っている。
その理由は、「研究できねぇじゃん」「自由な時間が欲しい」「貴族や王宮の人間関係がめんどくさいし。でもパーチィドレスは着てみたかった。パーチィーに綺麗なドレスを着て、星マーク入りのとんがり帽子で参加するのが夢じゃったウヒヒ(やめてください)」
等々。
そして今、お師匠様は死の床についている。
流石による年波には勝てぬ。
150歳(推定)を迎え、よくわからんが遺伝子的に駄目だとおっしゃる。
さっき呼ばれて、ババア……お師匠様の部屋へ入る所だ。
「ベンジャミン、入ります」
ドアを開けるとベッドにお師匠様がいた。
しわしわの顔に、ぱさついた白髪。床につく前はアナグマを連想させる丸っこい体型だったが、見る影もない。やせ衰えた普通の老婆だった。
今日は体調が良ろしいのでしょう。クッションを腰に当て、ベッドに上半身を起こし、窓越しに庭を見ておられた。
「なにかご入り用ですか?」
「ドンキーの初恋の相手の名を教えるのじゃ」
何をいきなりいうのかな、このババア!
だがお師匠様の命令は絶対。抗うことなく答えなければならない。30分に及ぶ、言葉によるパワハラが待っている。
「ドンキーではなくベンジャミンです。こほん! そうですね……」
田舎の幼なじみを思い出す。
「イリーズちゃんです」
甘酸っぱくて、気恥ずかしいな……。
「じゃ、イレーズにしなさい」
「じゃって何? おかしいよね? 過去を改変するの? なに言ってるのか解りません!」
しまった! つい反抗してしまった。これは1時間コースだ!
「記憶など、どうとでも操れる」
師匠は、庭に視線を戻した。
あれ? それだけですか?
「ドンキーよ、儂は今夜で死ぬ」
ここまでしおらしいお師匠様を見るのは初めてだ。これは、ほんとに死ぬかも知れない。
「ベンジャミンです。少なく見積もっても、あと数ヶ月は持ちそうですが?」
お師匠様は首を巡らせ、僕の目をしっかりと捉えた。
「生まれる日は選べぬのじゃから、死ぬ日くらいは選びたいとは思わんか?」
この場合、どう答えれば良いのだろう?
「ドンキーよ、儂の後継者はお主じゃ。この屋敷にある遺産は全部やるよ。……ただし、地下金庫の赤いの3つは厳重に封印しておけ。世界が滅ぶ」
婆さんがガクブルと震えている。これ本当に危ないやつだわ!
負の遺産を押しつけないでよね!
「それからこれ、卒業証書」
卒業証書って何? この世界に無い物を渡されても困る。
とりあえず見て見ると、何か書いてあった。
俺をアメリアの名の元、優秀な成績で魔法を治めた、等々書かれていた。
魔法の反応も感じる。これは複製不可能なアメリア師匠のサインでもある。
「あ、ありがとうございますお師匠様!」
僕は感動にうち震えた。ちょっとばかり涙も浮かべていた。まさか、今際の際で優しくされるとは、思いもしなかった。
お師匠様が僕の顔をまじまじと見つめている。
「儂があと130才若ければのう……」
「どういう意味でしょうか?」
「そんなこたーどーでもいー!」
僕の疑問は、一刀両断に斬り落とされた。
「お主はどこかに勤める方が性にあっとる。それがあれば、どこかで就職できるじゃろ。では、さらばじゃ。……機会があればまた会おう」
それが大賢者アメリア・ブロウガンとの、最期の会話であった。
……正確に言うと、7日後の夜、トイレに立った僕の背後で、レイスになった糞ババアが静かに佇むというドッキリを仕掛けられたのだが。
死ねよ! 死んでるけど!
―― あれから13年 ――
お師匠様が亡くなった直後こそ途方に暮れたが、就職は簡単に決まった。
卒業証書が効力を発揮したのじゃ。
小遣いの殆どを使って通っておったエッダちゃんともお別れじゃ。お師匠様の死より悲しかったのう。
今年で40才になるワシは、ゼルビオン王国の宮廷魔術師長になっておった。
おでこも後退したが、その分顎髭を蓄えておるのでプラマイ0じゃ!
大国エスパーダ王国やロートリング帝国、小さい所ではベルガンやネードルからもいい話は聞けたのじゃが、やはり祖国よりのお誘いは断れん。困った事じゃのー(自慢)。
それと一人称をワシにして、語尾に「じゃ」をつけて威厳を高めておるよ! なんせ宮廷の重鎮じゃからの!
……重鎮と言っても、大臣ではないんじゃ。……宮内大臣の下の、魔法使い集団の長という立場じゃ。
け、権限ならある!
部下も大勢居るのじゃよ!
人はワシを「爆炎の魔法使いブロウガン」と呼ぶ!
……お師匠様の名字、ブロウガンをこっそりいただいた。なに、弟子ともなれば子も同然。同じ名字を名乗って誰が損する! ドンキーと呼ぶでない!
公的名称は、ベンジャミン・ブロウガン魔術師長じゃ。
悠々自適の生活を送るまで、努力の毎日じゃった。
新入社員当時は横並びじゃったライバル達を実力で追い抜き、この地位に就いたのじゃ。
弟子時代から研究しておった補助魔方陣の開発とか、飢饉に備えて作られているソバのレシピ改良(少量の小麦粉を加えることでボソボソ感が無くなり。ヌードル化を可能にしたのじゃ)や、麦の交配による収穫率の向上なんかが、地味に評価されたのじゃ。
本業の魔法使いの力量じゃが、同僚達はワシの5割から7割しかない。一対一ではワシに勝てぬのじゃホッホッホッ!
……逆に言うと、2人がかりで来られると、不味いことになるがのう。
最近、庶民の間で流行っておるストライカーゲームに例えると、ホームランは狙わず、こつこつとヒットを重ねて得点に結びつけていった。
……庶民の遊びなど詳しくないがの。ワシは元々地方男爵家の息子じゃし! ……4男じゃがの。……「貧乏」と「口減らし」という言葉が大嫌いじゃ!
と、とにかく、その努力が実を結び、女王陛下の信用を得て、今の地位に付いたのじゃ。
質の良い生地で作ったローブをまとい、自慢の顎髭を撫でながら、お城の長い廊下を歩く。明日のお休みはザル・ソバが美味しい店でお昼ご飯。楽しみじゃ。
来週は毎年恒例、騎士叙勲の式があるからのー。お祭りじゃからのー。英気を養うのじゃ。
「ブロウガン殿!」
誰かと思えば、同僚で仲の良い魔法使いジョルジュ君だ。
肥満体質のジョルジュ君は、ハンカチで汗を拭き拭き走ってきた。
「良い資質を持った子がおるのですが、弟子に如何と思いましてな!」
「せっかくですが、弟子は間に合っておりまして」
「宮廷魔術師長にまで登りつめたブロウガン殿が、弟子をとらないのは世間的に不味いのでは?」
ワシのことを心配してくれるのか? 友達とは有り難いのう。
ジョルジュ君とは過去に、魔術師長の席を争った仲なのじゃが、ワシに決まると真っ先に祝福してくれたんじゃ。貧乏男爵家出のワシと違い、有力伯爵家出なのじゃが、家柄を鼻にもかけん。
良いやつじゃよー。
「正確に言えば、門戸は開いておるのじゃよ。弟子入り試験問題も課しておるし。合格すれば弟子として迎えるつもりなのじゃが、解ける者がおらんでのう」
「はて? 試験問題とは?」
「それを探し出すのが第一の試験。簡単なのじゃがのー」
顎髭を揃えながら、昔を思い出す。アメリア様が出していた弟子入り試験を採用させてもらった。偶然……もとい、ワシは見事合格したんじゃ。
……本音を言うと、面倒くさいから弟子をとりたくないのじゃ。自分の生活を邪魔されるだけじゃしのー。
「その子にも、今のお話をお伝えくだされ」
「……伝えましょう」
頭を捻るジョルジュ君に、なんだか悪いことをした気になってしまった。
さりげなくフォローじゃ!
「明日のお昼はお暇ですかな? 良ければ一緒にザル・ソバを食べに行きませんか? 美味しい店を見つけましてな」
「あ、いえ、今日はまだ仕事を残しておりますので。ではこれで」
ジョルジュ君はそそくさと城の中へ戻っていった。
庶民街のレストランはジョルジュ君の口に合わなかったかのう? ワシと違って高貴な生まれじゃからのー。
おされなワインを出してくれるバーにでも誘おう! 若い連中も誘えば大喜びで付いてくるはずじゃ!
ワシも新入社員当時、上司から仕事が終わってからの飲み会によく誘われたものじゃ!
付き合いも大事だということを若い連中に教えてやるのが年長者の役割じゃからして!
自前の馬車に乗り、屋敷へと戻る。
一国の魔術師長の屋敷じゃからのう。乗り越えにくい高さの塀で囲み、出入り口には城から借りた兵が24時間体制で守ってくれておるのじゃ。
馬車が門を通過すると、二人組みの門番が敬礼をしてくれる。なかなか良い身分になったものじゃ。気持ちいいいのー。
あと10年で50才となる。早期退職制度を利用して退職金をもらう予定じゃ。その時はこの屋敷も売って資金とし、田舎で悠々年金生活じゃ。
それは人生の勝ち組、スローライフ。
読書に紅茶、庭にはバラの花壇。贅沢三昧じゃ。貯金も貯まりつつあるし、候補地も幾つか上がっておる。
今から楽しみじゃのー。
屋敷に入ると執事とメイドが揃ってお出迎えじゃ。
ローブを渡す際、執事から耳打ちされた。
「お客様が応接室にてお待ちです」
お客? そんなの予定にあったかのう? 前触れ無しに来る客を通す使用人も使用人じゃ。後で注意せねばならぬ。
執事は微妙な笑みを顔に浮かべておった。
「弟子入り志願の方です」
ほう!
第一試験合格じゃのう。
何のことはない。機微を働かせ、警備の隙を突いて直にワシと面会すること。それが第一試験じゃ。
もっとも、弟子をとる気が無いので、次の面接で落とすつもりじゃが。
……にしても、使用人を納得させて応接室を使わせるとは? どんな手段を使ったか、気になるのう。
気持ちを切り替えて。応接室のドアを勢いよく開けた。
「待たせたの!」
ソファにいたのは赤毛に赤い目をした白い肌の……ローティーンの女の子じゃった。
それもソファにふんぞり返っておる。
好みの顔だからといって、それが弟子入り志願者の態度か?
たとえ綺麗どころが多い貴族でも滅多に見ない美少女であっても、速攻で落としてくれよう! 例え、どストライクのタイプであったとしてもな!
おじさん頭に来ちゃいましたよ!
「よう、久しぶり!」
美少女ちゃんは、気さくに挨拶してこられた。
久しぶり? どこかで会ったかのう? 聞き覚えの有る口調じゃが?
「儂じゃ。イレーズじゃ」
イレーズ? ……。
「あっ! お師匠様が名前を変えたワシの初恋の相手の名前!」
にやにやと笑う美少女。イレーズという名は、ワシとお師匠様しか知らぬ!
はっ! もしや!
「また会ったなドンキー」
それはワシの本名! ワシの正体を知るあなたは?
「これ弟子入り試験の解答用紙だ。ドンキーの書いた『ぼくのかんがえたさいきょうのまほう』の原本――」
人生最高出力で足の筋肉を動かし、イレーズの手から黄ばんだ紙束をもぎ取った。
「だ、第一試験合格じゃ!」
汗だらだら。
結果から言うと、イリーズはアメリアお師匠様だった。アメリアお師匠様が自らの細胞を元に作り上げた新造人間に己の記憶を移した存在。医学的にも人間である。
「ヒモをいじって染色体を新品の状態に直した、正確に言えば別人じゃ。アメリアの記憶を持ったイレーズという少女となる」
あの日の夜、まだ元気な内に記憶をイレーズという赤子に移し替えたと。
あれから13年。イレーズは13才と言うことになる
「体をいじりすぎた反動でアルビノになってしもうたが、目と髪に無理矢理色を付けた。でないと日常生活が困るのじゃ」
それで肌が異様に白いのじゃな。
つーか、口調がワシと同じなので、紛らわしいのじゃが……ワシが師匠の真似をしておるのだから、文句は言えんが。
「体をいじると言えば、この左手――」
袖をまくり、細い左腕をだす。肌が白磁のように白くて綺麗。
「――変形するのじゃよー」
いきなり頭の悪いことを言い出したよこの子。
「左腕はボウガンに変形するのじゃ。骨が本体になって腱が弦になるのじゃ。あ、右はナックルから骨が変形強化した亜金属のかぎ爪が出るこよう改造してあるのじゃ」
たぶん、ワシがイレーズを見る目は死人のそれだと思うんじゃ。
何を思ったか、イレーズは、両手を頭の上に揃えてウサギの耳よろしくピョコピョコさせている。自分では可愛いつもりらしい。
じっさい可愛いが!
そしてムッチャそそる笑顔で、
「うっそぴょーん!」
どうどうと嘘を主張した。
――いや、このお師匠様なら、それくらいやる――
嘘だと思い込んだら負けじゃ。お師匠様のこと、可能性は極めて高い。
そもそも――、転生したてはお師匠様といえど赤子のはず。誰が育てた?
赤子の時より何らかの魔法を使って強制的に保護させた説を採用したい。そして楽をして暮らしたはずじゃ。
――このお師匠様なら、それくらいやるッ!――
「では弟子として認めてくれるのじゃな?」
「いやいやいや! 第一、何を好きこのんでお師匠様を弟子にせなばならぬの? 理由を聞かされてないよ」
イレーズは、いやお師匠様は真面目な顔に戻った。赤い瞳で真っ直ぐワシの目を見る。
大事な話? あのものぐさなお師匠様が行動を起こすのだ。この国の趨勢に関わる大事件でも起こるのだろうか?
ワシは音を立てて唾を飲み込んだ。
「ドンキーは魔術師長じゃ。お金も地位もある。よって、弟子になれば楽な暮らしが出来るのじゃ」
「それ真剣な理由だったら怒るけど、ワシ間違ってないよね?」
「いいから、面接試験やれよ! ほら、持ってるだろ? 鑑定玉! あれでスキル計って、『おお!』とか言えよ!」
鑑定玉とは。占いに使う水晶みたいなマジックアイテム。制作者はアメリアお師匠様なので、この世に一つしかない。結構利用させていただいている遺品の一つなのじゃ。
合否を横に置いといて、一度お師匠様のレベルを目で見たかった。ワシと比べてどの程度差があるのか。純然たる興味じゃ。
早速検査してみた。
そして落ち込んでいるワシがいる。
・名前「イレーズ」(真名「アメリア・ブロウガン)
ここまでは良い。嘘では無かったし裏付けが取れた。
次からが頭痛い。
いろんな数値を纏めると、魔法使いレベルが半端ない。
物差しとして、ワシのレベルが仮に100とすると、部下や同僚の魔法使い達は50から70(ちょっと自慢)。
で、イレーズを100とすると……ワシは一桁じゃな。7か8。10は超えない。
魔力量は、桁というか、世界が違うというか……ワシじゃったらコントロールすら出来ず自爆か発狂するじゃろうね。
名前の項目以外、全部頭が痛い内容じゃった。
こうも開きがあるとは……、
ワシ、頑張ったんじゃがのう……。一生懸命魔道を研鑽したんじゃがのう……。
「まあ、そう気を落とす、――何者だ!?」
「なんじゃ?」
笑いながら慰めてくれていたイレーズの声色が途中で変わった。
お客さんでもきたかの?
『フフフ、さすが宮廷付き魔術師長。よくぞ見破られた』
え? なに? 家具の影がするっと伸びて人の形をとった。厚みを増して、本物の人となる。
目だけ出した全身黒ずくめ。背中に刀をくくりつけたそのスタイル!
「噂に聞くニンジャ?」
「お命頂戴!」
「ま、まて、なんでワシが狙われるの?」
「フッ。知れたこと。貴殿が行われる改革を苦々しく思っている方々がおられるようですな! 彼らは全てお金持ち」
ニンジャが背中から刀を抜いたよ。ワシ知ってる。ニンジャ刀というのね。鋼も斬れるんじゃよね?
「お覚悟――うっ! あなたは、いや! あなた様は!」
壁際まで跳び下がるニンジャ。彼が見ているのはワシじゃなくてイレーズじゃった。
「サスケか? 此度の立場は、儂の敵となるか?」
「イレーズ様を敵に回すつもりは毛頭御座いませぬっ!」
どうやら2人はお知り合いのようじゃな。おそらく、過去に不幸なもらい事故を起こし、ニンジャはイレーズに心を折られたとか?
「儂の前で儂の関係者を殺めるか?」
お師匠様の口調が変わった。
「これはあくまでビジネス上のトラブルでして――」
黒装束の上から見てもよく分かるほどの脇汗。脇の下がびっしょり濡れそぼっておる。
「この者を敵に回すか? 儂はこの者の弟子となったのじゃ。師匠を殺された弟子はその仇の首を墓前に供えるまで家に帰れないのが魔法使いの掟」
なにその厳しすぎる掟?
「まだ、お2人は師弟関係じゃないようですが?」
ここが生死を分けるポイント! 空気を読む力だけは人一倍ある!
ワシは叫んだ!
「イレーズを我が弟子と認める!」
「だとよ! どうぞ、殺して良いよ。殺された瞬間にニンジャの隠れ里、上空4千メットルへ瞬間移動してみせよう。忍者の足とどちらが速いかしら?」
あ、お師匠様、ニンジャの隠れ里知ってるのね?
「上空より地中貫通爆裂魔法を使い、山ごと吹き飛ばーす!」
鬼じゃの。命を狙われておいてアレじゃが、どっちが暗殺者か見分けが付かないのう。
「うぐうっ! し、しかし、依頼に失敗すると三倍にして依頼料を返さねばならぬでござる! 経営不振の為、依頼料は前金でいただいておるのでござるよ。このままではニンジャの里が破産するでござる」
「ではこうしよう」
さすがお師匠様、情けを掛けてやるのね。話の落としどころを作る高等話術なのね。
「せめて、サスケんちの壁に飾ってある『忍』の額縁に隠してある『ぼくのかんがえたさいきょうのにんじゅつ』の書だけは、親方でありサスケのお父様であるハクウンサイ殿に渡しておこうではないか」
お師匠様、攻撃の手を緩めないのね。
「拙者の負けでござる!」
これ知ってる。東方マナーで、土下座って挨拶ね。
「陰険なサイゾウと親方様をどうやって説得すれば良いのござろうか……」
ニンジャとしての威厳も恐怖も全て吹き飛ばした、ただの男が小さくなって震えておった。
「これが役に立つかどうか」
ワシは、金庫の中から小さな革袋を持て来た。
破産覚悟で手を引いていただけるのじゃ。可哀想になってしもうた。
それと、サスケ君対し、仲間意識が生まれたんじゃ。
……作文の件で。
「中身はプラチナム金貨じゃ。ワシの予備資金での、万が一の為に貯めていたのじゃ」
「なんと! 有り難き幸せ! これで違約金が払えまする!」
声が、もう泣き声ね。
「儂からはこれを渡そう。仲間の説得へ微力ながら役立つであろう」
イレーズは、どこからか黄色く変色したノートを取り出した。
「これは?」
「サイゾウ殿が14才のみぎり……、己の新サインの練習帖じゃ。こっちは親方様が出張の度入り浸りになっておるパイパイパブの領収書。これは奥方に渡すと言えばより効果的じゃろうて」
嗚呼、ニンジャも人間だったのね。
「あ、ありがたき幸せ!」
サスケが恭しくノートをいただいた。目しか見えないけど、真っ青になっておる。
「では、拙者これにて――うぇっ! 吐きそう。……どうか御身を大切に……それにしても……」
サスケさんが、おどおどした目でワシを見ておるの?
「イレーズ様をお弟子に取られるような大魔法使いの先生とはいざ知らず、大変ご無礼を致しました。大先生にとって、拙者は小者。命があっただけでも幸いで御座います」
え? なに? これ勘違い物だったの?
汗でずぶ濡れになったニンジャは、後ずさって部屋を出て行く。
「……そう、一言だけ」
意を決した目のニンジャ。
「我等独自の組織が掴んだものですので、今回の依頼者とは関係ない筋です。この国の内側に身を食い荒らす害虫が居る模様ですが、外に呼応する害獣もがおりまする。フランクリン王国にお気をつけを」
ニンジャは影と同化し、姿を消したのじゃが、どういう理屈じゃろうね? あれ、魔法じゃないよね?
一件落着。めでたしめでたし!
む? お師匠様が何か言いたそうじゃの?
「王宮、行かなくて良いの?」
そうじゃ! 内部に反乱分子がおるのじゃ! そして、フランクリン王国と言えば我がゼルビオン王国と仲が悪い!
陛下に急ぎ進言じゃ!
今頃の時間じゃと、謁見の間で騎士隊長殿とリハーサル中のはず。……ワシら魔法使いはお飾りじゃから、さほど気にせずとも良い。
謁見の間入り口で、衛士に声を掛けた。
「緊急事態ゆえ、宮廷付き魔術師長の権限でここを通らせてもらう。それと、魔術師副長のジョルジュ君を呼んでくれ! 大至急じゃ!」
こう言う時に頼りになるのは、常日頃より沈着冷静なジョルジュ君じゃ!
指示を与えながらも足は止めず。ワシとイレーズは謁見の間に飛び込んだ。
出入り口左右に近衛の騎士がおる。警備は万全じゃ!
ここは城の中で一番の大部屋。高い天井からは、王国各地支配者貴族の紋章が旗となって垂れ下がっている。
一段高くなった玉座の側で、典礼官と騎士隊長、そして麗しの女王陛下が言葉を交わされておった。
騎士隊長はいつもフルプレート装備じゃ。それに見合う体格と厳つい顔。一言で言ってゴリラ。
「一大事です陛下! 騎士隊長も丁度良い所に!」
「騒がしいですな、ブロウガン魔術師長……」
騎士隊長は魔法使いであるワシに対して、いつも冷たい態度をとりおる。魔法なぞ、騎士の突撃の前には無力! が、持論じゃからのー。
「……と、お美しいレディ。如何なされた、お嬢さん?」
横を見ると、イレーズがたどたどしくも初々しい仕草でカテーシーをしておった。たどたどしいのはイレーズの演技なんじゃが、騎士隊長はまんまと引っかかって鼻の下を伸ばしておるわ。イレーズを連れてきて良かった。
……ほんと良かった!
「自宅で暗殺者による襲撃がありました。逆襲し、締め上げたところ、フランクリン王国の影があったのじゃ!」
「なんだと! ……いや何ですと!」
騎士隊長はイレーズの顔をちらりと見て、綺麗な言葉に直した。
「ほほう、ご無事でしたか、ブロウガン魔術師長」
振り向くと、ジョルジュ君がいた。
お弟子さんや、一部の同僚もおる。共に駆けつけてきてくれたんじゃな!
いやはや、さすがはジョルジュ君。動きが素早い……、ちと早くはないか?
「失礼ながら――」
イレーズの目が、急に怖くなった。
「いきなり『ご無事でしたか』とは、何をもっての台詞でしょうか?」
疑っておるのか? それは勘違いじゃジョルジュ君はそんな男ではない。イレーズの誤解を解かねばならんのう。
「これ、ジョルジュ君は――」
「いかにも、私が裏で糸を引いておる!」
え?
「さすが魔術師長。凄腕の暗殺者をあっさり退け、あまつさえ、我等の計画の先手を取り、陛下の元へ駆けつけるとは! その能力の高さ、先を読む目、行動力、感心致しましたぞ!」
ちょ、ちょっと?
「ところで、そこの見目麗しき少女はいったい? ……もしや、秘蔵のお弟子さんですかな? なるほど、秘密裏に育て上げた自慢の弟子がいては、いやはや、スパイ目的で勧めていた弟子をとらぬ訳だ。いつから私の計画を見抜いていたというのだ?」
ねえ、この話って、「まったり田舎でスローライフ」路線のはずじゃよね?
気を取り直して。何かの間違いかもしれぬ。あのジョルジュ君がそんな大それた事するはずがない。何か止むに止まれぬ理由があるはずじゃ!
「ジョルジュ君、なぜこのような乱暴なことをするのじゃ? 理由を聞かせてくれ!」
「お前が何を言うか! 古き良きしきたりを壊し、下劣な政策を導入し陛下の御心を惑わす張本人が! ソバなどという庶民の食い物なぞ、貴族たる私らの口に入れる訳にはいかぬ! 庶民なぞ、泥水でも啜っておればよいのだ!」
え? 飢饉対策が駄目だったの? ソバ殻は家畜の餌になって農家の費用削減になるし、食糧生産率も上がって、税収が増えたのに?
「血迷ったか、ジョルジュ!」
騎士隊長が吠えた!
大剣を引き抜き、ジョルジュ君めがけて間を詰める。
ジョルジュ君は指で印を結んでいて、――いかん! あれは第3段階の危険な対人攻撃魔法――
『空圧砲撃!』
「ぐはあ!」
騎士隊長の腹に、空圧砲撃が直撃! 鎧の金属片が飛び散る!
「隊長殿!」
ワシの目の前で倒れ込んでしもうた! 思わず抱き起こしてしまったわ!
「ふぅ、不覚ッ!」
生きておる!
フルプレートアーマーを着込んでおらねば、腹に穴が空いて死んでおるところじゃ。ダメージは甚大じゃが、命に別状は無い。だが、しばらく動けんじゃろう。
「今の音はなんだ! 陛下の身によもや!」
頼もしい足音が部屋の外より聞こえてくる。近衛騎士の皆さん、犯人はこっちです!
「連結魔法用意!」
ジョルジュ君が指示を飛ばしておる。なんじゃ連結魔法って?
『火炎防壁!』
こ、これも危険な魔法! 第2段階の魔法、ファイアーウォールじゃ!
「うわぁ!」
謁見の間入り口が、床から吹き出した炎の束よって塞がれてしもうた! まるで大がかりなキャンプファイヤー! これでは味方が入ることが敵わぬ!
じゃが、ファイアーウォールの持続時間は短い。ここでワシが時間を稼げば、火はすぐ消える。そうすれば近衛騎士団の皆様がワシの身の安全を保証してくれる!
「連結魔法により、ファイアーウォールの持続時間は10倍となった。魔術師長殿、時間稼ぎは無駄ですぞ」
恐るべし連結魔法。そして、連結魔法ってなんじゃ?
「魔術師長殿がザル・ソバの開発に夢中となっておられる年月、私は新しい魔法の開発に夢中となっておりました」
「解った!」
イレーズが手を上げた。
「魔力を連結させる術ね。今回は各魔法使いの魔力を連結させたみたいね」
お師匠様には簡単な……、いやまてよ?
ああ、あれか、お師匠様がずいぶん前に提唱しておられた魔法の可能性の一つ。魔力の多段階活用じゃ。それなら知ってる。
「並列で繋いだんじゃな。威力は変わらぬが、持続時間が異様に長くなるアレじゃな」
受け売りとも言う!
「なにぃ! 5年の歳月を費やしてようやく完成したこの秘術、貴様らにとっては既に通過点だというのか!? しかも『並列』だとぉ? 他にもバリーエーションがあるような言い方!」
いや、そこまで大層な物ではなくてじゃな……。
「ザル・ソバの魔法使いと侮っておったが、おのれッ! 偽りの仮面か!」
え? 何その称号だれ? ワシの二つ名は「爆炎の魔法使い」じゃよ!
「くっ! 魔術師長殿、それがしもザル・ソバの魔法使いと呼んでいたことを許していただきたい!」
え? 騎士団長? ワシは「爆炎の魔法使い」とみんなから呼ばれておってじゃな……。
……まさか陛下も?
「妾もてっきりザル・ソバの魔法使いだとばかり――」
ザル・ソバの魔術師って、超細切りテク持ちソバ屋の大将みたいじゃないの!
大ダメージじゃ! お師匠様が必死に顔を背けておる。あ、駄目じゃ、吹き出しおった。
あれ? なんだろう? 涙が頬を伝わって――。
「ふがいない男の為に泣いてくれるか? なんと心の優しい御仁じゃ!」
騎士隊長が唸っておるが、勘違いじゃよ。これ以上勘違い路線に舵を切らないで!
「くっ! だが、さいごは準備は物を言う。災い転じて福と成そう。纏めて亡き者としてくれん!」
ダダダッ! と大勢の足音が陛下の後ろから聞こえてくる。背後をとられたか?
陛下専用の通用口から現れたのは、見覚えある文様が入った鎧騎士。あれはジョルジュん家のお抱え騎士団じゃ!
前は魔術師一団。後ろは騎士一団。挟み撃ちにされた!
いかん、ワシが死ぬ!
助けて、
「イレーズ!」
先生!
『火炎防壁ッ!』
ズゴーン!
爆炎!
ジョルジュ騎士団12人が吹き飛んだ。
「な、なにぃー!? 丁度い感じで魔術師長の合図により放った小娘の魔法だと? あのファイアーウォールは第2段階の威力ではないぞ!」
驚くジョルジュ君。さもありなん、通常ファイアーウォールは爆発しない。炎が吹き上がるだけじゃ。
それと、ワシは合図しとらんぞ。助けを求めただけじゃ。
お師匠様の放つファイアーウォールは第2段階とは思えぬ威力を放つのじゃ。なぜなら――、
「ジョルジュ君の魔法を並列魔法と呼称するなら、イレーズが使った魔法は、いわば直列魔法。持続時間は一瞬じゃが、代わりに破壊力を上げておるのじゃ。ちなみに連結させたのはイレーズの中の魔力じゃがの」
思わず受け売りの解説をしてしまった。
ワシも修業時代、お師匠様の変幻自在な魔法に翻弄されておったからのー。ナツカイシイのー。
「おのれブロウガン魔術師長! 我が道の何倍も先を行くか? くっ!」
それは勘違いじゃ。ワシが凄いんじゃ無くて、お師匠様が凄いんじゃ。
「ならば!」
ジョルジュ達は再び並列魔法発動動作に入った。
「ドゥナー・ドゥーッ――」
あの呪文は! マジックミサイル!
ジョルジュ君の体に青白い光が20個も纏わり付き、輝きを増していく。
どうする! どうするのイレーズさん?
「フッ!」
イレーズさんが笑った。ポケットから5枚の紙を取り出す。
「あれは、ワシが3ヶ月の睡眠時間を削って描いた、マジックミサイルの魔方陣!」
こう見えて、ワシはこつこつとした作業が得意なんじゃよ。
ってか、3ヶ月の努力をここで全部使い果たす気なの?
イレーズは、細かい儀式を全て省略。お師匠様ならさもありなん!
現れたのは同じく20個の青白き光。
だけど、間に合わない。ジョルジュ君が初手をとる!
「火爆噴弾!」
ジョルジュ君、発射! 20個の光弾が真っ直ぐ……ワシへと向かって飛んでくる!?
目をつぶって衝撃に耐える準備をするしかなかった。
「火爆噴弾!」
お師匠様が発射! 遅いよイレーズ先生!
20個と20個の高速弾が空中で交差!
「あわわわ!」
目も眩む光と光。耳がバカになりそうな音、音、音の連打。
音が消えたのでゆっくりと目を開けた。
マジックミサイルは? 全て叩き落とした?
うっそぴょーん!
お師匠様の放ったマジックミサイルは、悉くを迎撃に成功。やったのじゃ! ワシは救われたのじゃ!
「ばかな! 魔方陣を使っただと!? ブロウガンが作った魔方陣だと?」
ジョルジュ君が唸る。そりゃそうじゃろ。高速飛行するマジックミサイルをマジックミサイルで迎撃などできぬ。普通の魔術師なら。ワシだってできん。こればっかりは原理も解らん。
お師匠様はにっこりと笑った。どうしよう? 腰の辺りがザワッと来る位に可愛い。
「魔法の根幹を理解していれば、微細なコントロールは可能です。詠唱の時間を魔方陣で割愛し、コントロールに裂く。――ですよね? 師匠?」
「くっ! 弟子がそこまでの腕前なら、師匠であるブロウガンはどれほどの高みから我等を見下しておるのか!? 恐ろしいぞ、大魔法使いブロウガン! 私など足下にも及ばぬのか?」
だから、ワシを買いかぶりすぎじゃ!
「まだ終わってないよ!」
イレーズがスペルを唱え始めた。いかん! あれは!
『空圧砲撃!』
「ぐはぁ!」
フルプレートで防御された騎士団長を一瞬で沈黙させた必殺対人魔法!
ジョルジュ君に直撃したー! 床に転がったー! はい、キルマーク進呈ー!
あれ? ミンチになってないぞよ? ジョルジュ君は、上半身を僅かに持ち上げた。
「な、なぜ私は生きている?」
「うふふ、コントロールすることによって、1段階上の威力にもなるし、2段階下の威力にもなる。……ですよね? 師匠?」
お師匠様はワシを見て天使のような悪魔の笑顔を浮かべた。
「う、うん! 威力は固定されているモノなんて、誰が決めたんじゃろうね?」
肯定するしかない。この人、何考えてるか解らないし、めっちゃ怖いし。
「弟子にしてこのレベル。私の負けだ。魔法使いとしても、政治家としても……がくっ!」
あ、勘違いしたまま気絶した。
程なく、ジョルジュ君の仕掛けたファイアーウォールも切れ、近衛騎士が大勢踏み込んできた。反乱した魔法使い達も抵抗する気が失せ、温和しく捕縛された。
めでたしめでたし。ワシ以外の人は。
その後、わがゼルビオン王国は大きく動いた。ワシを取り巻く環境も変わった。
第一に、対フランクリン王国。これはワシ、殆ど関係無いのな。ジョルジュ君達は素直に全部吐いた。全幅の信頼を寄せていたジョルジュ君が売国奴であったとは、……1番ショックが大きかったのう。……2番目がザル・ソバの魔法使いという2つ名の件じゃ。
第二に、敬愛する陛下より、感謝の言葉を頂いた。ワシは何があっても首にならない存在となったらしい。給料も上がった。これは地味に嬉しい!
第三に、騎士団長がワシをキラキラした目で見るようになった。そなたこそ、忠臣中の忠臣だの、この恩は我が命をもってお返し致す! だの。絶対に下へ置かない扱い。魔法使いを粗略に扱わぬようになった点は有り難いんじゃがのー。
そして、恒例の叙勲式で、ついでにワシへ感謝の印が下賜されたのじゃ。
それは魔法使いの定番アイテム。
貴金属で作られたトンガリ帽。星マークが入ってるタイプなのね。
お師匠様が腹抱えて笑っていた。
最期に、ワシには「ゼルビオンの賢者」という2つ名が。イレーズに「爆炎の魔法使い」という2つ名が送られた。髪の毛と目が赤いので、よく似合っているのじゃ。
いやいやいや、「爆炎の魔法使い」はワシが所有する2つ名なのじゃが……。「ザル・ソバの魔法使い」より遙かにマシなので、渋々ながら表面上はにこやかに受け取ることとした。
「でもて、なにゆえお師匠様は政争に荷担したのですかな? あれほど表に出るのを嫌がっておられたのに」
我が家のリビングにて、主と見まごうばかりの尊大な態度で100%濃縮還元リンゴジュースを飲む美少女。
「何を言うか? 表に出たのは8割方ドンキーじゃ。儂は、儂のスローライフを満喫する為にもドンキーには出世してもらわねばならぬからの。なおかつ、給料が上がれば万々歳。違うかのう?」
ワシはゆっくりと頭に手を当た。
お師匠様からの責めは続く。
「あ、ちなみに、何があっても辞めさせられないってことは、早期定年退職が出来ないってことじゃ。だいいち世間が許さぬ。今以上に働くのじゃぞ!」
床に崩れ落ちたワシは、ただただ涙を流すだけじゃった。
『宮廷魔術師長が早期引退して田舎でスローライフ始めました』計画はどこへ行ってしまったのかのー。
トホホ。




