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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
97/199

急    襲

雨が降り続けるエインズの街中で

ガラガラと大きな音を立てて馬車がギルド本部の前に堂々と止められる。


強く降り注ぐ雨に打たれる事を気にも止めなかった冒険者たちも

流石にこれには驚き、その場からいそいそと立ち退く。


彼らが驚く理由は颯爽と現れた馬車にではない


馬車から、その地をブーツで叩くように踏みしめ降りてきた人物に対してだった



「マリアだ」



「マリア」



「あの、マリア・ホプキンスがなんで」



「魔女狩りのマリアだ」



「竜殺しのマリアだ」



「鬼狩りのマリア」



「掃除屋」



「百鬼食い」



「無慈悲のマリア」



「審判者―」



遠巻きに眺める冒険者らから、幾度となく呼ばれるその名が耳に障ったのか

その敵意をあらわにした眼光でキッと周囲を見回し、その口らを黙らせた。



周囲は戦慄し、それ以上なにをするでもなく

マリアがギルドの本部へと入っていく様をただ見送った。



本部一階の扉を開くと、ゴツゴツと重々しいブーツの足音を響かせ

遠慮なく受付へと近づくと

その恐ろしい剣幕に困惑して、先ほどまで取り扱っていたであろう

クエストの受付用紙を抱きしめて自分を守るようにして怯える受付嬢。



「―おい」



「ひっ…は、はい!?」



「“あいつ”を呼んで来い」



「あ…あの…あいつ、とは…どどどどどちら様でしょうか?」



「貴様のとこのうさぎ擬きだよ。ニドだよ」



その名を聞いて受付嬢はハッとして「少々お待ちをっ」とその場を逃げるように去っていった。




…暫くして、受付嬢はギルド長であるニドを上から連れてきた。



「…やぁ、さっきぶりだね。マリア」



マリアの来訪に、さほど驚きもせず軽い挨拶をするニド。



「単刀直入にいう。アリシアをギルド登録から解除しろ」



「…ほう。それはまた、何故?」



「決まっているだろ?自身の孫を危険な場所に赴かせるわけがなかろうに」



「それは、アリシアの意思で相違は無いのかな?」



「くどい!」



マリアはニドの続く質問に苛立ちを覚えて受付の台を叩いた。



「よくもまぁ、あんな小さな子供に平気な顔してギルドの仕事をさせたものだ!ニド!

例えそれが貴様と“あの者”なりの考えであったとしてもあの子には、荷が重すぎる」



「と、いう事は…ジロにも会ったという事だね」



「ああ。魔剣との契約も今日で終わりとなった。あの子には平穏な生活が必要なんだ。

わかるだろ?あの子は一度化物に飲み込まれて自分を失いかけていたのだぞ!?

だのに…ようやく…リューネスがその身に変えて取り戻した魂を…命を…こうもまた…!」



「君は少し誤解している。ジロはここに至るまでの彼女の不幸に関与していない。

そして、この場所に来たのもアリシアとジロの意思だ」



「それが本当にあの子の為だと思っているのか!?試すような素振りだけは、十分に悪魔と同義だな

魔王アヴィス!!!」



「その名をこの場に持ち込まないで頂きたいな。それに、ギルドの登録の解除は本人しか出来ない

それに例外は無い。自身で選んだ道に幕を閉じる事が出来るのは…己か、訪れる死だけだ

私が何を言いたいのかわかるかい?」



「くだらん戯言を聞いている暇は無い」



「…マリア。君の気持ちは理解しているつもりだ。自身の弟の忘れ形見である唯一の甥を失い、自身の愛する娘すらも失った。そして、次に失われるかもしれないアリアとリューネスの忘れ形見であるあの子アリシアだけでも守りたいという気持ち…」



「理解しているのならば、何故そこまで拒む!例外は無いだと!?ふざけるな!!」



「それは、あの子が決めた道だからだ。復讐であろうが、生きるためであろうが、誰かの為であろうが理由はなんだっていい。自身で決めた意志を妨げる行為は親友であろうと、肉親であろうと、愛する者であろうとそれは、その行為を愚弄する事になる。踏みにじる事になる」



「…良いだろう。お前の考えはよぅくわかった。しかしな、それでも…あの子の意志を踏みにじってでも私は守らねばならない。それは責務なんかではない。私がこれからもこの世界で自分自身を繋ぎとめておきたい強い願いなんだ。我儘と言われたって構わない。お前とは本質が違う」



両者はそれ以上の言葉を止め、睨み合う。

重苦しい空気がまとわりつくギルド受付で冒険者たちはおそるおそるとその場から出ていく。








そして―…“それ”はなんの前触れもなく始まる






「―!!!」



ニドは何かを感じたように受付に身を乗り出し、マリアには見向きもせず横切ると

大きく跳躍した。



「なっ」



「借りるよ」



ニドはそのまま本部の出口まで駆けると、すれ違った冒険者の持っている長槍を半ば強引に奪い取り外へと向かった



そして



その槍を、ぱらぱらと雨を降らす灰色の空へと目掛けて目一杯投げつけたのだ。



その槍は空気を穿ち、穿ち、穿ち

何度も風を退けた軌跡を残しながら、恐ろしい膂力で形が見えなくなるまで上空へと舞い上がっていく。



「…」



暫しの静寂。雨が地を打つ音だけが響く。

外にいた冒険者の誰もが、その突然の出来事に唖然とした。



一体何が起きたというのか?



「ニド!おい、ニド!!」



マリアも遅れて本部から出てくる。



「一体なんのつもりだ?」



「‥‥」



ニドは振り返らない。ただただ槍を投げた先の灰色の空をジッと見上げている。



「おい!聞いているのか?ニド!」



「マリア」



「なんだ!」



「馬車にはアリシアが居ないようだが…一体何処へ??」



「あの子なら今、クラン亭で待たせている。ここまで来て、気が変わってもらっても困るからな」



「すぐさまそこに向かった方が良い…すぐに行け」



「お前、何を言って―」



マリアはそこで表情を強張らせる

血相を変えて、その手の拳を強く握りしめると馬車と繋がれた馬を切り離して


そのまま馬に乗って颯爽とクラン亭のある方角へと向かった。


その行動にも見向きもせず、ニドは未だに空を見続ける


否、見張っている。



「ギルド長、一体なにが…?」



その異様な空気に遠巻きに見ていた冒険者の一人がニドに近づき質問する。



「いいかい、よく聞くんだ。いまから“死にたくない奴”“腕に自信が無い奴”はすぐさま

この場を立ち去るんだ。そして、一般人をすぐに避難させろ」



「え…」



戸惑いの声を漏らすと同時に、雨の打ち方が急に変わる

煽られるような風、震える空気



そして、それらに入り混じって聞こえる




おぞましい獣の慟哭





「―来るぞっ!!逃げろ!!」




大きく叫ぶニドと、冒険者の周囲を大きな影が覆う




「え、うわぁああああああああ!!」




ズン!と重々しい質量が地に打ち落された音―



周囲が大きく揺れて、皆が姿勢を低くする。



「なんだ!?」



「ひっ―…」



「みんな!!走れ!」



「きゃあああああああああ」




喉を鳴らし、生臭く、冷たい吐息。

未だに雨が降り注ぐ中、辺りに悍ましい戦慄を振りまいたのは、その身が朽ち果てても尚

厄災としての責務を全うするか如く


骸の姿を繋ぎとめた命無き狂骨の竜。




“REEEEEEEEEEEGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”



内無き顎の奥底から空気をビリビリと震わせる咆哮。




「こんなモノを呼び寄せて来るなんて、いやはや…」



ニドは目前の骨竜に対して困ったものだとかぶりを振り、連なる首骨の隙間に刺さる槍に目を向ける。

肉さえ果てた命無き者にそのような一撃、意味など無い。


虚骨のナガ・シャリーラ

骸が動く存在は、この世界において古の渦に由来した魔が憑く話と相場が決まっている。

しかし、この竜は朽ち果てた竜の骸が魔が憑く事も無く稀として死を理解できぬまま厄災の責務を全うしようと動き出す

その力は、伽藍洞の胸中に渦巻く怨念が孤独という感情を依り代に零度が呼応し、氷魔力を発現させる。




「皆の者!!勇ましき冒険者達よ!!このような機会は滅多とないだろう!!

エインズの街に再び脅威が訪れた!!急襲レイドだ!!目標を討伐せよ―」



その場にいる者者は、そ各々の立場を弁えて行動する。

ある者たちは武器を構え、ある者たちはその場を離れ、ある者たちは逃げ遅れた者の手を引き―




「目標はSレートだ。命を惜しまず挑む者は私について来なさい!!!」

―時は少し前に遡る。




ガヤガヤと多くの人々が席を埋めて賑わせるクラン亭の奥の卓で、虚ろな表情を見せて俯く少女が一人いた。

その、テーブルの上にはかつてなら飛び込んでかぶりつきたいほどに愛おしいパンケーキが数段積み重なって置いてあった。


しかし、フォークとナイフを手に握りしめながらもどこか躊躇っていた。



「…」



言葉に出来ない感情が胸中に渦巻き、喉のおくでつっかえている。

そのせいなのか、幾ら大好きなものを前にしたといえども…食べる気にはなれない。


アリシアは、二度、三度と間を置いてため息を漏らした。



「これで…いいんだ」



魔剣、東畑慈郎との決別。

契約というものが一体どういうものなのか解らない。それがあったからこそ命が繋ぎ止められたという事だけは知ってはいても

それが乖離された事で彼女自身に何が変わったというのか全く知る由が無かった。


そして、呆気ない結果に

自分と魔剣である慈郎との間に繋ぎ止めていたものが本当に粗末なものだと思えたのだ。



その事が、より一層虚しく感じさせた。




東畑慈郎。アリシアは彼の迷いと焦燥感に対して、敏感になっていた。

彼が自分の父親であるリューネスで無い事は、“あの時”に既に承知していた。

それでも、自身を娘として求める彼の孤独に寄り添う事で

自分をどんな形だとしても受け入れてくれる思いに甘えながら満たされた気分でいた。

だが、彼を知ればしるほど

彼が本来向けるべき愛情の存在を知れば知るほど

それが、この世界にいるという事を知れば知るほど


自分の置かれている立場を少しずつ弁えていってしまった。


だからこそ、孤独に感じ

罪悪感を感じた。



だからこそ、祖母が現れた時

アリシアは自分を求めて愛してくれている人が別にいると安心した。


そして、彼が放った言葉で自分の中にある迷いもふっきれる事が出来た。

確かな悲しみを胸の奥にしまいながら…




再び、ため息をつく。

他のテーブル席に座る者たちの賑やかな声

それがどうにも聞き苦しい思いになってしまう。



「ありゃ?お前さん…」



そんな中、ある人物にアリシアは声を掛けられた



「あ、メイ…」



片耳を帽子で隠す和服の亜人。

エインズ街一の鍛冶師とうたわれた装備屋のメイ・スミスだった。

手すらも覆った長袖で眼鏡をクイっとして怪訝な表情を見せながらも向かい席に勝手に座り始める。



「どうしたよ?浮かない顔して。報奨金もがっぽり頂けたんだろ?なんか奢りなよ~」



「あ…でも」



人が変わったように戸惑うアリシアの様子にメイは首を傾げる

彼女はメイに対してどう顔向けできればいいのかわからなかった。

ヨシウから聞いたガーネットの脚を失ったトールハンマ―の一件も含め

すでに魔剣との契約が乖離されてこの界隈から離れるという事実をどう伝えれば良いか

答えあぐねていた。




「なんだ?なんかあったのか??つぅかジロケンはどうしたんだよぉ。あ、姉さん姉さん麦酒一杯くださいな」



飄々とした態度で近くにいた店員に注文をしてメイは話を進める。

まさに核心をつく質問だった。



「パ…ジロはもう、私とは一緒じゃない」



小さく固唾をのんで、アリシアはそう答える。



「ん~?」



「私は、もう冒険者をやめる事にしたんだ」



「ん~」



「おばあちゃんがね…迎えに来たの。もう戦わなくていいって…」



「ん~」



「いま、ギルドでおばあちゃんが登録の解除を申請しにいってるとこなの」



「ん~」



聞いてるのか解らない返事をしながら店員が持ってきた麦酒を手に取り

そのまま一気に喉を鳴らしながらがぶ飲みをした。



「…」



「そっか」



コトと麦酒を飲み干した器を置いてメイは

ただ一言、そう答えた。



「え?」



「仕方ねえ。お前さんの道さね。そもそもまだ年上に甘えたい年頃だろうよ

きっと、もう会う事は無いと思うけど。元気でいる事を願ってるよ」



アリシアは呆気にとられた。

あまりにも、あまりにも呆気ない…


彼女には色々と良くしてもらった

魔剣を調整してもらい、装備まで誂えて貰った。

リリョウの作成だってリンドからの依頼があったとしても、アリシア自身には十分すぎる思い入れがあった。


それら全てをアリシアは手放したのだ、引き留める言葉がなかったとしても叱責のひとつは受けるものだと覚悟していた。

だからこそ、その意外だった返事に戸惑いを隠せない



「私…冒険者をやめるんだよ?ジロとも離れるし…」



「それがどうしたってんだ?私に何か関係するのか??」



「でも…」



それ以上の言葉が言えない。“なんでそんなにも淡白な反応なのか”なんて言葉を言えるはずがない

そんなアリシアの胸中を察したのか、メイは鼻で笑うように答える。



「お前さんみたいな人間なら、とうにごまんと見て来たよ。死んで贈る言葉が追いつかない奴も含めてね」



「…」



「わたしゃね、アリシア。一人ひとりの出会いなんてものは言葉を交わせば、日を募らせ、酒を交わせば

特別なものだって思っていた時期が確かにあったよ。各々の人生背景に首を突っ込んだ事だってある。

だけどな、それでも別れの大半はさほど劇的なものじゃあない。別れの言葉すらないまま漠然と時間が

出会った人々をそのまま思い出にして記憶の奥底へと沈めていく

繰り返し、くり返しくりかえし…冒険者ってやつとの出会い別れはそんぐらい泡沫のようなもんさね

そして、朝を迎えるたびにそんなものにかまけているほど私にだって余裕があるわけじゃない。きっと他の奴らだってそうさ」



メイは一呼吸置いて追加で届いた麦酒を喉に流し込む。



「お前がどんな言葉を待っているのか大体察しはつくさ。でもよぉ、失望するのにだって別れを惜しむ事にだって

結局は体力を使うんだよ。心を持つ者である以上はさ。だから…私がお前さんに返す言葉なんてのは一つだけなんだよ。

“好きにしなよ”ってね」




彼女の言う言葉をアリシアは理解している。…理解してしまった

だからこそ、より一層寂しい思いだけが募らせるばかりだった。

そして連なるように悔しさが胸の中でジリジリと滲み出始めている。




「…私は―」



「アリシア!」



「え」



突如として自身の名を呼ぶメイの叫び声

彼女はテーブルから身を乗り出してきたメイに抱きしめられながら共に横へと倒れ込んだ。



刹那、“その手”は現われた。




「!?」



クラン亭のアリシアの座る卓は窓際に置かれており。

張ってあるガラスを躊躇なく貫いて差し出された大きな腕。



唐突な出来事に周囲がどよめき、皆がみな視線をそちらに集中させる。



「一体…」



その手の主はヌッと大きな腕をひっこめる。代わりに





「―――――――――――――――――――――――――――――っ!?」




割れたガラス窓から覗かせているのは、表情を白く白く化粧で塗りつぶされた道化師の顔。

絵本に乗っていたような賑やかな帽子を被り

丸い赤鼻を取り付けられ、その目は開く事を許されないかのように閉じたまま縫われている。

その貌は否が応でも笑わせた表情を作らせており

口の周りから頬、額にかけてまでおどろおどろしい血のような紅をなぞらせている。



…確かに聞こえた。


そいつは声を発する事がない。だが、確かに聞こえたのだ。

口角を大きく吊り上げて、にやにやとした口の形を作りながら

粘膜を弾かせるように“にちゃあ”という音が。




笑っている。その道化師は目を閉じらされているにも関わらず

視線を向ける事が出来ない状態でアリシアとメイががいる場所に対して悍ましい笑顔を見せていたのだ。




背筋に氷が這い上がってくるような悪寒。

アリシアはその気味の悪さに、下唇を噛みしめて目を見開く。



“こいつは生きてはいけない。殺さなくてはいけない”



全身から汗を吹き出し、身体が懸命に警告し続けている。




「アリシア…逃げろ」



メイはアリシアを庇うように前に出て、窓越しに存在する巨躯の道化師の前へと対峙する。



「ありゃあ、おまえさんを狙っている。あれは私が食い止めるから…」



「で、でも…!」



アリシアが心配するのも無理は無い


街一番の鍛冶師と言えど、武器も持たないその身一つだけで何が出来るというのか?

メイの袖を引きながら縋るように言う。



「今のおまえさんに何が出来るっていうんだ!!…それに―」



メイが話している最中でそれは突如として起きる



「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!」



「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ」



「にげろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」



唐突な周囲の悲鳴にメイは長い袖から一枚の札を取り出し、咄嗟に自身の親指の腹を噛みちぎると

溢れた血で“起刃”と記し



どんな手品なのか、仕組みなのか

札から放たれた長い太刀を引きずり出して柄を掴むと



向こうの道化師へは見向きもせず、庇っているアリシアの背後

そこへ振り返りながら太刀を振るった。



「ひっ」



アリシアが咄嗟に屈むと

襲い掛かる奇天烈な形を模した凶刃をその細身の刀身で押し返した。




「おお!?」



「どうやら、アンタを狙っているのはその化け物以外にもいるようさね」



押し返された反動に合わせて後ろに下がって間合いをとる凶刃の持ち主。



「もぉ~!“ジョイ”がそんな出鱈目な事するからっ!私まで出張る羽目になったじゃん!!脳筋馬鹿ピエロ!!」



グツグツと震える異形の武器を片手に。ぷんぷんと怒りながら向かいの化け物に対して叱責する甲高い声。


その姿は淡い桃色の長い髪を狐の耳を模したような髪飾りでツインテールに結って、地につくほどに垂らしており

黒い光沢で誂えた特殊なローブを羽織っていた女性。そして、その身長は道化師ほどとまではいかないが、大きな身長。

そして、右手にはアリシアに襲い掛かろうとしていた大きな武器



チェーンソーのような見た目に刀身はピザカッターのように丸く、その刃先は歪な形で並べられていた。



「こりゃあ、まずい事になったな…」



最早、メイとアリシア以外の客はおろか店員すらもその場から逃げ出す始末。

魔剣を置いていった素手のアリシアには戦闘なんてものは期待出来ない。



「あんたら、何者さね」



その言葉にきょとんと向かいの女性は目を丸くし

「はは」と口角を道化師のように吊り上げると



「自己紹介?自己紹介するならまずは自分からって相場は決まっているよね?パパママに教えてもらわなかった??

でも、僕はえらいからそんな細かい事はいちいち気にしないでちゃんと言うよ。よかったね!僕の名前は―」



メイの質問に興が乗ったのか、舌をごろごろと動かして喋り出す最中

その首筋に対して遠慮なしにメイの刃が滑り込む



「――!?」


手応えは確かにあった。

メイの不意打ちによる一撃は相手に躱される事無く入ったはず


だった



「ねえ」



ギギギと首筋で受け止められた刃を見下ろす桃髪の女

その身体がどのような構造なのか知る由もない。ただ一つ言えるのは



その刃は全く通らない。



「まだ、自己紹介の途中だよ?僕が折角名乗っている所なんだよ?そういう意地悪はしないでよ?」



「はっ…そうかい…。そりゃあ悪い事をした、この刀…手癖が悪くてね。つい勝手に動いちまうのさ」



悪い冗談もいいところ。くだらない戯言をいいながらメイは得体のしれない相手に対して

次の一手がどうくるのか目を凝らしながら呼吸を整える。


しかし、そのメイの言葉に女は急にニコリと笑って



「そうなんだ~。それはいけない。持ち主が話を聞こうとする途中でそんな悪戯をするなんて~」




バキン



そんな解りやすい音を響かせながら、メイの長い太刀はいとも容易く相手の武器によって刀身を断たれる



「次はちゃんと言う事も聞くしっかりとしたモノを作るといいよ~?」



折られた刀身はそのまま勢いに任せて回転しながら天井へと舞い上がり刺さる。

あまりの出来事に動揺を見せながらも、メイは相手から視線を離さず…もういちど口にする。



「で…あんたらは一体何者なんさね?」



「んふふ~。僕の名前はキオ。キオーネ・マルドゥーク。後ろの馬鹿ピエロはね、ジョイ・ダスマン

あいつ、お喋りができないからごめんね。代わりに僕が言うよ」



ドゥン、ドゥンと


キオと名乗った女は手に持つ異形の武器のエンジンを吹かすと




「じゃあ、悪いけどさー。その小さな娘、僕たちにチョーダイ!」


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