75:そして彼女は重い腰を上げる。
「はぁ~。もう、ヤになっちゃうわねぇ」
ため息をついたのは、リョウラン組合の頭領を務める男。
ヴィクトル・ノートン。
「ギルドへの報告諸々は終えました。“魔剣使い”も正式にゲオルークへの昇格が承認されたようです。
それと、ギルドからの要請でアディイレへの復興支援の手続き及び手配も済ませました」
「んふ、アリガト。ファブニル。あなたの仕事は何事にもスマートで大好きよ」
ヴィクトルの視線の先。そこに居るのは髪を几帳面に纏め上げ、その赤い瞳をメガネで覆った男性。
ファヴニルと呼ばれた男は静かな声で淡々と一礼する。
「それにしても、ニーズヘッグの奴。まさかこんな事をしでかすなんて困ったものね。
魔王竜という存在に関しての管理を誤ってしまった事実…アタシにとっては腸が煮えくり返る思いだわ
竜を管理するこの我々の素性を知る者らからすればアタシの面子が丸潰れだわ」
「それについてある情報が確認されています」
「何かしら」
「ニーズヘッグ本人としてではなく、同じ管理者であるフレスヴェルグの同行に関してです」
「ああ、あの大鷲。よくもまぁ、ええ、このアタシをこうも裏切ってくれたものよ。犬猿の仲だからこそ
ある意味で信頼における存在だと思っていたのにねぇ」
ヴィクトルの表情は笑って見せているものの、その内側に感じる悍ましい感情が読み取れるファヴニルにとっては
頭を振って溜息をつく事しか出来ない。
「調査内容によりますとフレスヴェルグは、どうやらアルヴガルズでの天魔神の騒動が収まった後。一人の少女を連れてアディイレの港から西の大陸へ渡ったと報告があります。その中で、ニーズヘッグの姿は見られなかったようです」
「ま、あんな喋る獣みたいなデカブツが海を静かに渡る思考を持っているなんて思ってないわ。聞いた話だと
ヘイゼルちゃんの“竜を殺す”概念をもった一撃を喰らったそうじゃない。
回復を待ってアルヴガルズの何処かに潜んでいるか…別行動を取って帝国を隠れ蓑にしているか…。
それに連れている少女ってのも気になるわねぇ。もう少し調査を続けさせて頂戴」
「承知しました。それと、同じくリンドヴルムが単独でニーズヘッグを探している模様ですが」
はぁ、とヴィクトルは再び溜息をつく。
「あの女は相変わらずご執心のようねぇ。いつもニーズヘッグの名前を聞くたびに飛び出して
殺しに行こうとするんだから」
「止めますか?」
「“できるだけ”そうして。彼女、いつも温厚でアタシに対して相変わらずビクビクしているけれども
ニーズヘッグ絡みで頭に血を登らせると…どうにも手を焼くの」
「承知しました」
「それと、あんたのアレ…その様子だと東の大陸では見つからなかったようね」
それを聞いたファヴニルは眉をピクリと動かし、メガネを持ち直す。
それを見て気の毒そうにヴィクトルは続ける
「どうやらアタシの所に来た報告だと西の大陸でも、“あの子”は見つからなかったみたいね」
「…そうでしたか。ご迷惑をお掛けします…」
「いいのよ、あんたの大事な一人娘だもの。それに、あのナリでしょ?
同胞として見世物小屋や奴隷商人にでも捕まっていたらと思うとたまったものじゃないわ」
「頭領、あまり滅多な事は言わないでください」
「ごめんなさい。でも、それぐらい心配しているのよ。まぁ、あの子が簡単にそうなる事なんてないと思うケド
お互い、引き続き残りの中央大陸と南の大陸を探してみましょ」
「承知しました。愚かな娘の為に、お手数をおかけして申し訳ありません」
ファヴニルは再び一礼をする。
「んふ、そういえば…ついで興味深い話を聞いたわよ」
「なんでしょうか?」
「西の大陸には、訪れた者が何人も失踪する王都があるらしいわよ。
その国は共和国に属さない国で、それなのに国民たちは毎日幸せそうに暮らしているそうよ」
「…」
「おかしい話よね。西の大陸はセラのお陰で領土の多くを侵略され、中央大陸で躍起になって戦争しちゃうくらい
物資が困る程だと言うこのご時世に。その国だけが豊か平和に暮らしているなんて…それも、
訪れた一部の人々だけが失踪するなんて、ねぇ」
「…」
「ちょっと、聞いているの?ファヴニル」
「ああ、いえ…申し訳ありません。つい」
「あんたって人は…すぐ興味を持つ話になると考え込んで黙っちゃうんだから。―でも」
「そうですね」
「実にきな臭い話よねぇ」
「ところで、あんたの子…今度は何をやらかして家出したのよ」
ファヴニルは気まずそうに口を締めて黙ると、すぐに観念したように答える。
「プディングを―」
「ん?」
「あの子のプディングを…うっかり私が食べてしまいまして」
「おいおいおい」
最初の頃は幾度も話を聞いていたが
その場所は、俺にとって初めて訪れるところだった。
『ここが、ハーシェル家の屋敷―』
アリシアは俺の言葉にコクリと黙って小さく頷く。
いや、まぁ…ある程度想定はしていたんだけどね
『お前の家デッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッカ』
想像していたものの倍はいくであろう大きな屋敷の門を前に
俺はすこぶる萎縮してしまっていた。
マクパナの屋敷に訪れた事でそれに対する耐性がついていたと思ってはいたが…
ニドからの報酬を受け取り暫くして、俺達はアリシアの住んでいた家である
ハーシェル家の屋敷へと赴いていた。
『すげぇな!おい!すげぇな!おい!!』
「やめてよ…ちょっと、パパ。大人げない」
『いや、だって見ろよ!!ここ!!門だぞ!あっちから!あっちまで!でっけぇ柵が並んでるんだぞ!!』
「ジロ、すごい嬉しそう」
ヘイゼルに言われた通り嬉しそうにしているのは当然だ。
まさか、生きているうちにこんな縁遠い代物を目の当たりにするなんて、人生は生きてりゃ色々とめぐり合わせがわるもんだな!!いや、俺死んでるけどな!!
まさかアリシアがこんな豪邸に住む娘だったなんて思いもよらなかった。
俺達は門を開き、中に入ると屋敷に行くまでの広い道全てがその敷地内であり
本当に学校のグラウンド二個分あるんじゃないかと思う程には広大だった。
しかし、その広さに対して人が居ない分…少しの寂しさは感じている。
『すげぇ!!ここ!!サッカー出来るよ!?サッカー!!』
「ああああああああ!!ふぁっく!!もう!!うるっさいよパパ!!」
あまりにやかましくはしゃぐ俺に堪忍袋の尾が切れたのか
魔剣を鞘から抜き取り、ブンブンと振り回しては
地面に何度も叩きつけぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ゴッゴッゴッゴッツゴッ
きっちりと敷かれた石の道に刀身を叩きつけ音が響く度に俺の視界がグラグラと大きく揺さぶられる
『わがっだ!わがっだから!!ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!!』
ぐらつく視界の中で、俺は屋敷の入口に入るまで俺は静かにしていた。
…しかし、俺がこうも気丈に振舞っている事にだって理由はある。
そもそも、ここはアリシアが何者かの陰謀によって盗賊が侵入し
母を含めた身内関係者全てが殺された場所だ。
ある程度の調査も終わって、屋敷内の清掃も終えたからとはいえ
この子にとっては色々と思う所がある場所だ。
それこそ、幸せな日々を送っていた思い出も
辛い思いをした思い出も
それこそ、地獄が始まってしまった思い出であろうと…
自分自身というものを振り返り、受け止めなくてはいけない場所には違いないのだ。
来ないという選択肢もあった。
しかし、遅かれ早かれ…俺達はこの場所に訪れる必要があった。
何よりも
この子の母であるアリアの死を、蔑ろにしたままではいけないのだ。
いずれ、その事実はどこかしらでアリシアを苦しめる楔となってしまう可能性だってある。
だからこそ、ニドの忠告を受けて暫く動くことの出来ない今だからこそ…
ニドはその辺も考慮してあのタイミングで俺たちに伝えたのかもしれない。
そして、アリシアはそれを受け止めて乗り越える事が出来るだろうと信じてこの場所へと送り出したのだ。
だが、俺としては懸念している事だってある。
リンドの一件、そして俺が奈々美の存在をこの世界で認知した事で
どうにも彼女のなかで少しばかり孤独な感情を患っている。
だからこそ、父親として俺は出来るだけ自身が側にいる。
そしてこの家に帰れた事の喜びだけを享受すればいいのだと、多少露骨にでも騒いでいた。
…それも当のアリシアによって制止されてしまったわけなんだが
屋敷の扉に手を伸ばそうにもアリシアには身長が足らず、プルプルとつま先立ちで取っ手に手を伸ばしている。
しかし、あと少しという程でどうにも届かないのを見兼ねたヘイゼルが後ろからアリシアをヒョイと持ち上げる
「わっ」
唐突な出来事に驚きながらも届いた取っ手を掴みガチャリと開いた扉。
ヘイゼルに降ろされたアリシアは振り返りざまに口を膨らませて「べ、べつに…べつに…」と言っていた様子は
俺の中の可愛いアリシアちゃんフォルダの5ページ目にひっそりと保管しとこうと思うまる
開かれた扉をのそのそと開き、中をまるで忍び込むように覗き込むアリシア。泥棒かよ
「も…もしもし?」
『いや、ここはお前の家だぞ』
お、おうふ と顔を赤くしながらよそよそしく入っていく姿…これもアリシアちゃんフォルダに―
「っ」
中に入った瞬間、アリシアは目を見開きその動きが止まる。
『…アリシア?』
「…」
彼女は呆然と立っている。
屋敷の中に入ってすぐの広間。
辺りをアリシアはジッと見回している。
右を、左を、正面を
それは…ずっと何かを待っている様な感じにも伺えた。
「…」
『アリシア…』
次第に彼女は目を見開いたまま、ぼろぼろと涙をこぼし始める。
そして、悔しそうに唇を締め俯いた
スカートの裾をぎゅっと握り締めて、溢れる涙がはたはたと濡らしていく。
俺はその場でそれ以上声を掛ける事が出来なかった。
アリシアの中で、ようやく帰ってきたその場所に…その景色に何が見えていたのだろうか
何を待っていたのだろうか…
帰ってきた。そう…帰ってきたのだ
けど、変わってしまっったのだ。
例えどんなに綺麗に清掃された場所でも…
この子の帰りを待つ者はもう、誰もいない。
母も、仕えていたメイドや執事もみな…殺された。
「くっ…ふ…」
涙を流しながらも怒ったような顔で誤魔化し
泣きたい気持ちを堪えている様子を、抱きしめて慰める事も出来ず
だ背負われているだけの俺にはどうする事も出来ない。それが歯がゆく、共に悔しかった
「アリシア」
ぐいっと彼女の頭を抱き寄せるヘイゼル。
その行動に抵抗をしないアリシア。
…俺には解る
最早血の通わない継ぎ接ぎの冷たい体であろうと、彼女の思いにも
それを受け入れるアリシアとの間にも、確かな温もりがあった事を俺は理解している。
そして、代わりに抱きしめてやれるヘイゼルに俺は感謝の気持ちを含め
二人にこう言った―
『アリシア、ヘイゼル。おかえりなさい』
魔剣の姿でいる俺にはそれが精一杯の出来うる術だった。
―暫くして、アリシアも落ち着いたのか
ヘイゼルに「ありがとう」と言って、今一度前に進み出す。
屋敷の奥の扉。そこは家族みんなで食事をする為の食堂だったそうだ。
一度座って気持ちを落ち着かせたいのか、食堂へと入り椅子にアリシアとヘイゼルは腰掛ける。
座った二人が手を置くテーブルは横に長く伸びて
その突き当たりには、暖炉がゆらゆらと炎を灯していた。
すごいな…こんなテーブル、絵画の最後の晩餐とかでしか見た事ねえぞ。
しかも綺麗にクローゼットまで敷かれており等間隔で燭台が並べられている。
「…いつもはね」
アリシアが暖炉の揺れる炎を遠い目で眺めながら口を開く。
「いつもはね、扉を開けたらじぃややメイドらが出迎えてくれるの。それでね
暫くすると、ママも心配そうにやってきて。私の事を優しく抱きしめてくれた」
『…』
「じいやはいつも私の好きなパンケーキをコックさんに黙ってこっそり作ってくれるの。
メイドの人たちも、いつも私がお庭で冒険した話を楽しそうに聞いてくれた。
ママも…ママだって…」
思い出すたびに再び彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
「どうして…こうなっちゃったのかな?私が、みんなに黙って隠れて“パパ”のお仕事についていったから?
パパが私のせいで居なくなっちゃったから?だから、みんなも…居なくなったのかな…私の事が嫌いになって」
『違う、アリシアは悪くない。今だってきっとアリシアの事を皆が愛している』
そんな言葉、ただの気休めだっていうのは解る
「だったら…なんで、みんな居なくなっちゃうの」
責めるように向けられた眼差しに俺は言葉を詰まらせる。
アリシア自身もわかっている筈。だけど、どうしようも無い孤独感に自分を叱責する事しか
今、楽になる術が無いのかもしれない
『それでも、俺は…アリシアの側に居続ける。それだけは絶対に約束する。そして、そんな俺が側に居続けて
常に証明してみせる。皆が、お前の事をいつまでも愛している事を…』
そうだ。
奈々美の一件、極界に向かうだけじゃない
ジャバウォックの詩篇なる魔術を発動させた黒幕を…
この子をこんな目に合わせた連中を俺は見つけ出して、必ず報復してやらねばならない。
アリシアの零した涙のぶんだけ…いや、それ以上にそいつらに
―全テニ幾度トナク血ヲ流サセテヤル
ヴヴっと俺は頭の中で何かが上書きされたような感覚に見舞われる。
一瞬のよぎったドス黒い感情。
まるで、自分では無い何かが俺の感情を借りて吐き出してきた憤りの言葉。
俺は、一体誰なんだ…?
「ごめんね」
一瞬の出来事に戸惑っていると、アリシアがそう言ってきた。
「ありがとう、パパ。ヘイゼルも…。私、きっと少しだけ安心したのかもしれない。
だから、きっと余計に寂しくって」
涙を拭って少し笑うアリシア。
本当はここに来るのだって不安はあっただろうに…
『もう、お前には帰れる場所がある。ここでヘイゼルと一緒に一からはじめよう』
「…うん」
「大丈夫。アリシア。ワタシはあなたをどんな事があっても守る」
無機質ながらも、僅かに光の宿った瞳でアリシアを見つめて
ヘイゼルはペチとアリシアの両頬を両手で触れて、コツンとおでこをくっつける。
「なによヘイゼル。そんなの、どこで覚えて来たのよ」
「解らない。けど、ワタシの中の誰かが“それがいい”と教えてくれた」
「ふふ…ひんやり」
縫い目の這う冷たい手を、アリシアは自身の手で優しく包んで「でも、あったかい」と囁いた。
未だに暖炉はパチパチと炎を揺らしている。
俺は二人の様子を見て一息つき…安堵する。
さて、これから色々とやる事が増えてきたな…
必要な食材やら、お洋服やら
ヘイゼルにいつまでもそんな黒装束着せているわけにはいけないだろうしな。
なんせ清掃を終えただけの屋敷だ俺らでも色々と手を加える必要が―
“清掃を終えただけの屋敷”?
俺は瞬間、違和感に気づく。
パチパチと炎揺れる暖炉に目を向けてハッとする。
『アリシア、ヘイゼル…すこし身構えて欲しい』
「え?」
「わかった」
俺の中でありもしない鼓動がドクドクと脈打ってる感じがする。
―だって、おかしいじゃないか。
清掃しただけの部屋で、一体誰が…暖炉に火を点けたんだ?
まるで俺たちの帰りを“誰か”が待っているように。
俺は、その誰かの正体にある程度目星をつけている。
リンドの結界が壊れた今…この屋敷に侵入出来る事を知っている奴なんて限られている。
何処の誰かわからない、なんの事情も知らないコソドロか
あるいはハーシェル家を襲撃した盗賊らの関係者。
俺達はゆっくりと暖炉に近づき、手掛かりがないか周囲を見回しながら
アリシアは背負った魔剣の柄に手を添える。いつでも抗戦出来るように。
声を発する事もやめて、炎の燃える音だけが漂う中
ギィ…、ギィ…
と小気味悪いリズムで軋む音が微かに聞こえている。
耳を澄ますと、それはこの食堂からではなく
上の方から聞こえてくるのが解った。
三人で互いに視線を合わせて、物音をあまり立てずに食堂を出ると
二階に繋がる階段へとアリシアが案内して、同じようなギシギシと軋む音を小さく響かせながら
階段を登っていく。
次第にそのギィ…ギィ…という音は大きくなっていき
二階にたどり着いた時にアリシアは気づく。
「この音…ママとパパの部屋から聞こえる…」
リューネスとアリアの一室。
アリシアは赤い絨毯の敷かれている二階の廊下に並べられた幾つもの扉の中の一つを指差して
俺達はゆっくりと、慎重にその部屋の扉へと近づいていく。
すると、その軋む音は確かにその一室から聞こえていた。
誰だ
誰なんだ…?
一体誰が…
扉の前へとたどり着き。
今一度、俺はアリシア、ヘイゼルと目線を交える
『アリシア、もしもの時は―』
「わかってる」
俺の小声に彼女は腰に携えている鞘に収められたリリョウに手を置く。
もしかしたら相手は得体の知れない存在だ。
手を抜く理由はひとつも無い。
この地域なら先のアルヴガルズの霊樹の領域とは違い
ヘイゼルも信仰からなる魔力供給に弊害は無い。
ギィ…ギィ…
『いくぞ!!』
俺の言葉に合わせるようにアリシアは目前の扉を蹴り飛ばして開く。
「誰!?」
すぐに魔剣を構えて正体不明の来訪者の正体を見据えようと大きな声を張り上げる。
しかし、拍子抜けする程に視線の先にいる存在は落ち着いた様子を見せていた。
それどころか、そいつはその一室の真ん中でロッキングチェアに座りながら静かに揺れて
こちらに振り向く素振りもないまま背を向けていた。
そいつが座っている椅子は揺れる度にギィ…ギィ…と軋む音を響かせている。
軋む音の正体はそれか
何も答えないそいつの格好は異質で、黒いコートに身を包み、深く被った狩人の帽子に後ろから長い金髪の三つ編みを覗かせている。
そして、その手には抱くように鞘に収められたサーベル。
『あんた、ここの住人じゃあないだろ?』
俺の言葉に対してそいつは何を思ったのかピクリと反応して
「…そうか、お前が」
『質問をしているのはこっちなんだ。あんたは何者なんだ?』
「…もう少し、静かにして待てんのか。今、祈りの最中なんだ」
『は?』
ギィ…ギ…
途端、ロッキングチェアの響く音が止む
そして、“彼女”はこう言った。
「終わった」
途端、
刹那、
瞬間に
その一室にバンッと大きな銃声が響いた。
『あ?』
俺が認識出来たのは、そいつの繰り出した左手に持つバレルの長い銃…その銃口からふらふらと抜けていく硝煙。
そこからおそるおそるその銃口の先を追う
その先は
『―ヘイゼル!!!!!』
凶弾を眉間に押し込まれ、ゆっくりと大きく仰け反る彼女の名を俺は大きく叫んだ。