8:『心』は人だけのものにあらず
「なるほど、自律行動の試みだったのですね」
『…はい』
「浮くまでは出来たが途端に制御できなくなったと」
『……はい』
「で、アリシアのところに何故かきりきり舞いした状態で近づいたと」
『すいません』
とりあえず速攻謝るに限る
こういうのは相手に必死に弁明するよりも謝罪こそが武器になる
細かい詳細や俺の心境なんてもんは聞いてきた時に言えば良い
それが俺の処世術………
『アリシアもすまない。つい我慢できなくなって動いたんだ俺』
「微妙に誤解を招くような謝罪をするのはやめてください」
と、とりあえず、暫くはこの試み やめておこう
まぁ仕方ない 原因がわからん以上慣れないことをしてアリシアを傷つけるわけにもいかない。
たとえあの娘が不死身であっても、だ
リンドは平気で首切断とかやってのけたけど俺には無理だ。
俺は眉を八の字にして見下ろすリンドを見上げる
いや、位置的にそうなるんだよ・・・・地面に刺さってるし
「む、なんか含みのある視線を感じましたね。さしずめアリシアの首を外した事を根に持ってますね?」
鋭い。
「弁明はさせてください。あまりに突然な事をして、謝罪します。しかし修復機能に関しての確認と魔力の消費量は確認したかったのです。」
平然と言いのけるなこいつ。
『それでもあんな真似事、俺には到底無理だな。』
「…今後はもうしません。誓います。…あなたの過去の境遇を後から知ったとはいえ、不謹慎な事を行いました。」
少し申し訳なさそうな顔をするリンド。―だが
不謹慎だったという自覚はあるのか。とかそういう問題じゃねえ。ちょっとズレてるのか?
人としてそういうの自分自身がどう思ってるのかって問題だろうよ
サイコがパスってるのか?初めて見るぞそんな人 テレビや小説やネットの中だけかと思ったわ
つか怒られてる側のはずなのになんで俺が怒ってるんだ。
「私も、まだまだ勉強不足ですね…」
『勉強不足って、お前』
何も理解していないようなぼやきを聞き 再び物言いを申し出ようとした、が
わりとシュンと落ち込んでるぞ
なんか俯いて背中まるくなって小さく見えるし。…ちょっと言いすぎたか?
「パパ、リンドをあまり怒らないであげて?ね?」
俺の柄を撫でながら蒼い瞳で訴えかけてくるアリシア
ふう、仕方ないか
つかやらかしたのは自分なのに、この流れは少しバツが悪い
『そ、そういや リンドって魔力の視認が出来るのか?』
こういう時は話題をそらすしかない
思うところがあるが、今回は一端 置いとこう
「はい、私は生まれながらにして魔力の流れが見えるのです。」
『へぇ、この世界では便利な才能だな』
「そうでもありませんよ。小さな頃から視界に色々な色の形が見えて煩わしかったですよ」
『切り替えとか出来るもんだと思ってたが、そう都合いかんのな』
「ええ、この魔力の流れを理解出来てなかった頃の私は周りにありのままを伝え、それを周囲から気味悪がられてました。」
『そりゃあ、散々だな』
「まぁ今では使い方に慣れて生活に困ることはありませんが、この細目ですからねぇ」
あぁ、それで細目だったのね。
「けれど、この能力のお陰で帝国軍時代はトントン拍子で出世させて頂きました。」
頬に手を当てて「ふふ」と笑うリンド
まぁ、調子を取り戻してくれたようで何よりだ。
サイコパスな割に、繊細すぎるだろこいつ。
「ところでジロ。お詫びと言ってはおかしな話になるでしょうが、
あなたのその自律行動に関して多少のヒントをくれる方に思い当たりがあるのです。」
『マジか?』
これはいい機会だ、是非その方にご教授願いたいもんだ。
「私たちの居るこの小屋より更に南の街に、守人兼街の長として勤めている方がいるのです。」
『守人かぁ』
つか人間なのか?俺のこの状態について理解できる可能性があるとか。
「それと兼ねて、街の中を案内すると同時にギルドに登録して頂こうと思います。」
『へぇー、街の案内かぁ こっちの世界の街ってどんなだろうな』
正直言うとすごく興味があった。もともと、現実では働き詰めの缶詰で同じ景色ばかり見てきた人生だ
年を重ねるたびに知らない景色を見ると新鮮で、生きる実感を教えてくれる。
妻や娘の次に生きがいにしていたぐらい知らない街フェチなのだ。
ん?
『ギルドに登録って?』
「そのままの意味です。冒険者ギルド。」
『いや、わかるんだがなんで俺が??』
「あなたではありませんよ、アリシアに登録してもらうのです。」
『はえ??どうして??』
「だってあなたは剣でしょ?それも魔剣。登録できないじゃないですか。」
『いや、そういう問題じゃないよぉおおおおおおおおおおおおお!?』