表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
84/199

70:人として

茨の王冠を被る髑髏の騎士


その背後に幾度も積み重なっているのは

愚かにも我こそが運命と囀った絡繰の化物たちの成れの果て。

鋼よりも硬い歯車は両断され、紡ぐ回路は引きちぎられ、枝のように空へと放り出されている


獣のような姿の見る影もなく、そこはまさに運命の廃棄場と呼んでもおかしくない様となっていた。



「すごい…」



何もできず、何もしないまま全てが終わり

それに気づくことすらも気後れするほどに魅入られた圧倒的な力


それを言葉で表現する事もできず、リアナはそう答えるしかなかった。



「本当に、お前が相対する者じゃなくて良かったよ…厄災」



厄災と呼ばれる存在に救われた事実

恐れ知らずにもそんな皮肉でしか称える事のできないハワードは、静寂へと収まったその場で

すぐさまシアに介抱されているナナイの方へと向かう。



「ナナイさんからの魔力供給が止まっています。どうやら、ジロ様たちが上での健闘を成し遂げたのでしょう」



シアが周囲を見渡す。

そう、ある瞬間を拍子に無限に生まれ続ける列車も

果てしなく湧いて出る絡繰の怪獣も底をみせていた。



「まだ―」



ヘイゼルははるか上空を眺め続ける。



「まだ、戦いは終わっていない。“彼女”は、切り札を使った」



「切り札?彼女?」



リアナは怪訝そうな顔で彼女を見る。



「メガロマニアのもう一つの寄り代であるアグニヴィオンの意志の消失

そして、同じく因子であったマナペルカの意志も既に消失して、メガロマニアという機能は停止した。

けれども、心器が瓦解した歯車を寄せあつめて独立したメガロマニアとして再び再起動している。

あの天蓋で」



「ちょっとまって、今…あなたはなんて言ったの?マナペルカ?どうしてあの子の名前が此処で出てくるのよ

だってあの子は…」



そこから先の言葉がいつものように出てこないリアナ。

それは、今までもこれからも自身の弟を傷つけるかもしれない言葉であることを覚えているから。



俯く彼女を一瞥して空に視線を仰ぐヘイゼル。



「マナペルカは、ヨミテに復活者としてここに呼び戻された。そして、世界を巻き込む形で自分の運命を否定しようとした。それが全ての始まり」



「…なにを言っているのよ?復活者?ヨミテ?貴方たちの言っている事がわからない。

わからないの!私には、何もわからない…弟の気持ちさえも…」



「それは仕方のない事。でも受け止めて。マナペルカはそれほどまでにこの運命を、世界を否定しようとしていた事実を」



「どうして!どうしてマナペルカがそこまで世界を否定するのよ!

なんでアグがこんな目にあわなきゃいけないのよ!!」



疑問を怒りに任せて叩きつけるリアナに対して、髑髏の騎士は答えた。



「娘よ。それでも貴様が彼の者の選択を咎める権利は無い」



かの言葉にリアナは奥歯を噛み締める。


なぜ?


なぜ?


なぜ?



例え圧倒的な力を持つ驚異の存在が言い放つ言葉であったとして

彼女の中で到底納得のできるものでは無かった。



「何故―…大勢の人々がアディリエの襲撃で、霊樹の防衛戦で死んでいるのよ!?

それが正しい事だとでも言うの!?」



「それを承知のうえで救われた者もいる。例えそれが赦されない選択だったとしても」



「どういう事?」



「選択とは、“正しい結果”を決める事では無い。正しい結果であろうとする事だ。

それを思うは、世界か?神か?大衆か?否…己自身だ。それを弁えているからこそ選択という行為は

気高く、強く、正しい結果よりも正しい」




「…なにを―」




「救われたのは、お前だ。小娘」




「―え」





―…一方、ナナイに駆け寄って様子を伺うハワード。




「ナナイはどうだ?」



シアは不安そうに目を伏せて、ハワードに答える



「恐ろしい事に彼女の中の魔力は未だ残り続けています…。ですが、長い時間無理矢理引き出されたせいで

肉体がその摩擦でボロボロになってひどく衰弱しています…」



「どうにかならねぇのか!?」



「ひとまず光癒を使って肉体の方はなんとか…ただ、回復したとしても

この失った腕の断面から未だ魔力が漏れ出していて今はそれを抑え込むのがやっとなんです…

それほどまでにあの珍妙な絡繰の腕が重要な役割を果たしていたんです」



「くっそ…やっぱそこが問題か。帝国に戻れば“専門の奴”がいるんだが…今は戻れそうな状況でも無い…

どうするべきか…!」



「あ…」



気を失っていたナナイが小さく言葉を漏らす



「おい!ナナイ!?気がついたか??大丈夫か!?」



「ぱ…」



開いた虚ろな瞳は未だ夢をみているかのように空に向けられ

彼女ナナイは宙へ手を伸ばし、求めるようにこう言った。






「ぱぱ…何処…何処なの…“わたし”は…何処にいるの?」

金属が強く擦れるように、

ギリギリとうねりを上げてその大きく長い胴体を乱暴に振り回し宙を舞う機械龍メガロマニア



その真下でアリシアと俺はそれを睨みつけるように見上げる。



ドラゴンと対峙するのはこれで二度目か?

今度のはビジュアルが少し違っているが、あれが今度こそ最後の敵って事でいいんだよな?



『相変わらず魔力の使い方が不細工で付け焼刃なくせに辿り着くのが早いなぁ特異点!!

いや、この世界ではドール=チャリオットとでも言うべきか?』



そのあまりにも憎たらしい声を発しているのはプリテンダーで間違いないようだ。



『未だ残された魂は運命を憎んでいる。もう、それを先導するものは誰もいない。

だからこそ、俺が導く。心を運ぶ器として、運命を、世界を否定する未来に!!』



『勝手にしろ。お前らがどうこう考えて行動するのは勝手だ。気持ちだってわからんでもない

けどなぁ、俺たちの意志と相反した以上は…駄目だった時の事も考えるんだな』



『ほざけ!!』



機械龍は顎を開き、こちらに高速で突っ込んでくる。まるで特急列車のように



「GUHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN」



圧倒するほどに迫り来る巨躯

それに目を背ける事なく、アリシアは魔剣を構えてその全てを受け止めようとする




轟音



同時に想像以上の衝撃によって視界が大きく揺れる中

アリシアの膂力とくろがねの意思が拮抗する。

だが、どんなに姿勢を保っていようとも

その凶突を支えている脚が黒曜の大地へと少しずつ沈んでいく。



流石に力勝負じゃあ分が悪いか!?



『アリシア!そいつを受け流してくれ!』



俺の指示通りアリシアは盾にしている刀身の角度を大きく変えて奴の龍頭を横に受け流した。

ガタンゴトンと横を轟轟とすれ違う長い胴体に俺は咄嗟にアルメンを巻きつけ、龍の背中に乗りかかる。




アリシアは俺の意図を汲んだのか魔剣を大きく振り上げて刃を強く叩きつける。



『ぐっ―』



堅ぇ…思わず声が漏れてしまった。

わずかながらに刃が奴の胴体に差し込むも、断ち切る事が叶わない。



こうなったら物質変更マテリアルチェンジで本体そのものを創り替えて―・・・。




『無駄だ。心器、解放―』



奴の言葉と同時に背筋が凍るような感覚。

刃が接触している部分から再び身体に入り込もうとしている痛み、熱の感覚。


まずい



『アリシア!離してくれ!!』



「くっ―…!」



胴体に、プリテンダーの刃に刻まれたものと同じ文字が紅く灯される。



『逃がさねぇ!ドールチャチオット!!』



すると、足場にしているメガロマニアの胴体から幾つものの刃が生え

俺たちに向かって容赦なく襲いかかる。



「っ!」



アリシアは舌打ちをして乱刃を魔剣で何度も弾き返すが

その度に俺の意識がぐらぐらと揺さぶられるような感覚に見舞う。



同じ感覚をアリシアも感じてそこから逃げるように機械龍の背中から飛び退く



“神殺し”の力…



どうやらプリテンダーはメガロマニアと完全に同化しているらしい。

あの巨躯全てが刃そのもと思ってもいい



『なんて厄介なもんを―…!』



機械龍は一度上空に昇龍すると、着地した俺たちの隙を狙って咆哮を轟かせて突っ込んでくる。

それを避けようとアリシアが横に躱すが相手もそれを読んでいたのか、

俺たちが避けた方向に少し寄せて迫っていた。


彼女は咄嗟に魔剣を竜頭に押し当てて避けようとするが



『がっ―…!?』



“あの時”と同じように自分の中で痛みが弾け、暴れている。頭痛に苛まれる



「ぱぱ!!」



『か、構わねえ!!兎に角奴から離れるんだ!!』



みっともない事に俺達は、奴に触れないように距離を置こうと走り出す。



横切る列車のように背後で胴体が勢いに任せて流れている感覚を圧で感じ取りながら、

アリシアがある程度距離を置いた所で踵を返し

俺は最大重奏の雷槍を巨躯に向けて放った。


しかし“神殺し”が発動している為か、その抵抗は手応えがあるとは言い難く

閃光の軌跡の末路は、霧散するのみであった。



『馬鹿が!馬鹿めが!馬鹿野郎めが!!“俺達”は神を認めない。神の力を認めない!

神の存在を認めない!故にお前という特異点の力に意味はないんだよ!!!』



「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」



機械龍メガロマニアは大きく咆哮し、顎を開くとそのライトを模した眼を紅く灯らせて

喉の奥から紅黒い閃光を噴出した。



「アリシアっ―…!」



俺は無理矢理、刀身を動かして彼女を後ろに引っ張る。



「えうっ」


勢いあまって彼女が尻もちをついた直後、先程まで立っていた場所にその閃光が黒曜の大地を削るように横に一閃入れる


そして時間差で吹き荒れる爆風に俺達は吹き飛ばされ、それでもなんとかその勢いを利用して受身を取ると

奴から距離を置くように再び走り出す。




穿たれた地は“神殺し”の力によって天蓋を貫かれたせいかその爪跡からひどく眩い光が七色にこぼれ出している。



「これって…」



アリシアは刹那、その光に意識を向けてしまうがそれを許してくれる程、相手は甘くなかった。


メガロマニアは味をしめたように何度も何度も閃光を繰り出し。

俺達は抵抗する事もままならないままひたすら躱し続けて走り続ける。



まずい…!これはマジでやばい…!!



俺は不安と焦燥感で一気に汗を吹き出した感覚に見舞われる。



魔力も効かない、触れてもひどく痛みを感じて危険

まさに、俺達とって天敵である存在に違いなかった。



『諦めろ諦めろ諦めろ!!』



再び解き放たれる神殺しの閃光。

アリシアは紙一重でそれを上手く躱したつもりだが、時間差の爆風で足元を掬われて転んでしまう。



「ふぁっく!パパ!私の足じゃ間に合わない!!」



『―っ!疾風の郡狼コルフォ・ディヴェンド!!』



咄嗟にアリシアに高速移動の風魔術を発動する。

この疾さなら逃げ切れるだろうよ


あとは奴を…



『お前の持つ“神の力”―それを淘汰し、俺達は過去せかいを淘汰する』



後から並んで走るように追いかけてきたメガロマニア。その末端として俺たちに敗北を諭そうとするプリテンダー


くそっ!こいつも疾い!!


「プリテンダー!心だって、憎しみだって世界が生み出したものじゃない!!

それは、貴方自信を否定する事にもなるんじゃないの!?」



『俺達は侵略者じゃない。内側から然るべくして産み落とされた必要悪がんと変わらない。

だからこそ神は俺たちを叛逆者などと烙印づけた。そんな俺達の生まれた世界が牢獄の中なら―』



彼は少しだけ寂しそうな声で言う。



『外に出たいと願うのは間違っているのか?』



「そんな事わからない!解らないけど!それで世界が終わってしまうのなら止めるしかないじゃない!」



『終わってしまえばいい!!そして俺達は観測者となってもう一度この世界を作り直す!書き換える!』



広大な天蓋を走り続ける中、横に並ぶ巨躯が幅を寄せて来る。



『アリシア!後ろに下がれ!』



「っ!」



アリシアは、駆け続ける足を一歩強く踏みしめて急ブレーキをかけると、なんとか衝突は免れて

並んで着いてきた機械龍は止まる事なく前に過ぎ去ってそのまま上へ昇龍する。


そして足を踏み止めた俺らに気づくと、落下の速度を利用して急降下しながらこちらに向かってくる。




『この俺の中で未だ嘆き続ける憎しみの魂を今こそ解き放ってやる!それが俺が心器としての本懐だ!!

それは人をひととして見ることの無い神には出来ない事なんだよ!!』



突っ込んでくる機械龍。



『アリシア』



「なに」



『俺で地面を削りながらにげてくれ、“真っ直ぐに”』



「…わかった」



アリシアの了解と共に俺はイメージする。


そして距離を詰めてくる機械龍。




『いくぞ!!走れ!!!』



踵を返してアリシアは魔剣を地面に突き刺して、そのまま火花を散らしながら走らせる。




物質変更マテリアル・チェンジ


俺は刀身で触れたまま削っている大地を媒体にしてそれらを一列の“爆弾”に創り替えた。



そして、その上を這うように追いかけてくる長蛇の巨躯



まだだ…まだ走り続けろ。



背後ににじり寄ってくる驚異に焦燥感を煽られながら、俺はタイミングを見計らう。




もう少し、もう少しだ―…!




大きな龍頭が距離を詰めて迫ってくる。







『―今だ!!!アリシア!!』



合図に合わせて彼女は踵を返すと、魔剣の刀身に炎を纏わせて

目下にある錬成された爆弾の列の末端。



それを魔剣で強く叩きつけた。





『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN』




轟!!



轟!!!



轟!!!!と




奴の腹の下に一列に並んで配置された爆弾は連なるように爆発を繰り返し

轟音の中で機械龍の長蛇躯は大きくうねりながら上に吹き飛ばされる。



想像以上の爆風に俺達も吹き飛ばされ、俺は咄嗟に刀身を盾にしてアリシアを守った。




やがて、衝撃が収まり膝を付きながら着地をすると

舞い上がる粉塵の中で

爆発をまともに食らったであろう奴のすがたをみつけようと目を凝らす。




静寂の中で、未だ不安に煽られながら躍動するアリシアの心臓の音だけが聞こえる。




やったのか…?



どこだ…



どこに…




『ここだよ』



『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』




機械龍は唐突に背後から現れ、俺たちに素早い勢いで正面へ回り込むと

心が追いつかない展開に魔剣を構える事しかできず、どうする事も出来ず立ち止まる俺らの心を乱すように叫び

長い胴で囲むようにアリシアの周囲でとぐろを巻いて回り続ける。



失念した。



奴は亜空間を移動する事ができる…



本来なら長蛇躯で亜空間を使った行為はその全てが入りきる合間で隙が生まれてしまう

だからこの戦闘においてはあまりに不利なスキルだ


だけど奴は爆風で姿が全て覆われている合間を狙って亜空間にすがたが見える前に逃げ込んだ。

そして、様子を伺う俺らの隙を伺って背後から囲うように現れた



『もういいだろ?お前らも十分やった。だけど神に等しい力であるが故に、俺らの意志の轍と成り果てる

ただそれだけの残酷な運命だったんだ』



「っ…」



逃げ場は無い。


くろがねに覆われた周囲。

そこには何処にも光が無い。



アリシアは勇猛に魔剣を抱えているが、その手は震えている。



そして、真上からはそれを愚かな者と見下ろす執念の存在意義



金属の摩擦をうねらせて小さく開かせた龍頭の顎はまるで嘲笑うかのような面持ち。



『運命を憎め。世界を憎め。神を憎め!』







ああ―…なんて早い決着だ。



違う、足掻け、足掻き続けろ!



そもそもこの世界に付け焼刃の知識でこの場へ踏み込んだ俺が間違いだったんだ。



少しでも考えろ、ダメでも彼女に剣を握らせて、進め!



せめて…アリシアをどうにか



もう無理だ



お前はまた嘘をつくのか?自分の娘に―



終わりだ



俺の選択は誤っていたのか…



間違っていたのか?



間違っていた



失敗だ



まだだ…



まだ、手はあるはず






―己の選択を誤ったと?






心の中でいくつもの自分の声が飛び交う中でそれらとは違う声が入り込むようだった。





―己の選択を誤ったと感じたのなら





死ぬが良い




やがて、機械龍の顎は思考が現実に追いつく前に俺たちを食らいつこうと襲い掛かり―




「ふんぬっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」




ゴンと響く音と同時に聞こえるアリシアの声。



『アリシア、おまえ―』



彼女は襲いかかる龍の頭の鼻先を剣すら握らない空の拳で殴りつけて抵抗している。




「ぐぐぐぐぐ」




俺という魔剣を手から放り出して、両手で抵抗する




ジジジジジジジジジジジジジジ




「ぐっ…ぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」




『やめろ!アリシア!!!』




奴の…メガロマニアの巨躯全てがプリテンダーの発動した“神殺し”の刃に等しい

俺の神由来の魔力で作られているお前の身体じゃあいずれは―




「嫌だ!!だって…パパはまだ諦めていない!“いきること”を諦めていない!」



『アリシア!』



「パパ、教えてよ!こいつが言うように世界は結局囲まれた鳥籠の中なの?

運命って道のりを歩むだけの場所なの?なら、どうして私はこんなとこまで来たの?

私たちだって同じ“心”を持っている。それは、結局“運命を憎むだけ”の思いに

淘汰されるだけのものだったの?」



『…』



「神様なんて関係ない!こいつが神様に強いからって、パパが…私たちが負ける理由にはならない!

だから…私は諦めない!パパの分まで諦めない!だから、前に進んで!!!」



俺に叩きつけられたその言葉は


今、まさに必要としていたものだった。



未だ葛藤を繰り返す心の聲らが不思議と聞こえなくなった。



「―もし、もし本当に駄目だったとしても…私は最期までパパと歩き続けたい

抗い続けたい。この意志が在る限り!!」






『最期になんてさせねぇ』




そうだ、まだ俺達は進み続けなくちゃいけない。

こんな所で、“神を殺すだけ”の力相手に手をこまねいている場合じゃない。




俺は思い出す。



女神アズイーの言葉を




―貴方を神域の座から少し下ろさせて頂きます。神属性の所持条件は全ての属性の所持。貴方の中にある属性を一つ封印させて頂きます。



この場では天蓋の黒曜から成る魔力を媒体にして常時、神域魔術が発動している。


まさに神と同じ位に立っている存在だ。



そして、神の力を否定する相手なら―



俺はその力を放棄する!




―承認。



じょうほうを解析。



―能力、複合乖離を発動、属性毎に魂を乖離させる。





パァンと弾けるような衝撃を頭の中で感じ、俺は自分が幾つも分たれたような感覚に見舞われ、意識が一瞬消失する




…そして、意識を戻した瞬間



周囲に幾つもの光る玉が漂っていた。


それは一つ一つが違う色を示しており、それら全てから周囲を観る事が出来た。







―神はやくどうの赤 


―神はせいじゃくの青


―神はうつわの金


―神は過程いのちである緑


―神は空間やみの黒であり、神はひかりの白でもある




―されど、それを隠すは人の心故、人の理解故、人という欠落故





―魂の乖離に成功。




俺はアリシアの方に目を向ける。


未だに必死に抑え込む両手、それが“神殺し”の侵食をそれ以上受けていなかった。



そして、俺は不思議と魔剣の中に居る感覚を感じない。

その代わり、魔剣の中に冥きに秀でた感覚が纏わりつく印象を理解する。




『往生際の悪いガキが!!』



未だ抵抗するアリシアにしびれを切らしたプリテンダーはメガロマニアの顎を大きく開き

“神殺し”の閃光を放とうとする。




…もし、俺の考えが合っているのなら…!




俺は自分の意思で魔剣を動かし、彼女の盾となって紅く嘶く閃光の前にたち塞がった。




「パパ!!――」



『大丈夫だ』



放たれた閃光を魔剣の刀身によって受け止め

“神殺し”による痛みを感じる事なくそれを弾いた。



『なっ―!?』



龍頭を上に引っ込めて驚愕するプリテンダー。

俺はその隙を見逃さない。



『アリシア!あのバカ面を殴って翔べ!!!』



彼女は正面の魔剣の柄を握り締めて上に跳躍すると

頭上を覆っているメガロマニアの龍頭を強く殴ってそのまま上へ上へと跳んだ




『何故だ、何故だ何故だ何故だ!?俺の…心器の“神殺し”が効かない!?そんな馬鹿な!!』




思えば、あれは女神アズィーが俺に与えたヒントであり能力スキルだった



全ての属性の使用権を可能とする存在が神に等しいという概念なら

一つでも魔力属性の使用権を失えば、俺という魔剣は神という概念を失い、その座を下ろされる。



そしてこの能力、“複合乖離”は対象の魂を…七曜の魔力を持つ俺の魂を各々に分かつ事ができる。

だからこそ権限した各属性の魂は全て俺であり、それぞれから周囲を認識する事が出来る。


そして、この黒曜の大地を寄り代にして魔剣は闇の魔力のみの魔剣となった。



故に神域から外れた俺達に“神殺し”は効かない。



…自身の魂が外に出ている事にどんなリスクがあるか解らない



それに―



俺は魔剣を握り締めているアリシアの腕に目を向ける。


通常であるなら、彼女の手は超再生によって再生されるはずが

未だに痛々しい程にボロボロのままだ。


この状態だと、彼女に付与された超再生も止められているままだと考えられる。



『アリシア、痛くないか…?』



メガロマニアの包囲から逃れて黒曜の大地に着地する。



「痛い、痛いわね…本当に痛みなんて久しぶりに感じたかしら

パパと初めて出会った時…背中に容赦なく刺された時以来よ」



『…すまない』



「違うわ。私が欲しいのはそんな言葉じゃない」



彼女はそっぽを向いてむくれていた。



『ああ、そうだな…アリシア。もう少し頑張れるか?』



この状態は確かにダメージリスクが高い。

けれども、もうこれしか奴を斃す方法が無い。


彼女はそっぽを向きながらクスリと笑い



「上等よ」



そうか。

俺は乖離させた魂を今一度複合させる。

すると神域魔術の感覚を取り戻し、アリシアの手が再生される。



そして、真っ直ぐに見据える先でひどくうろたえているメガロマニア。




さて、どうしたものか。

“神殺し”に対しての対策は出来た。



あとは、どのように倒すべきか―

メガロマニアであるなら、支柱であるゼンマイが何処かにあるはず。



…違う、奴はプリテンダーと既に融合している

本来終わりかけたメガロマニアを再構築したのは奴だ



奴を破壊すれば、奴はあの巨躯の中の何処に居る?



龍頭か?



…違う



俺は思い出す。



例外を除いて、執拗に行おうとしない亜空間移動

俺は入り込む間に隙が生まれるからだけと思っていた



あれほど奇襲に特化した能力をそれだけで使わない理由にならないはず。もっと重要な―




暫く瞑目した俺は、意を決す。




『アリシア。やるぞ』



「案が出来上がったようね」



『そうだな』




メガロマニアは周囲を見渡し俺らを視認すると

身体を宙にうねらせて咆哮し、突進してくる。




『アリシア、黒魔術は使えるか?』



「はっ、伊達に真っ暗な場所に居続けていないわよ。“あの子”だけが覚えているわけじゃないわ」



『そら重畳だ』




次第に迫ってくる機械龍。



『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』




『いくぞ!複合乖離!!!』



俺は能力を発動させて再び自身を幾つもの魂に乖離させる。



アリシアの周囲で彩る魂らを中に纏わせて

魔剣が再び闇の魔力で満たされる。



彼女は龍頭に衝突する直前、それを刀身で受け流し躱す。

そこまで膂力は落ちていないか



『無駄だ無駄だ!“神殺し”によって淘汰されろ!ドール=チャリオット!!!』



躱して通過していく長蛇躯。その横腹を彼女は容赦なく魔剣で突き刺した



『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?』



ガリガリガリガリと刃を差し込むまでには至らなかったが、慣性で止まる事の出来ない機械龍に

勢いによって生まれた摩擦で大きな傷を横一面に刻む事が出来た。



『何故、まただ!また“神殺し”がぁ…効かない!?』



大きく躯をくねらせ軌道を再びこちらに定める機械龍。

その振り返り様に龍頭へとアリシアは飛び込みその頭上に魔剣を突き刺す。




黒の衝撃ヴォイド・エッヂ!!!」



彼女の叫び声と共に魔剣の刀身は黒い魔力を纏い、大きな衝撃を生む。

膂力任せの通常の攻撃なら刃が半分も通らない表面が大きく穿たれた。



その攻撃に耐え切れず、メガロマニアは大きく咆哮しながら地にうっぷした。

アリシアはそのままめり込んだ刃を龍頭から抜き取り龍の背中からトトっと尾へと駆け出す。



『くそがぁあああああああああ!』



プリテンダーは抵抗するように、道を阻むようにその胴体から紅い文字を浮かばせた無数の刃を繰り出す。

それを何度も何度も弾き返し、時には断つ。



『なんでだ…なんで…。俺が発動しているのは“神殺し”だぞ!?何故そう、平然としていられる!!』



『違う、俺達ゃあ神なんかじゃねえ。お前らと同じ心を持った人間だ。

同じ等身大スケールで世界を見ているんだ』



『なら…その力はなんだ!?ただの人間風情が…そんな事』



『ただの人間じゃねえ』



「私は、私達はあんたを斃す意思を持っている。その意思で考えて考えて前に進む!

理解の先駆者、ドール=チャリオットなんだから!!!」



『忌々しい!話が違うじゃないか!!ヨミテ!!こんな事、俺は聞いていないぞ!?』



「聞いていない事があったらあなたの意思は終わりなの?そこまでなの?」



『ほざけええええええええええええええええええええ!!!』



プリテンダーの怒号と共にメガロマニアの躯は更に紅く嘶き

周囲に稲妻を走らせる大きな衝撃を放った。

“神殺し”としてのダメージは受けていないものの

降りかかる火の粉をはらうだけの衝撃はあった。



彼女は、魔剣を盾にして上に吹き飛ばれると

目下のメガロマニアに向けて手を翳す


 



「…“起源の前、冥き全


在る事を許さぬ為に或る閉幕の祖


開く者の呼び声に耳を傾け応えよ


その御御足、天を臨むものを愚者と説く”」




聞き覚えのある詠唱

それは産み落とされたもう一つの“アリシア”が使っていた闇の天蓋魔術。



ああ、応えよう。この魔剣おれ

その詠唱ねがい



周囲から魔剣が何かを取り込んでいる。

黒曜の大地、それは闇の情報をふんだんに取り入れた闇魔力の海


それを媒体にして発動させる。



ゴウンと門が開かれたような大きな音。

それと同時に大きな事象が起動する。



漆黒の黒曜大地は呼応し、周囲一面に魔法陣を発現させる。





『|天蓋の冥王にひれ伏し給え(スフィリ・カタマヴロス・オーバーロード)』





大きな漆黒の柱が空中で顕現され

メガロマニアの周囲にその巨躯を覆う程の大きな影を落とす。



そして巨大柱は落下の速度を早め、彼の存在を圧潰す




『くそ…!!まずい!!』



プリテンダーはその場からどうにか逃げようと、うっぷした機械龍を宙に持ち上げるように動かし

生み出された亜空間へと逃げようとする。





―やっぱりな




コーンと大きな鐘の音が響き、大地が穿たれる轟音が続けてやってきた。

黒の柱は天蓋の地を無慈悲に圧した後、周囲に霧散する。



穿った大地の輪郭の端にアリシアは着地すると

その空洞の底を見下ろす。



相手を仕留めた手応えは、当然ない。

俺たちが発動した天蓋魔術の爪痕、そこに骸も瓦礫も何一つない



知っていた。



そして、ここからが俺たちにとっての最大の好機。




俺は乖離させている自分の魂を事前に四方八方遠くへ放っていた。

そして監視カメラのように各々の魂の視点から全てを目を凝らして観察し―





見つけた。



『アリシア!』



俺の呼びかけに踵を返し、駆け出すとその先に見つける。

歪んだ空間…亜空間から出てきて覗かせている機械龍の尻尾




お前は…そこに“居る”んだな?



ゆっくりと尾からその身を急いで出そうとするメガロマニア。

次第に胴まで見え始めている。




急げ!!




急げ!!!



アリシアは一歩一歩強く天蓋の地を踏みしめて駆け寄る。



間に合え



間に合え!!




「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



気持ちを身体に追いつかせようと大きく叫ぶアリシアは

大きく地を蹴り一気に機械龍の尾へと近づく



『っ…!!』



プリテンダーは俺たちの一撃に気づいたが既に遅い。


魔剣は漆黒の魔力を纏い、刀身をより一層大きな刃と変化させ




漆黒の黎刃ヴォイド・グラム!!」



跳んだ勢いで振り下ろされた闇の魔刃は装甲を穿ち


穿ち、穿ち、穿つ


減り込んだ刃は機械龍の尾に深く差し込まれる。




『がっ…!!あがっ…あがががががががががっがあががががっがががががががががっがあが』



壊れた機械のようなプリテンダーの声で手応えを感じた。

…予想通り、お前はそこに隠れていたんだな。




『どうじで…俺の、いばしょ…を…』



俺は何も答えない。答える必要もない。

お前は臆病がすぎた。お前は騙しすぎた。ただそれだけなのだ。




『駄、目だ、駄目だだめだ…うつわ…が、こころが…壊れたらこの魂たちはどうする

結局いつまでもこの世界で納得がいかないまま彷徨い続けるだ、けだ…それでも、いいのか…?』




『お前が考える必要はねえよ。俺が、こいつらに決めさせる。こんな暗い場所じゃなくて』



俺は遥か上空に見えるニド・イスラーンの大陸を見上げる。




『こいつらが生まれた世界あのばしょでな』



突き刺さる魔剣の刀身が赤黒い稲妻の意志ちからを纏い、膨れ上がる。



『だからお前はもう、終われ。謂われなき運命と共に』



この距離なら、届くだろう


ここまで来るまで何度挫けそうになっただろうか何度選択に怯えたことだろうか。

それでも、進んだ場所が俺たちの未来だ。


…ようやく解った。


過去は振り返って憎むものじゃない。否定するものじゃない。

過去は学び、想い馳せ、慈しむものなのだ。

今在り続ける自分が


自分を、


人を、


世界を識るために。


前に進むために。



人として在る為に




―とうとう自身の終を悟ったプリテンダーは壊れた声で何度も何度も同じ言葉を呟く





『トウ…ああ、ヨ…kskdnmo0kこjミテ…ご,l;klnviokめんな。こんk@:;ksな俺をdん…zさお;lmと一緒に…居てくれてアリガ―』














そして、“絶対意思の魔刄”アドメリオラは心器プリテンダーと共にメガロマニアを…運命を断ち切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ