7:魔剣は己を振るう事は出来ない
俺は現状に至るまでの事の顛末をリンドに全て語った。
具体的にいうとテキストドキュメントを7分割にして
1話~7話という形で区切りをつけながら説明した。あくまで比喩であって実際にやったわけではない。
「にわかには信じ難い内容、ですね。まさかあなたにアズィー様との邂逅があったなどとは。
異世界からの使い、転生者…というこなのでしょうか。」
『さっぱりわからない。だが奴はこう言っていた。極界の巫女に会えと。』
「極界の巫女。…それはまた難しい話ですね。」
リンドは眉間をつまむ。どうもそう簡単では無いようだ。
「あなたが向かうべき場所は、この世界ニド=イスラーンでも最北端にある神の聖域。アズィー様が降り立つ聖地であり、全ての魂が果てに行き着く先。それを我々は極界と呼んでおります。
そして、私たちがいるこの地は」
嫌な予感しかしない。
「南の大陸、その中央から少し南に寄った位置になります。」
ですよねぇ・・・やっぱそうそう簡単にはいかないですか。
散歩しがてらすぐとまではいかないが、三つ先の町ぐらいに思ってた時期が俺にもありました。
『どれくらいかかるんだ?』
「最短ルートで馬車や飛空艇を使っても三ヶ月は見積もるべきかと。」
『なかなかシビアだな。』
結構な長旅になりそうだ。というか飛空艇とかあるんだな。
「それだけではありません。北に向かう途中の道中には今でも帝国と共和国が小競り合いをしていいる大陸もあります。そこの安全圏を通るにしても、身分を証明するモノが必要となります。」
『おいおい。この世界って、まだ戦争みたいなことしてるの?』
「みたい等ではなく、まさに戦争そのものを。東の帝国ウルスラと西の三国共和国ジ・ユニオンが中央に位置する大陸コンフュネスの獲得権を得るため長きに渡る戦争を繰り返しているのです。」
こっちはこっちの世界で穏やかじゃねえなぁ。
まぁ、戦争をしてようがしてまいが元いた俺の世界だって人が何かで死ぬことには変わらない。
そう、こういう事はきっと何処いったって一緒なんだろうよ。
魔術や魔法なんて奇跡があったって
人はきっとよりよい人生を送る人間に対して幸せなんて願わない。
自分に足りないものを埋めることが出来ないなら、壊してしまいたい衝動だってある。
人格がある生命ってのはきっとみんなそう出来ているんだろう。
そうじゃなければ、人は神なんて存在を望まない。
「…ジロ、少し時間を頂けますか。今後についてひとりで考えたいことが」
『お?おう』
リンドは思いつめたように立ち上がり 流し台に全ての食器を片付けると、食卓の間を後にした。
『いや、まて・・・・俺このままなの?』
俺も自分が自身で動けないことを今更思い出し、ぽつんと食卓の間に放置された。
―カチコチと秒針の動く音が響き 静寂が再び訪れた。
流石に同じ景色だけまじまじ見てたら飽きるわな
ふと、おもむろに遊び半分である事を思いついた。
んんんんんんんんんんんんんん動け
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
そう、念じたら動くのではないかという予想。
アリシアに対してのあれだけの超再生を成す魔力を有している魔剣
俺にも多少の活用ができるのではないか
そう思い、とにかく念じてみる。
浮け・・・・・浮くんだ・・・・浮いて、ぽあだ
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん浮け・・・・・
正直こんな所、あまり見られたくない。
なんせ恥ずかしいからな。
でもどうせ外側からみればただの俺と言う剣が椅子に立てかけられたままの状態なんだろ?
なら別に損はねえ・・・
俺はイメージする。自分が浮いている姿を
魔力を吐き出すようなイメージ。
あんまり思い出したくはないけど、念じれば殺せると思って実際に殺してはいるんだ。
あ、リンドにその件について詳しく聞いておけばよかった。あとで聞いてみよう
とりあえずあの時アリシアが背中に刺された時の感覚を思い出してみればできるんじゃねえか?
感情が作用しているのか?
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
浮け……俺は思ったことが出来る…魔力を多く有している…
出来る…できる…
『お?』
全身から何かが放たれる感覚。
いや・・・吐き出されている?
『いけ、るのか!?動いたか!!?』
視界が上にずれていくのが分かる。少しずつ上に上がって来て・・・・・
瞬間、視界が回転する。
『おあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?』
右に旋回しているのはわかった。でも違う、なんか違うよ!?
天井が下になったり上になったり…目が回る!!!!
『おえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ』
ブンブンブンブンブンと自身が風を切っている音が聞こえる。
き、気持ち悪くなってきた…とま…止まれ!!
とまれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
「パパ!どうしたの!?」
戸が開く音と共にアリシアの声が聞こえる。さすがに変な声をだしてしまったのだろうか
心配そうにしている表情が…そりゃあ回ってるから伺えねえ!!
『アリシアアアアアアアアアア、ちょ、ちょっと危ないから離れてなさいいいいいいい!!』
「え…う、うん…?でも、」
『どどどどどうしたおえぇ』
「パパの方からこっちに来てるよ・・?」
『お願いだからとまれええええええええええええええええええええええええええええええええ』
頼むからァアアアアアアアアアアア
パシッ
『えああああっ!?』
ガン!!!!
『おああああああああああ!?』
この間に何が起こったか説明しよう
アリシアの後ろから急ぎ現れたリンドがキリキリ舞している俺を達人のような動きで剣の柄を掴み取り
刀身を床に叩きつけるようにぶっ刺したのだ。
一瞬の静寂
「…ええ、なにか面白そうな事をしていましたね?詳しく説明シテモライマショウカ 魔剣」
リンドの穏やかな細目からヌットりと伺える碧の瞳がとっても怖かった。