62:魔神イヴリース封印戦②
ヘル=ヘイムの開放が収まった直後
魔神としての力を失った強大な魔神の見姿は石灰と成り果て
この山もろとも地に堕ちようとしていた。
その中で突如顕れた人影。
ヘイゼルの鼻先で幾つもの漆黒の羽が舞い降りる。
「これは…がっ―!」
突如として眼前に顕れた何者かによって首の根を掴まれる。
「返してもらおう」
ヘイゼルは麗々とした囁きに耳を打たれ
自身の中にある魔力が“引きずり出される”感覚に陥る。
「あ…ぐ…」
足掻くこともままならない彼女はその紫紺の瞳を下に滑らし、その者の表情を目にする。
その瞳は十字に輝きながらも禍々しく燃える炎の赤。
見つめるものを何とも思わぬ表情に口角だけが上ずっていた。
やがて、何をされたのか理解に及ばぬまま
一瞬の衝撃を一身に受けて、大きく吹き飛ばされてしまった。
風を何度も抉り
腹から押されるように
もしくは背中から引かれるように
前のめりになって空を疾駆し
やがて彼女は霊樹の幹へと衝突した。
「…?」
遠くからそれを眺める漆黒の翼の持ち主は
ヘイゼルを掴んだ自身の手を一瞥、ふと感じる違和感に思慮する。
自身の分体が…本体が、思わぬ奇計によって奪われた魔力
足りない…足りない…
愚かな、愚かな、愚かな。
この神に賜った我が炎だけでは飽き足らず
我の力を 我が憤怒を 我が情熱を奪った奴が他に居る。
そして
それを返してもらう最中に感じた己を否定するもうひとつの魔力。
綿密で濃厚。奪うことすら叶わない力に覚えがあった。
「七曜の奇跡…」
まさか、霊樹すら力を失いかけている今でさえもそれを持つ者が居ると?
天魔神イヴリースは二度、三度と重なるような不快感にそそられる
そして、見つけた。
その力と同じ“匂い”をさせる忌々しい存在。
大剣を携えた少女の姿。
それは彼の魔神にとって数千年前の出来事を想起させるものがあった。
「叡智の英雄―…そうか。アレが私を…私の魔力を奪ったのだな」
―まさか、再び貴様と出会う事になるとは…
イヴリースは再び口角を上げて翼を広げると地を強く蹴り
「借りは返してもらうぞ…ドール・チャリオット」
目的の玩具の後を追った。
強大な霊樹の幹に到着する。
その大地と見紛う程の広大な場所で、一際目立つ派手に抉れた場所が視界に入るとすぐさま俺たちは駆け寄り
『…ヘイゼル…!おい、ヘイゼル!!!』
そこで惨たらしく四肢が弾けたヘイゼルを俺たちは見つけ直ぐ様必死に呼びかけた。
「パパ、落ち着いて…!ヘイゼルはこの場所では魔力が満足に使えないって言ってたでしょ!
パパは取り敢えずいま繋がれている鎖でこの子に魔力をすぐに注入して!私は取れた手足を探すから…!」
アリシアの言葉でハッと我に返りすぐに魔力を彼女に送るイメージをする。
頼む…たのむ!!
アリシアが弾けたヘイゼルの継ぎ接ぎの肉体を両手に抱き抱えながら駆け寄ってくる。
「パパ、手足をくっつけるからリジェネレイトを唱えて」
俺は言われるがまま『リジェネレイト』と唱える。
すると白い光がヘイゼルの取れた四肢の断面をなぞる様に走り、あるべき姿へと戻していく。
だが、元の姿に戻ったところで彼女は未だ意識が戻った様子が無い。
「パパ…魔力をもっと流して…!」
『わかってらぁ…!』
きっとふたり揃って同じ不安を抱えているのだろう。そして焦燥しているのだ。
このままヘイゼルが動かなくなったらと―
「そんなにその人形が恋しいのか?英雄よ」
『…!』
アリシアはその声に振り返る。
そして、離れた場所にみえる人影
六枚の漆黒の羽。
長く伸びた蒼銀の髪を靡かせ
十字の刻まれた炎のような瞳。
そして、禍々しいほどに歪んだ表情。
『てめぇが、イヴリースか…』
まさか魔神と会話できる日がくるなんて思ってもみなかった
「…?その声、どこから来ている」
『俺だ、俺はここにいる』
「んん?」と眉間に皺を寄せて目を凝らすイヴリース
奴はすぐさま俺を視界に入れてさっきの声が魔剣から発せられていると気づくと
「クハ…クハハハハハハハハハハハハハハハハハ!アーッハッハッハッハッハッハハハハハハ!!」
天を仰ぐように仰け反り、額に手を当てて高らかに笑う。
「よもや、よもやよもやよもやよもやよもやよもや!そのような珍奇な魔剣を使う程に落ちぶれたと言うのか?なぁ?英雄よ!」
アリシアを英雄と呼び、そして俺を珍奇な魔剣と小馬鹿にして腹を抱えるイヴリースはその背負う6枚の翼から炎を吹き出し
「ふざけるな!!!」
足元を踏み砕き、感情が踵を返した。
「このイヴリースを相手に貴様は!貴様らは――!」
それ以上の言葉が出てこないほどに怒り、歯を食いしばるイヴリースはその手を翳し
螺旋状に象った炎の槍を数本周囲に顕現させて
「死ね」
俺らを射抜こうとする。
「っ…!」
アリシアは目を見開き、直ぐ様魔剣を抜くと
襲いかかる全ての槍をかき消すように弾いた
「ほう―」
「ちょっと静かにして頂戴よ。私は、今、もの凄く怒っているんだから」
見下ろす紅い瞳を睨み返すように見上げるアリシアの蒼碧の瞳。
俺はその瞳の奥に、ゆらゆらと静かに燃る蒼き炎を感じた。
『解明眼―』
俺は奴の属性に目を向ける。
―やはりそうか
イヴリースの分体の時は赤と黒のマークだった事に対して
目前にいるイヴリースは赤と白のマークになっている。
つまり、闇の魔力を封じ込める事には成功したんだ。
そして目の前にいる奴こそが、聖魔術を受け付けないもう一つのイヴリース。
『アリシア、こいつを斃せば…今度こそ、仕舞いだ』
「…そう」
「フン、傲慢な。私を斃すだと?」
―遠くから大きな衝撃音が走る。
そこに目を向けると竜巻のような土埃をあげる景観が映る。
イヴリースの山が地に堕ち、ゆっくりと崩れているのだ。
「つくづく英雄とは愚かな存在であるなぁあ!!」
刹那、その事象がこの戦いの始まりを示す合図にするように
イヴリースはゆらゆらと陽炎を身に纏いながらアリシアに飛びかかった。
「ふぁっく!」
思いの外、物理的に攻めてくるイヴリース。
アリシアは魔剣を大きく下にさげ、飛んでくるイヴリースを払うように切り上げる。
『ぬがっ!』
力が拮抗するようにビリビリと視界が震える。
まだ魔剣になってから一ヶ月も経ってない俺でも解る。
こいつぁ、硬い!
武器を使ったわけでもなく、ただ一つの拳だけでこの魔神は魔剣を対等に渡り合っている
否、それ以上かもしれない!
奴の拳が、繰り出される爪が、振れる度に刃で受け流し
都度起きる力の押し合いに爛爛と火花が散る。
正面に見据えるイヴリースの表情は余裕の笑みを見せている。
くっそ、すまない―ヘイゼル
咄嗟に俺は、魔力を注ぐためヘイゼルに巻いていた鎖を一度解き放つ。
そして、自由になった杭でイヴリース目掛けて刺し込むように攻撃を仕掛ける。
「小賢しい!!」
「えうっ!?」
『エンチャント!アクア・ヒーリング』
イヴリースの怒号と共に奴の身体が赤く光り、炎の爆発を四散させ、俺は咄嗟に水魔術の防御をアリシアに付与し護った。
ならこれはどうだ。アルメンの鎖を奴の足に巻きつけ、掬い上げ―
「つまらん事を…」
グンと逆に引っ張られアリシアと俺は体勢を崩す。
「っ」
いけない…アリシ―
瞬間、イヴリースの無慈悲な一蹴が前のめりになって差し出されたアリシアの頭を後ろに弾き飛ばす。
「む」
奴は頭を失って動きを止めたアリシアの肩を掴み、容赦なくぶん投げた。
「貴様、その身体―」
投げられた首のないアリシアは器用に着地をして体勢を立て直すと、ジジジと紅い稲妻を走らせて頭を再生させる。
『―大丈夫か?』
「問題なく」
敢然と立ち上がり、再びイヴリースの方に目を向けるアリシアは平然な表情を向けて応と応える
しかし、大丈夫なもんか。俺の愛娘の顔をあんな容赦なく吹き飛ばしたんだぞ…!
そんな事が許されて良いわけがない。
『あいつは、殺す』
「おおう、パパ怖いわね」
俺は殺意を顕にしてイヴリースへと向けた。
そして、俺の殺気を受け取るかのように、奴の周囲の空気が後ろに下がるようにざわついた。
同時に奴の頬を何かが掠め奴はそこに手を触れる。
つーっと何かを掬い上げ、見下ろす掌には青々とした血が色づいている。
「私、―の血?」
暫くそれを眺めると奴は肩を小さく震わせ
態度は一変し、目を見開き額に青筋を立て震え始める。
「ああ、ああ!!こんなのではない!私の血は…違う!こんな醜いものでは無い!決して無いのだ!!
認めない!認めない!認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない!!!」
イヴリースの掌にある青い血が蒸発していく。
やつの周囲が異常なまでの熱によって更に陽炎を広くしていく。
足元の霊樹が黒ずんで焦げてゆく。
「人間…!そうだ!貴様ら人間がっ…!私をこうさせたのだ!
神に仕え、神をこよなく愛した天使!天使であるこの私が!!何故魔神等と!!!!」
狼狽し、猛り狂い、頭を抱えて憤怒を炎と共に撒き散らす。
「アァアアアアアアエェエエエ!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!泥人形風情が!!!全て我が怒りによって焦土と化すがいい!!!」
奴の中で何か大きなスイッチを入れてしまったのだろうか
奇声を響かせ、大きく手を広げると
分体戦の時とは比にならない程の炎柱を両脇に二つ巻き起こし
「まずはドール=チャリオットォ!!!貴様から消し炭にしてやるわぁ―!!!!」
足元の霊樹の幹を焦がし、削りながら火柱がこちらに襲いかかる。
『上等だぁクソがぁ!!!てめぇみてぇなクソが天使なわけあるかぁ!!
天使よりも可愛い可愛い俺の娘の顔をサッカーボールみてぇにブチ蹴りやがってぇええええええええ!!
ぶっ殺されるのはテメェの方だこのクソ魔神がぁ!!』
俺は臆すること無く、アルメンの鎖を魔剣の刀身にガッチリと何重にも巻きつけ
『エンチャント!最大重奏!アクアフィーリング!』
アリシアに水の守護魔術を纏わせ。連動するように刀身巻き付いている鎖も水色に染められていく
『エンチャント!最大重奏!水牢!』
吹き出るように水を吐き出し周囲に堅牢な水の防壁を更に纏わせて
『突っ込むぞ!アリシア!!』
その言葉に合わせて娘は地を踏み、襲いかかる炎柱へと飛びかかる。
なめんなよ?クソ魔神。
ドッと衝突する水と炎は次第に大きな爆発を起こす。
その衝撃は大きく広がり周囲を巻き込む。
奴は姿勢を低くし、足に根を張るように耐え凌ぐ。
そう、俺らにはその姿が見え見えなんだよ。
お前が必死に蒸気が舞う中、俺らの位置を探そうと見渡しているのもな
イヴリースが気づいて上を見上げた先
そこに俺らはいる。
蒸気爆発を利用してその勢いに任せて上に飛ぶ。
火の柱も打ち消され、夜空の色に紛れての空襲。
俺は最中に“詠唱をつぶやき”、再び叫ぶ
『エンチャント:最大重奏…地縛―!!』
シン―
と上空の魔剣を持つ少女は、纏う魔力によって地に引かれるようにイヴリース目掛けて落下速度を上げていく。
「下らぬ児戯を―!!」
急速に近づき振り下ろすアリシアに対して拳を構える。
「だが、遅い!!このまま串刺しになるがいい!!」
イヴリースは落下の反動を拳に全て受けながら
アリシアの腹部を貫く
奴の腕が耐え切れぬ威力に青い血を吹き出す。
そして、貫いたアリシアは形を変えて氷の礫に成り果てる
「なにっ!?」
残念だったな。
地縛の発動前に別の魔術を発動させてもらった。
氷魔術。『銀幕の葬送』
氷で鏡のようにアリシアを模した氷の礫を相手にぶつけ
そのまま触れた奴を氷漬けにさせる高等魔術
説明した通り、氷の礫を貫いたイヴリースの腕は少しずつ凍っていく
「馬鹿め!馬鹿め馬鹿め馬鹿め馬鹿め!!炎属性を持つ私に“その色”は効かぬわぁ!!」
氷によって侵食される腕から炎を弾かせ、その一切を否定する。
何事もなかったかのように傲慢な態度で口角を釣り上げ奴は言う。
「さぁ!コソコソと隠れてないで出てきたらどうだ!ドールチャ―」
『後ろにもういるぜ』
刹那、魔神が振り返る先。
そこに大きく魔剣を後ろに下げ、溜めて構えるアリシア
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
地を抉るほどに踏み
大きく咆哮し
刀身に雁字搦めに巻きつく鎖をジャラリと唸らせ
後ろから奴の無防備な胴体に、それを目一杯叩きつけた。
ガァンと鉄を打つような感触。
俺の視界も大きくブレる
まだ拮抗している。
イメージしろ。
巻きつけた鎖に水魔力をドンドン送り込め
尖らせろ、鋭利に
もっと…!もっと!!
鎖が青く更に青く、白を織り交ぜながら瑠璃色に光を放つ
ジ
ウ
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ウ
手応えのある音。
徐々に胴体に刀身がめり込む。
「がぁ…!アァ!アアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
痛快なまでの奴の叫び
圧され、仰け反り、悶え
両手を歪に構え、身体を捻らす
だが、その先を拒むようにイヴリースの拮抗する胴体から炎が零れ落ち、
圧し返し護らんと、水魔力に抵抗し蒸気が吹き出す
陽炎の中でアリシアも歯を食いしばりその腕に力一杯の膂力を注ぎ込む。
頃合だ、さぁ…いい加減、一発ぶちかまそうぜえ!!
『アルメン!!!魔力強制開放!!』
俺の詠唱と共に、イヴリースの胴体にめり込む刀身
その巻き付いた瑠璃色に輝く鎖が大きく弾けるように爆発する。
そして、イヴリースを護ろうとする炎がその勢いに耐え切れず広がり
今度こそ本当に無防備な隙。
そこを俺たちが見逃す訳が無い
行け!
「うあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
行け!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
行けぇ!!!!
大きなアリシアの叫びと共に差し込まれた魔剣の刀身がもっと奥へと動き出し
「がっ…!!」
ザン―、と
イヴリースの上体を一刀両断する。
断面から青い血を噴き出しながら、勢いに任せて上体がぐるぐると何度も宙を舞い転げ落ちる。
アリシアの顔にはたはたと返り血が張り付く。
それを彼女は肩を大きく上下に揺らし呼吸を整えながら拭うと
イヴリースの無惨な姿を見下ろした。
目を見開き、口を半開きにしたまま硬直して動かない。
なんとも間の抜けた表情よ
「…ふぅ…」
アリシアは魔剣を大きく振ると、刀身にこびりついた魔神の青い血を払う。
―?
俺は気づく、撒き散らされたその青い血がボコボコと沸騰していくのを
「…」
その熱で周囲を陽炎が舞い踊る。
「侮った。そうだ。私は貴様らの認識を違えていたのか。そうか、そうか」
地に伏したイヴリースの上体。その口からそんな言葉が漏れる。
「ドール=チャリオット。叡智の奇跡の子。貴様はもはや人間…ましてや英雄などではなかった」
遠くから何かが此方に川の様に流れていくのが見える。
あれは…黒い魔力…
どこから―
『ッ!?てめぇ!!まさか!!』
気づいた時には遅く
その魔力がイヴリースの周囲を取り囲む。
そうだ、ヘル=ヘイムによって闇属性の魔力を“全て”封印したと思い込んでいた。
だが、実際には違った
まだ“残って”いた。
霊樹の下
今もなお攻め続ける魔物の残党に与えられた魔力。
「属性を多く持ち、神の掟を…秩序を崩す存在。貴様は既に、『神』に等しい。そして
神はこれ以上存在してはならない…ならないのだ。即ち、貴様は天にとって最大の危機。
人間等という愚劣な存在よりも危険極まりない『化物』」
イヴリースの身体が再び再構築されていく。
先程よりも禍々しく、猛り狂うような装飾に
漆黒の翼を再び気高く、大きく広げ
その手元に一本の剣を生み出す。
「パパ…」
『ああ』
俺は解明眼で奴の属性に目を見張る。
赤と白、そして黒の三つの属性マークの表示。
どうやら、これが今度こそ
本当の本当に最後だ。
この魔神を完全に斃すには
大きく姿を変えたイヴリースは天を仰ぎ叫ぶ。
「神よ!!我が女神よ!!!この声を!誓いを受け取れ!!私は!今度こそ貴方の力になる!!
そして、今こそ…目の前の脅威をこの手で打ち払い!!その暁には―」
狂信的な願い。
「我を再びその神の元へと!!貴方の元へと!!!」
剣を高らかに掲げ
その等身が大きく光り輝く。
とんだ、勘違い野郎だ。
何もわかってねぇ
俺をこの世界に呼んだのも
俺をこんな姿にしたのも
全部、そのクソ神様なんだよ
『ふざけやがって!』
アリシアと俺は、再びイブリースを前に構える。
少し前の事である。
門の前。見上げた大空で大きな闇が広がり、その後色あせた魔神の姿を晒し堕ちていく封印の山。
「…成功した、のか?」
ナナイはこれを好機と思い、周囲の冒険者達に叫ぶ。
「イヴリースの封印の山は間もなく堕ちる!!奴らの作戦が成功したんだ!!このまま一気に残りの魔物を片付けるぞ!!」
指揮していたナナイも前線に赴き、皆が「応!」と士気を高ぶらせる。
もう少し…もう少しだ!
出し惜しみは一切ぜす。
どんどん前に攻め込む。
だが、暫くして異変が起きる。
ゆらゆらと攻め入る魔物らから突如“何か”が抜き出される
黒く禍々しい魔力。
それらが一斉に向かった先は
先程大きな衝撃のあった場所…霊樹の幹の方へと川の様に流れ走っていった。
そして魔物たちは糸の切れた人形のように体勢を崩し倒れていく。
「―何が、起きている?」
瞬間、目が眩むほどの閃光。
振り返り再び霊樹の幹へと目をむける。
「…」
ナナイは一度思慮し
「お前ら!ここは任せたぞ!俺は、異変のあった霊樹の幹へと向かう!!」
冒険者らにその場を預け、走り出した。