58:霊樹防衛戦①
見上げれば、空を覆う程に高く広がり
見下ろせば地を飲み込む程に大きく根付く
近づけば近づく程、それは視界を埋め尽くさんとあり続ける壁と見紛う
『やっぱでけぇなぁ』
既に民衆の避難も終え、ものの抜け殻となっているアルヴガルズの街。
建物の上をたんたんと飛び移りながら、俺たちは霊樹の根の方へと向かっていく。
「奴らの狙いは霊樹の核よ。あれを食われてしまえば霊樹は次の依り代が来るまで機能を一時的に停止してしまう」
『リアナ、奴らは何処から向かってくるんだ?』
「そうね、口で説明するよりもその目で見た方がいいんじゃない?」
随分と突き放すような物言いだなと思ったのも束の間。
リアナの後を追うように飛び越える建物が高くなるにつれて、目下の様子が大きく広がっていく。
その左方向
『なるほど、あれが』
「物凄い数ね」
大きな川に沿って動く大きな黒い列
それはこの大きな街を殆ど覆うような魔物の群れだった。
そいつらが向かう先には大きな門。
日が沈み暗くなるからであろう、大きな松明が幾つも並べられている。
「思ってたよりも進行が早い。みんな、私の方へ寄って」
リアナに言われるまま、俺たちは固まるようにその身を寄せ合う。
「いい?これから奴らの群れ…あそこまで一気に跳ぶわ、舌を噛まないように気をつけて!」
そういうとリアナはコンと足元を杖で叩き、詠唱を始める
「“祖は叡智の一つ”“集う彩は緑”“葉を還すその尊き御心を我らにも与えよ”」
集まる俺たちの足元の空間が歪む。
ブゥウウンというあまり聞いた事のない音を共に響かせ
「ぬぐぉを!?」
ガーネットの吹き出すような声と共にその場から一気に跳ねるように上昇した。
いや、確かに流石の俺も驚いてる。完全にゴリ押し飛びじゃないか
ゴリラ風魔術じゃねえか
「なにか言った?」
いえ―
「うをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
足元の街の景色が一瞬で小さくなる、アリシアも少女らしからぬ雄叫びをあげる。楽しいのかこれ
「ごべん、ちょっと…緊急なのは解るんだ…わかるんだけど…私一応人間だからさ…ねぇ
お手柔らかに―」
ガーネットの言葉を遮るように高くまで跳んだ俺たちはそのまま急降下する
「おてやわらかにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいるべるべるえべえべべべべべべべべるるるるべ」
「落ち着きなさいガーネット!」
「いや、だってこれやばばばばばばばば―」
『見えてきたぞ!』
見下ろす先には魔物の軍勢。
そいつらが皆、俺たちに気づき頭を上げてこちらに目を見張る。
衝突までまもなく。
「“道をあけろ”!!」
直前にリアナが魔物らに向け手を翳す
すると大きな爆風と共にその場の魔物たちは大きく吹き飛ばされいく
俺たちは彼女の風魔術が落下の緩衝材となり
開けた場所にうまく着地する。
爆風で土煙が舞い上がり視界が遮られている中
肉を切る音と野太い獣の断末魔が何度も交互に響き渡る
この感じだとガーネットがやっているのか?
アリシアは魔剣を構えると、大きく横に振って土煙を払う。
視界が開けた途端、周囲を囲むように集まる魔物たち
そしてリアナとヘイゼル、お互いに居場所を把握した所で俺は後方の門に目を向ける
「どうにか最前列には乗り込めたようね」
『まぁ、なんつぅか。四面楚歌ではあるんだがな』
オークに、ゴブリン、トロールそれに、スカルソルジャーもろもろ
ほとんどが見たことのあるありがちな低級魔物たちである。
一通り品定めをする中、面白い程に身軽な動きで此方に飛び寄って来たガーネット
彼女の握り締めるダガーから腕に掛けてすでに青々とした血が塗りたくられている。
「っ…」
舌打ちをする彼女の視線の先には彼女同様青い血に塗れた魔物が数体横たわっていた、が
その魔物はゆらゆらと起き上がり捩れるような挙動をした後何事もなかったようにこちらに攻撃の姿勢で構える。
そして、その魔物の身体にまとわりついている不自然なまでの魔力反応…あれは
「あれ、あんたが仕留めた奴でしょ?イヴリースの瘴気を喰らって異常なまでに成長を遂げているっていうの?」
「いや、逆だ。ありゃあそんな生易しいもんじゃねえ」
ガーネットは自分の眼帯をトントンと叩き目を凝らす
「あの異常なまでの魔力を秘めた瘴気が魔物を寄り代にして動かしてやがる」
『どういう事だ』
「わからねぇか?あの魔物そのものが生命活動を停止したとしても、イヴリースの魔力がゴリ押しで動かし続けるんだ」
『ゴキブリみてぇなもんか』
「ゴキ…え?」
「ゴキ?」
「ゴキブリ?」
『そこ拾わなくていいから』
「結局のところ致命傷を負わせても一筋縄では行かないってだけでしょ、なら―」
リアナは杖を構える。
しかし、その構えは魔術を唱えるときのそれとは程遠い。まるで居合のような構え。
彼女の周囲で風が己の存在をそこに示すようにフワリと塵を持ち上げる
「動かせなくなるくらいバラバラにすればいいのでしょう?」
風が揺らめく
「“こんな風に”!!」
大きく振り切った杖から多くの翡翠の刃がうねる様に乱れ飛ぶ
走る刃は遠慮もなしに魔物たちの傍らを通過し、その片腹は愚か腕、脚、胴体、首と至る所までを切断していく。
「あんた本当に魔術師なのかしら…」
リアナのゴリ押し満載の攻撃に珍しく引いているアリシア。
一方、正面でいくつもの肉の塊が転がるのを見て、ガーネットは「ヒュウ♫」と口笛を吹き
「いいねぇ。景気の良い魔術は好きだよあたしはぁ!!」
そのまま走り抜けて前に出てきた敵の首をひとつまたひとつとそのダガーで丁寧に切り離していく
「アリシア!ジロ!お前たちはその立派な魔剣でじゃんじゃん脚を切り落とせ!
なんなら突き飛ばしたっていい!兎も角ここが今の最前線だ!!増援がくるまでなんとしてもここは死守するぞ!」
ガーネットの指示にアリシアと俺は互いに目配せをして頷くと、うじゃうじゃと揺れる魔物の群れに突っ込む
少女ならではの身体の小ささが優位に働いたのか。
敵の足元が狙いやすく、低姿勢で魔剣を振り回すだけでぞろぞろと魔物どもは脚を失って崩れていく。
しかし、ガーネットの言うとおり、イヴリースの瘴気によって動かされている魔物らはそれでも這いずるように門の方へと向かっていく。
しかし、それを許すまいとヘイゼルの檻のように迫る光擊が更に相手を切り刻み行く手を阻む。
各々が自分のやることを理解したとこで、
「ティル・ウィンド!!」
リアナは後押しをするように風の魔術を皆に付与する。
「私とヘイゼルは後衛で攻撃と支援を交互に徹する!あなたたちはどんどんそのままこの流れを抑えるように進んで!!」
『わかってらぁ!!』
反撃してくる魔物を2体、3体となぎ払いながら俺は応と答える。
「本当はあたしゃこういうの向いてないんだがなぁ!」
ガーネットも文句をひとつ垂れながら手を伸ばすように襲いかかるオークの首をすれ違い様に器用に切り離し
前も後ろもわからないままフラつく身体を蹴っ飛ばす。
首のとれた魔物は手探りで這いずりながらウロウロと戸惑っている。
なるほど、動くとは言っても視界がみえなけりゃそれだでも時間稼ぎぐらいにはなるのか
『アリシア!』
「わかってるわよ」
俺たちは地を抉る程に足踏みをすると
「うおぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
『うおぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
自分の中の魔力を咆哮と共に開放した。
その行動に魔物共は一度圧倒されながらも、こちらの存在に気づき俺とアリシアを囲むようにゾロゾロと近づき始める。
「パパ!大きく振るう!」
『行ってこい!』
アリシアは大きく溜める構えをして、瞬間的に渾身の回転切りを披露する。そして刹那
『エンチャント:マギ・フレア!』
俺の詠唱に反応するように刀身が光り
円を描くように振った刀身の軌跡に魔力の斬擊が大きく広がっていく。
そして密集するように集まった魔物らの首全てを通過し、一度に全てを斬首していく。
体だけをのこした魔物らはガーネットの時と同じように崩れ落ちてなおもズルズルと周囲をのたまわっている。
いける…!
このまま続けて戦っていればなんとか時間を稼ぐことができる。
早く来てくれ…増援を…
―それでも、門に向かう魔物は思っていた以上の数で極度の長期戦になる事は免れなかった。
斬っては殺し、斬っては殺す。
それが終わったなら次の魔物。
何度も繰り返し、門へ向かう魔物の取りこぼしが無いか気にかける。
そして正面に振り返れば
未だ続く魔物の長蛇の列。
『アリシア、平気か!?』
「私は大丈夫。所詮はパパの魔力で賄われたような身体。パパがそうやって聞いてくれる限りは大丈夫だと思う。けど―」
アリシアの向けた視線の先で、先ほど調子は何処に行ったのか項垂れているロールツインの帝国兵。
「へへ…耐久には自身あったはずなんだけどなぁ」
肩で呼吸する程に息遣いが荒くなり、こっちからでもわかるほどに汗を流しているのがわかる。
顔にかかった敵の返り血といっしょにそれを拭うと、もう一仕事だと構える。
彼女のダガーを持つ手が震えている。それを必死にもう一つの手で抑えるようにして、魔物に諦めず対峙しようとしている。
「ガーネット!下がりなさい!!あなたの体力が人並みなら既に十分以上にやっている!もう戻るのよ」
奥でリアナが叫ぶ。
「そうはいうかねぇさ。安心してくれって。あたしだって土壇場じゃあやるときゃやるってのを見せなきゃいけないさね」
彼女の目の前にいるのはその身のふたまわりも大きなトロール。
そいつは動きが鈍くなったガーネット目掛けて棍棒をふり下ろそうとする、が
彼女はそれを器用に身体を捻って躱すと、トロールの腕の根元をダガーで切り離し
叫びながら後ろに下がった所を追いかけるように飛びかかり喉笛に刃を突き刺す。
そして強引に両手でぐぐと切り離してみせる。
トロールが後ろに崩れ、それに乗っかかるようにガーネットも倒れ込んだ。
「はっ…はぁ…」
彼女が呼吸を整えるのも束の間、周囲の魔物がガーネットに対して襲いかかってくる。
まずい―
『アリシア!!』
「まって!こいつ…っ」
此方側で俺たちが応戦しているスカルソルジャー
振り下ろした剣が、どうやら本人が想定していたよりも重い一撃だったようだ
魔力が失われているわけではない…はずなのに
いまはその攻撃を堪える事に精一杯になってしまっている。
なぜだ…?
まさか、奥の魔物が来るにつれて強くなっているのか?
『ガーネット!!!』
視線を彼女に変えてとにかく俺は叫んだ。
しかし、彼女はそこから動き出さない。
『おい―!!』
いや、違う…
ようく見るとあいつは藻掻いていた。
首を切られたトロールの片腕が彼女を掴んで離さないのだ。
次第に彼女の姿が寄ってくる魔物によって埋め尽くされていく。
「くそがぁ!」
アリシアは怒号を響かせてなんとかスカルソルジャーの剣を押し返すと
彼女の元へと駆けつける。
『もう一度、ウォークライを…!』
「その必要は無い」
その言葉と共にドンと弾けるような爆音。
同時にガーネットを囲んでいた魔物らが上へ上へと吹き飛んでいく。
『…なんだってんだ!?』
それに、この声は…
大地が焼け焦げた音を出す足元で敢然と立ちはだかる軍服を来たそいつは、俺らに視線を向けていた。
「ナ…ナイ?お前、どうして…」
ガーネットがその名を呼ぶ。
その予想だにしなかった展開にだれもが呆気にとられていた。
あいつは…ナナイ・グラン・レオニード。
エインズの一番最初に騒動を起こされた張本人であり、帝国軍人。
しかし何故だ?
帝国軍はこの件に関して手を出さないと言っていたはずだ。
何故、よりによって彼女が
かつての妻、奈津に似た顔の女がここに…
―あれ?
俺は違和感を感じた。自分の中にある何かがすっぽりと抜けてしまっているような感覚
それはそう時間も経っていないマナ神殿の中での“あの時”と同じ感覚。
喉に出かかっている事が何も出てこない。
ナナイは向けた先の俺らに物言わず、ガーネットの方に顔を向ける。
「だらしが無いなガーネット。いい加減寄る年波に勝てなくなったか?」
「へへ…はいはい。あたしのピンチに駆けつけて美味しいところを持ってったお前はかっこいいよ―」
「ふん、減らず口が叩けるならまだまだ行けるようだな」
そういうとナナイは手元に持つ大きなジェラルミンケースをガーネットに投げるように託した。
「お前…これは」
「よくもまぁ、あんな擬似訓練紛いのマゾプレイをしたものだ。“それ”があればお前の少しはマシになるだろう」
ナナイの機械仕掛けの左腕が大きくうねり声をあげて蒸気を吹き出した。排熱しているのか?
彼女はカチカチと自分の腕の具合を確かめると、「やはり…気に食わん」と呟く声が聞こえる。
そして再び視線を俺らに戻すと
「俺は、貴様らのことが嫌いだ」
唐突な否定宣言をするナナイ。
「しかし、もはや状況はそうは言ってられない。今はアルヴガルズの防衛を優先して俺は動こう
故に…貴様らは私の半径100メートル以内は…近づくな!!」
高鳴りする機械音。
左腕を魔物の群れに向けてナナイは翳し
「フル・バースト!!」
先ほどを凌駕する程の大きな魔力砲をその左腕から解き放った。
その光は目前の魔物を塵に変えるほどの威力を示し、門と魔物との距離が大きく開かれる。
「行け、事情は聞いている。ここは“俺たち”が食い止める。貴様らはこのまま奥の祭壇へと向かえ」
『向かえっつったって。お前、この大量の数の魔物をどうするつも―』
彼女は大きく天に向けて指を指した。
「空を見てみろ」
…空を?
俺とアリシアは言われるがまま空を仰ぐ。
日が沈みかけ、紅だった空も今では紫紺色に染め上げられている。
そんな中でも霊樹の根元なだけあって視界に入る霊樹の伸びた幾つもの枝
そこから成る葉葉が暗き夜を照らそうと優しい光を放っていた。
そして…そんな景色の中に見える一つの大きな影。
あれには…見覚えがある。
当初ナナイとの騒動が終えギルドの宿泊施設の窓から覗いた時に見た帝国の飛空艇コンドル。
それは次第にこちらに近づき一定の距離で止まると、アルメンのような鎖で繋がれた大きなアンカーが両脇から何本も射出される
そしてその中腹部の格納庫が開かれ、そこで待機していた多くの者が鎖の上を滑るように向かって降りて来ている。
「アディリエに向かう予定の部隊を一部乗せて連れてきた。残りの奴らはガーネット、お前の連絡どおり迂回させて観測所の方まで向かわせている」
「ナナイ、お前…本当にやりがった!くっそ!飛空艇まで…!非常招集の軍務を背いてまで―…」
ガーネットは身震いしている。想定以上の展開に増援。
きっと自身がやってきたできる限りの事に彼女は歯がゆい思いが募っていたのだろう。
だからこそ、今度こそ報われた
ガーネットの行動は無駄ではなかった。
「なに、問題ない。元々俺は軍の爪弾き者だ。後はハワードがなんとかやってくれるさ。それに、こちらの方がよっぽど楽しそうだ!」
次第に増援が俺らの周辺へと着陸する。リアナが必死になって募った冒険者たち。
今ここで、皆が一丸となっている。
「もう一度いう!貴様らは先に行け!!この木の根は俺と冒険者たちで食い止める」
くっそ、急に現れてなんだこいつは
奈津の顔で嫌いと言われる事の悲しさがある。
あんな一方的な事で感情をぶつけられたという憤りもある。
実に…実に悔しいが、なんて心強いんだ。
『アリシア!あの女の真正面には立つなよ!あの魔力砲に巻き込まれるかもしれない!!そのまま突っ切って祭壇に向かおう!』
「え、ええ…!」
珍しく動揺しているアリシア。
ナナイの放った一撃の射線上にズレるように走り、魔物の並ぶ列の奥へ奥へと駆け抜ける。
だが、簡単には素通りは出来ないだろう…。イヴリースの封印があった山の麓である祭壇に向かう道は次第に細くなっていき
次第に魔物も密集された通りになる。
更に言えば、魔物は奥に行くにつれて強さを増している。
突っ込むべきか…どうする!?
「おらぁ!!!」
雄々しい叫びと共に蛇のような炎が周囲の魔物を焼き払い、埋め尽くされた道が大きく開かれる。
『炎の、魔術…?』
振り返るとそこにはガーネットが立っていた。
「安心しなさいな。“こいつ”がある以上、お前さんらを阻む道はあたしが開く!」
彼女の手に持つそれは刃でカチカチと嘶きしなる炎を纏いし蛇腹の剣。
「蛇炎レヴィクリムゾン。まさかこんな形でこいつを握る事になるとはねぇ」
さっきのバテた顔は何処へやら、ふふんと鼻をならすそのお調子者の姿も今となっては非常に頼もしい。
そして、その後を追うようにリアナとヘイゼルも来てくれた。
「まさか、案内人の私を置いていくつもりなんてことはないわよね?」
「ジロとアリシアは私が守るから」
『ああ、行こう。みんなで祭壇の方へと―』
「ちょっとお邪魔スルよ」
「―え」
『なっ!?』
あまりにも唐突な出来事だった。
皆がこんなにも集まっている中で、なんの前触れもなく割って入るように現れた黒装束を見に纏うガスマスクのようなものを被った男。
そいつは急に正面からアリシアの首をその手で掴みかかり、急に押し込まれる。
何も無いはずのその場から
空間が歪曲して“何かに飲み込まれるように”
皆が俺とアリシアの名を叫ぶ中で、一瞬にしてガランと周囲の風景が変わっていく。
「ここは…」
『何処だ?』
見渡す限りの覆う闇の中で微かに光る緑の燐光。
この場所には見覚えがあった。
『マナ…神殿…?』
「それに近い感ジではアルかな」
暗がりの奥から聞こえる声。
俺たちをこの薄暗い場所に連れてきた張本人。
奴は闇の中から大きな鎌と共にゆっくりとその姿を顕していく。
淡々と喋る声はその独特な鳥に見立てたマスクのせいか
それともそいつ自身が普通の人間とは違う何かだからなのかは解らない。
だが、味方では無い事は十分にわかる。
俺らあ祭壇に来ることを阻んだんだ。
「まぁ待ちなさいッテ」
武器を携えながら身振り手振りで喋るせいか
鎌の刃が揺れる度にカランカランと連なる鐘が音を鳴らす。
『事は刻一刻と争っている状況で随分と余裕な事を言う。
そらそうだろうな、俺らをこんな場所に閉じ込めていれば祭壇には近づけない。それが何を意味するのかも理解しているんだろ?敵さんよぉ』
「敵さんって名前は嫌だなぁ。俺にだって名前がある。まずは自己紹介をサセテクレ」
穏やかな口調そう言いながらも、遠慮なしに奴はその手に携えた鎌を振り下ろしてきた。
それをアリシアは瞬間的に弾き返し、反撃をする。
「それがあんたの自己紹介ってやつ?随分と不細工なやり口ね!」
二度三度振ってはいるが手応えはまるで無し。奴はその身を隠して喋り始める
「なぁ、あんたはどう思うンダ?魔剣」
『何がだよ』
「霊樹の仕組みサ。一通り聞いてイルんだろ?」
『こんなところに連れ込んで斬りかかる奴が何を言ったところで止めるつもりはない』
もう決めたんだ。
あの少年の…アグの決意を踏みにじってはいけない。
「そうかい。じゃあ、別の話をしよウカ」
『まだ何かあんのか―』
「叛逆者って呼ばれる存在を知っているかい?」
『っ…!?』
こいつ、今なんて言った?
叛逆者…神の運命を操る存在…あの叛逆者の事を言っているのか?
「お、いいねェ。その反応だと食いついてくれたみたいだ」
…その言葉は囁くように、アリシアの後ろから流れてきた。
ゆっくりと彼女の肩をぽんと叩く。
『てめぇ…!』
いつの間に背後を取られたんだ。
「ドウモ、初めまして。イヴル・バースの四将の一人デ、叛逆者と呼ばれるその一人。それガこの俺“ゼツ”だ。」