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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
64/199

帝国軍軍事演習黙録

同時刻、帝国中央都市



軍事顧問であるアシュリー・ブラッドフローによって非常招集の命を受けた全ての帝国軍兵らは

本部中央にて一斉に待機していた。


「おい…見ろよ。あれ」



「ああ、あの方角は確か…エルフの森じゃねえか」



「一体なんだってんだ、あの大きく浮いている山は」



突如空に現れた大きな菱形の山。

それがゆっくりと上昇しているのを見て色々な思考が互いに飛び交う



「まさか、あれを総力戦で潰すつもりか?」



「お前たちは何か知らないのか?エルフの国境に居たんだろ?」



「…わからない。だが、唐突な非常招集には頷ける。あんなものの真下に居たら気が気でないからなぁ」



「俺は聞いたことあるぜ。エルフの奴に口止めされていたが、あそこにはやべえのが眠っているって」



「まじかよ?なら中央大陸の戦争をほっぽってまでやるつもりなのか?」



「まさか」



コツコツと響く足音。


想像だけが飛び交う兵士の間をぬって歩く男の姿があった。


男は戸惑う兵たちの様子と空に浮かぶ大きな山を眺めて舌打ちをする。



「あれが…魔神が封印されている山、か」



「ハワード大佐。取り急ぎ中央会議室に出頭せよとの事です」



ハワードは、一人の兵からもらった言伝を聞き、咥えていたタバコを小型灰皿に仕舞い込む



「わかってるさ。どうせ上層部はみんなそこに集まっているんだろ?」



大きなため息をつきながらハワードは踵を返して中央会議室へと向かい始める。



途中、自分を大きな影がかぶさるように覆う

何事かと思い上を見上げると大きな大きな鉄の塊を何台もの飛空艇が堅牢で大きな鎖でぶらさげ運んでいた。


今までに色々兵器が作られていた事はあったが

あのような形の定まらなく、用途もまるで想像出来ないものを見るのはハワードも初めての事だった。



「おい、あれは何だ?」



ハワードは付き添いの兵に質問する。



「ええ、私も詳しくは解らないのですが…アシュリー様の依頼で取り寄せた試作型軍事兵器だとか…」



「試作型?あんな重々しい鉄の塊をあの女は何に使うつもりなんだ」



「私には計り知れませんね…」



あまり入り込む時間も無い。その場を後にし、会議室に脚を向ける。







「あら、お待ちしてましたよ?ハワード大佐殿」



会議室に入るやいなや、苦虫を噛んだような思いでその声を耳にする。


周囲を見渡すと既に何人もの上層部の人間が集まり重い顔をして、入って来たハワードに視線を向ける



「おっと、どうやら俺で最後のようで?これはこれは、お待たせしました」



まったく悪びれない態度でそう言うと、黙って席に座るように促される。

大人にしては粗暴な風体で椅子に座ると



帝国軍事顧問であるアシュリー・ブラッドフローは周囲を一度見渡し

ふふんと鼻を鳴らして口を開き始める。



「ではぁ、まずこの非常招集に関してから説明致しましょうかぁ?」



アシュリーは大きなスクリーンの前に立ち、そのスクリーンに映る大きな山について説明し始める。



「外にでて目にした方は殆どいるでしょう。ええ、あの空に浮いていた菱形の山です。単刀直入に言えばあれはエルフが幾年もの間

周囲に秘匿していた封印された魔神なのです。その魔神の名はイヴリース」



周囲がその名を聞きざわつく。



「詳細は既に手元の資料に入っております。どうぞご拝見ください」



「魔神…」



「秘匿していただと?エルフの連中はずっとこんな危険因子を側に忍ばせていたというのか?」



「つまり、その封印が解かれているというのか?」



「危険すぎる。だから、秘密主義のエルフ共は信用できないんだ!」



その場の皆が脅威が在るという問題よりも、なぜそれを黙っていたのかという憤りにざわつき始めている。



―やはりこうなるか…



アシュリーの言い方は明らかにアルヴガルズの人々に対し、ヘイトを向けさせる物言いだった。

あたかもおおきな軍事兵器をエルフが隠し持っているような物言い


決してエルフの人々はそんなつもりは毛頭も無く

周りを不安にさせない為に秘匿し、自己で責任を負い、その守り人として務めていたにすぎないはずなのに…



ハワードは手をあげて意見する



「見解が偏りすぎている。情報が不十分では?エルフと我々は軍事競争をするに値する関係性はないと思うが?」



そもそも、彼は知っている。イヴリース封印を維持するため、霊樹の防衛依頼をいの一番にアルヴガルズの使者が来ている事を



「ハワード大佐。随分と肩入れするのですねぇ?アルヴガルズには何か思い入れが?」



「一つの脅威を打破するにはお互いの協力は不可欠だと言っている。それこそあちら側との情報共有をするために使者を突き返すのはいかがかと」



「ほう?あなた、私が独断で向かった査察の内容を一部知っておられるようで?もしやアルヴガルズには“お知り合い”が?」



アシュリーの返しに周囲がハワードに向けて一気に視線を向ける。



“お知り合い”などと彼女は軽く聞いているが…これは遠回しに内通者としてのレッテルをハワードに貼ろうと仕向けているのだ

ハワードは自分の意見が出すぎた事だと気づく



「まぁ、いいでしょう…」



ハワードは一先ず事が収まる安堵と見逃された屈辱で一気に心を重くさせる。


眉間をつまみ取りあえずはこの話の結末を見届けるしかない。



「話を続けましょう。ハワード大佐の言うように使者から協力の要請が来ていた事は事実です。そして私は査察にも向かいました。

そして結果だけを言わせていただきます。この戦、我々が真っ当に参加すれば明らかな損失が生まれるでしょう。

現在も中央大陸で共和国との小競り合いをしている中、突如としての隣国アルヴガルズからの協力要請。

この構図が何を意味しているかお解りですか?」


つまりアシュリーはこう言いたいのだ。

我々帝国軍は、現状板挟みの状態にあると。

アルヴガルズからの応援要請を受ければ共和国はその状況を好機として攻め入るだろうと。



「実際、いま目前にあるアレは魔神という人類の脅威の塊なのです。魔物の軍勢の討伐等と言ってますが、

結局はあの魔神の駆除を我々にも肩入れさせようとしているのです。こうは考えられませんか?

秘匿していた魔神イヴリース。それをコントロール下に置き、我々に進行する予定であった。あくまでそれの制御が利かなくなった

そう思うと、我々が兵の命を割いてまで助ける必要があるのか?と」



あまりにも極端な想像、あるいは被害妄想だ。


おおきな脅威が隣国で迫っているのにも関わらず、それをまるで兵器のように言い

自国が今ここで危険に脅かされると煽る。

その中で一部しか知らない情報を口にすれば内通者として魔女狩りのような反応を示す。

間違いなく…この女はヤクシャだ。戦を引き起こそうと唆す厄災そのものだ。



「ですが、我々も臆病者という訳ではない。ただ簡単に兵を譲るというのがあまりにも無駄だと言っているのです」



アシュリーはスクリーンに映る映像を切り替える。



「…これは…!?」



目前に映った設計図、そしていくつも並べられている魔術設定。



「我々ブラッドフロー財閥によって開発を進めておりました超超極大遠距離高圧魔導砲。名を“トールハンマー”と言います」



ハワードの唇が震える。


―まさか、あれは


彼には見覚えがあった。

ついぞ先ほどの事だ。


何台もの飛空艇が運んでいた巨大な鉄の塊。



「膨大な魔力を貯蔵し、一気にそれを目標へと放つ帝国軍かつて無い程の最大規模の砲台です」



―あれを…放つというのか?アルヴガルズに…!



「しかしトールハンマーは試作段階且つ、未だこの兵器の威力を試射する予定がありませんでした。

と、いうわけで…これを」



恍惚とした表情でアシュリーは言う。



「あの“イヴリース”に向けて試射させて頂こうと思います。軍事演習という名目になりますが、ええ

これで、我が帝国軍の、アルヴガルズの隣国としての彼の地への応援要請として面目が立ちますねぇ!ええ!!」



ハワードは今、その場の卓を叩き殴りたい気持ちを抑えていた。


ふざけるな!と今にも叫びたい。


この大きさに貯蔵された魔導砲がどれほどの威力なのかを知っている。

周囲の被害等視野に入れるつもりも無いのだろう。


ましてや現状ヘイトの集められたアルヴガルズに対して気を負う事を考える者が今、ここに居るだろうか?



彼には恐ろしくて聞くことが出来ない。



「おやぁ?ハワード大佐殿…顔色が優れないですねぇ。如何しましたか?」



ねっとりとした声が近づいてくるのがわかる。



「そういえば、あのいう事の聞かない事で有名な中佐殿は未だ見つからないのですか?ダメですよぉ…飼い犬の躾はしっかりして頂かないと」



こいつの考えは読めている。

あのトールハンマーを使って何をしたいのか…


それだけじゃない…多分こいつは知っている。

俺らが監視対象にしているアリシア・ハーシェルという少女と魔剣についても…


だから諜報機関だけは情報を集める事優先という体で野放しにしていたんだ



再び周囲の視線が彼に集まる。


―考えろ、ここで圧倒されている場合ではない。


ハワードは大きなため息をつき立ち上がる。



「そうだな、その間抜けな中佐がここに居ない以上、俺もここでのうのうと話を聞いている場合じゃない。

これ以上話が無いならこれで失礼させてもらうぞ。アシュリー軍事顧問さんよ」



お互いに黙って睨み合う。


しかし、アシュリーは目を歪ませて不敵な笑みを見せると



「軍事演習は、この後6時間後を予定しております。どうぞ欠席されぬよう精々祈っています」




「ああ、そうかよ‥‥!」



ハワードはそう吐き捨てるように言うと

飛び出るように会議室から出る。



―時間が無い…どうにかあいつを…ナナイやガーネットをあの場所から離れさせないと




“ナナイを頼むぞ…”




彼はある男に託された言葉を思い出す。


そうだ、俺は託されている…



あのぶっきらぼうなじゃじゃ馬娘を、その身に代えて守った男の言葉を

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