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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
60/199

そして、各々が動き出す

「そろそろ時間か。大方、揃ったようだな」



ギルド長の大討伐の依頼発令から数時間後。

リアナの呼びかけに応えてくれたギルドの冒険者達はゆうに500人を超えた。


魔物の軍勢の大討伐にしては予定よりも多くの人数が集まった

各々の出で立ちは多種多様で

王国から派遣された騎士

山賊を名乗る義勇軍

医療魔術の開発機関

古の渦の調査を主とするはずの魔物研究協会

中にはアルヴガルズに思い入れのある傭兵もいくらかおり

同じ同志が当時の思い出話に賑わいを見せていた。



「討伐依頼でこれだけの人が集まるのは俺でも見たことが無いですね。かつての魔神戦争以来になるのでしょうか?」



「そうだな…」




久しく見てなかった光景に思いを馳せるニド

だが、その光景に一瞬の違和感を感じた。



「どうかしましたか?」



「―いや、帝国軍は今緊急招集がかかっていると聞いてな」



ニドが向けた視線の先にあるいくつかの集まり。

それらは周囲に溶け込むように色々な人と会話をしていた。


それらの姿はどこにでもいそうな普通の傭兵と身なりが変わらない。



「ヨシウ。君は彼らをどう思う?」



ニドが指さした場所

ヨシウと呼ばれた男はそこに目を凝らす。



「―…ああ、一緒ですねぇ。あの装備の配置。俺らの“古巣”と同じつけかたをしていますね」



かつて戦争屋に雇われるまで帝国軍で所属していたヨシウからすると

彼らの装備は服装がばらばらなはずなのに身につけている武器、その位置

一挙手一投足が既に懐かしいものを見せられている気分にさせるものだった。



「元帝国軍の連中か…?」



「かもしれないですが…それにしては群れている気がしますねぇ。個人的には“単独専門の班”と言えばそれで納得のいく人数だ」



「成る程、帝国軍もとい…戦争屋もどうやら今回の件がどう転ぶのか気になるようだ。いや、むしろ転ばせてからの事を考えているのかもしれんな」



「炙りだして殺します?」



「いや、今この場で不穏な事は出来ない。折角の士気も確実に下がってしまうだろう」



「なら、一先ずは我々の方で同行を探っておきましょう。ボス」



「頼む。下手に動いたようなら。その時は君らに任せるよ」



「わかりました」 



多くの物資の準備も整い、移動用の馬車も揃え


いつでも出発できる状況であった。



「今回、二つの部隊に別れて順番に向かってもらう」



ギルドの執務室に集められたのはニド、マクパナ、第一部隊を担うヨシウと第二部隊を担うオッド、武器の管理者として担うメイ。



「第一部隊は先ほどヴェニスタへと発ったリアナたちを追うように先行、第二部隊はその後の様子を見て出動する。

ヴェニスタに到着したならそこで用意させている船がいくつかある。それに各々が乗りアディリエに向かってくれ給え」



「了解しました」



「第二部隊のオッド、メイは第一部隊がヴェニスタに到着する予定の時間に合わせて出動する。それまでにお互い何かあった場合は

レンジャードッグを放ってくれ。そしてアディリエに到着次第アルヴガルズを通って現場に急行し即座に対処してくれ」



レンジャードックはギルドによって用意された特別な訓練を受けた伝書犬である。

暗号化された魔力によって周囲から感知されず、速さは馬車を超える程の脚を持つ。



「わかりました」



「私からの大まかな指示としては以上だ。―それと、最後に一つ言わせてくれ。

今回の依頼案件。もしかすると我々の予想を遥かに超える事象に出くわすかもしれない。これはあくまで我々ギルドから出されている仕事の一つだ。

命を賭して戦う者を愚か者とは言わないが、これは戦争なんかとは違う。状況に応じて命を最優先にして動いてくれて構わない。

皆が無事に帰ってくる事を私は祈っている」



かくして、大討伐の依頼の開始が宣言され

第一部隊がこのエインズの街から放たれた。



「ギルド長殿。此度の大討伐の発令、改めて感謝を」



第一部隊を乗せた馬車を見送る中、マクパナはニドに感謝の意を示し深々と頭を下げる。



「此度の依頼。東大陸の秘境とまでうたわれているアルヴガルズ直々からの要請です。

今後も我々をご贔屓にして頂ければと思います。それに、今回は“イヴリース”の件も関与しているのでしょう?」



「―…リアナから伺っておりましたので?」



「いや、帝国にも多少の縁があってな。その伝で状況を伺った次第だ」



「帝国も一枚岩では無いという事ですね」



「どうやら、此度の件に合わせるように帝国軍は一度全ての部隊を本部に非常招集宣言しているそうだ。

その為、国境の部隊もいまやモノの抜け殻となっているらしい」



「見えすいた動きですね」



「ああ、だが…この動き…もしかしたら保身の為に動いているだけとも言い切れなさそうだ…」



「何か思うところがあるのですか?」



「確証はない。だから口にする事は出来ないが…私の中で感じるこの一抹の違和感。どうにかしたいものだな」




第一部隊が出発してから数時間がたった。



一方の療養所では、イーズニルがアルヴガルズに向かう為の身支度をしていた。



「もう行くのですか?身体の調子はどうです?」



シアが心配そうに伺うとイーズニルは振り返り笑顔を見せて



「ええ、大丈夫です。シアさんのおかげです」



ここ暫くはシアに癒しの魔法をかけてもらい体調の回復を早めて貰っていた。



「いつまでも甘えてはいられませんので。僕は、今こそ皆と向き合って自分のやるべき事をやるだけです」



「そうですか―あなたに、どうか神の御加護があらん事を……………」



「―!?」



唐突な出来事ではあった、シアが突如としてベッドから崩れるように落ちて胸を抑えている。



「シアさん!?」



何事かと急ぎ駆け寄るイーズニルはシアに近づき抱き寄せる



「だ、大丈夫です…」



一瞬の出来事とはいえものすごい汗をかき、荒々しくなった呼吸を懸命に整えている。


彼女にはこの感覚に覚えがあった。


極界の巫女より彼女が直々に使いを賜った理由のひとつでもある。



動悸に似た感覚と耳鳴り。


その中で入り混じって聞こえる感覚



世界の歪み、悲鳴


なにかが収束していくような音



「来るっ――」



歯車の音



「まさか…再び、動き出したというのですか…招かれざる運命メガロマニアが…」



そして、その音が聞こえる方角にあるのは―東の大陸……



「まさか…」



身を案じるイーズニルに手を借りて立ち上がるシア。



「イーズニルさん…。すみません、私も…、私もアルヴガルズに同行させてください…!」



「え?ど、どうしたのですか!?」



「あの場所は…このままだと大きな災害に見舞われてしまいます…一刻も早く、彼らに…伝えなければ…!!」



シアは急ぎ出発の身支度をしようと着替えるために服を脱ぎ始める。



「え!?あ、ちょっとまってください!!僕!!外に!!外にでますから!!!!」



「え!?あっ―!あののののののの、すすすすす、すす、すいません!!」



イーズニルは逃げるように一室を後にする。


扉を閉め、そこに寄りかかり大きなため息をつくと

そこにひとりの女性が近づいてくる。



「あなたは…エルフの」



整った顔立ちに細い目が特徴の女性。

その手に抱えているのは幾つもの果物をいれた籠。



「えと…」



「ふふ、リンドと申します。シアはもしかして取り込み中でしたでしょうか?」



「その―…着替えをしておりまして」



「あら、外出でもするのですか?もう体調は落ち着いたのでしょうか」



「いえ…僕も唐突なことなのではっきりとは言えないのですが、急に倒れたと思ったら起き上がって…アルヴガルズに一緒に向かうと」



「…成る程?」



リンドの閉じられたような細めがゆっくりと開かれる。

宝石のような翡翠の瞳をみせつける。










更に暫くして、ギルド本部前。


第二部隊が出発の準備を整えて待機している中


慌ててオッドに耳打ちをする者がいた。



「なんだって!?」



オッドは急ぎ指定の場所に向かうと、その場所には多くの傷を負った者と女性、子供が固まるように集まっていた。

既にニドもその場にいて、話を伺っていた。



「こ、これは―」



「どうやらガーネットが月代の鏡を使って負傷者と女子供を優先的にこちらに転送させたらしい」



「何が起きたというのですか?」



「リアナたちが向かった時には既にアディリエの街が魔物の群れに襲撃を受けていたようだ。そこで一端、高台の灯台に避難させてこちらに

こちらの方々を一気に転送させたそうだ。全く、こんな使い方をするとは、お人好しだが、無茶をするものだ」


ニドが差し出したその手には既に割れた月代の鏡があった。

どうやら、強引に転送させた為に 耐え切れず割れてしまったのだろう



「負傷者はこちらで治療班を呼んでおいた。あとは皆の受け入れ場所を確認してもらっているところだ…問題は」



「アディリエですか…しかし、魔物の軍勢は霊樹の向こう側にある帝国との国境にある山に居ると。港街にまで及ぶなんて事あるのですか?」



「…イヴル・バース」



「イブル・バース…?」



ニドの放つ単語の意味が理解できず思わず鸚鵡返しするオッド



「ガーネットから言伝を賜った者から聞いた情報だが。どうやら魔物を指揮する存在が居るらしい。

そして、その中の一人に『知恵持ちの竜』が一枚噛んでいるそうだ」



「馬鹿な…!神より祝福を賜った叡智ある竜がこの事に手を加えたとでも?一体何処の竜が…」



「そいつはニーズヘッグと名乗っていた」



「あの伝説の魔王竜がですか!?」



「その者はアリシアと対峙し、好戦的な態度を見せていたそうだ」



「くっそ、あの魔王竜が何故―」



「わからん。イヴル・バースという名自体、我々にも聞き及んでいない組織名だ…私は一度

リョウラン組合にこの事実を何処まで知っているのか確認する必要がある。オッドは急ぎ、第一部隊に対してレンジャードックを放ってくれ」



「―わかりました。至急執り行います」



オッドがその場を後にすると同時に、すれ違う人影

それを見てニドはため息をつく



「君か、リンドヴルム」



「あら、すみません。立ち入るつもりは無かったのですが…どうやら私にとって聞き捨てならない忌々しい竜の名を耳にしたものですから」



「お前の奴に対しての態度が魔力からも感じ取れるぞ」



他からすれば一見いつもの様子に見える彼女だが、ニドの持つ感覚から感じ取れる魔力のざわめきは

当初のナナイに見せたそれ以上だった。



「あの竜の管理はリョウラン組合のヴィクトルの他に、フレスヴェルグが居たはずなのだがな…」



フレスヴェルグ。魔王竜ニーズヘッグとの交流を持つ魔力研究家の一人である。

しかし、研究の熱心さあまりに人の尺度を省みない非人道的な実験等が行われているという噂を絶たない

最後に聞いた情報では、古の文献にある創世紀に興味を持ち

付き人のラタトスクを含め三人で古の渦の調査で成りを潜めていたはず


今になってニーズヘッグが魔物を従えて出張ってくる理由が何処にもない



「はずなのだが…。考えられるとしたら、イヴリースが関係しているかもしれないな…」



ニドは俯いて頭をかかえる。

そう、封印が解けかけている今だからこそ、

イヴリースという天災装置が彼らからすれば都合の良い実験対象に変わりないという事になる。



「成る程…」



リンドは踵を返し、その場を後にしようとする。



「君も行くつもりか?アルヴガルズに―」



「ええ、私にもやるべき事が出来たようなので。己を出し惜しみしている場合ではなさそうです。それに―」



彼女の前に立つ少年と少女



「君達は…」



「ギルド長ニド。療養所でのご好意誠にありがとうございました」



シアはニドに対して深々と頭を下げる。



「私もここにいるエルフのイーズニルさん、リンド様と共にアルヴガルズに一足先に向かいたいと思い一度ご挨拶に伺った次第です」



「そうか…向かう手立てはあるのか?第二部隊の出発は一度状況を揃えてからになるが。」



「お気遣い感謝します。ですが、それには及びません。此度の移動はリンドヴルム様のお力をおかりしようと思っております」



「え?」



イーズニルが困惑した様子でニドとシアを交互に見る。



「私でしたら、他よりも早くあちらに移動できます。私情もありますが、何よりもこの子たちの事情を優先する必要があるので」



「ん?」



「シア、一応言っておくと彼女の乗り心地はあまりおすすめできんぞ?」



「ん???」



くくっと冗談を零して笑うニドにリンドは口を閉じてむくれる。



「いいえ!大丈夫です!問題ありません!!ご 心 配 なく!!」



ふふっとつられて笑うシア。



「えーっと…え?」



そして未だにどうやって移動するのか想像が行き届いていないイーズニルは

この後、死ぬほどに驚きの連続に見舞われるのであった。

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