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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
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5:その食卓で首は転げ落ちる

「んぐっ…もぐっ」


俺たちは言われるがまま

食卓の席に着いた(俺は剣なんで椅子の横に立てかけられている)

口をリスのように膨らましながらパンを咀嚼するアリシアは何とも微笑ましい光景だ。


『尊い』


「ん?どうしたの?パパ」


『いや、なんでもない』


この平和な日常がいつまでも続けばいいと錯覚してしまうほどに

俺の心は家庭の暖かさ、家族との温もりを貪欲に欲してたいたらしい。

アリシアは俺に笑顔を見せると再び食事を再開する。

しかし、よく見るととても可愛らしい娘だ。

整った顔立ちに映える金髪。精巧なガラス細工かと思うほどの細く長い睫毛に透き通るような青い瞳。


まるで動くお人形さん

いや、動く一枚絵を見ているような気分だ。


「本当にあなたは変わった魔剣ですね。」


俺とアリシアの向かいで座る女性は頬に手を当ててため息をつく


彼女の名前はリンド


リンドはアリシアの母親の浅からぬ友人で屋敷から南に離れた小屋で暮らしていた。


容姿は異世界だからこそ違和感を感じないのかそれでも俺には珍しい白髪で

それを後ろにシンプルな黒いリボンで結っていた


顔も控えめに整っている。


ああ、俺の言う控えめというのは

その綺麗な碧色の瞳を細目が隠してしまっているのが大きな理由だ。

まあ逆に考えればお淑やかで清楚なイメージを強く印象づけさせる要因となっている。

まぁ、そんな与太話は置いといて

執事がリンドを頼りにアリシアを南へ逃がしたのには合点がいく。


『そいやお前、魔術師なんだってな』


「ええ、そうですね。まぁ、…物騒な世の中ですから。」


少し前の事だ。アリシアに抱かれながら食卓の間に赴くと彼女がぶつぶつと呟きながら指先を指揮者のように振り

それだけで鍋に火をつけたり何もないところから水を出している事に気づいた。

その動きは流れるようで随分と手馴れていた。アリシアがそれを俺がまじまじ見ている事に気づいたのか


「あれはね、魔術って言うんだよ、パパ」


青の瞳を大きく開かせて笑顔で教えてくれた。かわいい


『まじゅつねぇ』


「うん、リンドは強い魔術師で昔は軍隊にもいたんだよ」


強さはアリシアのお墨付き(?)と来たものだ。

だからこそ少し、いやかなり違和感を感じた。だからこそ聞いてみた。


『だが、さっきお前は言ってたよな。アリシアを護ることが出来なかったって』


俺は多少の刺を含めてそう言ってみる。


「…あなたの言う通りです。魔剣」


彼女は静かに顔を伏せる。

小刻みに震えるその肩からは言葉では表せない程の悔しさがにじみ出ていた。


『嫌味っぽく言いすぎた。すまない。けれど、元軍隊所属の魔術師なんだろ?腑に落ちないんだよ』


魔術について詳しく理解はできていないが

それでももっと最善を尽くせたのでは無いのだろうか。

黒ローブのアリシア一家への一方的な襲撃。

予兆を感じ取れはしなかったのだろうか。死ぬ直前で執事がアテにしていた程だ。


「魔剣、この私に言い訳を言わせて頂けることを許してくれるかしら?」


『別にリンドの事を咎めているわけではないさ。』


「お優しいのですね、魔剣のくせに」


だからさ、そのお淑やかな顔立ちでそういう事いうのやめてくれって・・・俺の魔剣滞在歴でも言ったろうか?

時間単位でかつ指の数で足りちまうぞ。いまは指ねえけど。



「昨晩の襲撃は私の中でも最も異様なものでした」



『異様?』



「彼女の家は少々特殊でして。あのような不遜な輩を含め、盗賊等にも常常狙われている始末なのです」


『まさかだとは思うが、狙われているのは』


やっぱり


「ええ、あなたですよ魔剣。」


・・・覚えがある。あのクソ悪漢共はアリシアを散々痛めつけてる時に言ってた。剣を回収するって。


「話を戻しましょう。故に、私は常に狙われるあの屋敷周辺に、数十もの重ねた認証式の魔術結界を張って護っていたのです。」


『なるほど、そりゃあ安心もするわな』


「結界が張り巡らされた敷地に入るには認証された人物もしくは私による特殊な術式を受けないと入れないのです。」


『だが、それを関係なくいとも簡単に入られたと?』


「いいえ、正確には壊されたのです。・・・しかも強引に」


リンドはそう言いながら唐突に襟元を締めるリボンを解き、ボタンを何個か外し、鎖骨から胸元にかけての肌を露にする。

いや!まて!!!俺今は剣だけど、一応男なんですよ!?男なんだから!?


『ちょ、ま…ちょ…?』


「なにを動揺しているのです?魔剣」


「パパ、面白い」


アリシアもご飯を食べ終えたようで、たじろう俺を見て可笑しかったのかニコニコしてからかってきた。


『ア、アリシアはちょっと黙ってなさいっ』


少女を制するのも束の間、リンドのその胸元に巻かれた包帯が目に入る。

二重三重にも巻かれているにも関わらず、血が滲んでおり なんとも痛々しい光景だ。

アリシアも「りんど、痛くないの?」と心配していた。


「これでも私はこの子の言うように元軍隊・・・帝国軍魔術大隊の指揮を任されるほどには実力はあったものと自負しているのですよ」


今ではこの有様で情けない話ですがね。と、リンドは困ったような顔をして自嘲し話を続ける。


「その私が用意した結界には彼のドラゴンの膂力でさえも弾く強固なものでした。」


『ドラゴンねぇ』


いまいちパッと来ないがやっぱそのワードが出る辺り異世界なんだなぁここ。


「ですが、どうやらこの結界にもほんの少しだけデメリットがあったようです。」


『あったようですっていう事は、いままで気づきもしなかったと?』


「ええ、残念ながら。何故ならそのデメリットというのは この結界術式を・・・私自身を上回る強大な魔力によって力任せに破壊されしまうと、自身にもその強大な余剰分がリンクして還ってしまうという事ですからね。」


『なるほど、要は想像以上の魔力でこじあけられたせいでリンドも傷を負ってしまった。』



今日に至るまでそれを破るものがいない事実。

よっぽどその結界に自身を持っていたのだろう。

だからこそ傷を負ってから試行錯誤を繰り返したのだろう。


結果だけみればリンドが気づき屋敷に向かうまでの隙を作ってしまったというわけだ。


「ええ…傷を負った最初は状況が把握出来ず、私自身への襲撃による呪術の類と判断しそこから探りを入れていましたが全くもって違いました。」


リンドは再び俯いて悔しそうに唇を噛み締める。


「本当に…不覚…不覚でした。結界が壊された瞬間、動くこともままならない傷を負い。歩けるようになってからは急ぎ屋敷に向かいましたが、既に事は終えていてた…彼女の母―アリアを守ることも出来なかった。…そして、恐ろしいほどの魔力の反応と見覚えのある光が続けて南の森で見えたのです。急いでそこに向かうと、魔剣とアリシア…そしていくつかの死体を見つけました。」



『そして、俺たちを一旦ここに運んだというわけか。』


「そうですね。見つけた当初は魔剣。あなたを再び封印、若しくは破壊しようとしましたがそれが最早出来るまでには至らなかった。」


『そりゃあ、どうしてだ?いや 結果的に俺としてはそれをされちゃあ困るんだがな』


「あなたは本当に何も知らないのですね、魔剣」


『悪いが、この世界の事は全くわからんのだよ。所々知っている単語はあった、としてもだ』


「契約です」



―契約


ふと、当時の俺の脳裏に過ぎった言葉を思い出す。



契約を履行する



「あなたと言う魔剣にはアリシアの父であるリューネスの契約…願いが仕組まれていました。」


『願い・・・・』


「アリアを含め屋敷の中でも数人だけが知る事柄です。アリシアにもし死が訪れた時をトリガーに履行される契約。」


『どういう契約なんだ?』


聞いた途端、リンドはアリシアの方に物憂げな顔を向け



「アリシア、ごめんなさいね」



そう言って料理の時のように指をアリシアに向けてピッと振ると








―ゴロン







『え?』







アリシアの首に赤い筋が渡り、やがてその小さな頭を足元に転がした。

アリシアの首の断面が視界に入る。



いやまて?どういうことだ?

状況の整理がつかない。あまりにも唐突すぎる。


リンドがアリシアを?・・・殺・・・・



ふざけ…!


『リンドツ!!!』


ようやくたどり着いた怒りの感情に任せ叫ぶと


バリバリバリバリ


隣でナニかが小さな音を鳴らしていた。


バリバリバリバリバリバリバリ



おい



バリバリ…



まてよ


バリバリバリバリ


おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい


俺は夢でも見ているのか?異世界ってのは何でもありなのか??


頭が取れ、綺麗な断面を残したアリシアの首からその音はうねりを上げていた。

やがて断面から再構成されるように




皮膚


アリシアの頭が形を成していった。



「おふ」



少し驚いたようにアリシアは声を漏らす。

頭を抑えて、リンドと俺を交互に見る。




「唐突な事をしてすみませんでした。…ですが理解いただけたでしょう。これが彼の父であるリューネスがその魔剣に込めた願い故の結果なのです。そして今彼女が負ってる状況でもあります。」

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