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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
59/199

53:求めぬ者にも与えよ、それがアイを知らせる術と

「それで、君たちの目的はなんなんだい?」



フレスヴェルグと名乗る男は離れた位置を保ちながら、大きな瓦礫の端で脚を組んで座っていた。

あまりにも警戒するリアナには会話は通じないと思ったのか。

一定の距離を置くという奴からの提案により話が始まる。


しかし、彼の質問に対し俺は思いのほか癪に障っていた。



『目的?それは、こっちのセリフだ。『イヴル・バース』?四将??

お前らは一体何なんだ?何をしようとしているんだ?』



「質問を質問で返すのはあまり良くないと思うのだが?」



首をググと傾げる男

あくまで、俺らの行動の意図が理解出来ないとでも言うつもりか?

お前らのやってる事を阻止するだめだという解答は雰囲気でも感じ取れるはずだが



「だからこそ聞いているんだよ。興味がある。私たちの日常にに割って入る人間が一体、何故

我々の邪魔をするのかと」



…つまりこいつはこう言いたいんだ。

自分らが歩いているだけなのに、それを妨げる理由はなんなのかと



『…人がいっぱい死んでいるんだぞ?』



「それがどうした?君らは変わらず繁殖するのだろ?巣の一つや二つ壊れたって世界が終わるわけでも、

人が滅ぶ事もでもなかろうに」



そうか…これがこいつと俺らの決定的な違いなんだ。


見ている目線が違いすぎる。


会話が出来ているからと言って個人の気持ちまでが伝わるわけではない


正に言葉が通じない化物の良い例だ。



『なら、何故人間の姿をしているんだ?それこそ矛盾だと思うのだが?』



「魔剣からその質問を受けるのは不思議な気分だが、その姿こそが人間のものだと言いたいのかい?」



『何が言いたい』



「神に似せられて作られたからと言って、その型を自分のもの等と言い張るのは如何なものかと言っているんだよ」



『お前は何様だ』



「少なくとも君たちよりは上の存在さ」




暫しの沈黙。互いに睨み合う中で

フレスヴェルグはふぅとため息をつく



「話が逸れたようだね。だが、君たちがあまりにも傲慢で、それ故に我々の邪魔をしているという事は理解できた」



『お前たちは何故、イヴリースの復活を目論んでいるんだ』



「至極簡単な話だ。立ち寄った先に止められている“装置”があったなら、再び再起動させるのは当然の事だろう?」



装置?魔神を装置呼ばわりするのか??

こいつは、何処までお高い目線でモノを視ていやがる



「それで多くの人間が、我々エルフが死に追いやられてもか!?」



リアナは堪えきれず割って入るように言葉を投げ打った。



「丁度いいじゃないか。お前たち人間は増えすぎると共食いの真似事みたいに殺し合うのだろ?

なら、一度駆除しておいたほうがいい。先にそうしておけば君らもわざわざそんな事をせずに済む。実に結構な事」



「人の命をなんだと思ってやがる!!」



「なんとも思ってないさ。考える意味があるのかい??」



「殺す―!!」



『やめろ!リアナ!落ち着け!!!』



「そうそう、『殺す』なんて物騒な事いうなよ。僕は元々平和主義なんだよ?」



『お前から平和という言葉が出るのは俺らからすれば皮肉にしか聞こえない』



「そうか。失言だった事を謝罪はしよう」



フレスヴェルグは立ち上がり、後ろから近づいた小さな仮面の子供は彼に耳打ちをし始める。

そして、横たわるアリシアと神器に目を向けると



「―その神器。それは何処で拾ったものなんだい?」



『拾った?違う、これは俺が“創った”ものだ』



「魔剣風情がか?」



『お前が俺の事をどれほどまでに下に見ているかわからんが、事実それは俺が必要だと思って作ったものだ』



「―そうか…正直それを見ると懐かしさも含め、驚きを隠せない」



仏頂面の能面でほざくな



「本当さ。それは、本来此処には無いモノだ。そして、その様な『使い方』もしていない」



『どういう意味だ?』



「その神器は、槍のような形をしているが武器等ではない。本来は一つの空間―…そう、世界そのものと言ってもいいだろう」



『これは俺が創ったものだが…そんな風にイメージはしていない』



「イメージ…?実に、興味深い。君の事をもっと知りたくなったが…」



フレスヴェルグは懐から時計を取り出し、





「時間だ」





ズン―とこの大地に何かがのし掛かったような大きな地震が一瞬だけ起きる。



「何があったの?」



リアナは心配そうに霊樹の方を見上げる。

しかし、今のところ変わった様子が無い。


だとすると―



『裏手の方、イヴリースか―!』



「ご名答。何重にも束ねられていた封印が幾つも施されていて、それを更に封印する為の芯があってね。

解除するのに時間が掛かるんだよ。だが、一番厄介だった霊樹と接続コネクトしている封印が今この瞬間解かれた。

あとは時間の問題だ―」



「くそっ、今こいつを相手にしている場合じゃない!ジロ、急ごう」



『だが、こいつらは―』



こいつらが、みすみす阻止しようとする俺らを見逃す筈が



「好きにするといい」



『―随分余裕な物言いじゃないか』



「どの道、人間にイヴリースの封印を止める事なんて出来やしない。むしろ、それを可能とするのなら是非見てみたいものだ。

―それに君達を殺す事に多少の躊躇いはある」



フレスヴェルグは後ろに振り返り、項垂れて動かないニーズヘッグを見下ろす。



「この愚かな竜を痛めつける様は、僕としては最高に良い見世物だったからね。優秀な芸を見せてくれる者を

ひどい目に合わせるほど僕は血を好まない」



『そりゃあどうも!なら、俺たちはこの場を失礼するぜ。そんでもって、お前の思惑通りに成らない事をお高い場所から指を咥えて見てみるといいさ』



「やはり、人間は不可解だな。見下ろす僕をコレほどまでに下に見れる度胸。愚かなのに愛おしく思えるほどの往生際の悪さ。まるで道化そのものだ

―故に君達は神に愛され、災厄に愛されてしまうのだろう」




『後ろ二つに愛されても嬉しくもなんともないけどな』




「愛する事に、受け止める者の意志など関係ない。そして第三者からの観点も必要ないのさ」



『…』



あまりにも癪に障る。その男の言う事に少なくとも俺は同意してしまうからだ。




―いつまでも此処で道草を食っている場合ではない

正直ここで再びドンパチされても困る。

ここは一先ずこの傲慢な野郎の奢りに甘んじるとしよう



『ヘイゼル、頼めるか?』



「了解」


おれは眠るアリシアの背負った鞘に収まり、ヘイゼルはそのまま眠るアリシアを背負う



『神器は任せた』



「…わかった」



リアナは神器を手に取り、俺たちはその場を後にした。




その時にすれ違った仮面の子供はニーズヘッグの側で俺たちを最後まで凝視していた。



俺たちはそれに背をむけて急ぎアディリエを後にし、

巨大な霊樹の根元にある大きな坂道の一本道を登っていく。



すると、そこで立ち止まる二つの影を見つける。



「あれは―」



『ああ、無事だったか』



目立ったロールツインテールに金髪の少年。

二人が俺の存在に気づいたのか、大きく手を振りこちらに呼びかける。



「―おたくら、よくもまあ無事で居られたな」



ガーネットはリアナとヘイゼル、アリシアに目を向け



「おいおい…アリシアは、大丈夫なのか??」



『正直わからん…。色々とありすぎて正直まだ心が追いついていない』



「…そうか、先に言っておくがあの場所を離れた事を恨むなよ??」



ガーネットは手をヒラヒラさせて先ほどの状況について己がとった判断について言及する



『つまらねぇ事は言わなくて良い。あの戦線を離脱したお前の判断は正しいさ。お陰様でこうやってみんなが雁首揃えられるんだからな』



「皮肉にしか聞こえんのだが?」



「ガーネット、そんな事はない。正直、あの竜は強かった―。私にもあなたたちを守れる自信が無かった。アグを守ってくれてありがとう」



ガーネットは少々むず痒い感じになったのか目を逸らして口を波の字にしている。



「取り敢えず、状況だけは伝えるわ。イヴリースの封印は少しづつ解かれている」



「やっぱ、あの大きな揺れはそういう事か―」



ガーネットも舌打ちをして答える



「ええ…事は一刻も争う状況だと思う。だから、ここからは止まらず急ぎ向かいましょう。この先にあるエルフの森、アルヴガルズへ」







僕はどうするべきだったのだろうか―


これからの事も、この気持ちも…



「イーズニルさん」



陽のあたるベッド。

窓を見ると穏やかな空気が入り込んでくる。

それを鼻から吸い込む度に、自分の中に渦巻く葛藤が閉じ込める檻のように感じて

胸が締め付けられる気持ちになる。

今頃、彼らは街を発ってアルヴガルズに向かっているのだろう。



そんな俯く僕に

シアさんが心配そうに僕に目を向ける。


純粋な眼差し。人を本当に思いやる気持ちがその青い瞳から伺える


だが、それさえも今の僕には痛く刺さる針にしか思えない



自分では何も出来ないと立ち止まった瞬間から、どうして自分はこうなったのだろうと過去と今を反芻する。



「イーズニルさん」



僕は恐るように彼女の方に顔を向ける



「ダメなんだ…」



「え?」



「僕は―、人の目が恐い」



そう、どんなに純粋でも

どんなに自分が思われても


僕の心きっとそれを許してくれない


全ての視線が僕に対しての罰となってしまう



「……僕は、人を殺した」



「…」



「僕は、まわりが必要としている大切な宝者を壊してしまったんだ」



マナペルカを…僕は


彼が闇に溶けるまでに見たあの視線が、いつまでも忘れられない。


全ての視線が



あの時の視線に上書されてしまう―



「僕は人殺しだ」



もう一度言う。



「僕なんかよりも優秀で、みんなに人気で、あいつの幼馴染で大切な…そんな大事な人の命を奪ったんだ」



そう、こんな僕は居ていい存在じゃない

例え不慮の事故だったとしても、僕の過ちである事には変わりない


犯した過ちの理由だってひどく素っ気ない。


そんな司祭の息子というだけのくだらない僕よりも

あいつが生き延びるべきだった



死ぬべきは…きっと僕なんだ



「―なら、何故泣いているんですか?」



シアの質問に僕は自分が涙をこぼしている事に気づく。

僕は急いでその涙を拭う


ダメだ…僕は、僕が泣いていい事なんてあるものか。



必死に涙を拭う。それでも、自分が口から零してしまった言葉

それを誰かに伝えてしまっただけで僕は僕という枷が崩れてしまっていた



必死に涙を拭う



それを、その手を彼女は僕の顔から引き離し

その手で強く握り締めた



「誰かの視線を頂くのが苦しいのであれば、私はあなたを見ません。ですが、この手だけは決して振りほどかないでください」



彼女は瞑目して囁く



「あなたの涙は、少なくとも私からすれば…貴方自身の罰によって流れた血と変わりありません。

あなた自身の今までの事、そしてこれからの事、それは私には及ばぬものです」



彼女の手の温もりが伝わってくる。

僕よりも幼く感じる小さな手。

なのに力強く…なんて優しいのだろう



「ですが、今のあなたに必要なのはきっと…罪を咎められる事でも、ましてや罰を受ける事でもありません」



「僕は…」



「必要なのは、人として当たり前な繋がり、人間が人間であると感じるための“熱”なのです。そして、それは貴方の“これから”を

動かすための力になる事を私は信じています。『意思は力』なのですから」



その感触は、どこか懐かしく―


自分のなかで凍らせて閉じ込めていた感情を溶かしていく。



「くっ…う…」


自分のなかで吐き出される衝動に思わず嗚咽を漏らしながら身体を揺らし

溢れ出る涙がポロポロとこぼれおちてしまう。




ああ、どうしてこの人は…こんな僕に―





いいや、違う。きっと、僕は目を逸らし続けていたんだ。


シアさんの他にも僕を心配してくれた人の気持ちを

自分自身が受け入れないようにしていたんだ。



それを罰だと思い込んで、そんな自分が可愛くてしょうがなかった。



夜のマクパナが言った言葉を思い出す。



「シアさん…」




「はい」




「暫く、そうして貰っても…いいですか?」



「ええ、喜んで―」



彼女の慈愛に満ちた返答に、僕は暫く甘えた


いままで我慢していた気持ちを今のうちに吐き出そうとした


自分を壊していく、全部壊していく



みっともない声を漏らしながら泣き続けた








「僕は…大馬鹿だ」



あの時、あいつを目前にして…何も出来なかった不甲斐なさを今更後悔している。

僕が、やろうとしている事に対してあいつの気持ちなんて考える必要は無かったんだ。


こうして、シアさんが僕の手を強く取って握り締めたように




僕も…今度こそ、あいつに伝えなきゃいけない―


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