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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
57/199

51:赴く、赴く、抑え付けた漆黒の衝動

知恵持ちの竜。


それは厄災であるドラゴンが人を愛する意志を示す為

神より祝福を賜った者の名称。



ニーズヘッグ、それは人の強さを愛す者。


ヨルムンガンド、それは人の世を愛す者。


ファヴニルは人の貪欲さを愛し。


リンドヴルムは人の運命を愛し。


バファムートは人の信仰を愛し。


アジ・ダハーカは人の悪意を愛している。



そして、人の姿と理性を与えられた各々の竜は今も尚

このニド・イスラーンで人間に対し

人の尺度では受け止められない程の愛を与え、求める事を神に示し続ける。


「うぉらぁあ!!」



雄々しい叫びと共に翡翠が彩る風を纏ったリアナは、竜化したニーズヘッグのその長く伸びた首にまで飛び込み

その杖でぶっきらぼうに一発殴りつけた。その瞬間、一打を当てた箇所に風がまとわりつき

突風のような衝撃が綺麗な音色と共に二度三度同じ場所を殴りつけた



バフゴリラ―!?



「ゴリ押しなだけにね」



アリシアが俺のしょうもないぼやきに対し、更にくだらない洒落を一つ添えると



リアナの与えた一撃に首を曲げたドラゴンのうなじに飛び乗り、握り締めた魔剣おれを大きく振りかぶる。



『一太刀ならぬ一断ちってか?娘よ!』



「ふぁっく!そうとも言うわね―」



しかし、振り下ろす直前

奴はその見た目に似合わぬ素早さで動き

廃墟となった町並みをその巨躯を用いて強引に掻き分けながら俺たちを振り下ろそうとする。



「くっそ―!」



足場が安定しない為

大勢を整えようと首から飛び降り剣を構えると、間髪入れずにその直ぐ左方向から強大な影が迫り来る。



「ほんっと!やってる事は竜になっても変わらないわね!!」



襲いかかる尻尾に対し、大きな怒号を響かせながら魔剣の刃を突き立て堪えるも

余りある巨竜の膂力にアリシアの腕がビリビリと稲妻を放ち押し込まれる。



マズイなこりゃ―



「エンチャント!意志に追い風をティルウィンド




リアナの叫ぶような詠唱。

押されながら耐え凌ぐのがやっとの膂力に後押しされるように

ひとつの風がアリシアと俺に力を貸してくれる



『すっげえバフだな!オイ!!』



押し返されたと分かった途端にその尻尾を下げ、その長い首でアリシアの背後へと廻り込み、顎を仕向ける。


「後ろ―!?」


しかし、その動きを読んでいたリアナは寸前で上から奴の頭部を地面に殴るように杖で叩きつけ



“集いて形を成せ”ルオタ・アステロイド!!」



ニーズヘッグの頬に押し当てた杖の先で大きな風が集い徐々に大きな球体となっていく。

その輪郭の内側で不規則な回転を繰り返しその摩擦がニーズヘッグの凶面諸共周囲を削っていく。



頭を抑えられジタバタと暴れるニーズヘッグは今も自身の横顔を削るその魔球に抵抗するように

一気に頭を押し上げ、その球体に大きな顎で食らいついた。


そして、喉元を緋く染め上げ

その口から広く大きな火球の礫を吐き出した。



パァンとお互いの攻撃が相殺した音を響かせ



体勢を戻したニーズヘッグは再び火の礫を俺たちに目掛けて吐き出した。


魔剣を担ぎながら次々と襲いかかる火球を退く


外れた火球は地に降り立つと直様に渦を巻く煉獄の如き火柱を立てる。



『うへぇ、あんなん当たっちまったらひとたまりもねぇぞ!』



「肉焼き商売やってたほうが儲かるんじゃない?あれ」



『そりゃあ名案だなぁ!!娘よ!』



崩れた瓦礫の山をアルメンの鎖と自前の脚で巧みに跳び越え

弧を描くようにニーズヘッグの巨躯の側面へと廻り込んだ。



思ってたよりも早く移動できるな。



「リアナの風魔術、まだ持続しているみたいね」



ガーネットとアグは大丈夫だろうか?



「大きいのは専門分野じゃねえ」とか言ってアグの手を引いて距離を取っていたが―



無事ならそれでいい。ヘイゼルは―


ニーズヘッグが周囲を見渡している中


俺たちは瓦礫の山の影に潜みながら移動しヘイゼルを探す。

すると、遠方で目立つほどに高い瓦礫の山の上で

眩い光で描かれた大きな魔法陣が視界に映り込む。

その魔法陣の上で幾つもの光が集い、何かを形どろうとしていた。



「あの魔法陣…あの娘、何者なの??」



俺らの後を追うように横から現れたリアナは驚いて言う。



光の複製魔術レプリカントオーダー、この世界の歴史に或らざる神秘の記録を呼び起こす伏魔の魔術。屈指の聖女しか扱えない代物よ」



『そうなのか??』



「あなた本当に何も知らないの!?…とりあえず、あの娘の魔術…発動にはもう少し時間がかかる。私がアレを引き付けるから彼女を守って!」



リアナはそう言うとニーズヘッグの前に飛び出し、走りながら地面を何度も杖でコンコンと4度叩く。



「最大重奏!!風の鋭指トゥルビネ・アーグォ



すると叩いた場所に緑色の光が残り、そこから小さな風の針が各々一本づつ放たれる。


その一つ一つにそこまでの手応えは無いにしても、奴をリアナ自身に振り向かせる分には十分。



それでは留まらず、リアナは更に更にと


周囲に風で形どった幾つもの剣を何本も従えて


ニーズヘッグに何度も何度も攻を繰り返していた。



『アリシア、行こう』



「パパ!一気に行くわよ!」



アリシアはアルメンの鎖を投げるように一気に伸ばし

ヘイゼルの居る高台の方へと跳ぶように向かっていく。




『ヘイゼル』



「ジロ、アリシア」



その両手を天に捧げるようにを広げ、光の魔法陣を下から支えているヘイゼル



「要求する。もう少し時間が欲しい。」



ニーズヘッグを一瞥する。


奴の攻撃を躱しながら体躯の周りを駆け回る、リアナの姿。



『あとどれくらいだ?』



「おそらく、30分程」



「意外と長いわね…」



『どうにかならんのか?』



「ダメ、ここは光の信仰が少し薄い。おそらくあの霊樹―あれが光の及ばぬ別の信仰を生んでしまっている」



ようは普通の場所よりもチャージがしづらいって事なのか??



『なら、この魔術意外じゃダメなのか??』




『相手はドラゴン。これが―私の中にあるモノの最適解』




キンと剣を交えた様な音が響く。

上を見上げると、集まっていた光が既に剣の形を模した輪郭を成している。



その存在に、何かを感じ取ったのか

ニーズヘッグは気を引きつけて攻撃するリアナを差し置いて

ヘイゼルの居る方向に振り返った。



まずい…!



ヘイゼルの魔法陣を見るやいなや、大きく咆哮し


一度その翼を大きく羽ばたかせその巨躯を上空に浮かせると


直ぐに全身を大地に叩きつけ、その場を一気に穿った。

その身をフルに利用した範囲攻撃にリアナも流石に攻撃を止め、一旦距離を取らざる負えなくなってしまう。


そしてニーズヘッグはその首を大きく弧を描くように曲げ

周囲の空気を大きく吸い込むと口の周りで大きな蒸気を漏らし、その長い首に赤い燐光を走らせる。


先程よりも一回りもふた回りも大きな焔の礫を此方側に向けて吐き出した。



おいおいおいおい!!あんなもの弾き返せるのか!?



「パパ…!!!」



考えている時間がねぇ!ようは弾き返せば良いんだ!



『やるっきゃねえだろぉ!!エンチャント・オメガ・ミラーコート!!』



魔力の反応。刀身に光を纏わせ、その発動を感じると

ヘイゼルに近づけまいと自らを大きな火球の前に前に繰り出し

アリシアは魔剣を強く握り締めて横に大きく振った。



「まって!二人共!!」



キンと高く響く音。

目前の火球は軌道を変えて、空へと弾き返した所で俺たちは、リアナの叫び声に気づく





「あ」





いつもの冷静さは、いつもの大人びた素振りは何処へいったのだろうか


アリシアはまるで失敗をしてしまった時の本来の子供のような声を漏らしている。



その目の前に或るのは、陽光を真似た程に照らし燃ゆる焔の羅刹。



「ジロ!アリシア!避けて!!それはあまりにも危ない!!」



急激な思考の海に飲み込まれたせいでリアナの声が遠のいて聞こえる。


だが、理解した。


それは弾き返した火球の後ろで待ち構えていた『もうひとつの火球』。



『しまったッッ―』



迫り来るなら返せば良い…そんな考えが甘かった。



「くそっ…ティルウィン―」



リアナが先ほどと同じ風バフを俺たちに与えようとしている


―ダメだ、持ち直すまでに間に合わない。


これは然るべくして俺たちに宛てがわれた一撃だ。




…この瞬間だけ、



俺は時間が異常なまでにスローモーションになったのを感じた。



それは魔術に頼る事のない



人が運命の瞬間に立ち入った時に見る夢のような感覚




どうする!?考えろ!?思考を巡らせろ…!


落ち着け!この子には超再生がある!!このまま受け止めたってすぐに…






…違う





ああ…そうじゃない…これは…



きっと。



「―パパ」



アリシアがゆっくりと俺の方へ顔を向ける。



その顔はとても寂しそうで、悔しそうで



『待って―』



ゆっくりと口を開く



『待って―!』



ここなのか?



ここで…なのか??



俺の中で急激に感じる謎の悪寒。



まるで―



別れを惜しむような感覚



「パパ。ごめんね…」




―すぐに戻ってくるから―





『アリシアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』






眩しい光の中で俺とアリシアは煉獄の渦に飲み込まれる。

































































ドクン













































光に視界を奪われて暫く。

目眩がするほどの揺れに意識が苛まれる。




だが、感じている。誰かに抱かれている。


強く抱きしめられている。


真っ黒く燻された、影のような「何か」に俺は守られるように抱かれている。



『おい―…』



周囲には悍ましいまでの高熱を帯びて溶けかけている瓦礫たち。

未だに冷めぬ凶熱に陽炎が揺蕩う。



『冗談だろ?』



返事の無い焼けた少女の体―




『おい!!!!!』





ッツ!!!!



脳裏に痛みが走る。


かつての失敗の記憶が俺を殴るように責め立て、思い出させる。



娘の腕



―やめろ



血の海を這いずる少女



―やめろ



闇の中で歩み続ける娘



―やめろ



互いに首を絞め合う娘



―やめてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!



頼む…許してくれ…許してくれ…


動かない焼死体


すまない、すまない『すまない』すまない


すまないすまないすまない


すまないすまない…許してくれ


ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい『ごめんなさい』ごめんなさい…



また俺は…間違えたのか?



だが、目の前にある現実は―俺の贖罪など受け入れる気もなく

淡々と針を進める。



『ア…リシア…』



「ジ…ジジ…」



『アリシア…アリシア!!』



動かぬと思っていた面影さえ失った少女の体は

ゆっくりと赤い稲妻を走らせ


その体を足元からゆっくりと再構築していく。


おぼつかない動きで

体の関節をギシギシと軋ませながら関節を曲げ、再び立ち上がろうとする。



俺は、ただ見ているしかなかった。


祈るしか無かった。



そして、彼女の名を呼ぶしかなかった。



『アリシア!!』



俺の思いに応えてくれたのか等はどうでもよかった。

アリシアの持つ超再生―


それはあまりにも凄まじいものであった。



アリシアそのものだけでは無い


彼女が身に纏っていた服装、装備でさえも全て


全てを再構築させていく。



まるで、先ほどの攻撃を受けた『事象』を否定するほどの能力。



回帰の超再生…肉体に受けた現象の否定



ニドが渡してくれた能力を読み取るスクロールにはそう書かれていた。





これが…超再生…アリシアの…魔剣の…力…




足元から上へとゆっくりと登るように再構築する超再生は、ついに頭部まで至り

再生を終える。



「…」



『アリシア…大丈夫か?』



周囲を見渡し自分の体を静かに見つめる少女

彼女は小さく頷き、小さく呟く




「うん、最高に気分が良いよ―――“僕”」







クンッ―


と俺は視界が翻ってしまう。



異常なまでに振り回される感覚


いままで魔剣として使われている中で異常なまでに乱暴な振られ方



急激に変わる景色に今一度目眩がしそうになりながらも

俺は状況を把握する。



俺の刀身が受け止めたのはニーズヘッグの長く大きな前脚の爪


お互いに力を拮抗させて火花を散らしている。



あの野郎―!また懲りもせず隙を狙って…!!

このまま押し合ってもジリ貧になってしまうだけだ。



一度距離を置くべきだ。



『アリシア!ここは一旦下がっ―』




彼女の表情に目を向け俺は驚愕し、言葉を失う。





『お前…それ…』






口角を釣り上げながらその口に咥えている漆黒の結晶石





それを、彼女は一気に噛み砕いた





『黒曜結晶―』




力が異常なまでに溢れている。



この感覚―紛れもない…




アリシア―…どうして…




アリシアはおもちゃを見つけ喜ぶ子供のように無邪気で満ち溢れた歓喜の表情を見せつけた。





神域魔術ディバイン・オーソリティー






開放される七色の光。



この時、俺は聞こえてしまったんだ。


あの音を



忌々しい


運命の歯車の音を



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