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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
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4:夢で罪は洗えない

夢を見た。

いつも見る夢の一部だ。

妻の奈津と娘の奈々美

夕焼けを眺めながら3人で横に並んで手を繋いで歩いていた。

いつもの川沿いの帰り道。

娘の繋いだ手が暖かかった。

こんな光景いつもドラマや漫画で見ているものと一緒だって最初は思っていた。

でも、奈々美が時折強く握り返してくれる手

目を合わせれれば微笑んでくれる奈津。

それが確かに自身が味わっている現実であり幸せであった。

この時間だけは、俺の人生捨てたものじゃないと思っていた。


「パパってばね、時々いっつもママの話ばっかりするの」


「え?はは、しょうがないなぁ パパはママの事大好きだからね仕方ない。」


すかさず笑いながらちらりと奈津の方に目をみやる


「はいはい、ママもパパの事が大好きですよー」


はは、照れてる照れてる。

俺は知っているぞ?お前が滅多に言わない事をいうとそうやって流すように誤魔化す癖をなぁ


「んー、じゃあパパもママもわたしが大好きじゃないの?」


頭を下に向ける奈々美。また手を強く握り返しているのがわかる。


「馬鹿だなぁ、俺は世界が奈々美の敵になっても超、超超大好きだぞ」


「―嘘つき」


「え?」


奈々美の方に目を向ける。


嘘なんかじゃない


嘘なんか…


そこに奈々美は居ない。

奈津も居ない。

あるのは



ぷらぷらと揺れる小さな右腕だけ。


その右腕が俺に訴えかける。


「嘘つき。じゃあ、なんであの時一緒に居てくれなかったの?」


「ひっ」


「ママが居なくなった時も言ってた。」



―お前から絶対に離れない。どんな時も一緒だ―



やめろ・・・


やめてくれ・・・俺は、俺だって・・・



「嘘つき」














『―はっ!?』



押し出されるように意識が覚醒する。

車の音も隣人の生活音も何も無い静寂

チュンチュンと小鳥の鳴き声だけが聞こえる


『また、あの夢か…』


今は何時だ?

周囲を見渡す。

飾り気の無い一室。ただ、風情を感じた

なんというか ログハウスみたいな感じだ。

チカチカと俺の視界に当ててくる光は窓から差し込む日差しのようだ。

やれやれ、なんとも急に穏やかな光景じゃねえか。


―昔は家族三人でいつかはこういうキャンプとかしてみたいものだと


『そんな事言ってる場合か!』


ア、アリシア!あの娘はどうなった?


確か死―


少しでも落ち着いていた自分を殴りたい

だれか代わりに殴ってくれ。


そして


…やはり自分の体を動かす事ができない。


俺は今一度、必死で周囲を見渡す

すると、大きなベットの上で布団を被り眠る金髪の少女を見つけた。


『アリシア!』


思わず声を漏らす


「ん―」


彼女は俺の声に反応したのか少し寝返りをうって

こちら側に顔を向ける。そしてゆっくりと目を開くと優しい笑顔で


「―おはよう、パパ」


優しい笑顔を向けられ、俺は緊張の糸がほぐれる。


生きている


確かに彼女は生きている、呼吸している。


何故かはわからないが優しい声で俺をパパとよんでくれる。


そして彼女の言葉「おはよう」がとても懐かしく思えた。

畜生、こんなクソ人生に見舞われているのに

彼女のおはようパパだけで全てを許してしまいそうだ。


『―そうじゃねえ』


「?」


『いや、アリシア!傷は大丈夫なのか?背中を刺されたんだぞ?』



アリシアはきょとんとした顔を暫く見せていたが

ようやく昨日の出来事を現実として把握したのだろう

ハッと布団を蹴り捨てながら起き上がり

上着を脱ぎ捨てる

そして俺に背中を向ける


「パパ!どうなってる!?」


いやいや、素晴らしい肩甲骨…じゃなくて。あんな刃物を背中に突き刺された後なんだぞ!?無事じゃすまないは―



『あれ?傷が、』


あるにはあった。縦に一筋、痛々しい刺し痕のようなものが

しかしそれは既に傷痕として残っているだけで血の一滴も出ていなかった。

つい数時間前の出来事とはいえ、不自然すぎるほどに。


『痛く…ないのか?』


「う、うん」


背中を向けたまま恥ずかしそうにこちらに顔をのぞかせるアリシア


『…すまん、風邪をひくからなもう服を着なさい』


「うん、わかった」


とりあえずアリシアが無事なのは把握した。

俺は心の中で大きくため息をついた。


さて、次の問題に移るとするか


「どうしたの?パパ、ため息なんかついて」


『え?ため息してたの俺?』


「うん」


・・・問題は山積みのようだ。

取り敢えず、知るべき情報は集めるべきだろう


『その、アリシアは何で俺の事パパって呼ぶんだ?それと俺、どうなってるの?』


これだ。今後どう行動するべきかに関わる大事な問題。

彼女の身を案じていてずっと置いていた問題。

そして、あまり考えたくなかった嫌な予感。



「え?…パパは…パパだよ?」



二度と来るとは思ってなかった呼ばれ方のせいか、死ぬほど嬉しい

だが申し訳ない。なんの答えにもなってない。

いや、死んでいるのか俺。


再び周囲を見渡し鏡があった事に気づくと、そこに映る自分をまじまじと見る。

今に至るまでの流れ、おれは共通点を見出していた。

あの時、自分側にチラチラと写っていた大剣。

彼女がこちらに這いよって抱きしめていたのも刀身。

まさかとは思っていたが


そして嫌な予感は的中した。


『―いや、なんで剣なのさ』


そこに映っていたのは壁に立てかけられている大きな剣。

なんとも立派な剣だ。多少の禍々しいビジュアルなのはちょっと置いとこう

刀身の根元にある赤く光る宝石

これが俺の眼って事になるのか?


そういやあのクソアズィーが言ってたな。


二面世界に転送するって


まてよ?死んだのに生きているってことは、いや生きているという表現はちょっとグレーになるんだが。


これってあれか?昔、ラノベやアニメで流行っていた



異世界転生



一時ブームで流行ってたなぁ。ファンタジー世界に転生するやつ。

しかも大抵の主人公がチート寄りの特殊な力を兼ね備えていて



確かアズィーは言っていた。「余剰に変革する世界を正せ」と



え?まさか俺、本当に転生したの?


このナリでこの世界の救世主にでもなれとかほざいてるの?馬鹿なの??


まて、なんでそもそも俺は剣そのものになってるの?


「…大丈夫?ごめんね…私もよくわからなくて…」


近づいてきたアリシアが悲しい顔をして俺という剣を優しく撫でる。

あと刃物には危ないから近づかないでね。


いや、離れるとそれはそれでさみしいんだけどね?


『いいんだ…俺の方こそ急に色々聞いて済まない』


撫でてあげたいのは俺の方だ。

彼女の記憶が映像として入り込んで見ていたが

今から少し前の出来事は余りにも凄惨すぎる

黒ローブのクソどもが何も知らず幸せに暮らしていた彼女の全てを奪ったのだから。

そういえば殺される直前の彼女の執事が剣を渡しながら言ってたな。



       「南に向かって走ってお逃げなさい」


       「お嬢様…どうか、この旦那様の…」

 


この言葉通り彼女は奴らの目を盗んで必死になって南へと走っていたわけだ。

だが、なぜ南に…?




「―アリシア!目を覚ましたのですね!」



思考を巡らせると、部屋の戸が開き

アリシアではない女性の声が聞こえた。


『…あんたは』


「っ!!」



俺の声を聞いたそいつは途端に顔を顰めてアリシアに近づこうとした動きを止める。



「やはり、そうですか…アリシア。あなたはもう」


悲しい顔をしながらアリシアを抱き寄せて撫でる。


「ごめんなさい…あなたを護れなくて…」


なんともうらやま―



『そうじゃねえ、これは一体どういうことなんだ?』



「何を今更。あなたが一体何をしたのか忘れたとでも言うつもりですか?」



その女性は顔を強ばらせて俺を見た。



『忘れたどころの話じゃない。全然知らないんだ。全くもってな』



「封印の拍子で記憶が無くなっている?」



『そういうわけじゃねえ、ただ簡単にいうと何も解らぬままここに来てしまった』



ただそれだけだった。事実であり本心だ。



「それを、信じろと言うのですか?魔剣」



『魔剣?俺が?』



へ、へぇ~。俺、剣なのはわかったけどカテゴリーとしては魔剣なんだ。

魔剣をもった戦士とかじゃなくて本当に魔剣そのものになっちゃったんだ。

隅に置いておいた禍々しいビジュアルに対しての疑問はこれで解決だな。ヨカッタヨカッタ



『コホン・・・悪いが、本当に何も知らない。わかるのは神とやらにこの世界に転送されたというだけだ。このナリでな』



「魔剣風情が神を口にするというのですか?滑稽ですね」



こいつがどんだけ魔剣に対して嫌悪していて唾棄する存在なのかは理解した。

が、濡れ衣だ。

もうちょい優しく接してくれ。傷ついたよ。



『俺だって自分が魔剣だと知ったのはついさっきだ。容赦してくれ。』



「中の人格が更新されるような仕組みなんでしょうか?でもリューネスはそんな事があるなどと一言も言っていないですし…でも、『セエレ』は確かに開放されている…ならば、これは―」



この女、急にブツブツとなんなんだ?


「…まだ信じてはいませんが仕方ありません。あの子の今の状況についても少し説明をさせていただきましょう。」


『そうしてくれ、頼む。』


「でもそ前に、」



俺と向かいの女性を交互に見つめ心配しているアリシア。

再び彼女はアリシアを撫でると立ち上がり




「まずは朝ごはんに致しましょうか。」


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