表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
49/199

その時、少年と少女は

“あの日”から僕は毎晩いつも同じ夢を見せられる。


水面の境界を目視では確認できない程の一面真っ暗な闇


そこでただチャプチャプと水の音だけが聞こえる。


僕はそこで腰まで浸かって、体を動かす事もできないまま、呆然と立っている。


そこで、たった一つの眼差しだけが僕には見える


見せられる


彼は一体どんな気持ちで僕をじっと見つめていたんだろうか。


その眼差しは次第に遠く、遠くへと離れていき


小さくなるまでずっと僕へ視線を外す事は無い。



愚かな僕を恨んでいるのだろうか?それでいい


のうのうと生きる僕を断罪したいのだろうか?それがいい




だから…どうか僕をそんな眼で見ないでくれ。














マナペルカ―




















「―はっ!?」



見知らぬ天井で、朝日を顔いっぱいに浴びて僕は目覚める。


僕は首だけを動かし、窓の外の様子を伺う


小鳥の囀りと共に見える大きな雲を泳がせた青空



「ぼ、くは―?」



少し記憶が混乱している。

確か、直前までマンティコアに襲われて…助けられ…



「大丈夫ですか?」



視線の反対側から声が聞こえ、振り返ろうと起き上がろうとするが身体が言う事を聞いてくれない。

仕方なく、もそもそと首の向きだけを変えてそちらに顔を向ける


そこには黒髪の、僕と同じくらいの年の少女が僕と同じようなベッドで上体を起こした状態でこちらを心配そうに見ていた。



「あ、どうも…です」



同年代の異性の人と話す事が滅多にない僕はすこし小っ恥ずかしくなりながらも

喉から必死に声を絞り出した。


すると少女は優しい笑みを浮かべて、「そうですか、それは良かった」と手元に開いていた本をぱたと畳み

ゆっくりと、ベッドから降りてこちらに近づく。



「あ…あの、えと…」



少女は僕の額に手を置き、戸惑いを隠せない



「熱は、無いみたいですね。よかった。体は動かせますか?」



「いえ、まだちょっと…」



「無理もありませんね。相当な長旅だったのでは?」



少女が隣に置いてある僕のボロボロの靴や外套を見つめる。

確かに、森の外を知らない僕にとっては全てが新鮮味を帯び

思い出すもの全てが自分に無い、危険と隣り合わせの冒険の数日間だった。



そんな中、ここまで生き延びる事が出来たのも霊樹様の加護あっての事だ。



そして―



「あ…あの人たちは!?」



僕はそこでようやく気を失う直前の出来事を思い出す。

霊樹の加護も底をつきかけた際、マンティコアに襲われ走って逃げていた所を助けてくれた金髪の少女


それについて目の前の少女は「ああ」と察したように答える



「ここに連れてきてくれたのは、アリシア様とジロ様です。

いまは貴方の身元を調べる為に帝国軍の方を通じてエルフの森に連絡して頂いている最中です。なのでご心配なく」



「そう…でしたか。その、アリシア様たちは今どちらに?」



「そうですね。あの人たちにも自分の仕事がありますので。暫くすれば顔を出しに来てくれるとは思いますよ?」



「…次に会うときは改めて感謝をしなければいけないですね」



僕はある程度の状況を聞くと少し安堵し、少し浮かせていた頭を再び枕に沈める


すると、彼女はゆっくりと僕の手を握り小さく呟く



「あ、あの…」



「神よ、この者に光の導きと共に…安らぎの施しを―」



すると、その手に伝わる温もりが全身にゆっくりと駆け巡り

石のように重く感じていた僕の身体が少し軽くなったのを感じる。



「申し訳ありません。今の私ではこれで精一杯でして―」



「とんでもありません。ありがとうございます…あの、僕はイーズニルと言います。貴方のお名前は?」



「私の名前はシアクローネ。シアクローネ・エウァニス・ネヴラカナンと言います。見知った者からはシアと呼ばれておりますので、

どうか、イーズニルさんも気軽にシアと呼んでください」



「丁寧に名乗って頂きありがとうございます。シアさん」



「ふふ、シアで結構ですよ」



「それでしたら、僕の事もイーズニルと、どうぞ呼び捨てに頂いて構いません」



「では、イーズニル。貴方はどうしてエルフの森からわざわざこちらに一人で赴いたのですか?」



思ったよりも率直に切り込んでくる。

しかし、誤魔化す理由は無いし、これは重大な事態だ。



「あの…実は…」



僕は話そうとした途端、ある事に気づく。

耳がぴくぴくと動き、示す反応


これは同郷の者のマナの感覚だ。

それも…三人いる


「‥‥どうして」



僕はその中の二人のマナの感覚に覚えがある

特にそのうちのひとりだけは絶対に間違えるはずがない


何故、よりにもよって


なぜ“あいつ”が此処に居る。



僕は反射的に体を動かすと、シアの癒しの力のおかげか辛うじて起き上がる事ができた。



離れなきゃ―



僕はその一心でフラフラとした体をゆするように動かして自分の靴と外套に手を伸ばそうとする。



「まって!無理に動かしたら危険ですよ!?もう少し安静にしないと!」



シアが心配して僕を抑えようとするが、そんな場合ではない。



僕は…



僕は“あいつ”には会いたくない。



僕の腕を掴む彼女の手を振りほどき、立ち上がる。


しかし、言われた通り


未だまともに体を動かす事の出来ない僕は、地についた脚を膝からくずし、前に大きく倒れそうになる



「危ない!」



途端にドタンと周囲の物が崩れ落ちる音

咄嗟につむっていた眼を開くと、

僕を守るように下にシアが倒れこんでいた。



「あっ…ごめ…」



「よかった、イーズニルは怪我をしてませんか?」



「僕は…大丈夫…その、ごめん」



「いいえ…心配ご無用ですよ!私ならいざとなれば自分で治癒できますので!」



「いや、その…」


僕は恥ずかしくなって顔を背ける

目のやり場に困る

咄嗟な事とはいえ、転んだ拍子に掴んだものがシアだとは知らず


勢いで胸元がはだけてしまっている。



「あ、…え?あっ…その!?えと…えっとぉ!?お、お お お お お見苦しいものを…」





ガチャァ…




そして、不意に部屋の扉が開く音が聞こえ



そこから顔を覗かせる、見覚えのある金髪の少女。



僕たちはあまりの展開に説明するよりも大きく叫び




バタン




即座に扉が何事も無かったように静かに閉められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ