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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
45/199

40:奴が来る

『ここに来るのもいつ以来だか』



俺たち一行は、現在ヘイゼルを含め4人で街の東にある魔導図書館の入口前に立っていた。

空は既に陽が顔を少しばかり覗かせ、朝を迎えようとしている。


お互いに色々あってそれどころじゃない事もあり、今になってガーネットは目を座らして非常に眠たそうにしていた。



「私、もう眠いから帰っていい?」



『いやいや、まてや。これはお前が言い出した事だろうが』



ガーネットからの進言で、今回の出来事に関してニドには包み隠さず全て話す事にした矢先

言い出しっぺの彼女が先にニドに伝えようとギルド本部に伺ったら

どうやら本人はここの地下研究室でリンドと“待機”しているらしい。



当然、今回のヘイゼルの一件が関わっている事は考えるまでも無い。



今回の一件…唐突にヘイゼルを見せるよりは最初にガーネットから話してもらって急展開の緩衝材になってもらおうとは思っていたのだが

]


まさかここでぶっつけ本番になるとは…

正直、これから起きる出来事の方が魔神と戦ってた事よりも恐ろしく感じてしょうがない。



「何を今更」



弱弱しい感情が読み取られたのか、アリシアは嘆息してそう言った。


そのそとニドのいると聞く地下の魔術研究室へと辿り着く。


眠気眼ながらもガーネットは少々構える姿勢で、扉に手を伸ばすと

動かす前に息をのんで俺たちを一瞥し


その扉を開いた。





「やぁ…みんな」



そんな少し弱弱しい声を第一に放っていたのは

見かけに似合わない渋い声の絡繰りウサギ、ニドだった。


しかし目の前にある光景は想像の斜め上で、彼は以前俺がここで魔術を取得する時に最初に立った魔法陣のド真ん中で異様な文字が刻まれた石に体を埋められたまま

頭をだして挨拶していた。



さながら黒ひげ危機一髪のようである。



『なんの冗談だこれは…?』



「いやはや、恥ずかしい所を見せてしまったね」



頭だけを前に傾けて心底申し訳なさそうにするニド。



「これは、一応…応急処置みたいなものです」



リンドが前に出て事情を説明する。


どうやらニドはその絡繰りの躰を幾つも欠損してしまい、中に封印されている魂に等しい魔力が徐々に漏れ出しているらしい

そうなるとニドの封印が解けてしまい、再びこの地に魔王として顕現してしまうそうなのだ。

そうなる前に、こういった事態を防ぐ為の封印石を予め用意しニドの躰を一時的に固定しているそうだ。


そして、そうなった原因として或る存在が浮き彫りになった。


それが起きたのは昨晩。

それこそ、俺らがヘイゼルと遭遇する少し前

ニドは或る存在との邂逅にあった



「No.10 『選択』のヤクシャ――アイオーン…またの名を“忘却の英雄”」



『忘却の英雄?』



その名を呟いた途端、隣にいるガーネットは下を向いてガタガタと震えていた。



「お前さん…本当にヤクシャに纏わりつかれてんのな…。もうこれでほぼコンプリートしてんぞ…」



『そんなヤバい奴――…なんだろうなぁ…』



ここまで来ると流石に鈍感では居られない。

ガーネットの様子を見るによほどの者なのだろう。


アイオーン。『選択』のヤクシャ



――忘却の英雄。



『だが、腑に落ちない。厄災とまで呼ばれているヤクシャの中で、英雄なんて名付けられるとは甚だ疑問だ』



「そうだね、本来ヤクシャとは厄災指定の存在。人間が持つ破滅的欲求を背負ってその役を演じている…

それが何故、アイオーンだけが英雄などと呼ばれているか。君は気になるところだろう」



ニドは再び頭を前にして俯く。



…すまん、ニド。真面目な所申し訳ないんだがな、そのナリは少しばかりシュールすぎてこれから聞く話が入ってこないかもしれない。



「―彼は、被害者なのだよ。かつては“実在の奇跡”と呼ばれていた英雄の“残響”。その在り方が二律背反に或るが故、

自身にも相手にも全てに選択を強いる亡霊…それが彼の存在だ」



実在の奇跡


それはリンドが教えてくれた十指の戒律にある最初の奇跡。

自己を肯定し、在り続ける意志。



「そうさね、実在の奇跡の英雄譚は古の文献では非常に有名さ。」



「在る者の物語ワンネス。絵本にもなっているわね」



『そいつが何故、亡霊なんかに―ん?…亡霊?』



その言葉で俺は漸く今回の出来事が一本の糸に繋がる確信を得た。



『そいつはもしかして、髑髏頭でホネホネの馬に乗ってる奴か?』



俺の言葉にニドはハッとこちらに頭を向け



「まさか…君も会ったのか?彼に」



『ああ、すんごいヤバい気配漂ってたぞ。そいつが何もしないで帰ってくれた矢先だ、ギルドでの騒動は』



「そうか…。君は―」



ニドは首を少しずらし、横に居るヘイゼルに視線を向けた。

ここでか…



まぁ説明するしかないか。



『…すまない、ニド。この事を先に言うべきだったな。『差異』のヤクシャはもう既に倒している。

ここに連れてきたのはそれに操られていた少女のヘイゼルだ』



「おい、ジロ」



ガーネットが話が違うぞと睨み始めて口を開く。

そんな中、ニドとリンドだけは何も言わずただ話を聞いてくれた。



『…っていうのは、俺が咄嗟に思いついた建前だ。だが、こいつにはもう抵抗の意志が無い

…事後報告ですまないが、こいつはもう俺らの仲間だ』



「仲間にするには早すぎるっつぅの…。だがニド、こいつにはもう一つ重要な案件を抱えている。ヘイゼルの中には私たちが数年求めていたもの、

賢者クラウスと空中庭園についての情報を持っている」



沈黙を続けるニドに空かさずフォローを入れるガーネット。



「それに、クモの魔女ヴォルケンヘクスがそれに関与しているって話もな」



「―そうか、あの魔女が…。いや、成程…彼の意図が少し読めてきた」



『意図?彼ってのは、アイオーンの事か?』



「彼は唐突に私の前に顕れて言っていた。“賽を振るか、彼岸に待つ地獄を迎えるか、選べ”と―」



それはアイオーンがニドに課した選択なのか…?

どの道そんな事聞かれても解らねえよなぁ



「急に現れるものだからね、私も咄嗟に手が出てしまってね。結果返り討ちにあってこの有様だよ…」



『…』



ニドはなんというか…


思った以上に好戦的なんだなぁ、ってのは解った。


だが、これで経緯は読めた


そのアイオーンがヘイゼルを封印していたウロボロス・ケイジを破壊したんだ。


だから、あの時ギルドであんな騒ぎになっているんだ。



「本心では信じたくは無いのだがね。君が、そのヤクシャを絆し、彼女が持つ情報を我々に教えるまでの筋書きを立てていたのだろう。

そうでなければ、本来ヤクシャがヤクシャを救うような行為はまずやらない」



本当にそうなのだろうか?人々の業を背負って彷徨う亡霊…かつての英雄。

彼の佇まいは他のヤクシャのそれとは全く違う雰囲気を出していた。


狂っている者、狂わされている者には到底見る事の出来ない芯を強く感じた。

そして、英雄であったと納得させられるだけの貫禄。


…俺は、確証が無くても彼が自身の意志でヘイゼルを救おうとしていたと信じたかった。



「君たちが引き攣った顔をして入って来た理由が良く分かったよ。なるほど、ヤクシャを仲間に迎え入れる…か」



いや、それもあるけど引き攣った顔をしていたのはきっとあんたのその姿のせいだろうよ



「まぁ、今の私にはどうこうする手立ては無い。それにそのヤクシャが持つ情報も気になるところ。故に今回の件は不問にしようと思う。

そしてこれからの事に…ついて、なんだが…」



と、ニドはそこまで言うと何かを思い出したように大きな溜息をついた。



「まずは…ねぇ…ウン…この、体を…なんとか…しないと…だねぇ」



『テンションひっく!?』



何を思ったのか、ニドは再び俯いて ボソボソと呟き始める。

そんなにもその面白い姿…もとい醜態を晒すような有様が辛いのだろうか



「ニドは、『彼女』が再び此処に来る事がとても嫌なのですよ」



『彼女?』



そう聞いた途端、閉められている扉の向こう側からカツカツとヒールで地面を叩くように重く響くような足音が段々と近づいてくる。



「…きた…」



声で機嫌を伺うしか無い程に表情を表せない無機質なニドの絡繰り頭でさえも縦に青い線が幾つも並んでるように見える。

なんて情けない声なの…




一つ間を置いて、バァンと弾けるような音をしながら扉が乱暴に開かれる。



「…」



現れたのは、大きなトランクを右手に引きずるゴシック服を身に纏った女性。


肌は色白で、目立つくせ毛の黒髪を両端でショートツインテールにして

眠そうにしているガーネットよりも、色濃く残した目の下の隈が目立つ不愛想な顔つき。



「…」



『…』



「…」



「…」



「…」



「…」



「…やぁ、アンジェラ…ひさしゴブッ!?」



ニドがアンジェラと呼ばれる女性に挨拶をしようとした途端、彼の飛び出た頭に何かが飛んでくるように衝突した。


それは地面をカラカラと転がり、俺はそこに目をむける。



『これ―…スパナやん』



「だぁあああああああああああああああああああああれの許しを得て躰にヒビを入れてんだこのドグサレボケカス野郎がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!!!??!?!?!!?!?!??!?!?!?」




耳を劈くような怒号が響き渡る。


あのギルド長が…ヤクシャにも恐れを成さず、好戦的で飄々としながらも大人な余裕を見せていたあのギルド長のニドが

この強烈な怒鳴り声に紛れて小さく「ヒィ」と漏らすのを俺は見逃さなかった。



そこで冷や汗を垂らしながら二人の間に割って入るようにリンドが俺たちに説明をする。



「え、えと…この方が、ニドの躰を作った当人であり。ニドの魂の封印に携わる絡繰人形師の“アンジェラ・スミス”です」



『あ…ハイッ』















こわっ…







































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