39:罪の依代の在り処
一つの掌で揺れる炎
それは風によるものでは無い。
それが示すのは“変化”の兆し。
「あら…ふふ」
漆黒のドレスに身にまとい
三角帽子のつばの下で覗かせる不敵な笑みは
“それぞれの掌”に炎を乗せた巨大な八臂の胸像へと向けられていた。
そしてその胸像の持つ炎の一つが大きく揺れ、瞬く刹那でフッと消えた。
「そう、『2番目』が役目を終えたのね。」
口角を恐ろしい程に釣り上げる魔女は踵を返し、その先にある大きな盤上に置かれた水晶を覗き込む。
「さい…差異ねぇ。でも、しょうがないわぁ。あの子の心は未だ幼すぎた。どんな掌の上でも啄けば転がる賽の様」
魔女の視線の先に映るのは小さな継ぎ接ぎの少女
そして、魔剣をその手に持つ少女
魔女はその二人の様子を呪う程に慈しむ眼差しで暫く眺めている。
「ふん、くだらん戯言を」
その言葉は盤上を挟んで向かいの男から発せられる。
「それらの厄災は貴様に全て一任している筈だが?貴様の管理から離れて勝手な事をされては困る」
男はメガネを持ち上げて奥に光らせた燐光を相手に投げつける
「あら、いいじゃないの。仲間思いの子、私は好きよ?ふふ」
「ほざけ。悪意の塊のような魔女風情が母の真似事など…虫唾が走る」
「“あの子”は貴方の行う研究に同じ言葉を吐き捨ててたわねぇ」
「フン――。奇跡の成れの果て如きに、理解されようなどと思わない。」
男は魔女と同様に水晶を見下ろし、そこに映る魔剣を忌々しいと思わんばかりに睨みつけた。
「所詮は失敗作の人形。与えた精霊の力も存分に発揮する事が出来ぬままこの世界に接続されてしまった。このままでは唯の喋る人形。実に滑稽だよ」
「あら、もともとアレはあの可哀想な老爺に与えた貴方の入れ知恵ではなくて?」
「実に不愉快だ。確りと役割も果たせぬ老害が。“私の研究”に泥を塗るだけぬって狂い死んだ」
奥歯を噛み締め、しかし瞬時に頭を切り替えるように男は微笑する。
「まあいい。失敗作には失敗作としての使い方もある…」
男は吐き捨てるように言うと踵を返し、靴の音を鳴らしながらその場を後にした。
それを一瞥して、再び魔女は水晶に目をみやると
「…アリア、貴方の娘の周囲は随分と面白い事になっているわぁ」
そう呟いた。
暫く取り合うように繋いでいた互いの手を見つめ合うアリシアとヘイゼル
「そう、貴方がジロ。そしてアリシア。改めてよろしく」
「ええ」
『おう。それでヘイゼル、早々に頼みがあるんだが――』
言い切る前に奥から幾つもの足音が聞こえ始める。
やべぇ…もう来ちまったのか!!
このままだと、おれの計画がおじゃんになり兼ねない。
『ヘイゼル!理由は後だ!取り敢えず、気を失ったフリをしてくれ!いいか動くなよ!?』
「―なぜ?」
首を傾げて問いかけるヘイゼル
「ああもう!まどろっこしい!」
「え?―へぶっ…!」
アリシアは咄嗟の判断で、ヘイゼルのみぞおちに膝を一発入れ
理解出来ない状況にヘイゼルは更に混乱し始め頭に?マークを幾つも浮き出す
いや、待てアリシア、ヘイゼルはそういうのでは気を失ったりしないぞ!!
『あれだ!取り敢えず目を瞑ってそのまま動くな!というか体の力を全部抜いてアリシアにその身を預けろ!
いいか?俺が良いって言うまでそのままでいてくれ』
「???――理解は出来ないが一先ず了承」
ヘイゼルは言われた通り目を閉じ。くてと糸の切れた人形のようにアリシアの胸にその身を預けた。
よしよし!
『アリシア』
「わかってるわよ」
すぐに、ヘイゼルをアリシアは背負い込み
近づく足音に凛と向き直す。
「オウ!お前ら、こんな所にいたのか!随分派手にやったもんだなぁ」
もはや、本来の在り方を失い瓦礫の山と化した礼拝堂で、一人の男が足場を注意しながらこちらに近づいてきた。
『せっかち屋のオッドさんじゃねえか』
「せっかちは余計だ!…で、どうなった?話を聞いて急ぎ後を追って来てみたものの」
オッドは先ずアリシアが背負ってるものに目を向け始める。
「おいおい、どうなってやがるんだ?そのヤクシャは気を失っているのか?」
よし、ここからが勝負だぞ…頑張れ俺。やれば出来る子だ。
『違う。この子は確かに先の騒動で暴れていたそれに違いない…が、ヤクシャでは無かった』
「ほう、―と言うと?」
オッドは静かにこちらを見据えて耳を傾ける。
『この子はただ“操られていた”だけだ。そこに居る化物にな』
俺の言葉に合わせてアリシアが右を振り向き、オッドの視線をそこに促す。
「こ…こいつぁ!?」
オッドは「おお」と驚くように声をあげて未だ青い炎を灯す魔神の骸を目を飛び出さんばかりに凝視した。
「とんでもねぇ事したなぁお前ら」
オッドはその頬に脂汗を一滴垂らして戦慄する。
「こいつはヤクシャどころじゃねえ。エンフォーサークラスがやれる相手じゃねえぞ!!この青い炎は『魔神』―つまり魔界の住人だ」
魔界――、そこはニド・イスラーンにおいて魔物を生み出される起源となる場所。
ギルドが存在する最大の理由にしてこの世界とは異なる混沌の境地。
そこに住む者はこの世界で蔓延る通常の魔物よりも狡猾かつ残忍。本能を御して尚、不幸を生み出す高度な知性や魔術応用を持つ存在、界魔と呼ばれていた。
そして、その根底に住まう界魔の魔物達を牛耳っている複数の存在こそが、魔神らである。
その界隈の組織構成等は未だ解明されてはいないが、その者だちがこちら側に仕掛けてくる事は今の所殆ど無い。
だが、その場所の調査という体で依頼が絶えないのは事実であり、依頼料もそこから大きく跳ね上がる。
その依頼を受注する本来の該当クラスは俺らのクラスを4つ飛び越えた階級。対界魔:インヴェイドクラスが執行する獲物であった。
「本来なら対峙して生き残るだけでその称号を賜る事の出来る相手だぞ…!それを倒すなんて…お前たちは…一体…」
あまりの状況に顔を、口を、縦長にする事で精一杯の驚きを顕すオッド。
「それならば、その子がその魔神に操られていたという事も容易に想像がつく…成る程、50年前の応酬なのか…」
『50年前?』
「ああ、俺のとこのじじいが言ってたよ。どうやら50年前にも同じ様な魔神がこの街の東の森で顕れて魔物との戦争となったらしい」
オッド曰く
当時の戦争にて魔神を倒すには至らなかったが突如として消滅、撃退したという判断となり残党の魔物を駆逐してその戦争は事切れた。
その一件に携わった英雄らを称えるために『インヴェイド』の階級が生まれたそうだ。
どうやら俺らの成し遂げた成果は想像以上の偉業らしく、すんなりと作り出した結果を飲み込んでくれた。
オッドは顎に手を当てて一考すると
「取り敢えず皆を此処に連れてこの魔神―」
『確かバフォメットと名乗っていたなコイツは』
「おお、このバフォメットの骸を回収する。報酬に関しては後日となるが構わんな?」
『それでいいさ』
「しっかし、珍妙なだけかと思っていた“喋る魔剣”とその主の少女がコレを―…ねぇ。
まるで、ギルド長の言う通り“ドール=チャリオット”そのものだな」
オッドは心底関心したようで、アリシアを褒め称えるようにその小さな頭を撫でてやった
「あ…」
アリシアは予想もしなかったオッドの優しさに少し俯いて嬉しそうにした。
次第に人が集まり始め、オッド同様にそのバフォメットの骸を見て驚愕していた。
「アリシア!ジロ!!やったのか!?」
遅れてやって来たガーネットが近づき、オッドと同じように背負われて動かないヘイゼルに視線を向けた。
『――ヤクシャの正体はアレだ。どうやら魔神がこの子を操っていたらしい』
「魔神…あれが、そうなのか?」
オッドの指示で後から来た冒険者達は魔神の骸を部分毎に分割して運んでいる。
「へぇ、あれがバフォメットねぇ。…ったく、本当にすごいなあお前さんら。一緒に居ると、何かと新鮮味ある展開に出くわす。」
ガーネットは、眺めながら驚愕して開けていた口を閉じて暫く一考する。
…こちらからだと表情の殆どが眼帯で覆われていた為、その胸中が伺えず、おれは少々息を飲んだ。
「………そっか―。まぁ、倒したっつうんなら一件落着って所か」
ガーネットはこちらに目を向ける事なくただ一言そう呟いた。
「そういや、ジロ。例の少年の件に関して知らせたい事があったんだ。この建物の裏手に来れるか?あまり公に出来ない話さね」
『お、おお。それは構わん アリシア、その子を一旦安静な場所へ―』
「いや、急ぎの用なんだ。そのまま一緒に来てくれると有難い」
こちらに向けたガーネットの表情は、困ったような…嘲笑気味の少しつり上がった口に
何かを見据えるような座った眼という、なんともヘンテコな顔をしていた。
…。
多くの骸を運ばされる冒険者達の声が小さくなるほどに離れた場所。
建物の裏手は少しばかりの木々に覆われており、小さな虫の鳴らす鈴の音で寂しい程の静けさを誤魔化していた。
未だ空は夜が明ける事が無い、星星は未だ俺たちを見下ろしている。
「ところでさァ」
前を歩いていたガーネットが口を開き俺たちに振り返ると
その腰に携えていたダガーを俺たちに向け構え始める。
『…なんの真似だ?』
「そりゃあこっちのセリフだ」
ガーネットの静かにこちらを見据える視線は、明らかにいつもの“それ”とは違い
敵意を剥き出しにしていた。
「どういうつもりさね?他の奴らは誤魔化せても、私の眼は誤魔化せない」
ガーネットはトントンと瞳を覆う眼帯をその指で啄く
―…あー、そういやこいつは魔力の流れが読み取れる人工魔眼を持ってるんだっけなぁ
「それにな、あんまり帝国の諜報機関を舐めないで欲しい。差異のヤクシャについての資料はある程度揃えてある。そいつが今まで何をしてきたかをな」
ガーネットは淡々と説明し始める。ヘイゼルの犯してきた罪を
200年前、それが事の始まり。西の大陸の現共和国の“厄災領域”が起きる前の3つの小国のうちの一つ
そこで起きた猟奇的連続殺人
特殊な治癒魔術で生命を維持されながらバラバラにされた肢体を幾つも並べ、それを使って自身と同じ人形を模した死体の作成
150年前、同じく隣国で起きた事件。一つの廃墟となった教会で、30年間も数百人を監禁
殆どが、人としての尊厳を絶たれた扱いを受けて次第に死亡。死体は女子供であろうが関係なく、中には子を身ごもった人も居た。
その幾つもの死体は皆、胸を開かれていた。
90年前には、その南にある王国の王都の中心での無差別殺人。市民に対しての光魔術の乱用、及び王国騎士団の壊滅。
そして50年前。
ギルドの街での討伐依頼が起きるほどの出来事、ここ南大陸の東側の森での魔神の召喚。魔物が共鳴して群れを成し
大きな戦争となっている。
それはついぞ先ほどオッドから聞いた話と相違無かった。
「インヴェイドの栄誉を賜った一人の英雄の残した記録にはなその魔神が『バフォメット』だという事、そして顕現の要因となる存在に『人形のような少女が居た』と記されている」
惨たらしい内容に俺は少しばかり言葉を失った。
こんな事が、過去に起きていた事実…許されるハズが無い。
「なぁ、解ってくれよジロ。そいつは“そういう風”に出来ているだけなんだ。人の姿をしただけの人形にすぎない…アリシアの事だってそうだ。お前さんは眠っていたからそれどころじゃないがな、そいつはお前に危害を加えようとしていた。」
そう、ヘイゼルは…ついぞ最近90年前の事件同様にアリシアの胸を開こうとしていたのだ。
「いくら心の無い人形だからと言って、このままで終わらして良いものじゃないんだ。『ヤクシャ』って存在は」
アリシアはガーネットの言葉に戦慄しながらも、背中にしょいこんだ少女を手放す事なくジッとガーネットを見つめていた。
俺たちにしかかる重々しい罪の形。
罪を犯したなら、それ相応の必要な報い。
…俺は、間違っているのだろうか?
多くの命を奪っていった存在を許す事が出来ないのは当然の事なのだ。
人の姿をした厄災などと呼ばれるのは結局の所、惨たらしい事実を口にしないでいられる単なるオブラートでしかない。
中を開けば、俺でさえも恐ろしく感じる程の凄惨な所業。
――考えるまでもない
『…ふざけんな』
俺は少しずつ怒りがこみ上げて来る。
“考えるまでもない”?
厄災と呼ばれるまでに罪を犯したヘイゼルにでは無く
その行いを咎めようとするガーネットにでも無く
それを見て見ぬふりをして来た世界に
ただ高いところで眺めるだけで何もしない神に
“どうしてそういう事をしたのか”を考えようとしないこの世の中に
俺は腸が煮えくり返そうな程の感情をこの胸中に渦巻いていた。
『大切なものを失った事に対しての怒り、悲しみ、思考放棄は俺が一番良く知っている。それでも
今の俺は、その立場に立っていない。…詭弁かもしれねぇけどよ。俺はヤクシャを救ったんじゃねぇ。ただ一人、孤独の中で人の温かさを求め知ろうとしたヘイゼルと名乗る少女を知って救った。ただそれだけだ』
「ふざけてるのはそっちの方だ、そいつはただの人殺し。そして、いつあんたらに危害を加えるかも解らないんだぞ?それだけじゃない…もしかしたら、この街の住民の命だって脅かされる。解ってんのか!?お前のその選択で―」
『解ってる!!これが俺のひとりよがりで傲慢な考えだって!それにアリシアを巻き込んでいることだって。けどなぁ、なら…この子はどうすれば良かったんだよ!生まれた時から誰もこの子を見ようともせず、触れた途端に否定されて、“違う”と誰にもなれない孤独を…寂しさを…俺は知ってしまった。その恐怖がお前に解るか!?お前は理不尽な世界に神を呪いたいと思った事は無かったのか!?』
ガーネットは俺の言葉に眉をひそめて思い出す痛みにこらえようと眼帯を強くその手で押さえた。
『本当なら望まれない現実に苛まれて…どんな奴よりも一番最初にこの世界に“違う”って泣き叫びたいのはこの子なんだ!そして犯した罪を咎める前に、どうしてと考えるこの子以上に考えなくちゃ行けないのは俺たちの方だったんだ!善だの悪だの決め付ける前にもっと知るべきだったんだ。向き合うべきだったんだ。そうさ、この事を結局偶然知った事は事実だ。俺の嫌いな運命だよ。だったら尚更っ…!!俺はそれに抗いたいんだよ!ガーネット!!!』
「…ダメだ、それでも…お前がそれを知っているだけで…私はそれを知らない。知らない以上私がそれを受け入れちゃダメなんだよ!ジロ…お前にはそれが一人の少女に見えるかもしれない。けれどなぁ…私が知って私が見ているものはお前とは真逆なんだ!多くの罪を重ね、多くの命を奪って尚在り続けようとする忌まわしい人形、厄災の名に相応しいそれなんだ」
『違う!こいつにとって、いや俺ら人間にとっての本当の厄災は『差異』だ!重ねた罪という事実から入ってしまったら。この子が消えたとしてもいくらだって同じ存在は生まれる。自分とは違う、自分には無い者、自分の望まないもの。人が持つそれら全てに恐れる本質があるからこそこの子が『差異』のヤクシャ背負うはめになった!この子にとってはただそれだけの事だったんだ!』
「ジロ!!!」
俺の言葉を遮ろうと大きな声をあげるガーネットは取り乱した自分に気づき呼吸を整えてる
「ガーは優しいんだね」
息づきだけが聞こえる沈黙の中で
アリシアが少し寂しそうな笑顔を見せてガーネットに語りかける。
「あんたは、私たちが傷つく事を恐れて私たちからこの子を離そうとしている。それに、本当ならオッドたちのいる場所でそれを大声上げて同じ事を言えば良かったのにそれをしようとしなかった。解ってるんだよ…そこまでして私たちを諭したい気持ちを」
「違う…。お前たちは…所詮、帝国軍にとっての監視の対象にすぎない。
こうやっておかしな事をしないためのね。…用心棒なんて体のいい話しさ」
『そんな事、ハナから了承済みなんだよ』
「だったら、私の言うとおりにしてもらおうか?」
『断ると言ったら―?』
「いくら足りないこの身でも、抵抗するお前たちに後々は不利な楔を打つことは出来る」
お互い交わる事の無い結論にただただ睨み合いながら時間だけが虚しく過ぎ去ってゆく。
「もういい、ジロ。アリシア、降ろして。」
その張り詰めた空気に無機質な声がアリシアの後ろから飛んでくる。
「あんた―」
目を開きヘイゼルはアリシアの背中を降りると、アリシアと俺を護るようにガーネットの前へと出る。
「初めまして、ワタシはヘイゼル。ガーネット、あなたの名前は会話の中で理解した」
「随分なご挨拶だなぁ。差異のヤクシャ」
「―ヘイゼル」
「は?」
「ワタシの名前。どうかそう呼んで欲しい。ワタシはもう、『ヤクシャ』で或る事を放棄した」
「今では一人の幼気な少女ってか?戯言をぬかすんじゃないよ」
「戯言でも何でも良い。この名前は、ジロやアリシアが認めてワタシを認識してくれた名前」
「だったらなんなのさ?人殺しの人形が、人間の真似事は来世でやって欲しいね。今更許しを請うなんて虫が良すぎる」
「許して欲しいなんて思ってない。でも…どうか、この二人を許して欲しい。そして、その為の交渉を提案すル」
「交渉?」
「ワタシの事、そして…貴方の知らないヤクシャの事についての情報。記憶にある限りワタシは公開する」
「どういう事だ?」
「ワタシの中にある精霊―、生みの親であるモーガン・ロートはこの精霊をある人物から受け取っていた」
「誰だ―」
「空に或る都市、空中庭園に住まう賢者。クラウス・シュトラウス」
「っ…!?」
その名を聞くとガーネットは目を見開き狼狽する。
『誰なんだそいつは?』
「この世界に見切りをつけて空に小さな世界を創ったとされる男。極界は法国イグドラシルの先代大司教サマだ」
『お、おう…ピンと来ねえがすげえ奴なのか?』
「先ず、そいつが空中庭園を創り幾つもの法国民を連れてこの世界との繋がりを絶ったのが約500年前―
それからと言うもの、幾度か帝国軍が飛空艇での調査に向かうも行方知れずになり…ダンマリをキメこんでいた連中だ」
「“賢者クラウスは今も生きている” クモの魔女はそう言っていた」
「おいおい、ヴォルケンヘクスの名前が何でそこで出てくる?お前と…ヤクシャとどう関係している!?」
頭を抱え込みながら額に汗を浮き上がらせるガーネット。
「―ワタシはこれ以上あなた達に危害を加えるつもりは無い。
この情報の詳細も後ほど提供する。だから、お願い。ワタシの意識が終わるその時まで…ジロとアリシアの側に居させて欲しい」
ヘイゼルは深々と頭を下げて懇願した。
「っだあああああああああああああああもぉ!!!!わーった!!私の負けだよ!!もうヤクシャとかそれどころの話じゃない。お前の情報はきっと
この世界を揺るがす大きなヤマだよ!!」
ガーネットは匙を投げるように叫び、ダガーを仕舞い
大きな溜息をついて、項垂れた背中を見せる。
「―条件がある」
ガーネットは首だけをこちらに向き直し一言
「その情報は当然こちらで頂くとして、オマエ、側にいるその二人に後々危害を加えてみろよ?その時は私の応酬だけで済むと思うなよ?」
「―ありがとう、約束する」
そう答えながらヘイゼルは自身の頬をその手で持ち上げる
「…なんの真似だ?」
その質問にヘイゼルは淡々と答えた
「笑顔」
彼女の回答に拍子抜けしたのか、はたまたこれから増えるであろう大量の仕事に憂いを感じたのか
ガーネットはロールされた大きなツインテールを前後に揺らしながら、大きな溜息をもう一度ついた。