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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
40/199

35:黒曜の目下で揺れる零度の裁定


「んで、私は君たちが何となく助けたエルフの少年を担いでるわけなんだが」



ロールしたツインテールをゆらゆらと揺らしながら

寝息を立てる少年を背負う眼帯の用心棒(笑)



「いや、まってジロ。あんた私の事失礼な呼び方で呼ばなかった?」



『失礼も何も、そこまで大した用心棒をしてないだろうよ』



「やっぱり口にしてなくても思ってはいるんだ!この薄情魔剣野郎!!!」



『うっせぇ!!ガーネット、そもそもお前俺らが門の前で看守に頼んで来てもらう以前に何をしてたんだ???』



「―え?いや、まぁ…情報収、集??」



『ほーう???情報収集…情報収集ねぇ~~~!!お前を探し回ってた看守はメイの装備屋の裏手で腹出して寝てたって冷めた目で言ってたぞ』



「ちょ…あの看守!!私の滅多に拝めないくびれをその目で舐め回してたっつうの!?金とるよ!!」



『ああ良いとも!俺が代わりに払ってやらァ!クズ銅貨と名付けたそこら辺の石ころだけどなぁ!!!』



「二人共、うるさい!!!!!」



『ハイ』



「はい」



あまりの喧しさに、ガーッと歯を剥き出しにして怒鳴り散らすアリシア。


そんなしょうもないやり取りをしている内に、エインズの街でシアが世話になっている療養所へと到着する。



着いて早々に看護師さんと折り合いをつけ、一先ずシアの居る部屋の隣のベッドを借り

“イーズニル”と名乗る少年をそこに寝かせた。



「この少年、エルフじゃないか」



『やっぱそうなのか?この耳、俺らの世界でもエルフって呼ばれていたぞ?実際に見るのは初めてなんだがな』



嘘は言っていない。事実エルフなんてものは創作物でしか聞かない存在だ。


俺たちはベッドを囲むように真ん中で眠る少年をまじまじと観察していた。



「それにしても、此処に来るまで相当な苦労を掛けたのではないでしょうか。この子の靴、とてもじゃないですが周辺を散歩して帰って来たと言うには

無理があるほどボロボロです」



隣のベッドで首を伸ばして覗き込んで来たシアは、ほっと溜息をつく



「不甲斐ないです。私という聖職者、神官はこういった者達に癒しの力を与える為に在るというのに…すみません」



「シア、お前が思いつめる事はないだろうよ。そもそもお前さんだって、此処に来るまで大変だったんだ」



空かさず彼女にフォローを入れるガーネット。当然だ、彼女は先日俺たちと執り行ったメガロマニアとの戦闘で多くの魔力を消費してしまっている。

そんな中で自身の立場としての本懐を成し得ないからと言って

それを咎める者は少なくともこの場に誰ひとりとしている訳がない。



「しっかし、変だねぇ」



ガーネットは顎に手を当てて考え込む。



『何が変なんだ?』



「本来、エルフっていうのはよっぽどの理由が無い限りは森から出てくるような事はないんだよ。特に年端も行かない子供を外に出すなんて事は

まず有り得ない。此処らに来るようなエルフってのは大抵何かの理由で森を追い出されたか、出稼ぎの為に許可が降りた旅人のエルフぐらいだ」



『ここら辺にはエルフが居る森が近くにあるってのか?』



「いんや、無い。本来エルフが居る森ってのはこの南の大陸より海を渡って北東の方角にある大陸の端、『霊樹の森』で外界とはある程度の距離を置いて、暮らしている」



『海を渡るって…とんでもない距離じゃないか』



「そ、詰まるところエルフの少年が此処まで一人で旅するには余りにも普通じゃあ有り得ない事が起きている。要するにワケありって考えるべきだ」



ガーネットは小さく寝息をたてる少年の頭をそっと撫でてやると、よっこいせと



『ババアのように立ち上がり…』



「うっさいわ!あんた本当に私には辛辣だなぁ!オイ!最初に会った時の静けさは何処へいったんだ!!」



『おっといけない。穀潰しに対してやたら口が悪くなるもんでなぁ』



確かに最近ではやたらこいつに対して口悪くなった気がする。いや、きっとそうでもしないと誤魔化せないんだ。

普通に会話をしてしまえば…どっかで“あの話”を再び再開してしまうかもしれない。



「―ったく。取り敢えずあたしゃこの事を軍に報告してこの子の身元を割り当てて来るよ」



『そんな事が出来るのか?』



「エルフの居る森は帝国領が在る大陸の南側、隣人さんさね。お互いに程度よく折り合いを付けていてね、連絡の一つぐらいわけないさ」



『そうか、大事なければ良いがな』



「勘弁してくれ」



そういうのは予兆フラグっつうんだよ。とハラハラと背中を見せて手を振り、ガーネットは部屋を去っていく


急に静まりかえった空気の中、アリシアは窓を覗くと



「もう夜じゃない。もう良いでしょ、ここはシアや医師に任せて私たちもコレ持ち込まないと」



『ああ、そうだったな』



アリシアは俺を背負い込むとヱヤミソウをいっぱいに詰め込んだ籠を抱えてその場を後にする。



「アリシア様、ジロ様、お気をつけて」



ギルドへ向かう道中、暫く歩くとそこは見慣れつつある中央噴水の前。


規則正しく並ぶ街灯だけがてんてんと灯り、辺りは既に人気のあまりない静かな場所であった。


噴水から水の流れる音だけが聞こえ、周囲を囲む建物は夜色に塗られ


歩く途中で幾つも目を配った小さな窓からは黄色い光りに当てられ人影が動く様が伺える


そこから漏れる声にならない優しい雑音はこの街の平穏を顕にし、俺はスっと心に落ちた微かな寂しさを嗜んだ。




「ねえ」



『ん?』



アリシアはふと上を見上げる。


そこに見えるのは月夜を隠し爛々と光る星星を載せた向こう知らずの遠い夜空。


その真ん中を横切るように一本、大きく儚い光の帯が道のように敷かれていた。


暫くそれを見つめるアリシアの横顔は少しばかり寂しそうだった。…否


彼女だけじゃない。俺にだって、同じような気持ちがあった。



―パパ!天の川だよ!



ふと聞こえ出すかつての記憶。


奈津も奈々美も夜空の星星に指をさして、嬉しそうに夜空を眺めていたあの頃


俺自身、星なんてものに興味は無かった。ただ嬉しそうにしている二人が大好きだった。


まともに見る事も無かったその星星を今やアリシアと眺める事になるとは、少々感慨深い気持ちになっていた。



『―綺麗だな』



そして不思議な事に今は、その夜空に対し、星星に対してそんな一言を漏らしてしまうのだ。



「昔、ニドが言ってたの」



『ああ』



「夜空はまるで、黒曜の石で世界を覆う蓋のようだって」



『へぇ、面白いなぁ。けれどそうなると夜空の向こう側は行き止まりじゃないか』



「あの星星は、人が何度も蓋の外側に出ようと試みた時に出来た軌跡なんだって、光り輝くのはその外側から漏れ出す光りと

それによって反射した蓋の削り痕の面なんだって。」



『行き止まりではなく、人々が望んだその先には光りが満ち溢れているって事か』



実にロマンチックな話じゃないか。きっとその先は天国なのだろうよ。


だからこそ世界を閉じた大きな黒曜の蓋…それはきっと俺たちじゃあ、行くことが叶わない大きな隔たりなんだろうよ…



「もしかしたら、“パパ”の場所があるのかもね」



口では笑いながらも少し寂しげに笑うアリシアに対して、俺は一つ間を置いて『ああ、そうかもな』とだけ答えた。





―中央を抜けてギルドへの一本道。



先程よりも街燈が少なく、異様な静けさを醸し出していた。



「パパ、少し寒くない?」



『え?もうそんな季節か?』



「…聞く人を間違えたわ」



デスヨネェ…寒いかどうかなんて魔剣おれには分からんわ



アリシアは自身の肌を少しばかり摩りながら歩くと、急にその足を止める。



「パパ」



『…ああ』



アリシアの肌寒い理由が少し解った気がする。


自身の持つ魔力によって感知しているのかは定かでは無いが、歩くこの道に違和感を感じていた。



背中を撫でる冷たく震えるような感覚。


気づけば黄色く照らしていた筈の街燈は青く揺らめく炎となり


目の前からゆらゆらと大きな影が姿を顕す。



「投げられた賽は既に目を示した…」



凍えるような吐息と共に出された厳格な声。


骸の姿に果てた大きな馬。それに跨るのは歪な鎧を纏った騎士、その頭は荊棘の冠を頂きに乗せた髑髏。


さながら夜闇を駆る亡霊騎士そのものだ。


その瞳の在り処も分からぬ二つの空洞で一歩も動けない俺たちを見下ろす。


アリシアは迫り来る得体の知れない圧に押しつぶされないよう呼吸を整え気を保つ。



お前は一体何者なんだ…?



俺はそれを口に出す事が許され無いと本能が…魂が語る



「…汝の“選択”は正しい。許す―」



髑髏頭の騎士はそれだけ言うと、俺たちの横を静かに、ゆっくりと通り過ぎる。


選択?選択だと??


なら、俺たちは選択を違えれば一体どうなっていた?



過ぎ行く威圧的な魔力…それを俺たちは一身に受け止める結果になったに違いない。どのような形であれ…


溢れ出る想像がより一層の恐怖を俺に与える。


強大な魔物でさえも物怖じしないアリシアが目を見開き、正面の何も無い空を見つめるしか出来ない。


どうか…このまま去って行ってくれ…


その願いを裏切るように後ろから再び厳格な声が首筋を撫でるように囁く



「これから巡り来るであろう“選択”―。努努違えぬ事を我は願う―」





その騎士が去った事を理解したのは間もなく周囲の街燈の色がいつものように黄色く照らされた瞬間だった。




アリシアは再び呼吸を整え、頬を流れる冷ややかな汗を拭った。



「ふぁっく…一体何なのよ、アレは」



『俺にも…ワカらねぇ…』



あれは、この街で闊歩していい存在では無い。



そして、この感覚に俺は覚えがあった…いや…聞こえたんだ



唐突に迫り来る運命。



ヤクシャのアシュレイがニドに仕留められそうになった直前に聞こえたそれと同じ





歯車の動く音―

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