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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
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3:望まれなくして望んだもの

 どうやら、先程よりは冷静になっているらしい。

雲を掻き分けて零す月の光。

現場の視界もクリーンになる。

お陰様で胸糞光景は更に鮮明に見えてやがる


問題なのは俺は動けない

というか、俺という存在は一体どうなっていやがるんだ??


『…いや、そうじゃねえ』


おもわず再度声が漏れる。

さっきは出来なかったのに今更喋れるのか、俺。


動揺しているせいでお門違いな分析をしている場合じゃない。

霞んでしまった重要な事柄を必死に引っ張り出せ。


少女、そうだ少女だ!!あの子は背中を刺されて―


「―パ、パ」


目下、その声は聞こえた。

思考を巡らせていて気付かなかった。


いつの間にか少女は俺の足元に居た。

いや、正確には足元に見える地に刺さる刀身に擦り寄っていた。


刀身しか見えない?

なら俺は一体何処にいる?

俺がその剣を持っている?

この娘には俺が見えていない?

違う、やめろ そんな事は今どうでもいい!


飛び交う疑問が俺を混乱させる。


必死にその少女の状況を伺う。

血まみれになった顔や腕を見ると

どうやらあの血だまりから必死になってこちらに這いよってきたようだ。

あの凄惨な状況で無傷だったとは・・・・

いや、無傷ではない・・・

少女の背中には無慈悲に刺されたダガーがそのまま突き刺さっていた。


『だ、大丈夫かっ?』


「はっ…はぁっ…パパァ…げふっ…」


掠れた声とともに咽びながら血を吐き出す少女。

彼女の目は虚ろになっている。

呼吸も荒い。


―どうすればいいんだ…どうすれば…???

このままじゃどの道この娘は無事じゃすまない!


「パパ…パパに…」


既に虫の息も同然の少女は懲りずに刀身にその身を寄せて、

その身が傷つく事を省みる事なく抱きしめ始める。


そうする事で彼女は少し安堵した表情をみせる。


『なんだよ…それ…』


触れられている感触はわかる、なのに人に抱きしめられた温もりを感じない。



―かつて最期にに残された「娘の腕」を抱きしめた時の感触が脳裏を駆け巡っていく。


あまりに、小さく

あまりに無機質。

どんなに強く抱きしめてもこの嘆きを受け止めてくれない

応えてくれない。

穴の空いた器だ。


「―パパ、ごめんなさい…」


一体誰の娘なのか、俺をパパと呼ぶ理由もその述べる謝罪の意味も解らない…けれど

その言葉は重く、俺の魂に響かせる。


…今更になって、その言葉を久しく聞くことが出来たってのに。

なんでなんだ?俺はまた何も出来ないのか?


この悲しみだけを記憶に残して


また俺はこの場所から残されただけの存在となるのか?



『―死ぬな』



少女は弱い呼吸をするだけで返事が無い。



『死なないでくれ…お願いだ』


出来るのならば今すぐにでもこの子を抱きしめてあげたい。

この子を治療する為に然るべき場所に連れて行きたい。

どうして、こんなに俺は無力なんだ…ああ

必死に抱きしめるから腕が刀身に傷つけられている。


「ごめ、んぁ…さい」


今すぐにでも離れてくれ。


『頼むよ…生きていてくれ、生きてくれっ!!』


お願いだよ


こればっかりは勘弁してくれよ






「――――」






俺の祈りと願い虚しく少女は既に、動かなくなっていた。



虫の音しか響かない静寂の中…俺は静かに呪いのように呟く



『すまない…すまない…すまない…』



静寂の中でその言葉を聞くものは誰もいなかった。


死んでも許さない。なんて言葉を思い出す。


この事か?


なぁ、俺が一体なにをしたんだ?


なぁ、よっぽど俺に恨みでもあるんだろ?カミサマよぉ


答えろよ



『答えろよ!!!クソアズィーがぁあああああ!!!』






―契約を履行する





慟哭の後、脳裏で何かがそう語りかけてきた。

そして、それと同時にガコンと何かがはまる音がした。





『!?』




死して尚、頑なに刀身を抱きしめている少女の身体に何処からともなく現れた無数の鎖が絡みつく。

その鎖は少女にだけじゃなく俺にも巻きついて来た。





『なんなんだってんだ!?』





―誓約は果たされる





―契約者の名は『アリシア』





―其の者の魂をこの地にて呼び戻し。




―新たなチカラを授ける。




―その(チカラ)の名は…




眩い光と共に俺の視界を覆うように映像が流れ込んできた。



これはあの娘の記憶なのか?



家族を殺され 全てを奪われている記憶


執事にお菓子をねだる記憶


ぬいぐるみを抱きしめて寂しそうに扉に立つ記憶


母に手を繋がれている記憶


剣の前で泣き崩れている記憶


父の見せる最期の笑顔の記憶



闇、闇闇…闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇

闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇

闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇



そして、何もない白い砂漠で一人で歩いている記憶


それに、これは?・・・・あいつは

彼女の記憶にある景色が映りこんでいた

見覚えのある真っ白な世界。


そこは俺とあの得体の知れない塊の出会った場所にほかならなかった。

だが違うのは、アリシアの前に立つ物がアズィーではなく、もっと人の形をした存在。

女性の姿・・・女神なのか?

その女神が差し伸べた手にアリシアは手を伸ばし

そして・・・・・これで何度目だろう。眩い光と共に俺の意識も溶けていく。






































直前、誰かに手を掴まれる感覚がした。









































――ありがとう、パパ

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