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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
霊樹終末戦線
39/199

34:魔剣と少女と少年と

「はぁ~…ふぁっく」


ここはギルドの管轄する街、エインズの外側で少しはずれにある小さな森の手前。

俺の傍らで、幸せどころか魂さえも吐き出しそうな溜息が聞こえる。



「ねぇ、本当にこれでいいの?依頼間違ってない??」



腕に掛けた小さな籠にいそいそと花を摘むその少女の姿は、きっと芸術家が絵にしたくなるような清廉な一枚だったであろう。



無愛想な顔を見せつけながら魔剣おれを背負って無ければの話だが。



『仕方ない、今日の依頼はこれぐらいしか無いんだ。ピクニック気分で気持ち誤魔化すしかないだろうよアリシア』



「呑気ねぇ。極界に急がなくちゃいけない理由があるのはパパの方でしょ?」



『ぐむぅ―』



彼女に諭されなくても解っている。


アズィーによってこの世界に喚び出された大きな理由。



極界への到達。そこで待つ女神から全ての真実をその口から語って貰わねばならない。



幾つもの回り道をして、漸く



当初、リンドから提案されていたギルド登録にまで至ったわけなのだが。



早々に多くの障害に苛まれる事となるわけで…



階位の取得



ギルドの規則に則り、一つ上の階位を取得する為にはまず階位の深層域という段階を99にしたうえで

特定の条件をこなす必要があるのだ。

アリシアが登録した段階でワンダラーの深層域は99のアドバンテージを持っており

俺たちは早速、一つ上の階位であるエンフォーサーを取得する為の条件である魔物の特異存在ネームドの討伐依頼を受けたのだった。


当時受けた依頼が、意外にも余裕で

すぐにエンフォーサーに到達する事は叶った。



だが、問題はここからであった。

結局の所エンフォーサーとなって更新されたアリシアの深層域は32

次の階級へ到達するにはこの深層域を99にしてから


ローレライ取得の対象となる魔物の王を倒さねばならない。



そもそも深層域というのは、依頼をこなした際に得られるポイントみたいなもので

受けた依頼によってその取得量が決まる。



勿論、続けてネームドを倒せば一回で20や30もの深層域を得る事が出来るのだが。


世知辛いかな…まず、そういったネームドの討伐依頼を受ける為にはどう転んでも失敗した際の補填としてお金が必要になってしまう。



最初のワンダラーから昇級する為のネームド討伐依頼というものはギルドからの計らいで補填のお金は予め用意されていたらしく。


そうとは知らず、俺とアリシアは「へへ、イエェーイ」などと昇級祝いと言う事でネームド討伐報酬をリンドに会う前から豪遊の為に大枚をはたいてしまい


リンドに怒られながら一文無しに戻ってしまう始末だった。



結果として、無一文が受けられる依頼は限られてしまい。

それこそワンダラーと同じ仕事を受けて再び小銭稼ぎを始めるしか無いという状況だった。



「はぁ、あの頃に戻りたい…」



アリシアは現在受けている依頼である「ヱヤミソウ」の採取を続けながら空を仰いだ。


…これに関しては流石の俺にも責任はある。だって、ちょっと嬉しかったんだもん…

アリシアと一緒に自分よりもひとまわりふたまわりも大きな魔物を倒した瞬間の達成感は言葉では表現し難い充実感があった。



――少し前に貴方はそれよりも大きな存在と対峙して、見事打ち勝ったと思うのですが…



その言い訳を療養所に居るシアに愚痴のように零した際に返ってきた冷ややかな言葉が脳裏を過ぎった。



勿論。ぐぅの音も出ませんでした。


リンドに関しては「少しは反省してください!」と怒って突っぱねられてしまった。


その傍らで残念なものを見てしまったような隻眼の用心棒の視線に目を配ると、サッと顔を背けられ口笛を吹いて他人事のようなザマ



ちなみにニドはそれを聞いて未だかつてないほどに腹を抱えて笑っていた。



「はぁ…あの頃に戻りたい…」



同じ言葉を流れる雲を見ながら呟くアリシア。


そうだよな…幾らお前でさえも、責任を感じているんだろうなぁ。あの時、豪遊しようなんて考えなければ――



「もう一度クラン亭のデラックスゴージャス8段パンケーキが食べたい…」




そっちかよ!



確かに凄かったけどね!!?あのパンケーキ!!!



普通の女の子が食べるような見た目してなかったもんね!見事平らげたもんね!!



悲しい突っ込みを心の中でしながら。俺は、いそいそと花を摘むアリシアを見届ける。



摘んでいる花の名はヱヤミソウと言われており、回復薬等の原材料として使われている代物らしい。


~ソウと呼ばれてはいるものの見た目は花びらが小さな鐘の形にも似た実に可愛らしい花だ。



それを見事な仏頂面で根っこごとブチブチと抜いていく我が娘。モウチョットヒンガアルトリカタデイインジャナイノ?



―暫くあれこれしている内に、日はゆっくりと沈む方に傾いて夕焼けの空を写し始める。




「こんぐらいでいいんじゃない?」



腰に手を当ててフンスと鼻息を吐きながら、籠いっぱいに集めたヱヤミソウを眺める娘。



『日も暮れ始めた。夜は面倒な魔物が出るって聞いたぞ』




「…帰ろっか」



『…そうだな』




俺たちは依頼のブツをその手に抱えながら、夜になる前にのそのそと帰ろうとした道中。



『―ん?』



平原の奥で一人佇む少年の姿が目に入る。


お世辞にも良いものとは言い難いボロキレのような外套を纏ったその少年はフラフラと調子の良くない様子で俺らと同じ方向である街へと歩いていた。



『おい、大丈夫か?あの子』



「大丈夫よ、間もなく魔物の餌になるんでしょう」



『そんな物騒な事言ってやんなよ…』



「パパ。もしかして、私という娘が在りながら、ああいう少年にも手を出すヘキを患っているの?」



『ちょっと誤解を招く言い回しはやめような。な?』



少年の様子を遠巻きに見ながらしょうもないやり取りを繰り返していると、それは唐突にやって来た。



少年の遠く後ろから、何かが土煙を吐き出しながら近づいてくる黒い影




『―おい、あれ…魔物だよな?』




「ええ、つい最近見た覚えがあるわ」




アリシアの言う通り、それはついぞ最近ネームドで討伐依頼で倒した魔物と同じ見た目をしたマンティコアと言われる

蠍のような尖った尾を連れた大きな獅子のそれと見た目が一緒だった。




『アリシア、もしかして預言者?』



「いいよ、讃えても」



胸張ってる場合じゃないよ!明らかにあそこの少年目掛けて突っ込んできてるじゃんんんん



遠くの少年はふと振り返って走ってくるマンティコアに気づくやいなや、よろよろとした身体を無理にでも大きく上下に揺らしながら

追いつかれまいと走り始めた。だが、それも時間の問題だ。

このままでは間もなく少年はアリシアの予言通り魔物の餌になってしまうであろう。


…原因はどうであれ、それを見捨てる事が出来るほど俺は命に対して俯瞰できる気概をもっちゃいない。



こうなりゃ―




「アルメン」



俺が言う前に、アリシアは魔剣おれに連なる杭の名を唱え、遠くのマンティコア目掛けて投げつける。



「GUOOOOOOOOOOOOOOO――!?」



自身の右後ろ脚に杭を刺された事を知り、動きを止めて大きく咆哮するマンティコア。



その大きな振動に腰を抜かしたのか少年は足を躓いて、前に倒れるように転ぶ。



俺たちはアンカーよろしく連なった鎖を巻き戻し、勢いに任せてマンティコアへと跳ぶ。



「どーも」



一瞬で間合いを詰めると、アリシアは適当な挨拶をしながらその獣の大きな下顎に強く蹴りを入れた。



マンティコアの頭が大きく左右に揺れて、その体勢を大きく崩し、一層低くなった獅子の頭を強く踏む刹那



隙の見えたその首を魔剣で一刀両断した。



ズンと、重々しい獅子の頭が転がり落ちる頃には断面から吐き出すような血潮が舞い踊り


それに巻き込まれないように俺たちは斃したマンティコアの躯の傍らに凛と立っていた。



―なんだよアリシア。お前はハナからそのつもりだったんじゃないか。


素直じゃない優しい娘に軽くほっこりしながらも、俺は少年を一瞥する。



本当に腰を抜かしたそうで、草を掻き分けるように這いずりながら俺たちに近付いてきた。



「た…たすかりま、した…」



弱々しい声の少年。ようく見るとその耳は本来の人間が持つそれよりも長く尖っていた。




…エルフの子か?



少年は自分が無事に或る状況を察すると、ゆっくりと起き上がり深々と頭を下げて感謝の意を表す。



「どうやら無事のようね」



「あ…は、ハイ!この度は助けて頂き、ありがとうございます。小さな剣士様。僕の名前は“イーズニル”と言います」




あ―



今、アリシアが眉間に皺を寄せて少年を睨んでいる。


よっぽど、小さいと言われた事が気に入らなかったのだろう…



「ふぁっく…」



「ふぁっく?」



こらこら…それは汚い言葉だから使っちゃダメって毎回口を酸っぱくして言ってるでしょうに


一応、独り言で呟く分には大目に見ているんだから、人前ではやめよう?ね?



「…はぁ、ところでアンタ。なんでまたこんな平原でマンティコアに狙われていたの?」



「それはですね―…」




次の言葉を発する直前、少年は目の前で膝を屈しアリシアの懐に入るように倒れてしまった。



『お、おい…?どうした??』



「大丈夫、疲れて気を失っているだけ。フラフラだったし、ここに来るまで随分と歩いたんじゃない?」



少年の寝息が微かに聞こえる



『そうか、なら良かった…一応療養所に連れていくとすっか』




俺はホッとすると同時に、ある事に気付く






気絶したこの子…どうやって運ぶよ…

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