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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
36/199

32:訪れる平穏と踏み出す一歩

あれから数日が経過していた。


この世界に転生してからというもの


気が狂うほどの急展開と情報の波に淘汰されたあの時間が嘘だったように今は平穏な時を過ごしている。



変わった事と言えば



「パパ、おやつを食べに行こう。リンドが一階のカフェテラスで用意してるって。今すぐ。ダッシュで、秒で」



『あがががががががががががががががが』



アリシアの性格が少々荒くなった程度か。



二つの側面が互いを受け入れあった(と思いたい)事で、一つの人格として構成されたアリシア。



当初と比べて落ち着いた姿勢を見せ、頼もしい所なのだが。



少しばかり人懐っこい頃のアリシアが恋しくなるのが本音だ。



『あがががががががががががががががが』



あと、自分で移動できるからゴリゴリと引きずらないでね? ね?



せめて抱っこしてから運んでくれよね? ね?




「何言ってるの?パパが言ってたんでしょ。刀身に触れるとケガしちゃうからって」




『そうだね。うん、俺が悪かった』




「ふぁっく。しょうがないパパにはおやつ無しね」




『そもそも食べられない!あと、その『ふぁっく』ってなんだ!俺は認めないからな!その言葉は悪い言葉なんだぞ?』




「知らないわよ」




ニド曰く、彼女の分かたれた魂を一つとして繋ぎとめているのは俺の記憶と俺の中にある七曜の魔力だそうで…



俺の中の記憶にあったその言葉に随分馴染んでしまったらしい。(え、どういう事?)




結局ゴリゴリと引きずられながら下まで降り、ゴッ  おっ ま…




『アリシアさん。お願い。頼むから階段だけは勘弁して。』




アリシアは座った眼をこちらにくれると、ため息をついて「どっこいしょ」と肩に掛けるように持ち上げる。



『ありがとうゴザイマス』



自身よりも二倍あるであろう魔剣おれを軽々と持ち上げる


魔力による肉体の狂化仕様は健在だ。



「ちょっと…やっぱ重いから軽くして」



『へいへい』



俺はアルメンに呼びかけると、魔力で浮力を纏わせて魔剣を軽くする。




のそのそと階段を降りると一階に到着する。




「ジロ、アリシア。待ってましたよ。さあ、ここに座ってください。」



既にテラスで紅茶を頂いているリンドは、自身の用意した席に座るよう促した。



テーブルには綺麗に並べられている幾つもの焼き菓子。



アリシアは椅子に座るやいなや颯爽とクッキーに手を伸ばしヒョイヒョイと口に運ぶ。




「ふん、まぁまぁね。」



随分と塩味な態度を見せながらももしゃもしゃと頬張るアリシア。



俺は、その横で椅子に立て掛けられながらその様子を眺める。




『リンド、今日は何か変わった事は?』




「そうですね、不思議なくらい何も無いのですよ」




メガロマニアを破壊して以来、リンドにも周辺で何か起きうる事態を警戒してもらっていた。



しかし、それらしい動きは全く無く



この時間になるとこの場を借りておやつの時間に甘んじる始末。




「ですが、まだ安心できる状況ではないのは確かです。シアが言うように、化け物となっていた運命を破壊したとしても、アリシアの一件が解決した訳ではありませんので。」




当初から危惧していたアリシアの家を襲った犯人。

ガーネットも現状、犯人のドラゴマイトの入手経路を続けて洗っている状況だが未だ尻尾を掴めていない。



だが、解った事が一つだけある。




戦争屋アシュレイの仕業…ではないんだな』




「そうですね…」




ニドはギルドへの奇襲攻撃という名目でブラッドフロー財閥に制裁要求を申し出た。

その条件として、戦争屋に対しての損害額の請求及び可能な限りの武器や素材の輸出入履歴の掲示を要求していた。



ニド直々に財閥の本拠地へと視察に向かうが、結果は白。



アシュレイは本人を前に悪びれもせず飄々とした態度で要求していた損害額の10倍という莫大な額を支払い

逆にその場の立ち退きを要求した。



そういえば奴の依頼で街に奇襲をかけるよう指示されていた兵たちはそのままニドに買われ、ギルドの兵として転属。


この街での憲兵として1からやり直しているそうだ。




「まあ、今更ノコノコ出てきても私が始末する。ケジメは…つけないとね」




『…』



「…」



この件に関して今のアリシアは以前と違い


その事態を受け止め


ちゃんと向き合っているような言い方をする。


けれど、俺もリンドも知っている。



この娘が眠る度、夢を見ながらリンドにしがみつき泣いている事を。

小さく「パパ」「ママ」とつぶやいている事も。




『―まぁ、アリシアがそう言うなら構わねえ。お前の事は俺が守るさ。必ず』




「そう、頼りにしてるから…パパ」





暫くして、俺たちは隣の療養施設へと向かう。



シアがそこで休養を取っているのだ。無理もない



ただでさえ巫女から大きな使命を受け、こちらに向かう道中で移動手段が悉く阻止させられていたようだ。



初手の馬車で向かえば事故に遭い


飛空艇経由もトラブルがあり搭乗できず


運命による意図であると察した以上


慎重になりながら休む暇も無くこちらに向かっていたそうだ。


そして出会い頭での二度に渡る戦闘、魔術の行使。


シアは事を終えるとすっかり緊張の糸が切れ ぐったりと寝込んでしまったのだ。



しかし、今朝方 彼女が目覚めたとの一報が入り込んでた。



目覚めて早々に立ち入るのもなんなので


俺たちはゆっくりとしたペースで施設に向かっていた。





「ジロ様、アリシア様、リンド様。その節は大変お世話になりました」



一室のベッドで上体を起こしながら深々と頭を下げるシア。



『いんや、こっちこそ大事無くてよかった。調子はどうだ?』



「はい、お見苦しい所を見せて申し訳ないのですが…正直なところ、魔力の使い過ぎでいまだ全快とは言えません。なので、暫くはここで療養を取るようにとギルド長さまを経由して教会からご一報頂きました。」




『そうか、それは何よりだ。目が覚めて早々にまた仕事なんかさせられてるなんて知った日には

俺からその教会とやらに文句をふっかける所だった』




「ふふ、ジロ様はお優しいのですね。魔剣グリムトーカー等と呼ばれているものですから私、てっきり貴方の事を勘違いしていました。」




『グリムトーカーねぇ。』



この魔剣がかつて呼ばれていた名だそうだ。



持ち主の弱さを諭すように語る剣。



それは本来、俺より前の魂がきっとこの魔剣を使う事を止めるように促していたのを持ち主が煽られたと曲解して付けられた名なのだろう。




『俺だって妻や子供が居た。その程度の人生じゃあ並みの感覚しか俺には持ち合わせてないさ』




「…ですが、此処は貴方の居た場所とは決して違います。そんな世界で歩み続ける貴方は、きっとその魂に多くの出来事を刻むでしょう。どうか、その人となりが失われる事の無いよう私は祈ります」




『…そうだな。でも、俺にはアリシアが居る。この娘の存在が在るからこそ、この魂は単なる父親として或る事ができる。心配ないさ。』




「そうですね。アリシア様、どうかジロ様をお願い致します。」




「ふぁっく。言われなくても解ってるっての」




「ふぁっく…?」




『あー、すまん。気にしないで。この娘なりの相づちみたいなモノだから…』




でも、もう使わないように頑張ろうな?パパがいつまでも注意してやるからな?




「シア、改めまして。お勤めご苦労様でした。」




「リンド様、先日は火急の事態でしたので確りとした挨拶もできずに申し訳ございません。」




「いいのですよ、貴方が無事なら。」




リンドはシアの頭を優しく撫で、シアはそれを嬉しそうにしていた。




『リンドは顔が広いんだな。シアとも知り合いだったとは』




「知り合いなんてとんでもない!リンド様は私たちネヴラカナンの家系を救って頂いた恩人なのであります!」




撫でられて幸せそうにしていたシアはハッと我に返り叫んだ。




「女神様から祝福を賜った“知恵持ちの竜”!リンドヴルム様と知人だなんて!!とてもとても!!」




頭をブンブン左右に振るシアの脇で



ビクリと身を固まらせ



その瞳をランランと輝かせながら細目を大きく開くリンド。


次第にキョロキョロと目を泳がせ


その顔は今までにないくらい青ざめており、顔からダラダラと冷や汗を流していた。




「…え?あれ、リンド様…??」




何が起きたか全くわからず、目を点にして周囲を見守るシア




「えと…その…ジロ…私は…」




『知ってたさ』




「―え?」



―知恵持ちの竜



シアが言うまでは確信を持っていなかったが



正直、ヴィクトルとの邂逅依頼から多少なりは察していた。



思い返せば納得の行く部分は幾つもあった。



森で言ってたリンドとして認識されたくない為のローブ



女神は気性の荒い彼女に理性と知恵を与えたと言っていた。



それにレストランでのあの食事量。



ヴィクトルに怯える様子。



アシュレイの騒動の時に出てきたあのドラゴンだって、もしかしたら



―こんな形で知ってしまったが、きっと本人はあまり知られたく無かったんだろうなぁ



化け物が人の姿をして歩く事自体、普通は到底受け入れ難い事実だ。



そんな事を恐れ、ある程度ひた隠しにしてきた事なのだろう。




『知ってたさ。お前がドラゴンだって事』




「そ、うですか…」




俺の言葉に力が抜けるように項垂れるリンド。



それを何が起きたのか理解できていないまま焦るシア。




『…いいじゃねぇか。ドラゴンだろうがなんだろうが、お前は今でも俺が知っているリンドと変わらねえ』




「そうね、なんなら此処に喋る魔剣もあるのだから」




アリシアさん?急にパパを人外として扱うの止めてほしいかな?一言に生まれる急な距離感にカルチャーでショックだよ??



「ジロ…アリシア…」



うる、っとその目に涙を貯めて口をへの字にするリンド。



きっと、同じような場面があったのだろう。そして、受けいられなかった場合ケースが多かったと容易に想像できる。



そして、俺たちも―きっと自分がドラゴンであるという事実を知れば離れてしまうのではないかと恐れていたのだろう。



リンドは俺とアリシアを纏めて抱きしめる。



「ありがとう…、ありがとう…っ」



思ったが、こいつは相当な泣き虫だな。


本当にドラゴン等と到底思えない感情の起伏を感じる。




『本当にお前は無理しすぎなんだよ。もう、抱えている事はないか?大丈夫か?』




脇でシアが目尻に涙を貯めて俺たち三人を見ている。





「よかったですね、リンド様…」





いや、雰囲気に飲まれて感動しているけど原因はお前だぞ?


俺たちは暫くリンドが泣き止むまでそうしていた。



余談だが、仏頂面で毒舌なアリシアが抱きしめられたリンドの懐で小さく微笑んでいた。






俺たちはシアの居る一室を後にするとそのまま流れるようにメイの居る装備屋に向かった。


今日はようやく注文していた装備を受け取れる日


そこにはガーネットと落ち合う予定でもあった。




「よう、ジロケン。それとリンド、アリシア」




「おう、お三方。待ってたぞ~」




受付前でパタパタと手を振るメイ。その隣でコーヒーを飲むガーネット。



ここ最近ではこの組み合わせをよく見る。


つうか、ガーネット…お前本当に俺らの用心棒なのか???



メイは適当に挨拶を済ませると奥からどっさりと装備一式を持ち出してきた。



動きやすさ重視の専用のドレスに胸当て、



腕を守る為の籠手、ブーツ



それに魔剣おれのサイズにピッタリ合わせた鞘。



連なるベルトは横に背負えるように作られてる。




「今回は気合いれて作ったからよぉ。是非ともぶっ壊れるまで愛用して欲しいもんだねえ。それと、これ」




メイは一式の装備とは別にアリシアに手渡しで長い布を渡す。




『これは?』




「お前らがリンドから貰っている曲解の術式が組み込まれている布があったろ?それをウチで改良した奴だよこの街はともかく、これから外に出る事になるなら必需品になるだろうよ」




『何から何まで済まんなメイ』




「おうよ」



俺には物に対しての目利きってモノが全くないのだが、こいつのやってくれる仕事には依頼者に対しての気遣いが強く感じ取れた。




『―ん?』



俺はふと気づく。革製の大きな鞘に刻まれている文字。



当然ながら読み取る事ができない。




『なぁ、メイ。これは何て彫られてるんだ?』




「かぁーっ!異世界もんはこれだから成っちゃいねぇ!」




『うっせ!異世界に謝れ!異世界というか俺の元いた世界に謝れ!!!このバカジシ!!』




「なるほど、馬鹿と鍛冶師を噛ませてバカジシ。面白い」




ガーネットが手をポンとして納得する。




「これは…ドール=チャリオットって彫られているわね」




『ドール=チャリオット?』




「この世界で長きに渡り伝承されている英雄物語の一つ『7番目の奇跡』を持った少女の英雄譚ですね。」




曰くその少女は戦乱の中で過酷な運命の洗礼を受け、

叡智と呼ばれる剣を手に取り善悪の彼岸に住まう魔物を打ち倒し、世界に安寧を齎したとされる。



叩きつけるような嵐にも、押し寄せる荒波にも膝を屈せず。

その先にある真実を識る事こそが勝利と信じ前に進む小さな少女のその姿から


ドール=チャリオットと呼ばれていたそうだ。




「それは、まぁ願掛けみたいなもんよ。」




「あのメイにしては詩的な意味を込めて作るなんて珍しいですね。」




「もうちょっと素直に褒めてもいいんだよ?リンド。…もっと言えば、その魔剣を持つアリシアちゃんにそれを重ねてみたってのもある」




メイは俺を一瞥する




『ふーん』




「はぁ~、ジロケンにはこういう雅な感覚は持ち合わせていないかぁ…」




「そんな事はありませんよ?ジロはこう見えてこの街に来る道中で詩を呟くような」




『ちょっとまてぇええええええええええええええ!!それ以上はやめろおおおおおおおおおおお』




黒歴史だ!!やめてくれ!恥ずかしい!しんぢゃう!!




「おお。まさにグリム・トーカーって感じか???」



悪ノリに拍車をかけるガーネット。


今すぐにでも用心棒チェンジ出来ませんか?こいつ、こういう時だけフェードインしてるような気がするんだけど!?だけど!?!?



「―でも、まぁ気に入ったわ。私は。ドール=チャリオットの話は昔良く『パパ』が寝る前に読んでくれていた…」



少し、物思いに耽るようにアリシアは鞘に刻まれた『ドール=チャリオット』の文字を優しく撫でた。




『…そうか、リューネスがな』




「―んじゃ、お代はリンドから先に貰ってるし。受け取ったなら早々に次に行くといい。ニドが待ってるんだろ?こっちも受付やら依頼やらがまだ残ってるんだ。」




メイはシッシと手で俺らに次に行くよう促した。




「え、ええ。そうでしたね。では、行きましょうか」




メイの言う通り、ギルド本部でニドが待っている。



長い長い回り道をしてようやく成せる、ギルド登録。


それをギルド長であるニドが直々に受けてくれるそうだ。




アリシアはメイから受け取った防具一式を装備し、背中の鞘に魔剣おれを収める。




『随分と様になってるんじゃないか?』




「まぁ、悪くないわ」




つーんとした態度を見せるアリシアだが、


鞘に刻まれている『ドール=チャリオット』という文字を見ては指でなぞり口を少し歪ませている


実の所、相当嬉しいのだろう。



一先ず準備も整え、ギルド本部へと足を向ける。



ガーネットはメイの所でまだ聞きたい事があるようなので暫く残るらしい



…マジでこいつ本当に用心棒なのか???



「リンドも居るし大丈夫だろ!」とかほざいてたぞ…




「そういえばジロ、私が説明したヤクシャの本質に基づく数字について説明した内容を覚えていますか?」



向かう道中、リンドは口を開く。



『ああ、確か十指の戒律とかいう奴だろ?』



「そうです。1から10の数字の中で混沌・変化の象徴である偶数がヤクシャ。

そして、その対となるものこそが秩序・不変の象徴である奇数の数字、人々は『五つの奇跡』と呼んでおります。それらが10本の指でなぞらえて生まれた教義を十指の戒律と呼んでおります。」




―五つの奇跡。




1の奇跡 『実在』



3の奇跡 『接続』



5の奇跡 『調和』



7の奇跡 『叡智』



9の奇跡 『超越』




それは奇数の数字に或る本質から生まれた人が人たりえる意志の象徴だそうだ。




『ところで、五つの奇跡ってのはヤクシャみたいに存在する者なのか?』




「残念ながら存在はしていません。ですが、古の文献ではその奇跡をモチーフにした英雄物語が幾つも存在していたとされます。今となっては解りませんが古き時代には存在していたのかもしれません」




『その一つが、ドール=チャリオットってわけか』




「そうですね。7の奇跡。そういったものを自身の武器や装飾に刻む事自体は特に珍しくもありません。驚いたのは、メイにそこまでの教養があった事ですね」




どさくさに紛れて友人をディスんのか…!?




「ですが、彼女メイなりの祈りがその防具や鞘には刻まれているという事をジロも胸に留めていて欲しいのです」




どうやら、俺がさっき無関心に返事をしていた事を多少成りにも気にしていたのだろう。



…たしかに、そういう意味が込められているとすればこの防具の見方だって変わる。



メイの自信作だ、有難く使わせてもらうとするさ。




その後も他愛ない話をしながら歩き、中央の噴水通りを抜け


北の方角にあるギルド本部への一本道直前





ある男に遭遇する。





「あら、その娘がアリシアちゃんね」




『…!お前は』




タイトな服装を身に纏いネットリとした声色の長身男性。



リンドと同じ知恵持ちの竜、ウロボロスもとい



「ヴィクトル…」



リンドが斜に構えて男の名を呼んだ。




「アッラ~、先日と違って随分とご機嫌のようねぇリンド。ようやく口を開いてくれるなんてね」




飄々として軽快なテンションで話しかけるヴィクトル。



だが、そんな奴のテンションとは打って変わってこちら側は穏やかな態度を見せる事ができない。



それも当然、公になって無いとはいえヴィクトルは正真正銘のヤクシャ。



前回は粛々とその場を去って行ったものの



絡めば何かと騒動を起こすヤクシャのイメージが未だ完全に払拭されている訳ではない。




「そう身構えないで頂戴な。言ったわよね?アタシは暫く傍観するって。何も別に取って喰おうってつもりは無いわ。そもそも…アタシの求める者は既にその娘から消えているわけだし」




ヴィクトルの求める無限のエネルギー機関。それは、当時目覚める事の無かったアリシアの中にあったからこそ俺たちに近づいた。

しかし、彼女の魂が一つとなって形を成した今ではそれ自体が存在しなくなったと言える。



『だったら、お前は何しに俺らの前に来た』




「ツレナイわねぇ…アタシも療養が終わった訳だし帰る前に挨拶だけでも…って、思っただけヨ」




「そ、ならもう十分よ。前を行っても構わないかしら?」




アリシアは泰然とした素振りでヴィクトルの横を素通りしようとする。



それに連なりリンドもヴィクトルを振り返らねばならない距離になるまで目を離さなかった。




「バァーイ」




―俺には解る。



アリシアが震えている。そして、何よりも俺の中に彼女の恐怖の感情が魔力を経由して伝わってくる




…未だこの娘の中で、ウロボロスと言う存在は恐怖の象徴でしかないのだ。







「いいわぁ…アリシアちゃん。強がってる所がまた可愛いわね…食べちゃいたい」







アリシアに聞こえているかどうかは解らない程の小さな声で呟くヴィクトル。




だが、俺には聞こえている…聞こえているからこそ感じる。





「ジロ…アリシア…彼の事はあまり信用しないほうがいい」





リンドはあまり見せない口調で俺たちに警戒を促した。




「言われなくても」



『―だな』




そして、俺たちは歩き続けた




ニドが待つギルド本部まで。

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