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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
34/199

30:絆を紡ぐ意志は、光よりも眩しく闇よりも美しい



「RUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」



全てを圧倒するような咆哮。

大きな鉄が歪む時に、擦れる時に聞こえるような音に似ていた。



獣のような長い口。間に連なる牙。


体中の関節からガチゴチと廻る歯車。


俺は生きてた頃に見ていた怪獣映画を想起させる。



確かにこんな奴いたなぁ。



だが、そんな感慨深くしている暇も無かった。



そいつの赤く光る眼光がこちらを目視する。



『…やばくねえか?呼び出したは良いけど、こいつをどうするつもりなんだよ』




「今、ここで…破壊します!」




『え?出来るの??』



シアは俯き震える手をごまかすようにその手にある杖を一層強く握り締めた。



「…それが、私に与えられた使命…」



おま、怖がってるじゃねえか。

様になった態度を見せても結局は子供…。


こんな過酷な状況を何故、巫女とか言うやつはこの子に課したんだ?



「…ジロ様。この場では貴方の力が必要となります。」



『っ…!!具体的には!?』



「貴方に備わった、魔力。それは“一面世界”…貴方が本来存在していた世界から流れてくるもの。我々は七曜の可能性と呼んでいます。」



『七曜の可能性。』



「GAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH」



ヤバイ!こっちにあの化物が近づいて来た!




「させません!ディバイン・コーズ!オメガ・プロテクション!!!」




シアの詠唱は俺らとメガロマニアの間に壁のような大きな光の殻を生み出し、

突進にも近い接近を防ぐ。



「GURUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU」



メガロマニアはそれを破壊せんと、その絡繰り塗れの両腕を使って壁を叩いた。



「グラン・レイ!!!」



続くようにシアは敵を防ぐ殻から一閃


ソプラノにも似た音を響かせながら大きな光線が放たれ、巨大な機械躯を押し返す。

それに耐え切れず体勢を崩し、仰向けに倒れるメガロマニア。


ガシュ、ガシュという壊れた機械のような音を出しながらジタバタと手足を暴れさせている。



「ジロ様、よく聞いてください。このメガロマニアは運命という機械の集合体。因子によって歯車が連なって生まれた存在。例えるならゼンマイを強引に巻いて生まれた存在なのです!」



『つまりは、そのゼンマイを破壊すればいいんだな!何処にある!!』



シアはその質問に視線を変えて促した。


彼女の視線の先にあるのは



『アリシア』



大雑把だが、事の輪郭が掴めた気がする。

シアがアリシアから取り出した糸は、この化物と繋がっていた。



彼女がこの実存する運命のファクター、つまりゼンマイとなっていた事になる。



『だが…まさか、お前は…この娘を殺せというのか!?』



「GUIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII」



大きく鉄が軋む音。

メガロマニアが起き上がり、大きく咆哮した。



「それは違います!!ジロ様!貴方なら出来る…彼女を救う事も…この化物を破壊する事も!!」




ドン、ドン、という二度の大きな衝撃音。


一度目はメガロマニアの背中にあるジェット機のエンジンに似たものが火を噴いた事。


二度目はその勢いにまかせて再びこちらに接近し、その巨大な躯でシアのプロテクションに体当たりをしてきた事。


機械躯は距離を詰め、その機械仕かけの腕でこじ開けようと何度も殴り掛かって来た。



その状況に俺は気が気でいられる筈もなく焦燥する。



『だから、どうすりゃいいってんだよ!!!!!』


ヤバイ…これは、マジでヤバイ。ヤバイヤバイヤバイヤバイ…!!!


――シテ。



『ああ!?なんだって!?』



――ボクヲ…ツナゲテ



シアの声では無い誰かが俺に呼びかける。

この感覚、知っている。

傍らで“くん”と揺れる鎖に繋がれた杭。



『アルメン…おまえ』



――ボクヲ、アリシア ニ ツナゲテ



なんとも抽象的な提案だ。

だが、今でもメガロマニアの過激なノックは続いている。


シアが杖を握り締めながらそれを許さんと全力を奮っている。


シアは俺やアリシアと違って、魔力にだって限界があるはずだ…。



…やるしかねぇ




『アルメン!頼む!!!』



俺は意を決した。



ジャララと小気味良い鎖の音をたて、その杭は眠るアリシアの胸に刺さる。



そして、刹那 視界が大きな渦に飲まれた。





















「こ、こは?」















そこは、先ほどとうって変わるようなごく普通の、ありきたりな部屋。


かわいいぬいぐるみが揃えられて。


少し散らばったいくつもの絵本。


小さな女の子ならではの独特な雰囲気の部屋だった。



「あれ、手…」



俺は一人の人間の姿をして立っている事に気付く。


どういうことだ?


ここは……




「ぐ…ぎ…」




うめき声が聞こえる。


俺はその方向に眼を向けると、



アリシア?



一人の少女が何かに馬乗りになる様子が映り込む。


俺はゆっくりと歩み寄り、眼を見開いた。



アリシアが馬乗りになった相手の首を絞めている。



そして、相手も見間違える事なくアリシアの姿をしていた。



マウントを取られて首を絞められたアリシアも抵抗するように上にのる彼女の首を絞め返していた。



じゃれ合っているように見えれば、どれほど良かっただろうか。

それを認めさせない程に、二人からは子供に似つかわしくない剣幕を見せつける。



アリシアがお互いに首を絞め合っている。



「死ね」



「お前が死ね」



「お前は消えろ」



「お前が消えろ」



ニドの言葉を思い出す。

彼女らは終わらない輪廻の中でもがいている。

互いを否定しながら自己の意識を保っている。



光と闇の相殺状態



ここは、アリシアの心の中。せめぎ合う魂を実体化させた姿だと理解した。




「お前はいらない」



「お前がいらない」



互いが互いを否定する。



「殺す」



「殺す」



互いが互いを排斥する。


俺は受け入れ難い凄惨な光景にその手で目を覆う。


…やめろ



「死ね」



「死ね」


互いが互いを殺そうとする。



やめてくれ…




「お前が…パパを殺した」



「お前が…パパを殺した」



互いが互いを呪い合う。



もうやめるんだ……やめろ!!!



俺はいてもたっても居られず二人を引き剥がそうと近づいた。




「誰だ」




「お前は」




俺はその“異物を見るような視線”にビクリと動きが固まる。

今までアリシアが見せなかった、俺に対しての拒絶の反応。


まるで、俺を“知らない誰か”を見るように。


…それも、そうだろう。


今の俺の姿は魔剣ではない。




俺は理解していた。



魔剣だからこそ彼女らは俺をパパと呼んでいた事に。



理解していても、その居心地の良さに甘えてしまっていたんだ。




そして、この娘も…アリシアも一緒だ、彼女らは魔剣の中に感じるリューネスの名残に縋っていたに違いない。



―パパはパパだよ?―



アリシアにした最初の質問に俺は胸が苦しくなる。



次の質問の時、反転したアリシアも…きっとこう言おうとしていたのだろう。



―パパはお前の、魔剣の中に居る―



止めようとして伸ばした手は拳を作り自分の胸に当てる。



認めなくては。



この娘たちは、本物の俺の娘なんかじゃない。



そして俺は…アリシアの父親なんかじゃない。



俺は、本当の父親リューネスにはなれない。



この事実だけは、どう転がろうとも変えられない。





…それでも。否定されたとしても…俺は




これから俺はどうするべきか決まっている。




――約束したんだ。ずっとこれからも一緒だって。




「アリシア」




俺は再び歩み寄る。



「くるな」



「近寄るな」



否定の言葉なら幾らでももらってやる。

生前から責任を成せなかった俺の自責の念には敵わない。



「おまえは違う」



「おまえは違う」



罰として受け止めるなら、むしろ心地が良いくらいだ。



それ以上に…もう約束を違えたくはない気持ちが大きい。




これからも、きっと



もっと大きな局面にぶつかる事があると思う。そう、確信している。




だからこそ。きっとここで俺がアリシアを救わなければ





前に進めない。






――俺を罵倒する二人のアリシアを強引に引き剥がした。




そして、強引に二人をその腕で抱き寄せた。

そのふたつの頭を強く自分の懐に押し付けた。



複製された魂によって押さえ込まれた闇の魂。


それを恐れ、否定する事で幸せに縋りついた光の魂。





互を否定し合う二つの心をこの胸に受け止めた。




それを、二人は嫌がることなく身を預ける。




「アリシア。お前たちには苦しい事がいっぱいあった。思い出せば思い返すほどに、『その時』の自分を責めるのは当然の事なんだ。否定したい気持ちだって死ぬほど解る。」




俺だって同じ。そして、文字通り自分を殺した。

今でもそれを間違いだと思う事は難しい。



けれども、それが正しくないと思えるきっかけを俺は知ろうとしている。



そして、俺同様に藻掻き苦しむこの娘を救うきっかけに俺はならなくてはならない。



だからこそ。側に居続け、肯定する。



俺は二人を優しく撫でる。




「アリシア。俺は、君たちの父親パパだ。きっと本物になるのは難しいだろう。でも、

それでも…君たちの苦しみを俺は受け入れる。認める。だから、ゆっくりでいい。

互いに自分を認め合ってくれ。受け入れてくれ。そこに恐いものなんて何も無い。パパがずっと居る。」



簡単な話だ。



子供の責任は親の責任だ。



リューネス。お前の責任を俺が背負ってやる。


だから、どうかこの娘たちを…幸せに導いてくれ



「パパ…」


「…きっと私たちが互いを認め合えば…もう今までの私たちじゃなくなる」


「自分が何者か解らなくなる事なんていくらだってある」


「パパにいっぱい迷惑を掛けるかもしれない…」


「それぐらいが丁度いいんだよ」


俺の腕に強くしがみつく小さな手。


「パパ…」


「私たちを、受け入れてくれてありがとう…」


今にも泣きそうな声


「辛い事があっても、周り全てがアリシアを否定しても、変わらず側に居るさ」





「「約束だよ」」





俺たちは内側から暖かな光に包まれていく。





「ああ、約束だ…だからさ。もう、こんな所にばっかいないで…出ておいで。俺の娘アリシア




――こんなのは、きっと失ったもの同士の慰み合い。傷の舐め合いに変わらない。

でも、それでいいと思った。

心に空いた足りないものを埋めるには、きっと一人では出来ない事だから。

その役割を担うモノ同士で幸せを演じたってバチは当たりゃしない。

罰は既に、頂いたのだから。

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