23:世界は絡まった一本の意図
「さて、お答えを頂きたい。」
アシュレイは更に口角を釣り上げ俺たちを見下ろす。
「この街の死か、自身をこの僕に捧げ、僕の為に役立って頂くか。」
アシュレイは言う。
選べ。 選べ、えらべ エラベ!!!
「断るなら、僕の透化を再び兵に使用し、この街の人々は見えない相手に一方的に虐殺されるだけです。」
『・・・・・クソが、何がヤクシャだ。何が人間だ。お前は人間なんかじゃねえ、人の皮を被った悪魔だよ。』
「お褒めに預かり光栄ですね。このヒトの身を以て、僕を高尚な悪魔と呼んでくれる御厚意。実に嬉しい限りですねぇ ぇえ。」
苛立たしい。にやにやと見せるその顔を今すぐにでもぶん殴ってやりたい。
アリシアは握り締めた剣を降ろす。
「正直、僕は構わないと思っている。この先、どうなっても。パパだけは譲らない。きっとそれは…アレも同じ答えを出すと思う。」
アリシアは俺を一瞥して空を仰ぐ。
『―。』
俺の思考は相変わらず休まる事はない。
この子にとって、本当に大事なものはなんなのか?
―僕はパパさえいればそれでいいと思っているから。
・・・・はたして本当にそうなのだろうか?
この子の望む「パパ」とは本当に俺なのだろうか。
かつてレオニードが言っていた言葉を思い出す。
おまえは父という幻想に囚われている
その通りかもしれない。
魔剣の契約によって蘇生させられた彼女の意志の根源は
リューネスの願い。
彼女の判断は俺という魔剣に取り憑いた本来の父の願いに繋がってるからこそ言えるものなのだろう。
俺の…トウハタジロウという存在の意思に関わらず
側にいてわかってるつもりだがやはり傷つかづにはいられない
心が軋む。父という立場を知っているからこそ
孤独が俺の寂しさを掻き立てる。
…だが、
『ふざけんなよ』
いまそれをうじうじと考えている場合じゃねえ。
むしろ割り切っていくしかねえ。
俺は約束をしたんだ。
この子の側に居続けると。
ずっと離れないって。
『どいつもこいつもすき放題で勝手言いやがって。』
俺は、俺が決めたことを辞めるつもりはねぇし、俺の選択を奪われてたまるかよ。
『てめえらの思い通りなんてまっぴらごめんだクソヤロー』
「そ う で す か」
アシュレイはその答えを待ってましたと言わんばかりに嬉しそうな顔をしてパンと大きく音を立てて合掌する
クソが、結局のところ此奴にとっては最終的な欲求が虐殺でしかない。
兵たちの姿が足元からゆっくりと透明になっていくのがわかる。
これが奴のもうひとつの能力、透化。
任意のものを見えなくさせる能力。
見えなくなった兵は、好き勝手にこのギルドの街の住民に対しての虐殺をあの男の指示通り執行する。
自身が反撃を受けて殺されることを知っていても、その愚行を止める事は無いだろう。
ならいっそ…俺は、こいつらをその前に殺―。
俺はその考えに一旦距離を置いた。
命を守る為に奪うイノチ。
その選択が…こんなにも簡単でいいのだろうか?
火の粉を払いのけるような判断で―。
もしそうなら。
俺は、俺の魂は既に魔剣のような業を携えている。
それを認めなくてはならない…。
ごく普通の人間として或るべき判断から逸脱した思考に対しての葛藤に苛まれる
しかし、それも束の間。
俺は気づく。
アシュレイの後ろに居る存在に―
『―いいんだな?』
「ん~?」
俺は一言だけ問う。
『本当にそれでいいんだな?』
アシュレイたちの兵たちはもう胴から上しか目視で確認できない状態だ。
もう少しで姿はまるっきり見えなくなるだろう。
それでも俺は問う。周りの兵にも聞こえるように大きな声で。
『お前たちの選択に、後悔はないんだな!!本当に!!それで!!』
「何のつもりです?少し不快ですねぇ。そのセリフかこちら側のモノなんですよ。あなた達こそ、それでよろしいのですか??このままでは街での虐殺、戦争は始まりますよ???」
『お前、何か忘れてないか?』
「は?」
『ここは、ギルド管轄の街のど真ん中だ。それが何を意味してるかわかってるのか?』
「何を今更、脅しのつもりですか?…あ~、そうですか、残念ですがお仲間なら期待しない方がいいですよ?彼らなら、今頃」
「お前の後ろだよ」
刹那の出来事だった。
アシュレイの語りを遮るその一言と共に上から叩きつけられる一閃は大きな衝撃音を鳴らし彼を地面に抉りこませた。
四つん這いに近いみっともない姿で状況が呑み込めないアシュレイは必死に把握しようと首をギリギリと回し地面に擦りつけられた顔面を上に向ける。
「なん…で?」
「やはり異世界の人間は堅くできてるものだな。戦争屋。」
彼の背中に重しの様に圧し掛かかっている存在。
うさぎを模した小さな絡繰の体躯に威厳のある声。
ギルド長。
リンドはその者のことをそう呼んでいた。
「ニ…ドォ…!」
歯を食いしばりながらギルド長の名を吐き出す。
そんな彼の態度を気にも留めず、ニドはその手に持つ長く黒い棒の端で彼の頭を押し付けるように殴る。当然それによって再びアシュレイの顔が地面に擦り付けられる。
「やってくれたなァ、アシュレイ。私の街をこんなにしてしまうとは。ヤクシャってのは本当にどう転んでも節操が無い。」
そしてもう一度殴る。
「ぐっ」
「おっと、塵芥を食するのに勤しんで喋れないかい?なら、代わりに私が貴様の汚い汚い口の代わりになってやろう」
もう一度殴る。
「『何故、貴様らの足止めは出来ていたはず?』とでも言いたいのだろ?」
もう一度殴る。
「残念だが、君が折角用意してくれた『ウロボロス・ケイジ』・・・だったかな?」
もう一度殴る。
「確かにあれさえあれば例え大きな魔力を持った私でも暫く封印する事は出来ただろう。」
「ならば何故!!貴様がそこにいる!!!」
殴られながらも必死に抵抗しながら顔を上げるアシュレイは叫んだ。
・・・ん?
そのやり取りを見ている俺はある違和感を感じた。
これは、震えてる?
自分の視界が少し揺れている。
地震…ではない。
俺はアリシアに目を向ける。
その表情は先ほどと変わらず同じ、はずなのだが。
感じる。彼女から流れてくる魔力と同時に受け取る感情。
これは恐怖だ。
『アリシア?』
彼女からの返事はない。ただただ、アシュレイとニドを見つめながら
その手を震わせていた。
そうあの時からだ。
ウロボロス・ケイジ
その言葉が恐怖となって彼女の中で駆け巡っているのだ。
「君にはその答えを受け取る権利は無いよアシュレイ。しいて言うなら、それはもう『対策済み』だ。」
「ぐっ」
「そして君の厄介な能力も、これで終いにしよう。」
最早何度目であろう 数えるのも止めたくなる程に、アシュレイの頭を黒い棍棒の端で叩きつけるように殴ると、
「我が名のもとに命ずる。この者の業を読み解き、その理を崩し給え。」
その呪文に応えるように黒い棍棒に刻まれた異国の文字が光り出す。
その色はさながら月に照らされた夜の海のような色をしていた。
そして、機械の電源が落ちたようななにかが抜けていく音を鳴らし。
先ほどまで透化によって見えなくなっていたはずの兵たちの姿が露わになる。兵の皆が皆、アシュレイの様に状況が理解できず戸惑い、行動を起こすことが出来ない。
「それは・・・!!」
「君が無力化を得意とする魔力に依るものではない。これは『混沌石』を加工した代物でな、理を狂わせる性質を持っているのだよ。本質、理に依存した君の能力に対しては良い効き目だろう?」
魔力とは違う能力を封じる力か。アンチスキルか―。
「兵たちよ!!!!!!!!」
どよめく周囲を突如として圧倒するニドの大きな声が兵らに向けられる。
ビリビリと
ビリビリと
「兵たちよ!!!!貴様らの人生、ここに来るまでに至った経緯に私は差ほど興味もない!!!!興味が無いから選ばせてやろう!!!!私のもとでギルドとして依頼を受け、生きて金を得るか!!貴様らがその『依頼の対象』となって殺されるか!!!!選べ!!!」
「馬鹿か!!!まさか僕の兵を買収するつもりか!?」
「人聞きの悪い、私は彼らに最善を尽くして欲しいだけだよ戦争屋。お前が用意したはした金なんぞで命を粗末にはしたくないんでね」
「ふざけるなよ?こっちは一人一人に飛空艇一つ買える金を撒いてるんだぞ。」
「それは良いことを聞いた。」
「は?」
「こちらの依頼の報酬はこのクズと同様だ。飛空艇一つ買える金だ!!!どっちがいいか選ぶがいい!!!!」
その言葉に全ての兵達の動きが急に静まる。
『こりゃあ、決まったな。』
圧倒的だ。金にものを言わせていたつもりが、結果的に同じ条件でしかも無駄に死なずに済むと来た。こんなの誰がどう見たってギルドの依頼を受けるに決まっている。アシュレイも墓穴を掘ったな。
「なら、俺は倍だ!!!その倍払うぞ!!なんなら望む額を支払おう!!ふざけるなよ!!ここで貴様ら裏切ってみろ!!それこそここで大きな戦争を起こしてやる!!」
もはや小物のような言い回しで無様な格好で兵たちに交渉を持ち掛けるアシュレイ。
ニドはそれを黙らせるように棍棒でもう一度殴った。
「私は君たち兵を評価しているつもりだよ。勿論、ここで私の条件を飲まず愚かにも死に向かう愚行を選ばなければの話だがね。」
ニドは片腕を上に向け「空を見たまえ」と促す。
それに連なるように俺も空へと見上げる。
『!?』
青空に大きく佇むアシュレイの飛空艇、その横から不規則に高速で動く巨大な飛行物体。
「あれは」
アリシアがはっとしてそう呟く。
『おいおい…嘘だろ?』
実際に目にするのはこれが初めてだ。しかし、一目見ただけでわかる。
映画にだってゲームにだって出てる。現実には、俺の世界には出ていなくたってあのシルエットには見覚えがある。
飛空艇に並ぶほどの巨躯、大きく羽ばたく翼、長い首と尻尾。
ドラゴン―。
「本当に君らが我々と『戦争』をしたければ構わない。それは君らの選択だ。だがもう一度考える時間をやろう」
そいつは上空からこちらに聞こえるほどの咆哮を上げながら飛空艇に体当たりをする。
そしてバランスを崩した飛空艇から少し距離を取ると
『あれは…何をしてるんだ?』
こちらから伺えるのは、ドラゴンの頭から小さな光が点滅を―
「全員ふせろ!!」
ニドの大きな叫び声に咄嗟に従うように全員が屈む。
アリシアも姿勢を低くして俺は地面に寝るような形で置かれ。再び上空に目をみやる
『っ!!』
雷が鳴った時のような周囲を包むフラッシュ。
その直後にドラゴンから放たれた大きな光の一閃が飛空艇を貫く。
飛空艇はそれに耐えることが出来ず、所々で爆発を起こしながらギルドの街を外れるように落下してゆく。
ドラゴンはその後、また不規則な動きで羽ばたきながら、やがてこちら側が見えなくなるまでその上空を泳ぎ去ってゆく。
あまりの展開に周囲が呆気にとられ、静寂が続く中
「―ぷっ」
「あっはははははははははははははははははははは!!!!」
アシュレイが急に大きく笑い始める。
「こりゃあご破算だ。計画は失敗。まさか『知恵持ち』のドラゴンまで使役するとは…読み違えたよ。降参だ。」
「降参?何を勘違いしているんだい?ヤクシャが今更まだ生きながらえるつもりか?」
ニドは静かに低い声でそう言った。
「いいや、負けだ。このまま行けば僕の死を以てね。」
「ほう、潔いな。では兵たちに依頼の内容を伝えよう。」
ニドはアシュレイから離れる
そしてアシュレイの伏兵は彼の次に出る言葉を息をのみながら静かに待つ。
そして、一言だけ言いう。
「単純だ。このヤクシャを殺せ。その手に持つ銃でな。」
「―っ!」
アシュレイの兵たちは再びどよめきお互いに目を合わせる。
交互に、雇い主であるアシュレイを見ながら、『誰が殺すのか』を決めかねている。
「誰でもいい、ああ、大した選択ではない。一人がコレを殺せば全員に報奨金が与えられる。裏切りというレッテルを頂くのが嫌か?気にしなくていい。お前たちは英雄だ。ここでヤクシャを一つ始末できるんだ。この上ない栄誉だ。報復が怖いか?安心しろ。そいつは君たちの手で殺されるんだからな。」
そんな話をしている中、アシュレイだけはこれから殺されるっていうのに先程の焦りとは打って変わって涼しい顔をしている。
今度こそ諦めたのだろうか・・・?
本当に諦めたのだろうか?
俺の中でざわつく何かが、ここで「奴を殺してはいけない」という危険信号を放っている。
しかし、この場面で確証を得られない状況で俺は何を言うことも出来なかった。
何もかもが決まり切らないまま時間だけが過ぎる中、それは突然起きる。
―ガコン
確かに聞こえた。何か歯車が動く瞬間を。
機械らしきものが周囲にあるわけでも無いのに。
それは確かに俺の中で聞こえた。
「しまった」
刹那、ニドのその一言と同時に事態は急変する。
ニドの棍棒を持つ腕がなんの拍子も無く切断される。
「この力は・・・・・『乖離』の」
ニドは距離をとるどころか周囲を異常な速さで逃げるように駆け回った。
分かることは一つ。ニドが逃げながら周囲にある遮蔽物が次々と綺麗に切断されていく。
何もないが、『何か』に襲われているのは解る。
一体、何に襲われている?
「お前たち逃げろ!!!すぐここから!離れるんだ!!」
ニドは焦る声色で周囲に逃げるよう促す。
その号令に合わせるように後ずさりする兵たち。しかし、行動を起こそうとする直前
下がる兵の一つの脚がなんの前触れもなく切断される。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
やばい、巻き込まれたのか。
脚を切断された兵は断末魔をあげ、その惨状に恐れをなし他の兵たちも散り散りに逃げ惑う。
俺は必死に周囲を見渡す。
『アリシア!!』
「僕は大丈夫。なんというか…わからないけど、この襲撃…不思議と僕らには襲ってこない気がする。そして、ニドだけじゃない『他の何か』を狙っている気がする。」
『なぜわかる!?』
「オンナの勘ってやつかな」
どこで覚えたそんな言葉
『くそっ、そうは言うがなぁ…!!!』
俺はもう一度周囲を見渡す。未だに街の周囲で起きる謎の切断現象は収まらない。
ニドは逃げつづけ、ほかの兵たち含め一般市民も巻き込まれぬように兎に角ここから離れようと走って逃げている。
『おい、あいつはどうなった!?』
この混沌とした状況で思い出すようにアシュレイが這いつくばっていた場所に目を向ける。
『ッ…!!いない!?』
「どうやら一本取られたね。アイツに」
アリシアは街の奥の2つの人影に目を向ける。
一人はアシュレイ。もう一人は
不思議な特徴をしていた。
この世界に慣れていないからであろう。
様々な金の装飾が施された白いローブを身に纏う白髪女性。
その姿はどう見ても神官に見える。
その目には・・・盲目なのか?一つの布で隠すように覆われていた。
そして、その女性は俺たちの視線に気づきこちらに顔を向けると、
クスリ
軽い微笑を見せ、瞬時にアシュレイと共にその姿を消した。
そして、それを一つの節目にするようにニドらを襲う謎の切断現象も収まった。
「アリシア、ジロ…大丈夫かい?」
ニドは急ぎ俺らに近づき身を案じる。
『ああ…ニド、あいつは一体。』
「私も驚きを隠せない。まさかヤクシャ同士が徒党を組むなど。」
『あいつも…ヤクシャなのか?』
「No.4 『乖離』の担い手。セラ―『セラ・ゼルクリンデ』…最近、共和国で幅を利かせている異端の信仰宗教の大神官だ。」
セラ――四番目
「しかし、信じられない。あの女は唯一ヤクシャの中では絶対的に周囲に関りを持たない。
あの能力も奴が決定した不可侵領域を侵した際に観測した能力だ。まずあんな大物がひょうひょうと此処に来るはずがない…一体、なんの『気まぐれ』で?」
ありえない事象が現実に起きる。
まぐれがあたかも必然的に起きる展開。
俺は、女神の言葉を思い出す。
もしその運命を操る者が居るとするならば。
彼女は言った。その存在を知ればあなたは運命に押しつぶされると。
『警告…なのか?』
「―パパ?」
アリシアは怪訝そうな顔で俺を見る。
俺も正直、動揺を隠しきれない。
思い返せば、この短期間で色々と事件が多すぎる。
俺は背筋が凍るような感覚に見舞われる。
ひょっとすると俺が思う以上に運命を操る『そいつ』は俺が見つける前に、
俺らの近くで・・・俺らを把握しているのではないかと。
そして唐突に襲い掛かるヤクシャ。
俺は暫く今までの事を思い返して思考を反芻するしかなかった。
これからの為に、何をすべきか。
共和国、大聖堂にて。
「いやぁ、まっさか君に助けて貰えるなんて思いもしなかったよ。セラ。」
戦争屋は飄々とした態度を見せつけながら軽い口で感謝を述べる。
「全ては、神の示した道。そこに私がただ歩んだだけです。貴方への個人的な干渉は致しません。事が終えたのなら即刻此処から立ち去りなさい。フール」
「ええ、ええ、言われなくても帰りますとも。ここはどこもかしくも真っ白で好きじゃないんでね。」
「……。」
「ところでさぁ。ひとつ、質問いいかな?」
「……。」
「あんた、一体。何のつもりで僕を助けた。」
「何か、勘違いしてますね?」
セラは静かに口を開いた。
「貴方は私が神から賜った導きに沿った際にたまたま『居た』にすぎない。本来、貴方の生存など視野には入れていなかった。そして、此処へ戻る際。貴方があの混乱に乗じて勝手に私について来ただけに過ぎない。それを、『助けて貰った』などと…神の示した道に矮小な存在である貴方如きが名前を付けるなどとはおこがましい。」
それは素直じゃない者が誤魔化すように並べた言葉にしか聞こえないだろう。
その何を観ているかもわからぬ布のしたの眼で。
彼女から発せられる言葉でなければ。
「ハッ、そりゃあもう神様サマサマじゃないか。あとでお祈りの一つでも捧げてあげましょうかねぇ。気が向いたらネ」
「不要です。早々に立ち去りなさい。」
「へいへい。ほんじゃ失礼致しますよ、大神官サマ。」
アシュレイは器用に帽子をくるくると回しながら、大聖堂を後にする。
彼女は知っていた。
あの男が殺される直前にあの場所で何が起きようとしていたのか。
『神』がそれを示し、それに応え避けなければ非情なまでの惨劇が待っていた事を。
あの場所に自分と戦争屋意外にも『全てのヤクシャ』が揃っていた事を。
そしてそれを知っていて逆手に取り、彼があの場を凌いだ事実。
「何という不徳。戦争屋。貴方は、一体何処まで『それ』を知っているの。」
得体の知れない何かを抱えている彼の後ろ姿に、セラは小さく呟いた。