小さな少女の永い寄り道 前編
僕は被害者だ。
パパは魔物狩りを生業としていた。
その地域ではギルドでも有力な人材で、特に強大な魔物を相手を積極的に狩ることから
クラウン・イェーガーと呼ばれていた。
選ばれ死勇者のような凄まじい力もあるわけではないのに
大きな化物を前に恐れる事は無く。自信を、仲間を信じ、可能性から辿って結果を残す成功者。
少し、狩り事に対して遊び半分で行ってしまうきらいはあったが
誰よりも優しく誰よりも勇敢な父親だった。
私は、そんなパパの背中を見て育った。
「パパ!おかえり!!」
「ただいま、アリシア」
そっと抱き寄せるパパの胸はとってもあったかくて大好き
「今日はどんな魔物を倒したの?」
帰ってくる度に教えてくれる、色んな魔物をどうやって倒したか聞くのが
私の日課になっていた。
それをママがやめなさいと僕とパパを叱るのも
いつも通りの日常。
執事が用意してくれたお菓子はいつも好きなもので大好き
メイドが作ってくれるぬいぐるみも可愛くて大好き。
ママが一人怖くて眠れない時に歌ってくれた子守唄も大好き。
でも、やっぱり いつも優しくしてくれて
私(僕)の知らないお外の話をしてくれるパパが一番大好き。
だから知りたかった。
小さな好奇心だった。
私は爺ややママに内緒で、パパの乗っていく荷馬車の荷台に隠れてひっそりとついていった。
今では後悔している。
私は知りたいものが全部自分の好きなものだと思っていた。
私が見たかったものはパパが話してくれるような優しい世界だと思っていた。
だから、私は動くことが出来なかった。
目の前に映る大きくて
、大きくて大きくて大きい大きくて大きくて大きい大きくて大きい
大きくて、大きくて大きくて大きい大きくて大きくて大きい大きくて大きい
大きくて、大きくて大きくて大きい大きくて大きくて大きい大きくて大きい
醜い、どこに目があるかもわからないのに私を見ているような
ひどく生暖かくて臭い風が私に覆い被さろうとするような感覚。
服がベトベトになるようなほどの雨が降ってる。
怖い、こわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ足も動かないコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワパパイコワイ震えて声も出ないコワイコワイコワイコワイコワイコワコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイママコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイココワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
このままなら一生、生まれ続けるだろう自身の恐怖の感覚にその声は聞こえた。
「アリシアァアアアアア!!!」
パパだ
私はここ! 此処にいるよ!!!
声を!声を出さなくちゃ!!
「パ―――」
私の意識はそこで暗転する。
気づけばそこは、真っ暗な闇の中だった。
私は一体どうなったのだろう。
何もわからないまま、闇が続くばかりだった。
気づけば私は立って歩いている事を知る。
何も見えない場所をずっと歩いていた。
ずっと…ずっと…ずっと…
今が何時なのかもわからない。
寂しい。パパ…ママ…じいや…
今すぐに会いたい人たちの名前を呟きながらずっと歩き続ける。
夢だったら醒めて欲しい。
夢だったら醒めて―
きっとあんな怖いモノを見たせいで見ている悪夢なんだと
眼が覚めれば、皆がいて きっと―パパも抱きしめてくれるに違いない
でも、もしかしたら…これはパパに黙ってついてきちゃった罰かもしれない。
ごめんなさい ごめんなさい
私は涙を流しながら、歩き続ける。
もう疲れた、お腹すいた…
私はついに限界が来てしゃがみこむ
ねぇ、誰もいないの??
本当に誰もいないの??ねぇ!
ねぇ!!!!!!
返事は無い。
私は、再び立ち上がる。
不思議とお腹はすいているのに
歩くことはできた。
どこまで行っても何も無い場所。
変わることなく全てが真っ暗だった。
私は大声を上げて泣いた。泣きながら歩いた。
喉が痛くなりそうなくらい叫んで泣いた。
ずっと泣いた。そして、歩いた。
結局歩いた。
ずっと…ずっと…ずっと…
本当はもう歩きたくは無かった。
でも、ずっと待っていても何かが変わること無かった。
誰かが助けに来てくれると信じながらも―
結局歩き続けた。
「どこまで続いているんだろうね。」
「そうだね」
歩き続けるとようやく変化があった。
私はともだちを見つける事ができたのだ。
いつものように辛くなって泣いていると、声が聞こえてきた
「大丈夫かい?君はいつも頑張っているんだね。」
「うん」
「寂しいでしょ?僕が一緒に歩いてあげるよ。」
「うん」
私はこれで寂しくなんか無い。友達と一緒なら少し頑張れる。
「怖いかい?」
「うん」
「僕もだよ」
「うん」
まだずっと…ずっと歩く。
やがて、歩き続けると 黒い足元から砂の感触を感じ始める。
「これ・・・」
「ああ、砂だね」
嬉しかった。
もうどれだけ歩いたか解らないけど やっと変化が見えてきた。
私はしゃがみこむと、足元の砂を掬い上げてその感触を楽しむ。
いつぶりだろうか。こんな、サラサラしているのがとても幸せに感じているんだ。
頑張ったんだ。私。もう少しかもしれない。
「頑張ろう」
「うん、もうちょっと頑張ろうか。」
私は再び歩き続けた。
時には一人で歌を歌いながら
時には、パパが教えてくれた化け物退治の話を思い出しながら
時には、ママがくれた絵本の物語を思い出しながら
ずっと
ずっと
いつまで歩き続けただろう。
僕は、一体どうして歩いていたのだろうか?
お腹も空かなくなった。
疲れる事もない足を動かして
誰に会いたいのかも忘れた。
今は、君だけが居てくれればいい。
君と、なにか変わるものを見つけれればそれでいい。
ずっと…まだ歩き続ける。
少し大きな変化があった。上を見上げると
夜空がいっぱい見えてきた。
始めてみた光りだった。
爛々と煌く星星に私はすでに何も感じなくなっていた。
「きれい」
口から零れる一言に、一切の自覚が無く
実際何も感じる事は無かった。
足ものと砂も気づけば白い色に染まっていた。
果てしなく広がる白い砂漠。
果てしなく広がる星星煌く夜空。
私は今まで何をしていたのだろうか?
解らない。
ただ、結局の所 僕は歩き続ける。
ずっと
ずっと
ずっと
―もうどれだけ歩いたのだろうか。
私にはわからない
だから聞いた
「どれだけ歩いたっけ」
僕にそんな質問されてもわからない。
「君は知らないの?」
私は首を横に振る
僕は首を横に振る
もはやなんの為に進んでいたのかもわからない。
なんで私はこんな事になったのだろうか?
なんでこんな事を繰り返し、繰り返し続けているのだろうか。
もう歩くのをやめようとした。
私は前に倒れかけ、ぼふと砂の感触を味わう。
「冷たい」
もう何も考えたくない。
もういいよね…私。がんばったよね
もう何もしたくない。何も―
何も考えたくない。
こんな事。
私・・・・・・
僕・・・・・・
私はいつまでも歩いてきた事がどうでも良くなっていた。
誰に会いたいかも忘れていた。
何がしたいのかも解らない。
僕は誰なんだろう。
私は誰なんだろう。
もう解らない…わからない…
頬を擦り付けた地面からズルズルと黒い何かが這い上がってくる。
少しずつそれに覆われる感触が少し暖かった。
私はそのまま、みんなと一緒になろうとした。
みんなと一緒。
真っ黒と一緒。
きっとそれが一番、幸せなんだろう。
もう、なんでもいい
『ようやく見つけましたよ。』
―だれ?
『アリシア。貴方をアリアの祈りに応える為に救いにきました。』
…すくう…わからない
『アリシア。そう…貴方の魂はもう』
わからない・・・・わからない
『これは、私から貴方に与える祝福です。あなたのいる場所まで父リューネスを導きます。さぁ、私の手を』
眩い光を纒う女性は私に手を差し伸べる。
リューネス…
「ぱ…ぱ…」
不思議と涙が込み上げてきた。
私は、よろよろと震えながら彼女の手を取る。
すると一瞬で周囲は夜の砂漠を描いた闇から一面何も無い白い世界となる。
…ア!!アリシア……!!
―誰?
私の事呼んでる?
アリシア!!
声が懐かしい声が聞こえる。
パ・・・・パ?
『お迎えがきましたアリシア。どうか、貴方の心に光りがあらん事を』
「アリシア!!アリシア!!アリシア!!アリシア!!」
私を誰かが揺さぶる
私を誰かが呼んでいる
懐かしい声・
「ぁ――……ぱ」
私が小さな声でそう呟くとパパは強く強く抱きしめた。
目だけで周囲を見渡すと、パパの後ろには形を成さない肉の塊が横たわっていた。
空はとても赤く、雲が黒かった。今までに見たことのない景色だった。
『久々の再開は結構だが、急げよ。リューネス。ここはまだ奴の領域だ。時間感覚が狂っちまう。それに、その娘はウロボロスの胎の中に1週間も居たんだ。―もうきっと普通じゃない。』
「うるせぇ!わかってるんだよ!!」
パパは大きな声をだすと私を毛布で覆い、抱き上げる。
ここはどこだろう。 私は…誰?
「アリシア、もう大丈夫だ。これからはずっと俺たちが一緒にいるからな、ママも…ずっと…ずっと一緒だ」
アリシア?
僕はアリシア?
ずっと?
闇 歩く ずっと 砂漠 夜空 ずっと―ずっと一緒?ずっとこれからもまた
アルキツヅケナクチャイケナイ
い、やだ
「いヤああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
私は今までにないくらい叫んだ
私は今までにないくらい泣いた
私は今までにないくらい暴れた
私は今までにないくらい自分の喉を掻きむしった
私は今までにないくらい目を見開いた。
私は今までにないくらい死にたいと願った。