表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
23/199

22:タダで転ぶ道化は虚無の下僕にほかならない

―意識が朦朧とする。


視界が壊れかけのテレビのようにチカチカと目に見える映像を途切れ途切れにしか見せない。

目下、眼帯野郎が地面で仰向けになっている。

その肩には、俺の刀身がめり込んでいる。


「はぁ…はぁ…」



上から荒い呼吸音が聞こえる。

アリシアか?

大丈夫か?ケガは無、いかna イかkじカlkンbザkkkkkkカカアカカカカカカカカカカカカk・・?



「パパ?」



doうしたんダろう・・・考えがかんがえ、カンガエがまttttt まとまrない



「パパ!!返事をして!!」



俺はだだだだだいzy・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







瞬間、巻き戻されるような音と共に意識が覚醒する。


『―俺は?』


「パパ、意識がもどったようだね」


アリ、シアか


俺は確か、アシュレイを刺したんじゃなかったか


見てる限り、今はアリシアの手で柄を握られている。


「あの男の能力みたいだね。どうやら、魔力関係を弄る体質みたい。パパが奴を刺したままでいたからきっと、パパの内側の魔力と接触して強引に停止させられたってところだね。」


なるほどな、あの時奴を拘束していたアルメンの鎖が解けるわけだ。


アリシアの視線の先にいる者。


ユラユラと立ち尽くす男。アシュレイ・ブラッドフロー


穿たれた肩から流れる血を片腕で抑えながら


俺たちに視線を向ける。



「やれやれ。こりゃあ一本取られましたね~。」



ニコリと見せつける笑顔が少々ぎこちない。



「単なる挨拶のつもりだったんですが、ちょっとばかり意地悪をしすぎてしまいましたか??」



ふう、とため息を着くアシュレイ。あちらから攻め入る様子は無いようだが、



「いまなら殺せるかもよ。パパ」



アリシアは俺が次に出す言葉を待ちながら魔剣を構える。



さて、どうしたものか。



俺はヤクシャと言う存在の恐ろしさは理解している。

戦闘における強さも含め、自身の欲求に対しての異常なまでの執念と

それを遂行するために人であるべき理すらも否定する事を厭わないスタンス。

それでいて己が人である事を肯定する。



しかし、それを殺すことで何が起きるのか全くわからない。

これは単なる勘だ。良くない展開に持ち込まれる、という事の予想以上に当たるものは無いってのも俺が生きてた世界ではようく実感している。

くそっ 実感してるとか言ってよぉ

有効に使えた事、一度だってねぇよな。奈々美のときだって




やっぱり宣言撤回したくなってきた。




それに、今にも殺せそうな奴にトドメを刺す事が…少し怖い。

なんていうかさ…真っ黒な沼に足を入れる感じだ。

人を殺す、という事自体に抵抗を感じるというのもそうだが

ヘラヘラ見せる様子に底が未だ伺えねえ。



『…アリシア。剣を下ろせ。』



「―そう」



多少の不安を感じつつも素直に剣を下ろすアリシア。



「ふぅ。どうやら命拾いはできたようですね。よかった。魔剣そのの力を大きく輝かせる前に僕は終わりたくはないですからねぇ。」



『命が惜しくなったか?ヤクシャ』



「当然です。僕は僕の願いという使命の為に生きなくてはならないのですよ。」



『その出血 死ぬかもしれないぞ?』



「お構いなく。僕もわりと頑丈に出来ているんですよ。『この世界に住む人間』と違ってね。」



『!? お前はまさか、転生者か!?』



「お察しの通りで。君とは同郷の仲って事になりますよ魔剣さん。」



『いつからだ?』



「さぁねぇ。もう随分と前の事さ。何も覚えてません。それでも…僕が求めるのは一つ、争いだけです。」




『何故、そこまで争いに拘る』




「僕には、それだけ。それだけが幸せにしてくれる。どうせ、誰かから聞いているんでしょ?僕の戦争に対しての美学」




リンドの言ってた奴か。




「でもねぇ、ぶっちゃけそんな事は本当に建前に過ぎない。僕が欲しいのは、『完全な僕』だ。」




『何を言っているんだ?お前』




「わかるわけないよねぇ。僕に足りない物が、君には」




アシュレイは眼帯を外す。



『おまえ、それは・・・!?』



どくどくと脈打つその眼帯の下にある眼。


人にはあってはならないモノ


そして、見覚えのある形。


鏡で見た魔剣の視界を司る目の部分にあたる宝石と一緒。



「魔眼:ネグァーティオ。出処は君のそれと似たようなものさ」



『出処?お前はこの魔剣がどこで生まれたのか知っているのか?』



「さぁね。それに関しての情報は高くつきますよ?」



『…まぁいい、それがお前に魔力が通用しない能力の正体だってのか?』



「半分だけ正解。でも根本は違う。この眼は僕の能力の一部にすぎない。」



『一部?』



「この魔眼そのものには魔力無い。けれども、これが視た魔力に一つの反応を示す。それが絶対魔力反射。目視して『認識』した魔力を強制的に媒体エネルギーとし起動、反射もしくは無力化させる事ができる。それがこいつの魔眼たる由縁。」



なるほどな、その魔眼を使う事で、魔力に対しての絶対的な否定をする事ができる。



「僕の体質はね、魔力を否定する。触れた魔力というものを全てゆるやかに停止させてしまう。僕の根本的な性質が魔力の流れに触れて侵食し同調をさせる事で力を失うそうだ。だからこそ僕自身、魔力を使う事ができない。―この魔眼は魔力を有する者にはひどく相性が悪くてね。それ故に僕とはひどく相性がイイ」



魔力を無力化させる体質に、魔力を反射させる眼。確かにこんな奴を相手にするのは一苦労だな。

だからこそ魔力に依存どころかそのものとして或る俺やアリシアからすれば天敵に等しい。



…だが、それなら矛盾が生じる。なぜ、魔力を纏った俺らの攻撃には物理的な抵抗をするのだろうか?



「君が考えている事はわかるよ?このタネ明しをすると皆が皆その疑問に至る。それこそが僕が不完全である理由でもある。」



アシュレイは魔眼を眼帯で覆うと、少しだけ物憂げな顔をする。



「僕はさ、生まれた時から色というモノが解らないんだ。」



『なんの話だ?』



「そのままの意味だよ。僕はさ、君が何色で出来ているかも知らない。言われた言葉で理解はしていてもそれを色として認識する事は叶わないんだ。そのせいで物質に纏わりついた魔力を認識する事が難しくてね。形として認識しないと魔眼の発動がままならない。」



アシュレイは握りこぶしを作り自身の眉間にあてる。



「これは君と同じ世界で生まれてからずっとそうだった。ずっと知りたかった。みんなが当たり前に知るものを。僕は何も知らない事が凄く悔しかった。悔しさが…僕の心の中で雑音としてずっと鳴り響くんだよ…。でもね、それを補ってくれる存在に巡り合った。―それこそが、戦争。戦争は教えてくれた。いっぱいいーっぱい色んなモノを見せてくれる。怒り、悲しみ、喜び、虚無、栄光、衝撃、希望、絶望…色々だ。僕はそれを目の当たりにした瞬間、心が震えた。色というものを認識できなくても、色というものを強く、濃く感じる事ができる」



『そりゃあ、ご苦労なこって。そんな理由でしょーもない事に巻き込まれた人間たちは可哀想だな。』



なんだこいつ。語るだけ語って…同情でも買って欲しいのか?ヤクシャと呼ばれる存在が自身の疾患のせいで自身の行いが赦されるとでも思っているのか??



そんなはずはない―



何が狙いなんだ?



「でもさ、それだけじゃあ足りない。足りないからさぁ。そこで君なんだよ。魔剣。君にも備わっている本来転生者の持つ一面世界の七曜の魔力。それを一気にその躰という器から解き放たれたら…何が起きるだろうね??」



『は?』



こいつ、何を言って―




「今度こそ「ホンモノの色」が見えるのかもって思うんだよ」



アシュレイは指をパチンと鳴らす。




「空を見てごらんよぉ」




















…ウソだろ?



馬鹿な、コレは



だって、さっきは見えていなかったはずだ…



アリシアと見上げた空。



それは影すら映らないほどの上空に泳ぐ大きな鉄の塊。



大きな飛空戦艦が大きく佇んでいた。




『これは…これも、お前の能力なのか!!あそこには何も無かったはずだ!!!!』



アシュレイは口角を吊り上げ、半月の形に歪める。



――…今一度上空を見上げる。



見るだけで解る。


飛空戦艦から下に向けて突出している大きな砲塔。


それは


この街に、俺らに向けられている事を。


理由は当然、解っている。



『俺を…破壊するつもりなの、か…?』



「ええ、先ほど申した通りです。端から挨拶なんてのも真ーーーーーーーーーーっ赤なウソ!!それにねぇ!!いくら僕自身が魔力を使えないからといって、魔力が使えない訳ではないんですよ!!」



当然の事だ、本人が使えないなら他の誰かにやらせればいい。

財閥の総帥ならそんな事は容易いだろうよ



「この魔導放射弾頭の魔力弾の装填に必要な『時間稼ぎ』もこれにてオワリ!ああ、今度こそ。僕に見せてください・・・最高に彩った世界せんそうを!!」



ケタケタと笑う声が聞こえる


奴からすれば本当の狙いはこれだったのか


戦争。


そう、アシュレイ・ブラッドフローはそれだけがしたいのだ。


このギルドがある街を、平和に暮らす人々をブチ壊してでも


ただ一つの 俺だけを理由に 戦争がしたい


そして、自分に無いものを得るため


自分の欲求が満たされる為なら 手順すらもすっ飛ばして


冗談んじゃ…ねえ!!!



本当にトンデモねぇ奴だな!ヤクシャってのは!!



砲塔の先から大きな魔力が込められている

解き放つのを抑えられている光りが球状を維持している。

あれは凝縮された魔力の塊であろう。



あれを、落とす気なんだ。 この場所に



どうする、あんなのレオニードとの諍いで暴走したアリシアの比じゃねえ


このままじゃあ俺やアリシアどころか、この街はパーだぞ!!!!

あのクソ野郎それを解って



俺は今現状最善の考えに至る



守るしかない



『アリシア、魔力を使った防壁は・・・』



「僕もそう考えた、でもそれも無理そうだよ」



アリシアはニヤニヤとこちらに向けられる双眸を一瞥する。


―そういう事か。ふざけやがって


あいつの魔眼は視た魔力を停止、反発させる事が出来る。


そいつが面白そうに俺たちを眺めているのには他ならない。


俺たちが魔力による防壁を生み出す事を予め、予想していた。


そうさ、簡単な事だ。


俺たちの魔力防壁の発動をさせないように睨みをきかせ


上空の飛空戦艦からの攻撃


その直後の魔力の衝突による余波だって魔眼で弾く事など造作もない。


奴は俺たちからずっと目を離さない。


確実に、そして逃げる事さえも出来ないように。



『詰んだかこれ』



「わりとね」



軽くもの言っているけど  正直絶望しかない。



『あの魔力の塊が落ちてくる前に 俺を使ってフルスイングで跳ね返したりできたらいいんだがなぁ』



しょーもない事をぼやく。


そんな事、明らかに非現実的すぎる。



「あの魔力は流石に、魔界高級の硬さを誇るパパの魔剣はともかく…跳ね返す前に支えている僕が溶かされると思うよ」



あいつの俺に対して考えている事が浅はかなのは間違いない。

だが冷静に考えてみれば、このまま行けばアリシアは当然の事ながら

この街が無事で済む筈がない。



俺を使っても流石に無理か。異世界とかいう漫画やアニメみたいな世界なんだからそれぐらいのコミカルでミラクルな展開があってもいいじゃねえか



『まてよ』



俺がダメなら






…イチかバチか。





『アリシア』



「なに、パパ?」



『あの時みたいに・・・いや、それ以上に・・・なんつーかさ。エンチャント系にも、乗算的な効果ってあるのか?』



「詠唱の前に付け足す言葉がある―それが、重奏付与」



前置きに、それを唱えろってか



「それと、発動している間は言葉に出さないで念じてもいいから、『廻せ』『繋げ』『廻せ』をずっと交互に思い浮かべて」



イメージによる強化補強って事か?この世界の魔術ってのは一々面倒だ。



『おーけー』



なるべく より早く動いてくれるとたすかるな。


クソみてぇな笑顔垂らしてる あいつに向かって意表を突ければ


考える時間すらもないくらいの速さなら・・・!!



「お別れの時間は済みましたかぁ???さあさあさあさあさあさあさあさあ!!!!吹き飛べ!!魔導放射弾頭!!発射!!!」



アシュレイが両手を広げて叫ぶと同時に、上空の魔導砲に反応があった どうやらそれが発射の合図のようだな。





来るぞ!!!



上空から大きな球状の光が徐々に勢いを増して落下してくる。


周囲の空気を焼きながら煙を放つ大きな魔力球体。


自身との距離が近くになる程 その強大さを実感させられる。


デケエな…だが これしかねぇ


頼むぞ アリシア!!


『重奏付与エンチャントファストエア!!!!!』



廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ

廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ!

廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ廻せ繋げ!!

廻せつなげええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!


同時に彼女は文字通り風のような疾さでアシュレイの懐に突っ込んだ。



「ふぇ?」



一瞬の出来事になんとも間抜けな声を出しながら状況が理解出来ていないアシュレイ



「あとは任せたから、戦争屋さん」



アリシアは瞬時に奴の襟を掴み 幼女ならぬ・・・否、人間ならぬ膂力で


俺に近づく巨大な魔力球体に瞬間的にダーツを投げるように投げつけた。


「!!??!??!?!?!??!?!?!?」


アシュレイは未だに何が起きたか解らないと言った様子で自身が戦艦に指示を出して放った魔力球体に突っ込む



何もしなければこのまま本人があの魔力の熱で溶けるだけだろうよ(そうなっても困るんだが)



しかし、案の定そうはならない




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」




アシュレイがガン見しているのは当然 あの魔力の塊だ。


その二つの間からは俺では到底理解できない反応、力の拮抗が伺える

やがて、その魔力球体は落下の速度を緩め、よこのアシュレイの魔眼によって押し込まれるように軌道を変える。

斜め下からアシュレイを投げたお陰で、それはゆっくりと上空へと舞い上がり、街の塀を超え、再び空へと帰る。


そして


行き場を失った魔力の塊は限界が来たのか、上空で大きな爆発を起こす。


太陽の代行者のように照らされた光は隣にあった雲を弾き


花火のように時間差で、耳の鼓膜を激しく震わせる爆発音が鳴り響く。


そして、周囲に空間を歪ませるような衝撃を満遍なく与えた。


周囲の逃げていた野次馬その状況を理解してしゃがみこむ


俺はアルメンを使い、離れているアリシアを鎖で巻き 自身の傍へと寄越す。


『大丈夫か?』


「…う、うん」


多少ぐったりしている様子が伺える。



「あいつの服を掴んで投げたつもりなんだけどね・・・どうも若干それでもあいつの能力は喰らいついてくる。」



アリシアの再生、膂力の殆どは 体の中にある強大な魔力によるものだ。

それを、無力化するあいつのスキルで触れられてしまったらひとたまりもないだろう。

俺は息を飲んだ。

言い訳になるが奴を投げる事までは考えていた。が、あいつのスキルによってアリシアが無力化される事までを想像できていなかった。

アリシアが自身の状態を察して、気を使ってくれなかったら この妙案も成功していなかったかもしれない。結果的に成功はしたものの、自身の不甲斐なさには苦虫を噛む思いでいた。




「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




大きな爆発の衝撃も収まる頃合で、大きな断末魔が耳に入ってくる。


その悲鳴の主は片目を抑えながらごろごろとのたうち回る


そして大振りな動きで起き上がりながら俺たちにその顔を向ける。



「おまえたち…よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも!!!!!!!」



魔眼を持つ方から血を流し、鬼のような形相で睨みつけるアシュレイ

どうやら、あの魔眼を以てしても相当厳しいものがあったようだ。


興奮し、獣のような息遣いをしながら、歯を強く食いしばっている。


「クソが!!!!ぶっ殺してやる!!!死ね!!!死ね!!!僕の目を!!!痛い!!!ああ!!殺してやる!!」


先ほどの余裕の表情は何処へやら、あまりにも激情にかられている姿が 現実味を感じず

実に滑稽な様を晒していた。



しかし



「とまぁ。このぐらいにしておきましょうか。」



急に態度を一変する。

全ての怒りを吐き出しきってスッキリした顔。

先程のような飄々とした笑顔をこちらに見せつける。


はっきり言って気持ちが悪い。


こいつの中で、気持ちや感情とはどのように処理されているのかが到底理解に及ばない。



本当に、こいつは人間なのだろうか?



この一抹の疑念は、本来人として或るべき事を生きてる中で経験則として有している俺の中に無い未知なる事象にたいしての恐怖から来るものだ。



「そう、怖がらないでください。これも、僕の必要な処世術なんですよ。駆け引きには冷静さを欠いたままでは正しい結果が導き出されない

そうでしょう?」



『処世術にしては異常さが滲み出ている。』




「まぁ、結果として僕の一つ目の策は失敗に終わったわけですが」



―ん?


今、こいつ なんて言った?



『一つ目の策?だと?』




「だぁれが、これで終わりって言いましたか?あんなキャパシティオーバーな魔力を押し付けられて、おメメが痛い痛い~のままでおめおめと帰るわけがないでしょーが!!!!!」




いや、そこは自業自得だろ…



「僕の能力が体質や魔眼だけだと思ったら大間違いなんですよ」



アシュレイがそれを言うと同時に、俺らの周囲で一人 二人 三人…いやもっといるのか!?



囲むように30近い多くの武装集団が突如として現れた。



『こんな人数を―何処に潜ませていた…!』




この人数がそんな格好してりゃあ 街の憲兵だって黙ってない。

それに、さっきまでこんな奴ら居る気配だってしていなかった。



「そりゃあ、そう思うのも仕方ありませんよねぇ?だって僕がみーんな隠しておいたんですから」



隠す?


なんだそれは


俺はここで一つの出来事を振り返る。


上空の巨大な飛空戦艦。


あれだって、最初から見えていたものではない。



『まさか、お前が全てを隠したとでも?』



「ええ、そうですとも。僕のもう一つの能力、『透過』。意中の対象の存在を消したり出すことが出来る能力です。」



なんともタチの悪い能力だ。

つまりはいつでも隠れてどうにでも出来たってわけだ。



『でも、お前…それなら、あの魔導弾をこの街に落とせばこいつらは巻き添えで死んでたはずだ』



「それが何か?」



『は?』



「あなたの価値観を押し付けないでください。その時はその時。勿論この兵たちにはそれに見合う報酬を与えてますよ?簡単な話しですよねぇ。命よりも大事なものが金で買えるなら…死ぬことだって厭わない。当然でしょう?」



目眩のする話しだ。


金さえあればこいつらは死ぬことさえ恐れない。そう言いたいのか?



『お前らはいいのか!!こんな奴に命を捧げてまで、そんなに金が欲しいのか!!』



おれは叫ぶ。命と金が天秤にかけられている中で、諭さないといけない

命は金では買えない事を

命に代わりが無い事を


しかし、周囲の兵は何も答えない。ただじっと俺とアリシアを黙って見つめている。



「命に代わりがない?おかしな話しですよ」



『お前は黙ってろ!!』



「命なんてものはそこらじゅうに転がっているじゃないですか!あなたが騙る言葉は、自身をその状況に置き換えただけのくだらない妄想なんですよ。自己の尊さなんてものは各々が当然自覚しているものです。それでも、人生の中に至る望みがそれを上回った。ただ、それだけの話しなんですよ。そうじゃなけりゃあ!!!関係ない人同士で殺し合いなんて!!!戦争なんて!!!だぁーーーーれもしませんよ!!!!!!」



『クズが!!!!唆しておいてよくもそんな事を!!!』


絞り出すように吐き出す罵倒。

だが、俺は心の奥底で彼が語る本質を理解せざるおえなかった。



じゃなければ、俺は死を選んで此処に至ってない。



「最終的に選ぶのは自分自身ですよ?この方々は後悔していない。そして、彼らは皮肉なことにあなたのお陰で生き残る事ができた。貴方を始末する為にね」



「―ご高説どうも、戦争屋さん」



黙って聞いていたアリシアが口を開く。



「で、どうするの?現実的な話し、僕たちがこの兵隊共を相手にしたって構わないよ?たかだか多くいるだけの兵に、足元をすくわれる程間抜けじゃないから」



キッと周囲を睨むアリシア。その敵意は、銃を構えている兵らを震えさせる。

この娘は、一体どんな仕打ちを受けてこのような心構えを持つことが出来たのだろうか

その小さな少女の体の内側を計り知る事が俺には出来ない。

アリシアの強かさへの感心と、孤独感が人知れず俺の中で渦巻いていた。



「ご名答。貴方を相手に、策を講じて強引に捕らえる事は難しいと判断しました。な・の・で。」



アシュレイは指示を出すように手を挙げる。


それに合わせるように、周囲を囲む兵たちは次々と俺たちに背をむける。




おい、まさか…




「ここまで来た以上、あなたがたの良心を僕が買い取ろうかなって思います。」




やつはより一層笑顔を増して言った。




「お代は、この街の人々の命です。黙って我々に従うならば何もしません。ですが、従わなければ皆殺しです。」



やつはより一層笑顔を増して言った。



「如何ですか?お客様??」



やつはより一層笑顔を増してそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ