20:変化は災いを寄越す
静寂から徐々に聞こえる小鳥たちの囀り。
眩しい日差しを感じることは無く徐々に意識が覚醒していく。いまだ視界は闇の中
まるでパソコンのモニターのように。
そしてようやく開けた視界ですぐさま目に入ったのは。
『―おはよう、アリシア』
刀身を枕にして寝ている愛らしい少女にそう小さく囁いた。
あの後…『こっち』ではどうなっていたのだろう。
朝を迎えている時点ですでにあれから半日は経っているはずだ。
それに、ここは何処だ?
前のギルド本部にある宿では無さそうだが。
「おう、起きたかジロケン」
戸を開ける音と同時に眠そうな声が聞こえた。
『メイか。』
「昨日ぶりか?…にしても、早々にお前を手直しするとは思わなんだ。世話の焼けるこって。」
まゆを八の字にしてメイは小さくため息を吐いてる。
『俺は一体、どうなってたんだ?』
「んあ、溶けかけてた。」
『溶け…!?』
く、詳しく説明プリーズ!!!!!
とまぁ、昨日の出来事を伺うに。
魔力を取得しまくった俺は、唐突に刀身が強い魔力反応を示し、強い熱を帯び始めたそうだ。
それどころか刀身がその異常なまでの熱に耐え切れず切っ先から形を崩して行ったそうだ。
流石に、その場にいた全員が非常事態だと判断し
取り急ぎメイに来てもらったそうだ。
「たしかに魔剣はその名の通り、魔を帯びた剣。本来の剣では耐え切れない魔力の出し入れ時に生まれる摩擦に耐えられるような素材で出来ているはずなんだけどねぇ。お前さんのそれはな、素材も素材でね。『魔界』でしか手に入らないような超稀少なもので出来ている。」
『それは普通の魔剣より強度が強いってことか?』
「まぁ、普通の魔剣。つまりはあたしら鍛冶師が作る程度の魔剣ってのは本当に使い捨てに使うレベルの代物なのよ。その代わり、本体が壊れるまでは帯びた魔力に応じた力を発揮させることが出来る。けれども、お前さんという魔剣は、本体そのものが魔界の魔力によって培われた素材をそのまま使って創られている、所謂ホンモノってやつさ。素材自体が魔力を帯びている分、魔力に対して馴染みやすいのさ。それに、強度がオリハルコン以上ってハナシ」
『オリハルコンよりも硬い…のか?』
「ああ、だからあんたは世界でも指折りで数本としか存在しない名剣に並ぶくらいの強度を持っているんだぜ。だからこそ、解せないんだよ。刀身が熱を帯びるということは魔力の摩擦に耐え切れなくなった証拠だ。」
『それほどまでに…やばい事、なのか?』
「魔剣によって使われた魔力開放の記録が存在しててな。そこで使われている『アルス・マグナ』の発動で起きる魔力の摩擦でさえもお前の強度で耐えられる。」
『アルス…なんだって…?』
「超大規模魔術。使えば、国一つが滅びかねない魔術よ」
リンドから聞いた覚えがある。それはリューネスがアリシアに執り行ったと言われる魔剣本来のチカラの名称。
つまりは、だ。国一つ滅ぶ魔術でもこの魔剣は耐える事が可能。
「だが、お前はどうしてか…ギルド長の魔術取得の連続で唐突にその身を溶かし始めたんだよ。
どうやら魔力とあんたの魂が同化している筈だから、魔力がある限りは壊れないさ…でも、内側からとなると話は別だ。持って来られた時はさてどうしたものかと思ったよ。もはや刀身なんて言えないくらい先っちょがぶよぶよベロンベロンになってたからよお。おもちゃのナイフの真似事かと思って吹いたぞ」
『…それは』
「だからよぉ…オマエ、何をした」
『―ッ!!』
こんな彼女の表情を見るのははじめてだ。
もともとケモナー属性だってのを省いても、その研ぎ澄まされた眼光は俺の心の内を見透かし喰らいつくような感覚に見舞われる。
『俺だって、わかんねぇよ。魔術の取得を連続でさせられて頭が割れそうになったから、止まれって叫んだ。そしたら、周囲が一枚絵のように動かなくなったんだ。』
取り敢えず、下手な嘘なんて言う必要もないだろう。ありのままを説明するしかない。
「どうやら、それは神属性の時間の特権が行使されたようだね。」
奥から、忌々しい渋い声が割って入る。
『ニド…お前―!!』
「待て、先に言わせてくれ。先の出来事に関しては謝罪する。」
俺が何かを言う前に彼はその小さな体躯で深々と頭を下げる。
「私の研究に沿った事象を目の前で見てしまった故、あまりに興奮して君の状態を蔑ろにしていた。本当に済まなかった。」
『…そうかい…』
くっそ。こういう場面に俺はとことん弱い。
ちゃんと謝られると、どうしても自身の怒りが下らなく思えてしまう。
「君の溶けかけた部分の素材は私の方で用意させて貰った素材で補っておいた。メイからは手直しの件は聞いているだろう」
『ああ。だが、本当に大丈夫なのか?切っ先が少し変色しているぞ・・・?』
当初の禍々しい紫黒を彩った刀身も今では、少し赤みを帯びている。
「それに関しては問題ないさ。もともと手前の作りは素材をそのまま丸々加工して作られているからそんな感じで色が統一されとるんよ。そこに使うものが同じでも多少なり出土が違う素材で上書きするように加工すりゃあ色までは合わせられんって話よ。中身は一緒だけどな。」
『なるほどな。』
戦う前から欠損する魔剣とか、前代未聞だろうよ
「ところでギルド長。神属性って言ってたよな。こいつ、もしかしてそれが使えるって話しなのか?」
「彼の話しが本当ならば、それは間違いではないだろう。だが、結果的には可能なだけであって、それを維持できる器では無いということだ。」
『それに関しては問題ない。女神から使えないように手心を貰ったからな。』
「―!!…君は、彼女に…アズィーに会ったのか。」
『ああ、どうやら一時の間だが、俺は神に等しい存在になったそうだ。しかし、女神は言ってた。神という存在は複数あると世界の均衡が取れなくなるそうだ。おかげさまで属性一色…闇魔術を封印されたよ』
「やはり…君は本当に面白い。実に興味深いよ…ジロ。」
『いや、勘弁してくれ。あんな目にあうのはもうこりごりだよニド。』
「何度も言わせてもらうが、それに関しては本当に謝罪している。だが、その代わりに得たものは非常に大きい。なるほど。君には神の領域に踏み込む可能性があったのだな。魔力…もしかしたらその起源を根底から覆す事実が生まれるかもしれない。あの女は他に何か言ってたかい?」
この人、女神を「あの女」呼ばわりするのか。流石元魔王だな。そういえば。
『アズィーが事の一部始終は見てたから発端があんただってのはバレてたぞ。なんか、あんたの好奇心にも目に余るものがあるとか言ってた。』
「目に余る…そうか、そうか!くく、くははははははははっははははははっははっは!!!」
「ギ、ギルド長!?」
ニドの唐突な高笑いにメイが退いてるぞ。
「そうか、くははは…少しは振り向いてくれる気になったか…長生きはしてみるものだ…くくく…」
『…?』
あまりの高笑いに俺も若干ドン引きしている、が
彼の言葉はとても優しく、嬉しそうだった。
ま、いずれ話してくれればいいか。それに関しては。
『そういえば、リンドはどうした?』
「んあー、あいつなら昨晩のうちに帝国の奴に会うとかでお前をウチに置いて暫くした後に出てったぞ。」
『そうか、あいつにも心配かけてしまったからな、そろそろアリシアを起こして行くとするか。早々に世話になってすまんなメイ。それと、ありがとう。』
「へへ、謝罪や感謝がしっかりとできる奴は好きだぜ。また何かあればあたしに言ってくれや。」
勿論アテにしてるぜ、と照れくささを誤魔化しながら 刀身を枕にしていつまでも寝ているアリシアを起こす。
『アリシア、朝だぞ。おきろー。アリシアー』
呼びかけるがむにゃむにゃと言いながら呼びかける声に小さく抵抗するようにそっぽを向いて再び寝息を立てる少女。
ふぅ、アルメン
思考からの呼びかけに、繋がれた杭が反応して動く。
起きて早々に申し訳ないが、頼むぞ。
杭の先は危険だからな。横の部分でやってくれ
杭はゆっくりとアリシアの頭の上に近づき 頭を優しく杭の腹でコンコンとノックする。
「んー…ん?……はっ」
『ようやく起きたか寝ぼすけめ』
「パ…パパ!!よかった。動かなくなって、声も聞こえなくなったから心配したんだよ僕。」
『安心しろ、もう大丈夫だ。それに、結果的には色々と魔術も体得した。』
「おはよう、アリシア。昨日は迷惑をかけたね。深く謝罪する。」
ニドは起きたアリシアにも律儀に謝罪をした。アリシアは少しバツが悪そうにしながらも「うん」と頷いている。
「こっちこそごめんねニド、パパに酷いことしたと思ってちょっと叩いちゃった」
アリシア!?叩いたって???何をしたの???
「ははは、いいんだよアリシア。ちょっと、地面にめり込むぐらい叩かれても大したことはない。」
いや!?やばいでしょ!?人間だったら死んでたぞ!?
「パパ、本当になんにもない?大丈夫?」
『ああ、問題ない。さ、状況もわかって落ち着いた事だし、リンドを迎えにいくか。』
「そうだね、リンドなら昨日のうちにガーさんと会ってそのまま宿に泊まるって。」
ガーさんって、ガーネットの事か。アリシアも面白い呼び方思いつくな。
「彼女も色々と疲れている様子だったからね。私がそのまま宿で休むように言ったのだよ。それまでは私が代わりに君に大事ないよう見張ってたというところだ。」
『ニドも世話になったな。色々させられた事に関しては思うところがあるが』
「いいのだよ。それに、今は少し気分がいい。むしろ君には謝罪以上に感謝したい所」
『そうかい』
アズィーの話しをしてからやけにニドは声のトーンが高めで本当に機嫌がいい。
あの女神と以前何かあったのだろうか。
「僕、少し顔を洗ってくるね。」
「んあー、あたしもそろそろ店を開けなきゃいかんからなぁ、一旦失礼するよー」
アリシアとメイは、今いる鍛冶部屋をあとにする。それを見えなくなるまで見送るニド。
「…ふむ」
『ニド。あんたは何か気づいているのか?』
実のところ、俺は「違和感」を感じていた。
「と、いうと?」
そして、正直なところ少しばかりの不安と恐怖があった。これを口にしてしまえば真実になってしまいそうで。それを受け入れるには
いまの俺には心が弱すぎた。
『あの子、アリシアの「パパ」という呼び方がな…少し、違ってる気がしたんだ。』
「それで?」
『それだけじゃない。今はまだ二日程度の付き合いだけどな。アリシアは自分のことを「僕」とは言わないんだよ。』
「『ボク』―。」
『なぁ、ニド。教えてくれ。俺が気を失った間に一体何が起きていたんだ?あの子は今でも、本当にあの子のままなんだよな?』
「すまないが…昨日の出来事に関しては本当にアリシアに一発げんこつをもらっただけなんだ。だが、そうだね君の意識が戻るまでここで意地でも起きてたアリシアが唐突に気を失うように寝たのは見たよ。」
『それは、今のアリシアの変化と何か関係があるのか?』
「どうだろうか…いや、もしかすると―」
『なんだ?』
「すまない、これ以上は私の口からは言えない。」
『どういう事だ』
「これは現状、彼女を一番知る人から聞いたほうがいい。」
『リンド、なのか?』
肯定するようにニドは黙って頷く。
「私から、言えるのは。君があの女に闇属性の魔力を封印された事が起因している可能性があるとしか言えない。」
『アズィー…』
けれど、それが何故アリシアの変化に関係しているんだ?
最初に会ったアリシアと今日会ったアリシア。
それぞれが違うモノだとすれば、二重人格の可能性もある、が。
そんな話は一つも聞いていない。いや、「必要がなかった」とでもいうのか?
リューネスの願いのもとで魔剣との契約で死を否定された彼女の今までの生い立ち。
はぁ。
ニドはリンドがアリシアについて一番知っていると言っていたが。
俺は知っているぞ。
もっと身近に居て、アリシアをよく知っている存在を。
暫くして、俺とアリシアは装備屋を後にした。
メイが、気を使ってだき抱えるよりはいいだろうと
簡単に背中に背負って収められる鞘を寄越してくれた。
俺は魔力を行使して少し軽くした状態で背負ってもらい暫く沈黙して歩く俺たち。
アリシアはいつものように俺に気にかける様子もなく歩き
鼻歌を歌いながら周囲をキョロキョロとしている。
『何か探しているのか?』
「んー、そういうわけじゃないんだ。」
『そうか。起きてそうそうのお出かけだ、腹減ってないか?』
「はは…大丈夫だよ。でも、もう一度…あそこのパンケーキは食べたいかな」
『あのお店のがよっぽど気に入ったんだな。』
「そうだね。折角―」
『ん?どうした、アリシア?』
「いや、何でもないよ。それにしてもリンドは何してるんだろうね。ガーさんと話があるって言ってたけど、長いよね。何かあったのかな」
言われてみれば、適当に会って進捗を伺う程度なら時間が有り余るくらいだろうに。
あいつの事ならこっちに戻ってきてもおかしくないだろうよ。
それとも、大きな進展があったと見るべきか。
『心配か?』
「そうだね。とても心配。」
『なぁ、アリシア。』
「ん?どうしたの?パパ」
『―どうして、アリシアは俺の事をパパって呼ぶんだ?』
俺は今一度問いただす。
かつて聞いたときは困った顔をして、わからないと答えたその質問。
なあ。教えてくれ、今のお前ならどう答えるんだ?
「―質問を質問で返すよ?いい?」
『…ああ』
「いつから気づいてたの?」
背負った俺の方を見向きもせず、トーンの少し下がった声色で聞き返す。
そうきたか。だが、これはこれで話は早そうだな。
『今朝だよ。お前は、最初に会ったアリシアと違う気がした。それだけだ。』
「そっかぁ、うまいことやってたつもりだったんだけどなぁ。」
『・・・・お前は、一体誰なんだ?』
「何を今更。僕は変わらずアリシアだよ。パパ」
『そのアリシアは自分の事を僕と言わない。それに、そこまでペラペラと喋ることもなかったぞ。』
「―へぇ、そうなんだぁ」
アリシアはその歩みを止め、背負っていた俺を抱えるように持ち直し
お互いに顔が見える状態で再び口を開く。
「もしかして、『おまえ』も僕を否定するの?」
彼女の俺を見る視線は今までにない程に冷め切ったものだった。
感覚をあまり持たない俺でも悪寒を感じるほどの圧。
以前の激情に駆られレオニードに向けていたものと全く違う
俺を凝視した眼は、一人の少女が持つものとしてはあまりにも持て余した異常なまでの敵意。
だが、これはこれで望むべくして持ち込んだ展開だ。
『ようやく、だな。初めましてになるのか?アリシア』
「そうでもないよ?僕たちはずっと一緒にいたじゃないか。ずっとパパの事を見ていたよ?」
『お前の中では、そういう事になるのか』
「おかしな話を言うね。僕は僕。最初からいままで一緒にいたアリシア本人だよ。」
『なら何故、俺がお前を否定するなんて話が出てきたんだ?いままで見せてくれたアリシアが到底いまのお前とじゃあ似ても似つかん。』
「当然だよ。『アレ』は僕を否定して生まれた存在だ。どす黒い闇で蓋をした、幸せを貪る事しか考えない愚かな僕。」
『それは、どういう意味なんだ?』
二重人格…とでも言うのか?
この子の過去に、一体何があったのか。そして彼女の死を否定させるリューネスの願い…リンドは結局その場では答えてくれなかった。
『先ず言わせてもらうが。俺はお前たちを否定する事が出来ない。いや、そもそもまだ何も知らない俺にはそんな権利はない。』
そして気になることがもう一つあった。
『お前の言うアレは、今どうしてるんだ?』
「僕の中で眠っているよ。そもそも僕が此処に出てきた事さえ不思議に思うくらいだよ。本来あるはずの隔たりが急に無くなったんだ。真っ暗な闇の中に閉じ込められて。そこから小さな光を頼りに見ているだけの僕が出てきた事で『アレ』はびっくりして僕に主導権を投げた。」
『目覚めるのか?』
「さぁね…そもそも向き合う事が出来ず、僕の魂の奥底に隠れているんだ。結局、まだ僕を受け入れられないんだよ。」
『お前は年齢に合わず達観しているな。』
「そりゃあ、そうさ。僕は…僕らはもともと被害者側だからね。」
『…それは、リューネスとの願いに関係しているのか…?』
「…パパは…ギュビュベツ―」
刹那、ほんの一瞬だった。
『…は?』
何かを言いかける前に目の前のアリシアの頭が綺麗さっぱりなくなっている。
一枚目の写真から二枚目の写真を見ているかのように、過程をすっとばした結果に俺は心が追いついていなかった。
これで彼女の首が取れるのを目視するのは二度目だ。
「ん~?おっかしーなぁ。もしもし?もしもーし??」
この状況で異常なまでに呑気な声が聞こえてくる。
その声の主に目を見やると
そいつはアリシアの頭部を抱えている。
それだけではない。その頭を眺めながらふざけた事をぬかしていた。
俺の中でゆっくりと状況が整理されていく中、自身の感情がその声の主にいち早く走っていったのは怒りであった。
『アルメン!!!!!!!!!!!!!!』
俺に連なる鎖が、杭が、その声の主に向かって貫かんばかりに加速し飛ぶ。
「え?おわっ…!!うわわわわわ」
焦ったような声を漏らしながらそいつは飄々と俺の攻撃を躱す。
「ちょっと!不意打ちとか!卑怯ですよ!?」
度し難い発言。そいつの言葉に耳を貸す必要はない。
俺は躱された杭を旋回させ再びそいつに向ける。
殺す。こいつの存在が何を意味するのか知らない。が、知る必要もない。こいつは
俺の娘を手にかけた。それ以外の理由など必要ではない。
「ひ、ひぃ~~~~~~~」
怯えた態度をみせながらも俺の攻撃を何度も、いとも容易く避けていく。そこだけを見るならば思った以上に異常な反射神経と身体能力を持ち合わせていることを伺える。
だが、躱された程度、なんてことない、俺の狙いはそうじゃない。
なんどもそいつを襲う杭に連なる鎖。
それが奴のまわりで2,3周した所でそのクソ野郎を縛る。
「ぐぇっ」
『死ね』
自分でも驚く程に冷え切った言葉を漏らしつつ
身動きの取れないそいつに向かい自身という魔剣を、その刃を飛ばす。
「ひぃ」
逃がしてたまるか。
その腹、を貫かせてもらう。
「暴力反対ですよ!!!話し合い!!そうだ!話し合いをしましょう?ね?ね??」
この期に及んでもふざけたことを抜かすか!!糞が!!
『そのまま腸をブチマケロ!!』
「うわ、キャラ変わってません??大人な雰囲気消えてますよ?怖い怖い」
そいつは身動きの取れない状態のまま、縛られた鎖ごとその身体を回転させ
飛んできた俺の刀身に動きを合わせるように刀身の上を転がって躱した。
『なに!?』
そのまま背後を取られた瞬間、動揺してしまったせいか
男を巻きつけていた鎖が魔力の塵となって霧散する
「ありがとうございます★」
そして、それを見逃さないそいつは唐突な感謝と共に自由になった手を俺の柄へと伸ばして
そのまま地面へ刀身を突き立てる。
『しまった。』
クッソ、身動きがとれねえ。
無理矢理にでも浮遊を発動して動かそうにも、柄を握られ、下に押し込まれている為。動きが牽制されている。
刀身が地面に刺さりながらも自身がカタカタと揺れているのはそのクソの腕力と俺の力が拮抗しているせいだ。
つか、こいつ…力が…おも、い…
万事休す。剣ってのはこういう時、どうしようもねえなぁ。
「は~じ~め~ま~し~て。魔剣サン」
嫌でも聞かされる小芝居じみたクソ野郎の挨拶。
そいつがおれの目の前にヌッと顔を覗かせたことで始めてそのご尊顔を伺うことができた。
不本意ながらな。
とくに覚える必要もないが、金髪で青目。優男な顔つき。それでいて、異質を漂わせる髑髏マークの眼帯。
シルクハットににっこりとした笑顔。
『てめぇは・・・っ』
「おっと、挨拶が遅れてしまいましたね。どうも、口より先に手が出てしまうタイプでして。こりゃー失敬失敬。」
たははと額をぺしと叩く猿芝居。どこまでもふざけた奴だ。
「おっと、鎖はナシでお願いしますね?僕が貴方に『触っている』以上、魔力の使用は不可能に近い。無理矢理にでもつかえば、いくら底なしの魔力でも発動に生じる流れの摩擦で貴方自身、焦げ焦げになっちゃいますよ。」
摩擦ね。丁度最近痛い目見たばかりだな。
こいつの持っている能力なのか?…まぁいい
『ところで、お前はなんなんだ。なぜアリシアにあんな事をした。』
「おっと説明が長くてまた話が反れてしまいました。こりゃ失敬。ワタクシ、戦争屋を営んでいる者です。」
ドクンと心臓が高鳴る。
その単語らに聞き覚えがある。
リンドが語ってくれた存在。
相手にしてはいけないと言われている『争い』のヤクシャ。
生まれるべくして生まれた人の業の極地。
「アシュレイ・ブラッドフローと申します。」