19:神域の侵入者と来訪者
――夢、なのか?
俺は対して時間も経って無いはずなのにこの場所に懐かしさを感じていた。
そう、あの時の
死んだ直後に招かれた場所
何もない真っ白い世界に聞こえる心地よい波の音。
此処はアズィーと名乗る神がいる場所にほかならない。
まっさか…夢でもあいつと遭遇するわけ?
勘弁してくれ。どうせ夢なんだ。自己の中にある記憶が整理される時に生まれる短いしょうもない妄想物語。
実にくだらない。実際のやつに会えるなら聞きたい事はたくさんあるが
「私に、聞きたいことが?」
そうそう、あの時は勢いもあったが現状じゃあこの世界の仕組みもわからず仕舞だ。
ゲームだってちゃんと説明書ついてるぞ。
「そうでしたか…ごめんなさい。この世界にはゲームは存在しないし説明書もないの。」
「…いや待て。」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
儚い花が散るような鈴の音をした可憐な声(この表現無理あるだろ。)
不意打ちを食らったかのように狼狽して振り返る。
するとそこには女性の姿があった。
女性というよりは、マジ女神だろこれ。
なんか雰囲気でわかるぞ。
まず金髪で美人だろ?
頭になんかエルフの姫様とかが付けてそうななんか高そうな装飾つけてるだろ?
よくわからん杖持ってるだろ?
目が透き通るように青いだろ?
胸も大きめだ。
服がギリシャ神話とかにありがちなあれだろ?
なにより顔がむっちゃ俺に対して慈しんでる感じだ。
「初めまして。一面世界の旅人。私はアズィー。女神アズイーよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ
いい加減にしてくれ。俺は欲求不満だったのか?たしかに、ついぞリンドの揺れるおっぱいを目の前に俺は多少なり
心の中のムラっとした情動をどうにかせねばとか思うこともあったぞ。
だけど「こんな形」で俺は消化しようというのか?夢の中だからって馬鹿にするんじゃねえ!!俺の脳みそ!!
「はいはい、お疲れ様でした。メガミサマ。メガミサマ。」
「む。不本意です。まるで私の存在を信じてないようですね。」
「わかった。わかったから…もう、好きなようにやってくれ。どうせ夢なんだから。」
「…残念ですが、これは夢ではありますが、夢ではないのです。異世界の者。」
「へぇ、へぇ…そうですかい。まぁ覚めちまえば結局は夢だけどな。」
「貴方と私。このような形での邂逅は神である私も予想外でした。あの魔王の好奇心にも目に余るものがありますね。」
ため息をつく自称女神。
…?今、ニドって言った??
―まぁ、いいさ。これは夢だ。
「信じてくれないようですね。一面の時はわりと話は聞いているような感じだったのですが?」
「一面?なんだそりゃ。アクションゲームか何かか?」
「いいえ。貴方が本来或るべき世界ですよ。トウハタジロウ」
―流石に逃避に身を任せておくべきでは無いか。
夢として覚める事だとわかってても流石に自暴自棄になりすぎた。
それに、リンドの言ってた事を思い出した。
あいつの語るアズィーは女神だと言っていた。
試しに聞いてみるか。
「アズィー、聞きたいことがある。」
「神を呼び捨てとは、関心しませんね。まあ、良いでしょう」
「リンドって奴を知っているか?」
「ええ、リンド…ええ、そうですね。覚えています。あの『子』の事ですね」
「あの子?…まぁいい。リンドはお前から祝福を賜ったと聞いているんだが。」
「そうですね。あの『子』…非常に気性が荒い性格だったんですよ。」
「気性が荒い…?」
確かにそれっぽい片鱗はチラホラみかけるが、イマイチ想像つかんな。
「そして、私はあの子に『理性』と『知恵』を渡しました。」
「それは・・・なんか説法をした的な?」
「いいえ、そのままの意味です。」
「ふ、ふーん…」
やばい。こんな謎かけみたいな話しをしている場合じゃない。
リンドの祝福が俺の予想であった着痩せするタイプのデカパイだったという事は忘れておこう。
「安心してください、忘ても大丈夫ですよ。私が覚えてますから」
「…………」
心読めちゃう的な??
「神様ですからお見通しですよ。」
「かんべんしてください」
それよりも だ。
「お前さんが女神だという事はようく理解した。今のところはな。」
「今のところというのが実に不本意ですね。」
「そりゃあそうだ。先ず、アンタはそもそも知る限りじゃあ極界に行かんと会えないと聞いているぞ?」
「ご明察。本来であれば、極界に居るかわいいかわいい私の巫女を介してでないと私に会うことはできません。」
「なら今は特別な状況だっていうのか?」
「そうですね。もっというと、特別なのは状況では無くアナタそのものなのです。」
「どういう事だよ。」
「貴方が直前に行った事、覚えてますか?」
確か、俺は魔術の取得…大量に取得をしていたな。
「そうです。あなたは魔王に用意されたいくつもの魔術。それこそ規格外な部類を含めた魔術を多く取得していました。そして、取得すると同時に、各々の概念や型、属性が互いにリンクし合って更に多くの魔術の行使を可能にしてしまいました。」
「それが、何か関係するのか…?」
「大アリなのです。本来魂を持つ者が取得する魔力は居る環境に合わせて基本的に一色に染まる。つまり1つの属性しか魔術を行使出来ないのです。ですが、貴方は根本的に違う。あなたの所持する魔力は一面世界で培ってきた情報で編みこまれた神域の魔力なのです。」
「まて…情報が、多すぎる…つまり、なんだ?」
本来一つしか抱えることの出来ない魔力属性を全て持ち。
全ての魔術の行使が可能だという事・・・
リンドが言ってたな。おれの魔力は幾つもの属性色が綿密に編みこまれた状態だと。
「それが、本当なら…俺は」
「ええ。この世界。二面世界であるニド・イスラーンで全ての属性魔力を所有できる。そのような奇跡に等しい行為を行える者を、この世界では何と呼ばれるかわかるでしょう?」
「神…か。」
「そういう事です。貴方は矮小な器に収まっている魂ではあるものの全ての属性魔術を取得してしまった為、神域の存在にステップアップしてしまった。そしてあろう事かあなたは神のみが持つ属性の取得条件を見事クリアし、時と起源、創造という力を取得してしまった。それを所持する事で貴方は確実に私たち側の存在になってしまったのです。」
「つまり、神同士であるなら…どこでも交信が可能だと?」
「そう、私が貴方という神的存在を察知して介入して来た。という事です。」
参ったな。展開が早すぎる。こんな力を得るなんて事は予想もしていなかった。
ニド…とんでもない事をしでかしたな。
「本当に困ります。唯一の秩序として象徴している神がもうひとつ存在するということはつまり、神の力の源である信仰が揺らいでしまう可能性もあるのです。」
「それは、お前が神として存在するのに俺が邪魔だという事か?」
「残念ながらそのとおりです。現に『貴方の世界』のアズィーは既に力を殆ど有していなかった。仮に奇跡という存在があったとして、それがアズィーが行った行為だとしてもそれを知るものは居ない。なぜなら…彼が一面世界で与えられた『名』が多すぎるからなのです。」
名前。アズィーという名前のほかに奴は誰かに多くの名前を与えられたという事か?
「貴方は見ましたでしょう?彼の姿。どうしようもなく醜い塊。人々の様々な願いを抱えすぎてしまったあの姿。」
「人々。あれはじゃあ俺たち人間の願いの形だとでも言うのか?」
「奇跡と信仰はお互いに均衡し、依存しながら存在している。しかし、彼は失敗してしまった…そして、同じ失敗を起こすであろう原因をあなたは抱えている。神は、二つも三つも存在してはいけないのです。」
「情報量が多すぎてまとめる事に時間かかりそうだが、お前の要求は理解した。」
だが、この女神はもしや俺を消すつもりなのか?それは困る。
「そのつもりはありません。貴方は彼に選ばれた抑止の担い手。貴方を消すことは出来ない。」
「なあ、答えてくれ。奴が俺を選んだ理由はなんだ?何のメリットがあってこんな事をさせる。」
「そうですね。きっと、本当であれば誰でもよかったかもしれない。でも、貴方に関わる縁がこの世界には存在する。そして、それ故にあなたは運命を憎んだ。」
「縁?それは一体何なんだ?この世界に関わる出来事なんて皆目検討も付かない。当然、運命を憎んではいた。だがそれに何の意味がある?矮小な俺如きに何ができる?それはお前たち神が定めたモノなんだろ?適当な事抜かしてんじゃねえぞ…?」
クッソ、今までの事を思い出したら怒りが溢れて舌を滑らかにさせやがる…こんな事、意味なんてねぇのに。
「意味はあります。貴方の怒りを私は理解している。そして、その運命を憎む意思はやがて貴方の力になります。」
それは、どういう―
「あなたが心の中で象るように運命は、私達がいる世界の裏で機械のように動き、人々には見えない歯車があちこちに存在しています。そして、それらは多くの奇跡も…死をも招く。そして、その運命という歯車を神では無く…あろう事か『人が操っている』のだとしたら?」
「っ―!」
俺は絶句した。女神は端的にこう言っているのだ。
運命を操る『誰か』がいると。
「誰だ。それは誰なんだ?」
「それを教える事は出来ません。」
「ハッ…人が悪いねぇ…ここまで教えておいて。」
「神ですから。善悪での意図はありません。」
「どうしてだ!!お前だってそれは都合が悪い筈だ!今すぐ教えろ!!」
「今の貴方にそれを教えた所で、リスクを背負うだけです。知れば最期、全ての運命が貴方を押しつぶしてしまう」
「だったらどうしろと」
「彼は貴方に言いましたよね。極界の地に赴けと。」
「…ああ。」
「私はその地で待っております。そして、貴方にそこで全てを話しましょう。私達が貴方に望む事を。この世界の真実を。」
「奴は言ってたぞ。俺の願いを聞き入れるって」
「勿論です。貴方の願いは伺ってます。約束は守ります。」
「そうか」
「ご納得頂けましたか?」
「半信半疑だがな」
「それで結構です。そして、本来の私の目的を努めさせて頂きましょう。」
彼女はそう言うと、手に持つ杖を振り上げる。
「何をするつもりだ?」
「貴方を神域の座から少し下ろさせて頂きます。神属性の所持条件は全ての属性の所持。貴方の中にある属性を一つ封印させて頂きます。」
「こればっかりは教えてくれ。どの属性を封印するんだ?」
急に使えなくなるのは困るからな。こればっかりは教えてくれ。
「黒。闇属性を封じます。そして、その意図がきっと貴方の運命を再び大きく変えます。」
「そうかよ。」
杖の先が光りだす。
眩い光りが辺り一帯を覆う。
そして、俺の中にある何かが引き抜かれるようにして俺の周囲から出てきた黒いモヤがその光に吸い込まれた。
その瞬間、俺は今いる場所から落下するような感覚に見舞われた。
下に何も無い感覚。上を見上げると女神が慈しむように見下ろしていた。
「貴方に、幸福があらん事を。」
随分と神様みたいな事を言いやがる。
いや、神様だったな。そういえば。
そして俺は再び意識を闇へと預けた。