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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅
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1:己を持つ人々が望むからこそさも醜悪な神をみる

「ハァ…!!はぁっ……えふ…!!」


もうどれだけ走っただろうか。

少女はひとり薄暗い森の中を必死に駆け抜けていた。

もう何度目だろうか、足元を踏み外し転んだのは。

擦りむいた膝、本当は泣き叫びたい

いつもなら執事やメイドが駆け寄ってくれるだろう。

母がいたなら駆け寄ってくれるであろう。

なのにその日常は全て嘘で塗りつぶされたかのように終わってしまった。

執事もメイドも、母親さえ 側にはもういない 

殺された。全てを奪われた。

野盗かも解らぬ得体の知れない数人の黒いフードの者達に全てを殺された。


「どうして・・はぁ・・・どうしてっ・・・!?」


あまりの戦慄に涙を流すことを忘れ、

代わりに必死に呼吸する口の端からだらしなく涎を零す

もはやどこに向かうのか 少女には分からない。

ただ何から逃げるよう言われた。

走りながらもチラ見下ろした先に彼女が抱きしめているもの

小さな少女の身の丈には似合わない程の大きな剣



「お嬢様…どうか、この旦那様の…」


それは、執事が己の首を落とす寸前少女に託した剣

それが何を意味するのか、彼女自身は何も知らない。


「あうっ」


しかしその長く感じた短い奔走は間もなく終える。


絶望という形で。


「―ここは」


眠りから覚醒するように意識が戻る。

ただ白い世界で俺はポツリと立っていた。

確か俺は 睡眠薬を飲んで自殺をしたはずだ。

それよりも、ここは何処なんだ?

周囲を見渡してみる

辺りは行き止まりがなく果てしない白だけの景色。

ただ俺にはわかる、白しかない世界なのに

ここは海の中のように居心地が良く

天を仰ぐと その白が波打っている。

「そうか、ここが天国ってところか?」

信じちゃいなかったし、死ぬ寸前に呟いた一言でさえも本気にはしていなかった。

だが本当にあったんだな・・・死後の世界なんてものが

「おいおい・・・・わりと居心地良いもんだなぁ・・・・あの世ってのは」

立っているのもなんなので一息つきながらしゃがみこむ。

やがて正面に顔を向けると 「それ」は前触れもなく存在していた。


「なんだ…これ…」


羽根…腕…もしくは角…

それだけじゃない頭蓋骨に十字架、ロウソクや木の枝

扉 果実 あるいは目 あるいは口 雲 鳥居 睡蓮 歯車 

気づいてしまえば止まらない程のの単語一つで認識できるモノが、一つの球体に押し込められ

毛玉のようにがんじがらめになっていた。

ありとあらゆる全てのものを纏ったこの世のものとは思えない存在。

文字通り、得体の知れないモノがそこに或った。


俺は立ち上がり、ゆっくり近づこうとする


「魂ノ再構築完了ヲ確認シタ 思考正常 状況把握弱程度」


「は?」


得体の知れないそれから発せられた機械的な言葉に俺は歩みを止め、間抜けな声を漏らす。


「トウハタ ジロウ オ前ノ 往ク先ヲ 導ク」


「父ヲ 人ヲ 全ウ 出来ヌ 愚カナ道化」


「責任ヲ 背負ウ 異端ノ 境遇者ヨ」


「貴様 ハ 選バレタ 真実 ト 邂逅スル権利ヲ持ツ者トシテ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」



いや、意味が分からない

そもそも天国かと思っていたが、ここは本当に一体どこなんだ?

この機械的な言葉を発する物体はなんだ?

つかこの塊、脈打ってて気持ちわりい


「私 ハ 、 世界 ノ 調律者」


「観測者 ニ 『アズィー』 ト 呼バレル存在」


「貴様 ノ 辿ッタ 運命 ハ」


「『二面世界』 ノ 因果 ニ由ッテ」


「招カレタ 特異的事象」


「世界 ノ 調律者代行トシテ 此レ ヲ 正セ 」


「指名 ヲ マットウ スレバ 」


「オマエ ノ ノゾミ ヲ カナエヨウ」


―ああ


目眩がした

きっと重要なワードなんだろう

コレは、俺が自殺するまでに至った不幸を知っている

そして、そこには意味があると言っているんだろうよ。


―だが、それをそのまま頭に無理矢理叩きつけられただけだ。

これ以上思慮に至ることができない

当然だろ?

ただでさえ俺は・・・


世界に


運命に


妻を、娘を…奪われて


もう疲れたんだ。


「もういいじゃねぇか・・・」


これじゃあ死を選んだ意味が無い。

わかってるさ、

ようはお前は神様なんだろ?


俺の人生に意味を与えようとしているんだろ?

この場所で行われているのは、俺の魂に対する審判に違いない


だがよぉ。


俺の人生なんて数百数千数万数億の出来事で残された

ほんの些細なクソみたいなものにしか感じてないんだろ?

だから、結局俺の気持ちだってお構いなしなんだろ?


「ムッカつくんだよ!!全て終わった後に今更ノコノコ出てきておいて…」


調律者だ???


だったらもっと早く…なんで…


―いや、わかってる。これは逆恨みだって

けれどよ、湧き上がってくるんだよ。

この自分でも扱いきれない感情を…どうしてくれる。


今までに抱えた全てを吐き出さないと・・・俺は・・・


「最早 問答 ハ 不要」


「…は?」


「世界 ノ 余剰 ナ 変革 ハ 現在急速的に進行中 選択ノ余地無シ」


「おい、まてよ…」


「此レハ 決定事項」


「ふ、…ふざっけんなあああああああああ!!」


余りにも一方的な言葉の連続に俺の中の全てが遂に怒号となり爆発した

決めた、一発こいつを殴ってやる。

前から思っていた事だ。

不幸が起きる度

運でも神様でもいいから

物体としてそれが存在するなら、ぶん殴ってやりたかった。

俺は前のめりになりながらツカツカと神を名乗るクソったれに足早で近づく



「――二面世界ヘノ 転送ヲ 開始 スル」



その言葉と同時に 俺の足元から魔法陣のような模様が広がり

そこから発する光が自身を包んだ。


「身体が、うごか…ない?」


金縛りか?これ以上前に脚を動かすことも拳を振り上げることも出来ない。


「こんのっ…クソったれがぁ!!」


俺は無理矢理上体を前のめりにしながら

少しでもこのクソ野郎に届く距離で罵声を吐き出した。

これが転送装置だと?わりと強情じゃねえか

俺はアズィーを強く睨みつけた。

だがそいつは変わらず心臓のようにただ脈打つだけでこれ以上の動きは無い。

本当に…本当にふざけた存在だ。神ってやつは。

全てを生み出しておいて気まぐれに選んだものを運命だとかほざいて壊すんだろ?


お遊びのつもりか?

余興を酒の肴にでもして一杯宜しくするつもりだってか??


俺ら一人一人が持つ命なんてものはテメェらからしたら玩具みたいなもんなのか?

奈津も、奈々美もそんな事で殺されたのか?


なぁ…答えろよ!!!


「―真実 ト 邂逅 セヨ」


機械のような声が俺の心の中の問いに答えた。

…はっ。

知りたきゃ、自分で見てこいってか?



上等だ。



「お前…言ってたよな?」


確かに冷静さを欠いて怒りを優先して吠えるだけ吠えたが

それでも聞き逃すわけが無い。

こうなった以上 奴の言質だけはもう、一度確認させてもらう。


「俺の望みを叶えるっていってたよなぁ?どうなるかわからねぇけどよぉ

お前のその言葉だけは本当なんだよなぁ!?なぁ!!!アズィー!!!!」


「真実 ト 邂逅 セヨ」


「神聖領域ニ 向カイ 然シテ 極界ノ巫女 ト 邂逅 セヨ」


全く答えになってねぇ

クソったれ これが夢だったらどれだけマシだと…



いや、そもそも俺は死んでるから夢もクソもないか。




「座標特定 転送」




突如の衝撃。肉体的に感じるものではない。

頭を掴まれグチャグチャに揺さぶられる感覚だ。

気持ちわりい


本当になんだってんだよ。


そこで俺の意識は再び眩い光に圧倒されるように途絶えた。

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