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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
196/199

罪深き者の目覚め



―少し前の事である。






今では眠るリンドヴルムとそれを見守るシアしかいないハーシェル邸の外、大きな庭に強風を荒立てながら降り立つ機械、飛空艇の姿があった。



「…あれは。帝国の…?」



リンドが眠る一室の窓から覗くシアはそれに見覚えがあった。

しかし、それは彼女が知る飛空艇の中では一番見た事のない形状のものであった。



飛空艇の胴体には大きく帝国ウルスラに直属で配備された帝国騎士団の名が掲げられている。



(―帝国軍とは違う。あれは帝王直属の飛空艇。ジロさん、アリシアさんたちが居ないタイミングで何故ここに?)



考えているのも束の間、そのまま着陸した飛空艇から誰か、一人が降りてくる。



(軍服…、長い髪で女性の…―ッ)



シアクローネは驚愕した。そのままハーシェル邸に向かってくる彼女が覗いているこちらに気づいて視線を送ってきた…からではない。


彼女の持つ、異常なまでの魔力…その質と量に、心臓を打たれるような感覚を覚えたからだ。



(やはり同じだ、巫女様を通じて感じる女神様…そしてジロ様の魔力と…ッ)



シアにとって彼女は見覚えがあった。アルヴガルズで言葉を交わさないまま、すれ違ってしまったのだ。



叛逆者トレイターによる謀略によって魔力を利用され、それをジロ様達で防いだ後にすぐさま帝国騎士団の方々に、ハワード様と一緒に連行されていた。

その後の連絡は途絶え、帝国軍も乖離のヤクシャによってほぼ半壊状態で取り付く島もなかった。




ナナイ=グラン=レオニード。所属部隊無し。



風の噂では。

プロキシオン=グラン=レオニードに、養子として迎え入れられた孤児であり。

軍に入隊してからはあまりに粗暴な態度と、命令無視が多く、逸脱した単独行動が目に余ると軍からは忌み嫌われている為か、元々所属する部隊を持たず、常にハワードの部隊に付随する形となっていた。



彼女もまた特異点として扱われていた存在。



(でも、そんな…ことよりも…)




「顔が、怖いッッ―!!」




(どうしよう、どうしよう!)



深々と項垂れて、床とベッドで眠るリンドを交互で見ながら動揺を隠せないシアクローネ。

しかし、それも束の間。すぐに、バンッと大きな音を立てて

この一室の戸が野蛮に蹴破られる音がした。



「ひぃっ!」



「……」



鋭い目つきでこちらを黙ってみるナナイ。

それを眉をハの字にしながらも、眉間に皺を寄せて抵抗する意志を見せるシア。



彼女はぎゅっ、と杖を握りしめながら睨み返す。



「あなたは、なんなんですか!?勝手にこの場所に入り込んで…一体なんの用があって―」



しかし、ナナイはシアの言葉を無視しながら

そのまま黙って眠るリンドヴルムの方へと近づいていく。




「―おい、アンタ。いつまで狸寝入りしてんだ??」



「…え?」



唐突な一言にシアも虚をつかれ、緊張を忘れる。



「…そうか、そのまま寝てるフリを続けるなら結構だ。“オレ”はそれで構わない。だかなぁ、それならそれで勝手に話を進める。」



リンドはそれでも、眠ったまま動かない。



「ガーネットの調査だと、大量のドラゴマイトを利用した極大の魔術、ジャバウォックの詩篇が原因でアンタの結界が砕かれ、その反動であんたも大きな怪我をする事となった。そして壊れた結界を合図に野盗どもがこのハーシェル邸で残虐の限りを尽くし、そのまま魔剣を回収しようとした。そこまではいいな?」



「…」



「そして、そこから魔剣とあのガキの顛末…。そんなのはどうでもいい。問題は別にある―」



「その後、帝国騎士団の諜報部隊は、このハーシェル邸周辺での関係者や遺体の捜索に密に乗り出した。そんな最中、有事の後に行われた清掃関係者にまで聞き込みをした。」



シアは眠るリンドを、固唾をのみながら見守り、聞き続ける。



「だれも、アリア=ハーシェルの遺体を処理どころか、見てもいないと来た。さぁ、どういう事なんだろうなぁ?」



(アリシア様の母様のご遺体が…無い?)



「―だがよぉ。そんな事すらも別にどうだっていい。もっと別な問題があったんだよ。諜報部が清掃関係者に遺体の数の確認をとったら、その場で殺された人たちの数は揃っているんだとさ。」



ナナイは一度言葉を止めて、リンドを見つめ…一つため息をついてから続ける。



「関係者の話だと、アンタが綺麗に弔ってくれていたらしいな。だから埋葬された遺骨については確認するのが簡単だった。けどなぁ、普通に考えて人数分あるのはおかしいよなぁ?誰もアリア=ハーシェルの遺体を見ていない。それなのに、なぜか遺体の数はちゃんと数が合っているんだ。どうしてなんだろうなぁ。まるで“別の誰かの遺体”が付け足されたみたいだ。」



「…何、どういう事なんですか?それって…もしそれがアリア様の遺体でないのなら…」



「まぁ聞け。黙って聞け。諜報の連中らはよぉ、その遺骨が格納された場所からその全てを帝国へと持ち帰ったんだよ。」



(遺体を回収??なんて罰当たりなことを)



「そんで、その遺骨を徹底的に調べたんだよ。そうしたらよぉ…オレはその話を聞いて耳を疑ったぜ?」



「…」



「何故かよぉ、リンドヴルム。アンタと全く同じ構成をしている遺骨が出てきたんだよ。」








「へ?」




「知恵持ちの竜ってのはよぉ、本当にすげえよ。人の姿としての祝福を貰えたら、死ぬときでさえも人としての形で死ぬ事ができるって事がわかったんだからな。アンタの身体の骨格や構成の全ては、かつて帝国軍へと所属する際に全て情報を明け渡しているんだ。間違えるはずもないんだよ。」



シアはぐるぐると思考を巡らせ、なんとか理解に追いつこうとしている。しかし、その事実は…あまりにもその純粋な精神性では受け入れる事が度し難く、目眩を覚えるほどだった。




「なぁ―…リンドヴルム…いや…」




そのまま、ナナイは眠るリンドへと手を伸ばし胸ぐらをつかんだまま無理やり上体を起こし上げる。






「―テメェは…一体誰なんだ???」




(わからない。いや、嘘なのかもしれない。まさか、あのリンドヴルム様が偽りで…本当のリンドヴムル様が死んでいるなんて…そんな事ありえない。彼女がいうようにもし、それが本当であれば…目の前で眠るこの人は…一体??)



それだけでは無い。いままで、シアがこの場所にようやくたどり着いて出会えた一族の尊き恩人である神託の竜が

まさか別人であった等とは。偽物である等とは…



(まって)



「いや、ですが。そうであるならばおかしいじゃないですか!?」



「…何?」



「そこに居るのは確かにリンドヴルム様なのです!そうでなければ、アルヴガルズでの魔神との一戦においても、魔力の在り方や、竜化した御身の姿を見違える筈が無いのです!」




祈るように、彼女は再び杖を強く握りしめる。

どうか、ナナイの言う言葉全てが嘘であれば良いと。



「―ああ、で?」



ナナイはその一言で軽々と一蹴する。彼女の主張をものともせず、まるでそんな事実になんの意味があるのかと問う。









「―もう、いいのですよ。シア。」




「あ…」




無気力な声で、何かを諦めるようにそんな一言がそっと放たれた。




「リ、リンドヴルム様…!?」



「ほぉ、狸寝入りはもうやめにしたのか?」



「…私はひどく疲れていたのです。そして恐れていた。この事実を知れば…いずれ私はこの世界では孤独になってしまうのではないのかと。」



「…」



ナナイは黙ってリンドを見つめる。そして、掴んだ胸ぐらを解放し、そのままベッドへ叩きつける。




「ナナイ。そこまで調べたのであれば…あなたは既に気づいているのでしょう?なにせ、あの“帝”によって演算された回答であるのだから。そして、あなた自身が“特異点”であるからこそ、その事実に頷く事が出来てしまった。」




「どういう事なのですか??一体どこまでが真実で、どこまでが嘘なのですか!?」



「シア。申し訳ありません。私は、最初から皆を騙しておりました。しかし、私も間違いなくあなた方の知るリンドヴルムであることには他ならないのです。」



シアはそれを飲み込む事が出来ない。それを言われてもなお、納得できるものを見いだせていないのだから。



「いつまでも回りくどいこと言ってんじゃねえ。…神官。これはなぁ、この世界を生きるアンタには少し理解が難しい話なんだよ。」



「難しい話…?」



「このリンドヴルムは、多分だが…別の“時間軸”から来たリンドヴルムなんだよ。」



「時間…軸?」



「世界線…と言ってもいい。もっとも、俺もそこまで鵜呑みにしちゃあいねえが。これでハッキりした事が一つだけあるんだよ。こいつは、本来この世界で生きてきたリンドヴルムをその手で…殺した。」



「ころ…した?…嘘…そんな事って…」



リンドヴルムは俯いて、掛けられたシーツを強く握りしめる。



「―なんとも奇妙な体験でした。ですが、そうしなければいけない“理由”あったのです。」



「その理由ってのはなんだ」



「私は、この時間軸よりも少し先の未来にいた存在でした。そしてその未来は既に、世界が破滅へと歩み出していたのです。」



「破滅…一体何が!?女神アズィー様はどうなったのですか!?」







「その破滅へと誘う役割を担ったのが…この私なのです。」

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