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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
止まらぬ邂逅

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19/201

18:神が与えた那由多の力に名はまだ無く

『魔術研究所』


ニドの言ったセリフをそっくりそのまま呟いた。

開かれた扉の先には、暗く闇に覆われていたが、ニドが器用に指を鳴らすと一瞬で周囲が明るくなる。

壁に立てかけられていた松明に瞬間火が付いたのだ。

明るくなった周囲は思った以上に広く、魔術師特有の絵に描いたような光景がそこにあった。

多くの本棚。そして壁一面に描かれている魔法陣。そしてさらに奥に見えるデスクには読み解くことさえ叶わない殴り書きの文書類がたくさん積まれていた。

俺たちは中央の赤い文字で描かれた人が10人程入りそうな大きな魔法陣に立つよう促される。



「念を押してもう一度言うよ、ジロ。僕が教える事は殆どないんだ。君はすでにその魔力排口としての役割を担うアルメンを所持している。詰まるところ、君の思考に対してその杭は可能な限りを遂行する。君は自身が持つ魔力によってこの世界の万物に干渉する事が出来る。」



ニドはそう言った。しかし、俺にはピンと来ない。魔力を使ったという自覚が無いからだ。

そんな不安を抱えながらもそのことをニドは知る由も無く話を続ける。

或いは、気づいていながらも、これから説明するからちょっと待ってろって事なんだろう。



「アリシア、一度ジロを置いてもらってもいいかな?」


「う、うん」


何が起きるのかわからないままアリシアも言われるがまま俺を魔法陣の描かれた床に置く。


「よし、それじゃあジロ。いまから浮いてみてくれないか?」


『え、唐突に!?』


「大丈夫だ。さっきの話のように浮けと命令するように考えてごらん。心の中で念じるんだ。」


んー…浮け…浮いてくれ。



『…』


「……」


「………」


「…………」


『浮け…うけよぉ…』



――――。



おいおいおいおいおい。あまりに静かすぎるし何も起きないし結局口に出して見ちゃったじゃねえか。ニド、どういう事だってば。



「ハッハッハ、問題ない。これは、必然的な展開だからね。予想はしてた。」



『知ってたのかよ!!少しひねくれてませんか?』



「まぁ聞いてくれ。最初の時は、そう考えたら軽くなったんだろ?」



『え?は、はぁ…まあそうだな。』



「それは、そこなアーティファクトに対してのスイッチが無かったからなんだよ。」



『スイッチ?』



「ああ、スイッチが入らなければいくら念じても反応しない。けれどスイッチを入れれば反応する。私はその為にそのスイッチの役割を果たすため、杭に名前を与えるよう君に言ったんだよ。」




『なるほど。てことは』




アルメン、浮け。



―フワ



『うおおおおおお!浮いた!すげえ!!本当に思った通りに上に浮いてくごびゅ!?!?』



「パパ!?」



「ジ、ジロ!!!!大丈夫ですか??」



俺はアルメンに命令を出すことによって浮くことには成功した。

しかし、「浮く」だけで止まることのない俺という魔剣はそのまま天井に衝突してしまう。

いまだに天井で張り付いたままだ。


アルメン、下げて!下に!下に!そう!そうそう!!もうちょっと…ハイ、ストップ!!!!


微調整をしながらなるべく見渡しの良い位置で浮く状態を維持したままの姿を周囲に見せつける。



『すまん、はっきり言って面倒いわこれ…』



こんな、車のバックの誘導みたいな事を頭の中で常々指示出さないといけないの!?ねぇ!?教えてニド先生。



「上出来だが、面倒くさいだろ?安心しなさい。これも予定のうちだから。」



『あんた割といい性格してんなぁ!?オイ!!』



「こういうのは手順を一つひとつ追って学んで行くほうが上手くいくんだよジロ。さて、君がそうやって微調整を頑張ってしながら浮いているけれども、一番いいショートカット方法がある。」



『それだ!それを教えてください!!ニド!!是非!!!!』



「はっはっは!元気だなぁジロは」



元気というより必死なんだよ。

いままでアリシアやリンドに持ってもらったりしないといけない事ばかりだったからね。

そろそろ魔剣で手足が無いとしても自由には動けるようになりたいんだよ。



「うむ、それじゃあ今度はスイッチを入れながら自分自身が3回回転するのを想像してごらん。」



俺は「アルメン」と語りかけるように、自身がドリルのようにくるくると3回回転している映像をイメージする。



『うおおおおお、1、2、3!!目がまわる!!』



ニドの指示どうり、おれは想像通りの動きで回転した。



「上出来だ。もう殆どそれで行動が可能になったとも言って良い。」



『なーる、つまりはアルメンって念じると同時に自分の想像した動きが可能になるのか。』



おれはアルメンと念じながらこんどは縦にくるくると回り、ぴたりと直立させ 地面に刀身を突き刺した。


すごいな、床の魔法陣の赤い文字に当たらないようにイメージした事も反映されている。


「順応が良くて助かるよ。教える立場としてはね。ところで、その杭には面白いギミックが入っているのかい?私が見る限り特殊なマテリアルと術式が組み込まれているが」


『んー、そういや 杭と繋がれた鎖を魔力のある限り生成…まぁ伸縮自在らしい。』



「ほう、面白い。試しに扱ってみてはどうかね?」



『やってみよう』



俺は、再びアルメンと呟く。想像イメージ想像イメージ



ジャララララララララララララララララララララララ


杭と俺を繋げていたほんの数十センチ程度の鎖が、滝のように根元から吐き出されていた。

すげえ、想像していた通りの長さだ。・・・・アルメン!!


続けて念じると、鎖は先端の杭の動きに従うように、生き物のようにジャラジャラと動き出し、ぐるぐると俺に巻きつく。

そして、解けたかと思えば鎖は光りの粒となって霧散し、元の長さの状態に戻る。



『すっげぇ便利だなこれ。』



「ふむ、本当に良いアーティファクトを手に入れたものだ。これほどのモノを作り上げるとは…流石はサツキの娘。」



『サツキ?』



「ハッハッハ。メイの父親の事さ。彼も有名な鍛冶師だった。昔は特殊なアーティファクトや武器を以前は作っていたものだ。彼自身が得意としていたのは東亜由来の剣、カタナというものだったね。」



『刀!やっぱこの世界にもあるんだな。いいねぇ、浪漫を感じる。』



「ほう、カタナを知っているのか。ロマン―サツキもそんな事を常々口走っていたものだ。」



『いやぁー魔剣なんて成りしてるけど、刀は刀で格好良いからねえ。俺の世界、俺の国はそれで有名な場所だったよ。』



「ふむ、不思議な縁だ。こちらの世界にも君の居た世界のモノが存在しているなんてね。まるでそちらの世界とここは何処かで繋がっているみたいだ。」



『いつか、サツキさんから色々な話を聞いてみたいものだ。その、東亞の文化とかさ。』



「―まぁ、今のところは教えた通りの工程でやれば暫く不自由はないだろう。それを繰り返しやって行けばいずれはスイッチのオンオフを意識しなくても自身の手足のように動かせる筈だ。」



『ん?お、おう。これでアリシアやリンドにも迷惑掛けずに済むってわけだ。』



「よかったねパパ。でも、私はパパを抱っこ出来なくて少し寂しいかな…。一緒にいるアルメンが羨ましい、かも」



『まぁそう言うなって。ほら握手握手。』



俺は杭と鎖を駆使し自身の手のようにアリシアに向ける。

杭を向けるのはちょっと物騒なので少し下に向ける。

少しばかり戸惑っているアリシアだが、優しい笑顔を向けてその手を伸ばす。



「…あくしゅ。」






―僕を■□□◆▼●□■□―





『ん?』



「―。」



「ジロ、アリシア。どうなされましたか?」



リンドが心配そうに声を掛けてくる。

無理もない。アリシアがアルメンの杭を握った瞬間、俺もアリシアも時間が止まったように動かなくなったのだから。その時に感じた頭を揺らされたような軽い衝撃と謎の声。

アリシアの中でも感じていたのだろうか?


『あ、ああ…アリシアも大丈夫か?』



「―え?あ、うん!!大丈夫大丈夫!!」


杭を握った手を景気よく上下に動かし、何かを誤魔化す。



「…」


ニドはその様子を少しばかり眺めていたが、「フム」と言いながらデスクにある書類の山から幾つかのモノを持ってきた。



「さて、次へ行こうか。今度は君にアビリティとスキルを取得してもらおう」


『アビ…え?なんぞそれ。ゲームか何か?』



「ゲーム?遊戯の事かな?興味深い。君の世界ではアビリティやスキルに関係する事柄が遊戯に繋がるとでも言うのかい?」



しまった、この流れじゃあ馬鹿にしている感じになるよなぁ。

でも、ニドは起こっている様子は無く。本当に興味があるって感じで聞いているな。



『わりぃ、これが遊びとかって話じゃないんだ。まぁ、あっちの世界でもこういう事はあるんだよ。けれど、まぁ画面の中というかなんというか…説明が長くなるからまた今度!!』



「ほほ、それは残念。まぁ仕方ない。その話は次回にして」



ニドは魔法陣の描かれている羊皮紙を一枚俺に向けて翳す。



「この魔法陣は魔力保有者の個人能力をその魔力に見合った状態へと昇華させるモノだ。」



『見合った状態に昇華?』



「私の見解では、魔力というのは万物が請け負う環境、時間、認識という情報が経験として蓄積されて生み出されているものだと解釈している。」



『お、おう。』



わからねぇ―



「簡単に言うと、海には火の魔力は当然ながら無い。それは火に関係する情報が全くなく、そこに存在したとしても海から生まれる水の魔力によって上書きされるからだ。」



然るべき場所には然るべき者しか無いって事か?



「そして、根源たる万物に対し生命を持つ我々がその情報を観測し認識する事によってその空間に魔力が生まれる。そして、その魔力を再び我々が観測する事で魂にその情報が刻まれていき身体の内側からそれに応じた魔力として生み出される。」


『あ、うん』


「ニド、申し訳ありません。ジロが説明に追いつけなくて戸惑っているので少し端折ったほうが」



「いかん、話し始めるとついつい長くなってしまうのは私の悪い癖だ。失礼した。」



コホンとニドは喉をならして仕切り直す。


「まぁ、例えるなら人間にも魔力を持つ事が出来る。が、必要以上に行使する魔術や魔力は

自身の肉体に負担を掛けてしまうのだ。それを解消する為にその魔術を肉体に向けて肉体を見合った状態に昇華させる。本来は年数を重ねた鍛錬などが必要になるが、この羊皮紙に書かれている魔法陣はそれを逆に溢れそうな魔力を利用して肉体を高速で昇華させる術式になっているのだ。」



なるほど。つまりは俺も、これを使えば自身の能力を向上させる事が出来るわけだな。



『理解した。で、どうすればいい?』



「そうだね。その魔法陣の中に居た状態で、私の持つ羊皮紙をアルメンを使って貫いてくれないか?」



『そんだけでいいのか?』



「ああ、その足元の魔法陣は鍵だ。その場所以外で、この羊皮紙を破り起動させると爆破魔術が発動する仕様になっている。盗難防止用さ」



『本当に物騒だな!!』



俺は軽い突っ込みを入れながらアルメンに指示を出し、伸びた杭でニドの持つ羊皮紙を貫く。



―ウォン



PCの起動音みたいな面白い音を鳴らしながら足元の魔法陣が光る。


『ん?なんだ…すげぇ。』



「ジロ。どうだい?自身の内側で何かが上がっている実感はあるかい?」



『いや、何もねぇ…んだが…』



「なる程。魂を有した無機物に対しての感覚的向上は自覚意識がない…と。とても参考になった。」



『え?もしかして試されてた??』



ちょ…人が悪いぞ!ニドォ!!まぁ人ではないけれども。



「安心してくれ。君の中では何も変化が無いようだが我々からみたら異常なくらい変化している。」



『へ?どんな感じ?』



「そこらへんはそこにいる彼女が説明してくれるだろう。」


俺はリンドに視線を向ける。って、へたりこんでるんですが。


『お、おい。リンド大丈夫か?』


「え…ええ。少し、あなたの魔力に圧倒されただけです…」


『どういう事だ?』


「以前の貴方という魔剣は、魂と魔力を内側に抱えているだけの器にしかすぎなかった。…ですが、いまの貴方は魔力と同一化している状態です。表面に魔力の殻で覆われた剣。それは魔力そのものが失われない限り、その器となる魔剣が壊れる事が無いという

事になります。」


『てことは、魔力が無くならない限りは無敵ってことか?』


「そういう事になるね。これで君自身が壊れてどうこうっていう心配は殆ど無くなったわけだ。

そして次は…と」



魔法陣の上に大量の分厚い本がどさりと山のように置かれる。



「これらを先ほどと同じ容量で破壊してみてくれ。」



『おう、わかった。』



いわれるがまま全てを杭で貫くなり切るなり破るなりをしてみた。

だんだん鎖の扱いには慣れてきたかな。


そしてそれらを破壊する度に、破壊された本たちはは光り出し塵と成り果て消えてゆく。

同時に、俺の中にも異変はあった。



『あ―』



<火の礫>取得 <爆炎>取得 <火の精霊:火炎>取得 <獄焔>取得 <火竜の憤怒>取得 


<水の弾>取得 <水壁>取得 <水の精霊:水流>取得 <水牢>取得 <蛟の渦>取得


<風の剣>取得 <風刃>取得 <風の精霊:飛行>取得 <竜巻>取得 <狼牙重奏>


<雷の槌>取得 <雷衝>取得 <雷の精霊:連鎖>取得 <紫電>取得 <雷閃脚>取得


<氷の槍>取得 <氷柱>取得 <氷の精霊:寒波>取得 <吹雪>取得 <銀幕の葬送>取得


<土の盾>取得 <砂塵>取得 <土の精霊:地震>取得 <地縛>取得 <山屑し>取得


<光の矢>取得 <光癒>取得 <光の精霊:領域光癒>取得 <陽光>取得 <天罰>取得


<闇の声>取得 <侵食>取得 <闇の精霊:暗鬼>取得 <闇刻>取得 <災禍>取得



『ぬがあああああ、頭の中で何かがいっぱい喋ってるうううううううううううううううう』



「君はそれらを破壊する事で自身の中にある魂に多くの術式を刻まれながら取得している…のだが、想像異常だ…基礎的なモノから応用型、精霊系、私の開発した魔術に僅かな記録で残されていた天蓋術式まで。」



『くっそ、ぉ!!いっぱいの言葉が俺の頭のなかでぐちゃぐちゃ混ざってわけがわからねえ!!!』



具現概念<礫>を所得属性と同期

具現概念<盾>を所得属性と同期

具現概念<剣>を所得属性と同期

具現概念<槍>を所得属性と同期

具現概念<槌>を所得属性と同期

具現概念<矢>を所得属性と同期

具現概念<声>を所得属性と同期


具現概念<爆>・・・・・具現概念<壁>・・・<衝><柱>・・・・・


ぐおおおおお、まだまだ脳内で頭に叩きつけられるようにいろんなワードが入り込んでくる。


「それは調整されているのだよ。君の中で取得した1つの属性魔術がほかの属性魔術との可能性が結びついて更に別の魔術の行使を可能としていく。リンドの言っていた彼の魔力の不可解な色…私の仮説が正しいなら…ジロの魔力は全であり一。本来、違う魔力同士が無理矢理混ざり合えば混沌が生まれ魔力としての意味を失い、消滅する。しかし、彼の魔力は『七曜』…全ての属性が一本一本綺麗に編みこまれた状態で維持している。それほどまでに、ジロの魔力の中には想像以上の多くの情報が組み込まれている。故に、全ての属性の取得を可能としている。現在でさえ、生命を持つ者が卓越した魔力を行使する為の共存可能な魔力を2種類維持するだけで限界だというのに…ジロ、君は…よもや『神域』の世界の住人なのか!?」



『んぁああああわっかんねぇよ!俺も、アズィーに…わけのわからねえ塊に言われるがまま此処に連れてこられただけだっつ―。これ、あとどんぐらいで収まるのぉ』



「アズィー…塊…祝福…なる程。面白い…実に面白いぞ…」



神属性<時間>を取得



ニドは耳を大きく揺らして実に愉快な面持ちで俺を見ている。コンチキショウメ。



「ジロ…」



神属性<起源>を取得




リンドが心配そうに見つめる。が、俺も見栄を張って取り繕う余裕すらない。



『ぐ…うおお』



神属性<創造>を取得



「思った以上に長い更新だ。君の中で新しい魔術が生まれたのかもしれない。否、まさか我々の及ばぬ先の領域まで??」



『頭がいてぇえええええええええええええ!!!とまれえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!』



ピシッ



属性概n――。







あれ、


ナンダコレ?





「            」



「            」



「            」


俺は一体何を見せられてるんだ?


一瞬の状態のまま一枚の写真のように周りが動きを止め静止している。


おい、ニド…これは?


声を発することが出来ない?どうしてだ??なんで。それに―。



地面を刺している俺の刀身が、赤く煙を出している。

ああ、わっけわっかんないよー…

もう。考えるのやめていいっすか?つか、すんごい眠くなって―来た…。




おれは暫し、意識を闇に預ける事にした。

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