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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
189/199

125:堕天使との再会①




こいつは、言った。確かに言った。



その纏う白毛を逆立て、静かな怒りを見せつけ、俺たちを“殺す”と。




「お前たちには大して興味も無かった。そう思うなら生かすか殺すかなんてものは五分五分だ。気分が乗れば殺しているかもしれない。だが、()()()に関わっていると言うものだから9割ぐらいは殺すつもりはなかった。けど、俺は邪魔をされるのが嫌いなんだ。」




あいつ?あいつとは誰だ?誰の事を言っている。



「正直、お前たちには感謝をしている。スフィリタス(このガキ)は以前に俺が“素材”にしようと狙っていた。だが当時は知らなかった。天使の血が阻害しているのだと。だから出来なかった。けど、お前がそれを壊したおかげでそれを可能とした。その義理をもっているから殺すなんて考えてもいないし、お前たちがこれから何をしようか等とは全く興味もなかった。だが、もう一度言うぞ」



白狼の表情は威嚇をする獣のそれだ。眉間に集中する皺。口の端は大きく開かれ並んだ牙を見せつけている。

吐き出される吐息は熱がこもっていると解る程に白く。その眼光は爛爛とこちらを射殺すように見つめている。



「俺は、邪魔されるのが嫌いなんだよ…」



『それで、俺達ぁその()()()()()()か知らん奴に覚えのねぇ温情を買わされて黙って放っておけってか?』



けどなぁ、そういうわけにもいかねぇんだよ。


ああ、ここに来てから本当に散々だ。



戦いの連続。わけのわからん情報の連続。急に出てくる知らん奴。本当なら『あ、じゃあ失礼します』で去りたいのは確かさ



『無理な話なんだよ。もう、俺はその石ころになった奴と関わっちまった。それをコソドロのように掠め取ろうとしたお前が何を偉そうに言ってやがる?殺すだぁ?答えはノーなんだよ。易々とテメェに殺されるつもりはねぇ』




「聞き分けの悪い奴らだ。耳の悪い奴は嫌いなんだよ俺はっ」



白狼が構える。来るかっ―




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」




ヒリついた空気の中で急に大きく叫び出したのはロックだった。



『なんだ!うるせぇ!どうしたロック!!』



「う…う、後ろをっ…あいつの…」



どう見たってロックの様子は尋常じゃなかった。白目を剥いて泡を吹きそうなかんじだ。



『後ろ?何言ってんだお前…ん?』



俺はもう一度白狼の方向を向く…


奴を集中してみていたせいか気づかなかったが、奴の後ろに何か大きな影が見える。



その影のこちらを見る双眸からは、白狼の眼光以上に凄まじいものを感じた。

こちらに対して大きな意志…或いは感情が伺える。



なんだ…大穴から差し込む光に届かない位置のせいで…暗くてよく見えん。



が、それは直ぐに起きた。




「こンの、ボッッケナスガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜阿嗚呼亜愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛!!!!!!!!!」




怖ろしいまでの怒号がこの空間を大きく震わせている。

俺には一体何が起きているのか解らなかった。



ズン、ズンという思い音を二度響かせながら

白狼の後ろにいたそいつは白狼の頭を掴みながら二度、地面に叩きつけたのだ。




「ぐ…おぁあ???」



白狼も俺と同様に何が起きているのか理解できていないようだ。




「我が愛おしくも尊き崇高な御主になんたる無様な姿!あと態度と言葉遣いぃいい!」




『主…主だと…!?』



「……???」



凄まじい気迫だ。あの鬼女と同じ程の執着。

まさか、こいつも魔業商の一味の一人なのか…?


悍ましい程の魔力だっ


この感覚まりょくには覚えがあった。



かつてアルヴガルズで戦った天魔神の名を冠する魔神、イヴリース…

だが、ギルドの街にはこんな大きい体躯と気迫の奴は視なかった。

さしずめ石となったスフィリタスを取り戻しに来たのだろうか

あいつが、こんな隠し玉をもっていたなんて…確実に想定外ではあった。



「ぐっ…てめぇ…!」



白狼はそのおおきな影に引きずられるまま、こちらに向かってくる。


やがて、大きな影が大きな天井の穴から挿し込む光によってその身を顕にする。




イヴリースに匹敵する魔力…一体、何者が―…







「愛・アム・リユニオン―」







出てきたのはイヴリースだった。

忘れるわけがねぇ…


あの顔。十字の刻まれた炎のような瞳。


六枚の漆黒の羽。


長く伸びた蒼銀の髪を垂らし伺える歪んだ表情。


ありゃあ確かにイヴリースに違いない。


俺達は過去に戦った記憶が徐々に呼び起こされる。


だが、同時にこいつはミカイルと呼ばれた天使に封印されていた事を思い出す。



『ありえない…なんでコイツが?』



「パパ…こいつってもう封印されたんじゃ?」



わかっている、だから解らない。何故こいつがこんな場所にいるのかが。

一体…どうして―




「…」



『っ!』「っ!」



イヴリースの目と俺たちの目が合う。

あの時はこっちの感情を昂らせていたから敢然と立ち向かった部分もある。

だが、いまの心持ちではやはりあの十字と燃える焔のような視線で容易く恐怖を想起させてしまう。


なんだってんだ…クソ!



「…(ツー…)」




『え?』「え?」



そいつはいよいよ俺たちに封印された恨みの一つでも叫ぶかと思いきや唐突に涙を流し始めた。





「ようやく…ようやく…お目通りが叶いました。嗚呼あいるす、我が主よ」

















『―ん?』


「え?」




俺は思考が止まった。あとなんか今まで見た事ない、すんごい柔らかい顔をしている。(あと何故か頬が赤い)



「フンっ」



イヴリースは掴んだままの白狼の頭をそのままゴミのようにぶん投げると



「滅菌消毒っ」



とか言いながら掴んでた自身の手を急に謎の炎で纏わせて“ジュウウウウ”とかいう音を立てながら焼いていた。



「カス汚物の喋る埃玉がっ…よくもまぁ我が主に易々と口がきけたモノだ。貴様の汚らしい菌が感染ったらどう責任を取るのだ?この喋るサルコシスティス・フェアリー風情がああっ!!」




サルコシスティス・フェアリー: 原虫類(胞子虫類)


幅:0.5から1ミリメートル(mm)

長さ:長いものは1センチメートル(cm)に達し、ウマを中間宿主、イヌを終宿主とする。

イヌが感染するとふん便中にスポロシストを排出する。ウマは、そのふん便に汚染された飼料や水を介して感染し、筋肉中にシストが形成される。シストが形成されたウマの肉を食べたイヌが再び感染する。




『はっ―』



なんだっ!今の謎の声はっ!?何故か解らんが保健医療局の解説が不意に割って入ってきたぞ!?

別に、こんな事…今必要な話じゃないのに!!なんでだ!?



『ってちげぇ!!なんなんだテメェ!!どうしてこんな所にいるんだ!?お前は確かにミカイルに封印されたんじゃ』



「我が主よっ。それには永く深ぁ愛い事情があるのです。許されるならば、どうか私にそれを語る許しを頂きたくありますが―」



急になんか近づいたと思いきや、俺とアリシアの前で跪いて来るイヴリース。つか、なんかまた目端から涙零してるぞコイツ。



『つか、その主ってなんだ!?お前が?俺らを主って??散々神の事を愛して暴れていた奴が何をいってやがるんだ!』



クリカラのようにネクロ・パラドックスを使ったのならばまだ理解できる。

けど、こいつに使った覚えが微塵もない。


まさか、俺に存在しない記憶が???



「あるわけないでしょ。アリシアがいるのに」



『そらそうだ。だから余計にわっかんねぇ!』



「困惑しているのもわかります。(わぁ、)ですが、まずは…あの小汚い犬めを始末してもよろしいでしょうか?(我が主の動揺可愛い)」



なんか喋ってる内容が謎の聞こえる邪念で入ってこない





「む―」



イヴリースは何かに気づき、左手を横に翳す。

すると眩い光が放たれ、それは燃ゆる青白い焔の槍を生み出した。


それは急に周囲を暴れ出すように走り出した。

いや、何かを追っている。



「チッ、面倒くさい奴に出くわしたな」



その声で気づく。

白狼がその槍に追われていたのだ。


そいつは大きな棺桶を背負っていながら軽々と跳躍して俺たちが空けた天井の大きな穴へと逃げていく。



「流石に分が悪い、俺は失礼するよ…こんな所で油を売る暇なんて俺には無いのでね。ここで殺すと言ったのは宣言撤回だ。せいぜい、次ぎ合う時まで生き延びてみるんだな。その時がきたなら…―殺してやる」



『まてっ!!クソ!!!』



結局スフィリタスを持って行かれちまった。

どうする…追うべきか。




「…ノンノン。我が主。その必要はありません。」



『ああ!?どうしてお前がそんな事を言えるんだ』



「この場所に赴く際、主たちの話はある程度この地獄耳ならぬ天獄耳ですべて聞き及んでいます。」



そいつは、懐からスッと“あるモノ”を取り出した。




「あの“※マンソン裂頭条虫”が持つ箱から静かに取り戻しておきました。」




※マンソン裂頭条虫:線虫類。寄生している主な動物…イヌ、ネコ




『それは!?(今の解説は一体!?)』



それは白狼がスフィリタスの頭を潰した後に姿を変えた石であった。



『お前…なんでそんな…俺たちに…お前は、もしかして』




俺達の味方なのか???



「―違います。私は、貴方様の下僕にございます。けっしてそのようなおこがましい立場にがございません。我が愛しき主よ」




『…』


「…こわ」



恐いよねぇ!そうだよねぇ!!あんだけ、アルヴガルズの樹の幹でキレ散らかして封印される時に流石に不意な感情で鎖で一瞬繋ぎ止めちゃったけど、それにすら激昂していたあのイヴリースが、こんな180°も感情変わることってあるの??

少なくとも俺には無い。ありえない。何より分かんない



「理解出来ないのも、無理はありません。私が貴方に己の道を捧げると決めたのも…あの、ヴァルハラに封印されていた時なのですから。」



『え?』



イヴリースはアリシアにスフィリタスを手に渡すとまた一つ、懐から何かを取り出した。



「…それ、鎖の」


『破片?』



「ええ、ええ!そうです、ええ!これこそが、我が主の私への愛たらしめんとする証!これがあったからこそ、暗き暗き闇の中でも温もりと情熱を忘れず、我を感じるまま夢の時間を過ごすこと適いました。」


その鎖の破片からは俺と同じ魔力を感じる。というか普通は使用した後のアルメンの鎖は霧散して消えるはずなのに、コイツの持つ鎖の破片は消えないで残っている。

…後に知るのだがこいつがそれを霧散しないように自身の魔力を流し込んで形を維持させているのだそうだ。


その説明をしながら再び急に泣き出すイヴリース。


「嗚呼、やっと云えた」


『お、おう』




「これは、貴方が私の心に繋ぎ留めていた鎖…即ち愛の証なのです。そして私の、未来永劫のタ・カ・ラ・モ・ノ」




『…』


「…こわ」



恐いよねぇ!そうだよねぇ!!二回目になるけど!やっぱ怖いよね!!




だけど、本当に信じていいか疑わしいものなのだが、まさかイヴリースが俺たちの仲間になるなんて



今までで全く、想像だにしていなかった展開だった。

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