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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
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魔業商③

あまり興味を抱けない青い空。

揺れる船の上…そこで飛ぶ鳥を見上げて僕は呆けていた。(姫は疲れて船内の寝室で寝ている)


南大陸までは時間がまだある。

それまでは自分の能力について考えていた。



自身の質量と膂力を変化、増幅させる左腕。エド

僕はこいつの能力だけを反射的に覚え行使していた。


だからこそ僕は気にも留めていなかった。



骨のような右腕。アルカディアの能力を―



あの時はどうしてあの帝国聖騎士の攻撃を防げたのだろうか?

僕は、ある一つの仮説に辿り着く。


こいつは魔力に反応して、その色を識別していた。いや、観測していたと言ってもいい。

それと同時に僕の右腕は性質を変化させていた。


光に対する魔力への対消滅。



以前調べた本にはこう書かれていた。

魔力というものはその属性に対して効果が無いものがある。


それは、火<水等の淘汰させるものではない。

全くの同じ属性の魔力の魔力濃度と全くの誤差の無い魔力濃度を当てる事。


勿論、そんなものは本来存在する事はあり得ない。

机上の計算と極々小規模な実験でしか証明する事のできないものだった。



この右腕はそれと同等の演算をする事で対消滅をしていた…と考えれば合点はいく。



「だけど…なら全く同じ濃度の魔力を複製させす為のリソースは何だ?」



気づけば、僕自身は魔力を保持していた事は無い。ほぼ物理でゴリ圧ししていたからだ。



「なら…どこからこの腕は魔力を引きずりだしたんだ…?」







「あら、あらあら。アナタ」



「ん?」



「うふふ」



隣でしゃがみ込んで僕の右腕をペタペタと触る黒装束の女性。

優しい声色をしているが、その表情は被る黒いヴェールに覆われており読み取れない。

端から白い肌を覗かせ、白い髪を垂らしていた。


口角を緩やかに釣り上げている様子があまりにも底知れず、自称怖いもの知らずの僕でさえも不気味に感じた。



「…何、お姉さん…誰なの?」



「あら、ごめんなさいね。つい、“同じもの”もってる人と出会うのが嬉しくって…ついね」




同じもの?


この口を尖らして不敵に笑う女の人は今、そう言ったのか?



僕の右腕アルカディアと同じものを持っている…と?



「観測する能力チカラ。天使の能力シハイ。」



「っ!?」



僕はすこぶる驚いた。

彼女は天使と言ったのだ。僕の右腕を見て。



「お姉さんは、天使についてを…知っているのかい?」


「ええ」


そしてどこか懐かしさを感じてもいた。


天使と悪魔の話。それはよくクロニスが僕に語っていた物語だ。

そして、僕が知識というもの求める事となったきっかけ。



「でも、同じだって?キミにも、この骨石のような腕があるっていうのかい?」



「いいえ、私のは―」



その黒装束の女は自身の胸に手を当てる。



「ここにあるわ。そして、私の全身へ駆け巡っている。」



「…どういう事?」



「天使…いいえ、天属性は魔力の軌道を司るの。」



「軌道?」



「魔力が現実に変換される時、起点から魔力が術者の望む形へと世界に侵食していく事を対なる“禍”と呼び、術者の望む方角に軌道を制御する際に天属性は働くの。発せられる属性魔力を端から天属性が制御する事で術者の意図に合わせて動くの。」




禍属性・天属性。それは昨晩あの村で読んだ本の中にあった内容だ。

この怪しい女性は…それを知っている?



「私はね、魔術を使う事が出来ないの。天使の血筋の者は天属性の魔力が大きく出てしまう。そうなるとね、私の中で生み出される筈の魔力は大きすぎる天属性の制御によって打ち消されてしまう。あなたにもそんな経験無いかしら?」




魔力を端から制御…成るほど。


だから、あの時魔力の色を認識したアルカディアが相手の魔力を弾いたのは天属性の魔力が迫ってきた閃光の魔力を読み取り制御した。

読み取った魔力を瞬間的にトレースして同じ濃度の魔力で打ち消そうとしたが、わずかに足りない誤差で打ち消すのではなく弾いた結果となったのか。



これは…いける。

あの時は咄嗟だった。けれど、この右腕を使いこなせれば魔力を制御してその魔力そのものを無傷で目の当たりに出来る事になる。



「…クスクス」



僕はある確信を得た途端に隣のお姉さんがその思考を読み取ったかのように笑う。



「いいわよね。魔力。本来人の手では起こりえない筈の奇跡が、余りあるほどに、まるで呼吸をするようにこの世界であふれかえっている。それも、人の身体の中で強く…色濃く蓄えられている。皮を纏った甘い果実のように。」



「…まるで魔力が無い世界を知っているみたいな物言いだね。お姉さん」



「言ったでしょ?私は、生来魔術を使えた事がない。使う事もない。生まれつき魔力を持てないこの身体は、魔力を当たり前に使う者とじゃあ住む世界が違うの。」



「それは災難なことだね」



「災難?どうしてそう思うのかしら?」



「だって、お姉さんはとても魔力の事に詳しい。それほどまでに魔力の知識を持つ人はそれに対する羨望、あるいは執念があるはずだよ。そして僕もそれは同じだから」



「…あなた、名前は?」



「スフィリタス」



「そう、私は―」




「おい」




お姉さんが名乗る直前、空が急に暗くなる…いや違う。僕の後ろからなにか大きいものが迫り、背後に立って自身の影で僕を覆っているのだ。



そいつはポン、と僕の肩に手を置き…暫くが時が止まったように動かなくなる。



…右肩に乗る手はあまりにも異形でありながら馴染みがあるものだった。




(獣人族?)




「―急に離れるなよ。お前の好奇心に毎回振り回される身にもなれ」



重々しい低い声からそれが男の獣人族であるとわかった。

僕は咄嗟に振り返りそいつの方を見る。



<黒>



「…っ!?」



とても大きな体躯の存在が目の前に立っていた。

嘘だ…こんな奴がこの船に居て良い訳が無い。


目の前に居たのは獣人族なんて簡単なものじゃない。




…何故周囲は気づかない?



こんなにも大きな…まるで竜に匹敵する程の大きな狼をっ



背中には棺桶のような木箱を鎖で縛るように背負いこみ

腰回りに大きなしめ縄を纏っている。

その大狼の目は僕を見下ろし何かを選定しているようだった。



「…違うか」



そいつは僕の肩から手を放すと、スッと一瞬で姿が変わる。

先ほどまでとは言わないが大男のサイズでローブを纏った姿になっていた。


そうか、あの外套ローブ…認識を闇魔力で上書きしているのかっ

だから誰も気づかないんだ。それを奴が僕の右肩に触れた時にアルカディアが解析して僕だけが見えてしまっていた。



「いや、しかし…だが素質はある。“変換”できれば…だが、何故それが出来ない?」



大男の皮を被った獣狼はブツブツとなにかをぼやいている。



「―あらあら、ごめんなさいね。サツキ」



黒装束のお姉さんは手をヒラヒラとして申し訳ない素振りを全く見せずそう言う。



「…もういい、いくぞ。あまり周囲と交流を持つな」



「わかってるわ」



彼女は狼の言葉に頷き、そのまま二人でその場を去ろうとする。

…大男の事は得体が知れないが、僕は黒装束のお姉さんに大きな興味を示していた。



彼女の魔力に関する知識が欲しい。




「お姉さん」



「何かしら?」



「お姉さん…たちはどこに向かうの?」



「ふふ。向かう、と言うよりは()()()()()なのよ」



「南大陸出身なの??」



「いいえ。私は西大陸出身よ。でも、今は南大陸に住んでるの。あそこにはギルドもあるし、何より大きな魔導図書館がある。住むには困らないわよねぇ。」



ギルド、南大陸には冒険者ギルドがあるのか。そして…魔導図書館だって?


すごい。知識の宝庫じゃないか!



「…くす。私は結構な割合で魔導図書館にいるわ。理由あって早朝に限るのだけれど…もし興味があるのなら…是非またお話をしましょう。スフィリタス」



「おい、もういいだろ」



なんという運命。このサツキと呼ばれた大男には何か思うところがあるのだろうが


この機会は逃せない。

僕は頷いて改めて名前を聞く。



「お姉さんの名前は?」




「―アリアよ。」




そよぐ風でヴェールが一度翻る。

その時に見えた彼女のとても優しい表情は、今でも記憶に残るくらいには印象的だった。







「アリア・ハーシェル」

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