表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
186/199

魔業商②

僕と亜薔薇姫は暫くの間この王都痕を離れて様々な国を転々としていた。


当初は山賊の真似事のように夜道の連中を遅っては金になるものを集めながら

魔力に関する知識や道具を集めていた。

時に或る地域の逸話を聞いてはそこに訪れ大きな魔物を殺し

時に或る村の秘宝を得る為にその村を丸ごと焼き払ったりもした


竜という存在を目にした時は驚き、興奮したが…あまりにも他愛なかった。

理性や知恵を持たぬ者は最早獣と同じで、風や川の流れを読むように動きが手に取るようにわかった。


だが、世には知恵を持つ竜もいて

魔物でありながら人に成り代わるものも存在している。


天使、或いは堕とされた天使。


規格外の存在。


他者を捻じ曲げる外来者。



様々な可能性は時を経て、枝分かれして発生しているものなのだ。


当然か、じゃなきゃ僕みたいな異端ばけものだって存在している筈が無い。


解るのは、全てが“魔力”という一本の線を軸にして“こう在ろう”としている。



では、魔力とはなんなのか?


僕はその一本の軸に大きな魅力を感じた。


魔力の発生源には3つある。



個という存在が持つ魂に張り付くもの。


もう一つは、神への信仰。


最後は、大気のように流れ古の渦へと引き込まれていくもの。




「…―魔力にも色がある…ねぇ。成るほどねぇ。火・水・土・雷・氷・光・闇…それらには決められた色があるみたいだが…どうやらそのどの魔力にも依存するように細部に織り込まれたものもあるらしい。それが観測を以て支配を司る天…そして行動を以て支配する禍…ねぇ」



僕はペラペラとページをめくり読み耽る。



「破滅とは必然的で、魂は常にそこから逃れるように世界を生み出す…うーん。なんて読むんだこれ?」



その文章のページの隣には存在しているのかもあやしい石板を模写された挿絵が描かれていた。

その絵の石板には古代オーリー語と呼ばれる古の言語がいくつか記されており。一部覚えのある単語がある。




自己イー” “複製ヤゴ” “縮小ゲデルレ



「世界を創り縮小させる…?うーん、まだわからないや。」




僕は分厚い本を読み終えると、正面の死体の頭目掛けて投げて、頭部を潰す。



「―もういいのか、スフィ」



「うん、これ以上はこの場所にも用は無いよ」



テーブルに置かれたリンゴを手に取り齧ってみる。

僕には食欲なんて概念が元々無かった。けれども、様々な事を知れば知るほどに



「うん!おいしいねこれ。」



味に深みや趣を感じていた。





―亜薔薇姫と共に行動してからしばらくして、この世界の仕組みを少しずつ理解してきた。

この世界には十指の戒律というものが存在している事も。



僕らはこの村を後にし、次の目的地を探す。



「さぁて、次はどこに―」




「あなた達ですか?この村をこのようにした者は」






「んん?」



「―スフィ!!」




それは一瞬であった。

後ろから迫りくる刃…僕はその気配を拾う事に遅れてしまった。



本来であれば、迫ってくる生き物特有の気配に気づきその襲撃を躱せるものだった。

しかし、僕は亜薔薇姫に言われてようやく振り返りそれを目視する事で辛うじて躱したのだ。



(気配が無い?)



正面で剣を構える存在はその身全てを覆うような甲冑を身に纏っていた。


だからなのだろうか。妙な感覚であった。

その鎧の騎士には生きているという感覚を見出せないのだ。



「気配をアテにしていながらも、実に機敏な事ですね。」



その声の主は、数人の鎧騎士が並ぶ奥で佇む馬車の中から聞こえた。




「まさか追手が来るとはな。」


「はは、面白いやアイツ」



「何が面白いか」と背中合わせに舌打ちをする亜薔薇姫。



「あれを見ろ…」



亜薔薇姫は指さすように顎で視線の先を促すと、その甲冑に刻まれた紋章には



【△▼△】 と



三種類の三角形を並べたベースに様々な装飾や造形が施されている。



「あれは帝国直属の部隊。帝国聖騎士団の紋章だ。末端組織である帝国の軍と違い、より帝王の側で帝国を守護する連中だ」



「…その二本角…もしや極東の?」



「ん?姫の知り合い?」



「っ…だから妾は東の大陸に踏み入るのを嫌ったのだ。どうやら、想定していた中でも一番のハズレの村を引いたようだな」



「ごめんて」



「この村は我が帝国の領土内であり、帝国聖騎士団の庇護内です。まさか、極東の鬼が居るとはいえ、二人だけの賊にこうも良いようにされているとはあまりにも不覚でした。…まぁ、よいでしょう。先ずは、今のあなたたちの処断が優先事項です」




馬車の中から聞こえるその声にも違和感があった。その声の主は何か…声が“模倣”されたような感覚であった。

まるで、そこに居るようで居ない…そこに居る全ての者が生きている者ではない



それだけではない。馬車を引く馬にも違和感を感じた。


その身は全て鎧のように鉄で覆われていて

本来聞こえるであろう生き物の息吹を全くと言っていい程感じないのだ。



馬だけではない、そこらの騎士たちも同様だ。



「まさか、アンデット使い?帝国聖騎士なんて名前を掲げていておいて随分と悪趣味な戦力だよね」



「死霊を扱う事には興味はありません。我々はもっと効率的に造られている。」



確かに、生き物としての定義の無い存在…ましてやこいつらにはアンデットが依り代としている魔力の感覚すらも読み取れない。

戦闘を感覚だけで補っている僕や姫みたいなのじゃあ相性が悪すぎる。


本当に何者なんだこいつらは。



「っ!?」



瞬く瞬間に閃光が僕へと目掛けて走り出す。


<白>


不意を突かれ、咄嗟に出した右手…天使の血がより濃い部分である声の主アルカディアがそう呟くと閃光をその右手で弾き防いだ。



「アルカディア…?」



僕はこの瞬間にアルカディアという能力を理解した。

今までエドの物質、主に肉の増殖を主体に使ってきたが

まさかアルカディアにこのような能力があるとは思っていなかった。


…視線を閃光が放たれた場所であろう方向へと向ける。




馬車だ。あの馬車を引く、鉄の馬の口から煙を吐き出す様子が伺える。



(魔力反応を察知できなかった。あの閃光を放つ瞬間のみ魔力が放出されていた…?)




「驚きました。あなたには魔力解析能力があるのですね。しかもあの一瞬で…実に興味深いものです。」


すぐさま聖騎士と呼ばれる鎧たちは四方八方から迫ってくる。


「是非、我々の元で解剖させてほしい」


この時の僕は珍しく笑いながらも死を覚悟していたのだと思う。けれど



こういう状況において分が悪ければ選択肢も絞られる。至って単純な道筋に全てをかければいい。



「…これは、ヤバそうだね!それじゃあっ逃げるかな!!」



「ぶっふぉ」



僕は亜薔薇姫の手を取り、脚にエドの力を込めて大きく高く跳躍する。



一度跳んだ先で周囲を見渡し、帝国があるであろう場所とは真逆…海のある方の方角を見出した後に

僕らはそのまま月明りに照らされない暗い場所へと逃げながら木々が集中して生い茂る森の中心点へと目掛け落下し

そのまま着地すると二人揃っていそいそと海の方向へと走り抜けた。



「はは!上手く免れたかな!?どうかな!?」



「いいから急いで走り抜けろ!」



この時の僕らはまだ、こんなにも小さな小悪党風情だった。

でも、なんか不思議と楽しくて…何よりも自由を感じれた。



自由なんてひとそれぞれ意見があるようだけど

僕にとって、何かをして生き延びている時点で、世界に許されている事こそが


自由であると感じていた。





なんとか逃げ延び、海沿いの街までいくと暫くは東の大陸は危険だと判断し

港から、南大陸行の船に乗る。



「うん、今回はある程度良い収穫があったよ姫。危うい所だったけどね」



「はぁ~。全く、先が思いやられる。」



「でも、この目的…つまりは世界の悲鳴を聞かせてやるって示してくれたのは姫のほうでしょ?」



「ならばもっと慎重にするが良いっ。いいか、今後は妾が選んだ先で妾の決めた方法を取るが良い」



「え~。大丈夫だよ。今はまだ、ギリギリのとこだったけど…いつかは好き放題できるようにして見せるさ。」



「…なんなんだその底知れぬ自身は。」



「そうだね、僕はもっと魔力の知識を得るべきだと思ったからかな。多分」



それに、アルカディアの使い方も…もっと知るべきだ。



僕はゆっくりと東から昇る陽光で暗い海が徐々に色味を帯びて行くのを見ながら




「世界…世界はどんな声で叫ぶんだろうなぁ。」



そう呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ