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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
179/199

122:黒き蓮

<コロス><コロス><コロス>



そいつは唐突に喰ってかかるように跳んで寄ってきた。

勢いにまかせて殴るようにエドの大きな肉塊を繰り出し、それを瞬間でアリシアが魔剣おれを使って弾き返す。



<コロス><アッサツ><ツブス>



ズブズブと音を立て増殖するエドの肉塊はアリシアの真上へと昇り、槌のように叩きつけてくる。

おれは咄嗟にアルメンの杭を遠くの柱に刺し込み、伸びた鎖をアンカーのように巻き戻す勢いでアリシアをその場からか強引に退かせる。



ズンという音が響き、一先ずの静寂が訪れる。




「―ねぇねぇ、そろそろ諦めてさぁ、僕に従ってくれないかなぁ?」



ため息交じりに話し始めるスフィリタス。

ニコニコと笑顔を取り繕っているスフィリタスではあるが

些細な挙動から伺える苛立ちを、俺とアリシアは感じていた。


それが何を意味しているのか…多分、こいつの予定は破綻している…とはいかずとも多少の行き詰まりが見える。



重要な計画であれば、そちらを優先して泳がせるのも策のうちだ。

しかし、こいつはずっと俺達の事を探していた。


あの鬼女がイヴフェミア姫の事をルドルフがピエロにされた時のように強引に支配しているのも関係している。



『従うわけねーだろ。お前が、壊す事を主軸にして生きている限り、俺たちは平行線のままだ』



「…ふーん」



俺たちは互いに睨み合う。




「ね。ねね。あ、あの女の子知り合い?」



『あいつがこの王都の裏で暗躍している首謀者のうちの一人だ。天使と魔神の両方の血を引いている。』



「天使と魔神……・あっ。あーっ、あぁ…それって、雑種強勢思想というやつかな?僕も…ああいや、なるほど。」



ロックは恐る恐るに自分から聞いておきながら、奴の事を聞くとどこか興が醒めたような反応を見せる。

後半何かを言いかけたが誤魔化すように頷く。



「天使の観測能力と魔神の発信能力。その二つは強大な器の作成用途によくみられる…この子、もしかして本来は“何か”を降ろす為に造られた存在か何かなのかい?」




『っ、お前…どこでそんな知識を』



「ああ、いやぁ。ほら、僕一応研究者だったし。」



短い期間であるが、こいつは初対面の時と打って変わって時折様子がおかしい

具体的には性格なのだろうか?固定されないところが不思議と真実を捻じ曲げているようにも見えた。


だから勘でアリシアもこいつを警戒するし、プリテンダーすらも反応をしないのだろうか


なにはともあれロックの反応を見てスフィリタスは嬉しそうに答える。



「へぇ、面白いね。そうさ。僕にはもともとその素養があったのさ。けど、その必要はもうなくなったんだ。そこに居る魔剣と天使の血を引く少女。それに依り代としての種である聖女もどきがあるんだからね。」



「必要なリソースがそろっている…依り代は聖女。なら、大きな魔力を充填するバレルが天使の彼女…なるほどね。はぁ…呆れた。君、“ジャバウォック”を呼ぼうとしているのか」



俺は、重ねて驚かされた。こいつは、ロックはこの程度のやりとりの中で魔業商の目的を瞬時に理解していた。






「―やめときなよ。あれはきっと“誰の為”にもならないよ。例えるなら自我を持たない消しゴムと一緒だ。世界というキャンパスを一気に消し去るだけのね」



「随分しった風な事を言うんだね。君」



「え、知らなきゃ言わないでしょ。」



「ふーん…でも、僕は知らない。そして知らない以上君の言っている事も本当かどうかはわからない。そして、勘違いしないで欲しいのが、君が考える“僕の為”が僕の為とは限らないんだよ。」



「ああ、そうだよねぇ。一理あるや。たしかに、君…ちょっと神経質なところあるのに、どうにも思想が破滅に寄りすぎている。まるで五月蠅い何かを取り除きたいようにね」



「そうさ。それは正解だ。君は随分と博識だねぇ。それに良く見据えている。けど、違う。僕の真の目的はその先にある。」



「…そうかい。」



ロックは瞑目してそう、応える。

…やべぇ。どこから会話に割ってはいるべきか。

こいつらなんか勝手に話進めていやがるからアリシアとじっと喋る方を目で追ってるだけになった。



「じゃあ、知ってる僕としては世界の破滅なんてことは、それはそれで困る…ので。止めさせていただこうかなぁ。ねえ!ジロ!アリシアさん!」



『…いや、勝手に出張って言いたい事言った後にアリシアの後ろで隠れるように叫ぶのはどうかと思うが(アリシアさん?)』



「だって、僕…非戦闘員だし」



『非戦闘員は唐突にハンマーとかレーヴァテイン…だっけ?その謎のすげぇ技は出さねぇんだよ』



「あれは他の魔力を利用したものだからっ」



『なら、魔力リソースがあれば出来ると?』



ロックは俺の問いにきょとんとした顔をして「へぇ、そうかそうか」といつものように怯えていたはずの様子が嘘のように

ニコリと口角を上げてスフィリタスを一瞥した。



「そうだねぇリソースさえあれば…そこの子共ガキ、一人ぐらいなら簡単に潰せるかも。」



「言うねぇ、そこの“ひと”。博識ではあるけれど、そのせいか思い上がりが過ぎると感じたよ。なら存分に味わってくれよ…僕の―」



安い挑発ではあるものの、どうにも癇に障ってしまったのか、奴は意趣返しのようにロックと同じ顔をするように口角を上げて

その身体の形をギチギチと歪ませていった。


その身を大きく、より大きく。


その姿は、一人の少女の姿ではなく…ましてや以前戦った時の悪魔を模した姿ではなかった。



黒竜



例えるなら無くなった天井から広がる青空に侵略するよう咲いた黒い蓮

大きく黒い鱗を纏ったドラゴン。そう呼ぶべきか…。



以前に比べたら異様に秩序立った姿であった。



『へっ、随分と綺麗に整ったんじゃねぇか??』



「ありがとう。君が文字通りサシ出した黒い剣のおかげダヨ」



―俺はすぐに理解し、後悔する。

リリョウ…あれを魂に直接当てた事でやつの動きを止める事は出来たが

そのおかげで奴の魂に多くの黒…闇魔力が刻まれた事によってリソースが生み出されてしまった結果なのか…



「―ジロウサン、ご注意ください。あれは…あの黒い鱗はペトラ・スケイルです」



パイロンが清音を抱きかかえながらこちらへと合流する。



『―清音は』



「大丈夫です。そちらロック様の回復魔力もあってか、既に傷も塞がっています。今は眠りについているのでしょう。」



『そうか、ありがとうパイロン。ところで、ペトラ・スケイルってなんだ?』



「一部の竜が持つ防御特性の一つです。依存した属性の魔力で造られた鎧と言ってもいいでしょう。鱗ひとつひとつに魔力が流れていて、通常の攻撃だけでは内側にダメージを与える事ができないのです。それを崩すには、発動者の魔力を枯渇させるか…或いは瞬間的な火力で貫くしかありません」



『貫く…か』



俺はアリシアと目を合わせて自分には無い頭を抱える。

何故なら、姿を竜にかえていたとしてもこいつの姿には依然と同じ法則があったからだ。


大きく広げられた両翼の爪の下、そして胸部の三か所…そこには以前に面食らった能力…“魔力解析”と“魔力充填”そして“物理耐性を得る事のできる解析能力”と同じ形の大きな目玉があったからだ。



こいつの能力が今でも同じままであれば…まずい



「リソースがあれば僕をどうこうって言っていたけど…僕には魔力由来も、ましてや神由来も効かないよ?まさか、忘れてないよね?そこの二人は」



ああ、更には疑似神殺しの能力“ステュクス・ラエ”…こいつが俺達を困らせる能力の一つだ。



こいつがそれを発動すれば安易に神域魔術を発動する事ができない。


神域魔術が発動できない以上…特定の、例えば大きな複合属性や天蓋魔術が使えなくなってしまう。


したとしても、神の属性をリソースに扱う俺たちは“疑似神殺しの能力”によって

能力が無力化されるため、必然的に複合乖離を発動せざるおえない。

それは、痛みを伴う戦いだ。正味少女一人が絶える痛みにも限度はある。

そうであるならば魔力の枯渇などという長期戦の選択は取れない。


後者で出てきた瞬間的な火力による貫通攻撃。

それを一度でも仕留められなければ、奴の胸部の核が解析をしてその物理攻撃を無力化させてしまう。


物理で駄目なら魔力…しかし、こいつには魔力解析がある。

これも同じく一度で仕留められなければ解析されて無効化、場合によっては解放されて反射攻撃と化してしまう。



そうなればもう、こいつのペトラ・スケイルを崩す算段は捨てた筈の長期戦になるしかない…つまるところ堂々巡りになってしまうのだ。


絶対防御とはよく言ったもんだぜ。あの選択のツケが今になって返ってくるなんてな。





そうとなれば、頼みの綱は…コイツか。

あいつはリソースさえあればスフィリタスすらもねじ伏せるぐらいの事を言っていた。



『ロック…』



「…」



『おい』



視線を向けた先、ロックは立ちすくんだまま動かない。



『ロック、どうした?さっきまで息巻いてたじゃねぇか』



「ふぇ?あ、ああ。ご、ごめん。まさかペトラ・スケイルをつけているなんて思わなくて…あの」



『…は?』



「いや、特殊な能力もってる子供だとは思っていたんだけどね。その、竜になるなんて思いもよらなくて…どうしようかなって」



後半からかれの声がしぼむように小さく聞こえた。



『どうしようかは、こっちのセリフなんだけど。』



「え?」



『リソースあればどうとでもなるって言ったのはお前じゃねえか!?』



「そ、それはそうなんだけどうわぁあああああああああああああああああああああああああ」



ロックの情けない叫び声と共に長い竜の黒尾が薙いでこちらに迫る。



「皆サン!下ガッテクダサイ!!」



パイロンが咄嗟に割って入るとすぐさま竜化して大きく開いた蛇咬でその攻撃を受け止める。


正面の視界は白と黒の鱗の壁が交互に覆っているようだった。



『てか、お前はいつまで背後に隠れているんだよ!』


「ひえ?」


「ふんぬ!」



背後からアリシアの両肩に覆いかぶさるように手をのせて小さく縮こまっているロック。

それをアリシアが「邪魔」と、振り返り首を掴むと慈悲もなくぶん投げる。



「どわぁああああああっ、鬼ぃいいいいいいいいいい」



ロックはそのまま遠く、せめぎあう竜らから距離を置いた場所まで飛んでいく。



『っと、こんな事をしている場合じゃ―』




―偽




『―。』



俺はパイロンの方へ意識を向けようと瞬間、引っ張られるようにその反応に視線を振り返る。



理由は二つ


まずは、プリテンダーの微かな反応。

感覚的にわかる。これは漏れて出たものではない。


わざと見せつけるように出したものだ。信号のように。


そしてその発信者ロックは…奥でこちらに向けて「たはは」と手をヒラヒラ振っている。



もうひとつは、アリシアから感じる魔術の起動。


属性は光・雷



二種の魔力の流れが交じり合う感覚。



―…“フェイヒュ” “スリサズ” “ウンジョウ” “ベルカナ” “ウルズ” “アンスル” “ティール” “ダグァズ” 


その魔術の形状・用途・発動結果等のありとあらゆる情報がアリシアを通じて流れていく。



『あんちくしょうめ』



ロックの意図を理解する。

こいつは、全てを知っているうえでしょうもない芝居を咄嗟にうっていた。


ペトラ・スケイルの情報を得たその瞬間から

自分には何もできません と嘘をついていたのだ。


俺のプリテンダーの能力を覆う程に…




俺はアリシアと相槌を打つと、そのまま二対の竜へと駆け出した。


右手には魔剣を握りしめ、左手にアルメンの杭を握りしめる。



―ああ、アルメンの杭を握りしめた途端から感じる。この魔術の術式がこの杭にゆっくりと時間をかけて蓄積されている。

それなのに、表からはわからないくらいに恐ろしく凝縮されている。



これを隠しもったまま暫くはスフィリタスへの応戦をする。


それまではこちら側の問題だ。



『パイロン!離れろ!!』



「っ!?」



パイロンは俺の叫び声に反応すると巻き付いて拘束していた黒竜から竜化を解いて、てくてくと走りながら離れる。

俺たちは彼女とすれ違うように黒竜の方へと走り出し、アリシアが片腕で魔剣を大きく振り上げる。



「何が狙いか解らないけど、僕を傷つける事なんて出来ないよ―」



拘束が解けた黒竜スフィリタスの長い首がゆらりと持ち上がる。




『疾風の群狼』


「最初はグー!」



超加速によって懐へ即座に入り込み、長い首目掛けて魔剣の刀身の腹で一度殴る。



『なにその掛け声』



とか言ってる場合ではなく、その鎧のような黒鱗の堅さを本場で思い知る。

相手は動かず響かないにも関わらず、アリシアがぶつけた膂力がそのまま帰ってくるようにビリビリと二人で視界を揺らしていった。


口角に皺をなぞるほどに歪ませるアリシアの表情。



ビリビリとヒリつく感覚が時間をキツく縛り上げるような間がそこにはあった。



「―かったぁ」



<空間解析><領域侵食><打撃耐性>



黒竜の胸の核が反応し、周囲に結界を張る。

今のこいつは打撃耐性を持っている状態にある。



『アリシア!もっかい!!』


「ふんぬっ」



スカートをひらりと舞わせながら、その身を回転して

今度こそ、刀身の刃で断とうと振るう。だが、しかして、クッソ堅い。堅い・堅い!



「無駄だよ」



なんてことない様子で、スフィリタスは長い口を開いて

喉の奥からゴクゴクと何かを吐き出そうとする。



「クォーーーーーーーーーーーッ」



異様なうねり声と共に煙幕のような黒い吐息が周囲の視界を黒く埋め尽くす。

先ほどまで青々とした天井もひとたび暗くなり、状況を把握するために見渡すので精一杯。



『なんなんだこれはっ』



「ジロウサン!気を付けて!これは黒瘴です!」



『コクショウって!?』



遠くでチラチラと明滅する光を一瞥する。

その感覚は魔術による結界であった。


パイロンの声の方から聞こえるに、彼女がなにかリカバーをしているのだろう。



「侵食。闇属性の性質のひとつです。これは空気に触れた闇魔力が同調して生命に害する毒気を振りまくものなのです」



通りでアリシアの身体から何度も何度も超再生の反応がでているわけだ。



「ですが…これはっ、“闇魔力を凝縮している”?…いいえ、迷ってる時間はありませんねっ―」



パイロンはそれ以上何も言わず、続けて重量感のある大きな音を響かせたのちに大きな突風が周囲に吹いた。

そのおかげで視界が一気にひらかれる。



『風魔術か―』



違う、正体を目にしてすぐわかった。

パイロンが再度竜化して、その大きな口を開き黒瘴なるものを一気に吸い込んでいたのだ。



「ゴフッ…」



『パイロン!!!』



パイロンが瘴気の全てを吸い込んだ。そのせいで、その大きな目から一縷の血をこぼして咽こんでいる。



「大丈夫ですっ。あなたは“そちら”をっ―」



その言葉に連なって俺には無い背筋に悪寒が走る。



『クソ、ヤバすぎだろ…“リリョウ”』



俺はニドからもらった短い付き合いである小刀のケタ違いの魔力に

あるいは、その素材であるヴィクトル…いや、ウロヴォロスの持つ魔力に


認識を改める必要があった。



目前で黒竜が吐き続いているいるものは煙幕から代わって収束した黒い線。

いうなればレーザーとなって足元を一貫して貫いていた。



それが今



こちらに視線と首を向け




             せまりくる




『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」



アリシアとぶっとい声を揃えて、漆黒の一閃を紙一重で交わす。



まずい、これは今…水を吐き出し続けるホースと一緒だ。

これが首をグネグネとうねるだけで周囲をこの超圧黒魔力レーザーに断裁される。




『パイロン!!』



「ジロ!こっちは大丈夫だから!君たちはそっちを見て!」



パイロンに寄り添っているロックはそう言って彼女に術式を介して手を当てていた。



俺はすぐさま、振り返ると黒竜スフィリタスの首下まで入り、なんとかパイロンたちにレーザーが当たらないよう

首を刃でなぐり、闇レーザーの軌道を変える。


つぅかこんだけの魔力をずっと抱えていたのかよこいつはっ



<空間解析><領域侵食><斬撃耐性>



耐性が変わった!



『殴れぁりしあぁ!!』


「よく聞こえない!!」



再びパイロンに当たりそうなレーザーの軌道を変える為、握った魔剣を逆手に翻し、魔剣の柄で首を殴る。



クッソ!ロックから貰った術式はまだ発動しないのか!?


アリシアに視線を向けるがすぐに正面の黒竜へと意識を向ける。

未だ握りしめている杭…そこに秘められた術式は、まだその時では無いようだ。

なるべくイメージしろっ…!俺の中に通じている魔力を彼女の握りしめる杭へと流し込む意図を“世界に示せ”


だが、それを悟られてしまってもいけない。

スフィリタスに一度でも<解析>をされてしまえばそのままこれは無効化される。



このままロックを信じて耐えるしかないっ



「二人とも離れて!!」



『ロック!』



「彼女の集めてくれた闇魔力をそのまま返すさ!!パイロンさん!大きく口を開けて!」



パイロンはすぐに大きく口を開くと



<接続承認:ナグルファルの起動>




「オゴッ―」



ゴフンとパイロンの大きな嗚咽と共に口の奥から漆黒の大きな船が飛び出るように現れ(いや、竜の口よりもデケェだろ)


咄嗟に姿勢を低くしゃがみこんだ俺とアリシアの頭上を通過して、そのまま真っすぐ黒竜の方へと突っ込んでいった。



「ウグォッッッッ―!?」



漆黒の巨大船と衝突した黒竜の巨躯が大きく捩れる。

その威力を見せつけるように黒竜の鱗がバラバラと剥がれ落ちていく様子がうかがえる。



「これが“殴るぱる”!!!」



アリシアが真面目そうな顔をして言っているが多分ナグルファルだから読みが違っているし“ぱる”が語尾なのかトレンドなのかもわからないから意味が解らないが、ペトラ・スケイルの再生力の早さだけは理解した。


こんな御託を並べているうちに、剥がれた部分の鱗が、切った水面を戻すように黒い魔力で侵食して埋まっていく。

アリシアの超再生といい勝負た。


しかし、これで状況は一変する。


黒竜スフィリタスは闇レーザーを吐くのを止めた。



「<解析><黒><適正抗体生成><装填>」



アルカディアがロックの与えた一撃から魔力を解析して耐性をつくる。

あいつの翼の片側の核を司る眼球が黒くなる。



「よくもっ!!!<ニギリツブス><ブチコロス><サイゲンナクコロス>」



黒竜は自身の前脚を長い爪を携えた大きな腕へと変貌させて、二本の後ろ脚で立ち上がると

前かがみのまま両腕を左右に振り襲い掛かる。


アリシアは後ろにロールして一度躱すと、二度目の追撃から前へと反転してロールし

そのまま懐の胸部にある核へと目掛けて魔剣で強く叩いた。


しかし、やはりビクともしない。



<空間解析><侵食領域><斬撃耐性>




「無駄だよ。知っているだろ。僕の物理攻撃耐性を…あっ」



アリシアはそのまま俺が魔力で敷いた氷の床を利用して黒竜の真下をスライディングして抜ける。



「チョロチョロとっ!!!」




「―どうやら核目掛けてもだめらしいわね」


『ちょっとは期待してたんだがな』



流れるように黒竜の背後を取るが、尻尾を大きく振り回されて成す術がない。


「ドゥワ」

『ドゥワワ』とか言いながら、その暴れる尾を搔い潜って必死に距離をとる。



「もうっ!鬱陶しいなぁ!!!<装填解放>」



ぶわりと、翼を大きく羽ばたかせて先ほどと同じ様な黒い瘴気の波動を周囲へと撒き放つ。



『ストーン・ウォール!!』



アリシアの前に地から盛り上がる壁。それが波動を防ぐ。



「理解できないなぁ、それ。本当にわからないよ」



黒竜はゆっくりとこちらへと向き直り、そう言葉を漏らす。


こいつのいう“それ”はきっと

超再生を持っているはずのアリシアに対して何故そこまで守ろうとするのかという事なのだろう。



『さぁな。お前には一生わかんねーよ』



「僕からすればそれは最強の防御だ。十二分に活かすべきだと思うけどね」



『お前ならそうだろうよ。お前なら』



「セオリーで言えば事実なんだよ。実にくだらないと思う」



『そらぁ、お前の中に…いや、本来誰にでも持っている“あるもの”が死んでるんだ。俺はそれを死なせたくない。それだけだ』



「はは、死んでいるか。でもさ、生きていてもしょうがないものなら、死んでてもいいんだよ。死ぬ必要があるのならそうするしか無い。それだけだよね」



『ああ、そうだな。だからお前とは分かり合えない。天地がひっくり返っても』



「いいや、天地がひっくり返れば解るかもしれないよ?」



『人の意志はそう容易いものじゃねえ』



「容易いさ。だから僕らがいる。僕たちが世界を壊すことを望む。君一人の問題じゃない。これは世界に組み入れられた必然的要素なんだよ」



『勝手に決めつけんなよ。いくらお前が何かを知って、何かを知ろうとして決めつけたとしても…そんなのはなぁ、そこで止まって思いあがったバカの妄言だって俺は何度でも言い続ける。』




「…言ったね。<コロス><ツブス>」




メキメキと足の構造をエドで再構築させ、強靭な脚部になっていく。

そのまま黒竜は姿勢をひくく、低くしてこちらへと視線を凝らす。


こいつ突っ込む気か。




「なら、止めて見せてよ。僕の結論いしを」







―…いいだろう。教えてやるさ



俺も馬鹿なんだよ。



そしてこれからも、自分がいつだって馬鹿だったと思えるほどに歩み続けるんだ。歩んで、歩んで…歩き続ける。俺という意志が在り続ける限り。

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