誇り失き悪狼のゼタ②
暫く笑いっぱなしだった俺は、もはや自身の声しか聞こえなくなったと気づいたあたりで急に項垂れた。
当然だろう。一番守りたかったものを守れず、奴らが鼻を縮こまって言うその化け物という姿を受け入れちまったんだ。
ざわついた心を唆すような雨もすっかりやんでしまった。…だけど
―もう、あの頃の自分にも、生きていた世界にも帰れない。
その分岐があまりにも些細であればあるほどに反動で胸が苦しくなり、世界への怨恨が募っていく。
だが人の姿に戻った途端、急に冷静になり 「ああ」とそれだけ言葉を漏らす。
バラバラにされて目も当てられない姿になった長老に関しては、いつまでもそのままにさせて置く事があまりにもいたたまれない…
俺はいまだパチパチと燃え続ける炎の中に、“彼”を少しずつ…祈るように投げ入れた。
「さようなら、長老…いえ、おとうさん。そして…ごめんなさい」
あなたの考えが本当は正しかったのかもしれない。
化け物と言われ続けるのならば…その通りに俺たちは自身の本質を受け入れていればよかったんだ…。
そうなれば、きっと同じ死に方でも…誰かに認めてもらう死よりももっと気高い終わりを迎えられたのではないのか。
だがそれも既に過ぎた事
…悲しいはずも涙すら出ない喪失感があるのだと知った。
いや、もとより俺はそこまで感傷に浸る人間じゃなかったのかもしれない。けど、これだけは解る。
生きながらえ何かを得るたびに、俺の後ろで…この死というものが何度も何度も俺に声を掛けてしまう事だけは。
俺は長老の弔いを終えると、布で包んだルーの首と身体を抱きかかえるようにして集落へと戻る。
せめて…妻のルーの身体だけは、あの場所で弔ってやらなきゃいけない。
そして、復讐をする。今こそ奴らを…あの人間の住まう場所を、俺達で奪い取り
強者としての生存本能こそを正義に塗り替えるのだ。
弱く戦えない連中は死ねばいい。どうせいずれは死ぬ。
外道だろうがなんでもかまわない。勝てばいいんだ。価値を塗り替えるには。
「なぁ…そうだろ?ルー…」
返事は当然ない。
だが、それに呼応するように集落についた俺は…言葉を失った。
「なんだよ…これ…」
何処もかしくも赤い飛沫が染め上げられ、多くの仲間たちが横たわって死んでいる。
なのに
こんな地獄のような光景でありながら…俺は異様な程に冷静だった。
「あら、お帰りなさい。ゼタ」
煙管を手に一息つく漆黒のドレスの女に見覚えがあった。
そいつはなんて事なさそうな表情で、俺の帰還を労ってきた。
「ふーっ、」
あの日、アリア…と名乗っていたなこいつ。
ああそうだ。こいつには感謝をしている。俺たちに見出せなかった食料へのヒントをくれた。
なのに、なぜ俺たちの集落で…冷静に、いくつもの殺されたであろう死体に見向きもせずに煙管をふかしている?
「テメェが…やった、のか?」
「そう、だとしたら?」
「な…んでっ…!?」
「だって依頼だもの。魔物の駆除をしろってね」
「は…?」
「私はね。子供がとても大好きなの」
「…なんの話をしている?」
「そんな大好きな子供からのお願いを頼まれたら、私も叶えたくなっちゃうの」
「―どこの誰かも知らねぇガキが俺達を殺せっていうから、殺したって言うのかよ!?」
「名前は知らないけど。何処にいた子供かは分かるわぁ。そう、あなたがうっぷした塀の向こう側の子よ」
「あそこの街の…子供が?」
「ええ。怖いんだって。『あなたたちの事が』」
「…怖い?怖いだって??」
俺の中でナニカがいよいよ瓦解するように崩れていく。
俺は膝をついて、抱きかかえていたルーの遺体を地面に置いてうっぷした。そしてそのまま地面を何度も何度も殴った。
こいつが仲間を殺したのは確かで、言っている事も確実におかしいのは分かっている。
だが、否定され続けてきたせいか、感覚がマヒしたせいか…どうにもこの女が言った言葉が物凄く胸を苦しめていた。
「なぁ…俺たちが何をしたって言うんだよ?何を間違えればこうなっちまうんだよ…?」
「ええ。あなたは、全部間違えたわよ。」
俺はその一言に地面を殴る手を止める。
「…言えよ…」
「何をかしら?」
「即答で言ってくれやがってよぉ。なら何を間違えたのか言えっつってんだよ!!このイカれ女がぁああああ!!」
「こっちはよぉ。人間なんだよ!あんたらと変わらねぇ!!人間だ!!人間なんだよ…っ」
俺はむせび泣き、懇願する。
「ええ、欠陥だらけの…人間ね」
そいつの言葉を耳にした途端に俺はゾワゾワと神経を逆なでされたような感覚に陥る。
「―殺す」
俺は躊躇なく再び自身の身体を人狼化させ、アリアと名乗る女を殺そうと喰いかかる。
「……ふーっ」
一瞬だった。全く理解の出来ない状況だ。
彼女の吹いた煙管の煙が、舞い上がったと思いきや
俺の胸を即座に貫いた。
「がっ…!?」
どうなってやがる?
煙が…?俺を…俺の身体を。
「そう、弱い。アナタは…いいえ。アナタの周囲の関わってきた者は皆。弱かった。本当に残念な事」
そいつは、貫いた煙を自身の手前に戻して“あるモノ”をアリアのその手に乗せた。
「が…ふっ、し…んぞ…俺の…」
心臓。脈打っている小さな肉の塊。それは紛れもなく俺の胸から抜き取られていた心臓だった。
「くそっ…なんで…」
―すまねぇ。…ルー…ちゃんと弔ってやる事も出来なくて…ごめん…ごめんな。
俺は弱い…やっぱ弱かったんだ
意識が遠のく寸前まで、俺は血を吹き出しながら彼女の遺体を眺め…呪詛のようにそう呟いた。
―タ
―ゼタ!
どこかで、ルーが俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
とても、悲しい声で。だけど、一言だけ…
―会えてよかったよ。
と、それだけの言葉を貰った。
「…―っ」
息が詰まるような思いを追いかけるようにして目が醒める。
「こ…こぁ」
見覚えのある天井。ああ、そうだ…ここは
集落の長老の部屋。
ほんの数時間前まで俺は確かにここにいたんだっけな。
「あら、目が覚めたようね。ゼタ」
―ああ、夢だと思いたかった。だがそうはいかない。
いの一番に聞きたくない奴の声だ。
「お…え」
「ふーっ。まだ喋らないほうがいいわぁ。あなた、まだ傷が塞がっていないもの」
「…っそが…」
クソがと悪態をついてみても、まともに口がきけない状態の俺じゃあ気分の悪くなる奴の気遣いを貰うだけだ。
コイツは本当になんなんだ?
かつて俺たちには魔物が食べれる事を教え、今は俺を含めた一族の連中を殺した。
“子供が言うから”?
それで集落の一つを滅ぼされたらたまったもんじゃねえ。
ふざけやがって…
「あぐっ」
「おやめなさいな。感情が昂ると…ほら、胸の傷がどんどん開いていくわよ」
かまうもんか…!
なんのつもりか知らねーが、せめてこいつを喰いちぎるぐらいは…!
「また、あなたが“あいした人”を二度も死なせるのかしら??」
「…は?」
アリアは「ふーっ」と煙管で煙を吐くと続ける。
「あなたの心臓はもう無いの。だって、アナタが暴れるんだもの。…だからね、“代わりになるもの”を入れてあげたわ。」
エナンの下から覗かせる虚ろな眼差し。それは俺の胸の方へと向けられる。
そして、その一連のやり取りで俺は気づきたくない事にきづいてしまう。
「ま、さ…か」
「あら、察しがいいのね。そうよ。入れておいたわ。弔えなかったあなたの妻の心臓を。あなたの中にね」
俺は処理できない事実に呼吸を早めるしか出来なかった。
…おれの、胸の中に、ルーの心臓が???
そう意識するだけで、俺自身は心を…自分の命をまるでガラスのように思えてしまった。
壊れれば死ぬ。俺も、ルーもっ…
「な…んで、そんな事を…」
「本当にすごいわね。徐々に喋れるようになるなんて。流石、ライカンの回復力だこと。」
アリアはこの一室の中央に焚かれている火の中に煙管の灰を落とすと立ち上がった。
「改めましてゼタ。私の名はアリアドネ。魔女なの。│クモの魔女…“世界”からは『アラクネ』で名は通っているわ」
「く、もの魔女…」
アリアドネ…それでアリアか。ああそうかい。名前だけは高貴でいらっしゃる。
掴み処の無い雲の上の女…そして『│蜘蛛の女』だってか。
だが、実際はこんなにも恐ろしい黒装束のくもの魔女だなんてなそんな見た目でなんとも皮肉が聞いているもんだ。
「んで、その魔女が…こ、こんな一族になんの目的があったんだよ」
「目的…なぜそう思うの?」
「げほっ…今なら解るぜ。お前の終着点はきっとこれだ…。最初に出会ったあの時から、今に至るまでがある種の目的だったんだろ…理由だけはわからねぇが…」
まて、そもそも何故俺は生きている?
どうして生かされた?どうしてルーの心臓を俺に入れた??
「―あなたは、幸せだったかしら?」
「はぁ?」
「幸せ…そう。いつまで幸せだったかしら?」
「幸せだと?この俺がか?ああ、そうだな。ついさっき全部無くなっちまったよ。奪われた。お前や、人間どもになぁ」
「そう、あなたは幸せだったのよ。生きる為の糸口を見出して、妻が傍にいて、一族のみなに認められた。あなたにとっての最高ともいえる。それは確かに幸せだった。ゼタという存在の最高潮とも言える」
「ごちゃごちゃと…な、げほっ…ごほっ…何が言いてぇんだよテメェはよぉ!!」
「その“幸せ”はねぇ。毒なの。生命にとって、幸せとは…破滅の因子でしかないの」
「破滅の…因子?」
「ふーっ。かつて、存在の英雄:ワンネスは世界に平穏をもたらした。だけれども、それはワンネスの望む世界にはならなかった。即ち、幸せになれなかったのよ。彼は」
ワンネス。存在の英雄。在る奇跡。それは、苦難や災いを打ち砕かんとする唯一の名。
「なら、彼の幸せってなんだったのかしら?…否、幸せというものは至る先には何一つとして無かった。結果としての幸せはありもしない幻想。…生命は、そうやって出来ているの。生命が幸せというものをその場で感じ「もう十分だ」「これ以上にない」と思った瞬間。…魂に刻まれた情報集積装置は自滅へとスイッチが切り替わり機能する。そこからは生存戦略としての破滅へと人が進んだにすぎない。より良い環境。より良い世界。よりよい物だけがあり続ける時、生命はその瞬間に傲慢にも生存という意志を廃棄する。然るべくして命は過去を過ちとし、酒のように甘美な望郷へと入り浸る。神の信仰。満たされればやがて生は母の胎内への帰還を望み…道を外す。」
「…お前は、お前が何を言っているのかわからねぇ…なんなんだよそれ」
「もう一聞くわ。なら、英雄ワンネスにとっての…生命にとっての本当の幸せとはなんだったのかしら?…それは、過程にあったの。不幸に苛まれる自分を鼓舞し歩みだすとき…知らないものを識り、知見を広めた時。危険と隣り合わせに心の蔵を鳴らしながら進む針の渓谷。絞り出される勇気。愛を失う瞬間。愛を得ようとする瞬間。自身の居場所を探す瞬間。生命は、その限られた時間の中で延々と続く螺旋階段を上り続ける事こそが、本来の生命の幸せともいえるの。そして生命をここまで拡張し、昇華させてきたものは常に…厄災であった。」
「厄災…?十指の戒律…か」
「ええ、もっともそれは規範・模範にすぎない。だけど…ええ、必要でしょ?教科書。だから私が全て用意した。神の代わりにねぇ」
なんだ…
俺は、こいつの言っている事が全く解らない。…解らないが、おれの中に流れる血は…真実を見出したかのように沸き立っている。
これは怒りからじゃない。小さい頃から…ずっと…本を読んで知っていくような…貪欲なる情熱。
おれは、理解しようとしている。この女の言うこの世界の仕組みを。
意味は捉えられないのに言葉だけが歌のように脳内を焼くように刻まれていく。
何故俺達が生まれてきたのか?
そうだ、とうに知っていたじゃないか。
長老の考えは正しかった。居場所が無ければ奪えばいい。
命あるものは須らく獣であるべきなのだと。
生きるもの皆、淘汰こそを良しとする。
「苛まれよ、求めよ。至れ、そして壊せ」
俺の中にある復讐という感情はすでに取り払われていた。
今、俺の中にあるのは純粋な生存本能と知識欲。
「そうか…そうだったんだ…!」
俺は涙を流しながら自身の胸の中に残る心臓を抱くように自身の身体を抱きしめる。
「―俺は、弱かったんだ。幸せの事だけを考えていたから。違う…俺たちはもっと強くならなくてはならない。そうなんだろ!?ルー」
ならば、強いとはなんだ?
相手を弱者へと下す力か?
揺るぎない高潔さか?
違う
ただこの場所で生き続け、その時の全てを見続けるモノこそが強さなのだ。
人の則った強さなんてものは後から自分の身体に張り付ければいいただの飾りにすぎない。
正しさや、平和なんてものは…強者に与えられた世界で破滅するだけの安寧にすぎない。
復讐でさえも、所詮は自分が満たされる為だけの風前の灯にすぎない。
生きろ。本能のままに。感情のままに。
強く、強く
俺がこれからやる事は全て…俺を止めようとする死神の喉を掻き切る術でしかない。
俺はそのまま魔女に背を向けて歩き出す。
「あら、何処へ行くのかしら?」
「決まっている。生きるんだよ…あんたの望んだとおりにな」
「…理解が早いようね」
「俺らに魔物を喰わせ、他者が見る俺達への定義を信仰によって確立させ、この力を目覚めさせた。そして、俺の楔になるであろう身内を死なせ…蟲毒のように生き残った俺という化物を野に放つ。この今に至る全てが、お前のお膳立てだったんだろうよ。」
振り返りざまに見た魔女はそれを聞いて紅い唇を大きく歪ませて笑みを見せる。
「一族を殺した理由が子供からとった言質。…だが、子供が好きってのは嘘じゃねえみてぇだしな。」
俺は死体だらけの集落を暫く、眺め
「じゃあ、またな。魔女さんよ。ありがとうなぁ、チャンスをくれてよぉ」
「…最後にいいかしら」
「…何だよ」
「私はねぇ、私の事を公に知られるのが嫌なの。だから…ひとつあなたの今の心臓に呪いを掛けたわ。」
「…」
「私の名前は、口外禁止よ」
「―はっ、しねぇよ。」
「それじゃ、また会いましょう。ゼタ」
俺は手を投げ出すように振ってその場を去った。
…それから数年。
俺は“生きる為”に出来る事をいくつもやってきた。
一つの村にいる住民を悉く殺し
ある時は、冒険者の仲間に入り裏切りを繰り返し
ある時は街の一家を惨殺しては周辺の不安を煽った
幸せというものの否定。弱いマヒト族の淘汰。
いつしか俺ら一族は最悪の獣人族・部族の汚点。人狼として名を通るようになった。
倫理を飾る弱きものの駆逐。それが俺の日常において必要な生きる事だった。
暫くして
「―すいません。店員さん。この“イナイチゴとバラクッキーのロイヤルパフェ”ってのください」
「わかりました」
俺はいつものように無性に“甘いもの”が食べたくなって東大陸の港街にある喫茶店に入り、ヤツを見かけた。
「ああ、ごめん。店員さん。申し訳ないが席をあっちに移動するわ」
「かしこまりました」
「…あら、久しぶりね。まだ生きてたの。ゼタ」
「はぁ、そりゃあ誉め言葉として受け止めておくぜ魔女さんよぉ」
俺はその言葉を確かに誉め言葉として受け止めている。
そうでないといけない程に、先刻の俺は死へと直面する出来事に遭遇していたからだ。
「それ、立派なエモノね。」
魔女が俺の持つ「黎天〆」を見て珍しく褒める。
「ああ、なんか置いていきやがったんだ。とんでもねぇ“化物”がよぉ」
「へぇ。“アレ”を前にして良く生き残ったものね」
「…俺は、そこまでアンタに言われた事を真に受けて生きているわけじゃねぇ。だが、納得してしまう以上やる事ぁやってきているつもりさ。だがよぉ…あの“化物”はなんだ??人狼なんぞが可愛く見えるほどには怖ぇえ奴だったぞ。」
俺は思い返す。雪山で見かけたドラゴンのように“大きな狼”。
背中には大きな棺桶のような木箱を鎖に縛り付けて背負い
腰回りには大きなしめ縄を巻いていた。まさに、その姿は異様だった。
そいつはブツブツと俺には理解出来ない言葉を大きな口から生暖かい息と共に吐き出していた。
理解出来ないのは獣の声だからとかじゃねえ。むしろ俺らにも通じる言葉を支離滅裂に言い放って…最後には「違う、そうじゃない」と模索するようにいっていた事だ。
だが、俺にとって本当に怖かったのはそれだけじゃない。
あいつは、目の前の生きている存在を一瞬で“玉鋼”に変えちまいやがったんだ。
なんの前触れもなく現れては、その場に居たやつを選定し…何かを納得した奴は玉鋼にし、違うやつは頭から喰い殺す。
なにより、奴の眼。
それは常に何かを探しており…ついぞ先刻、俺もその視線…その選定に見舞われた。
正味、心底恐ろしいと思った。だからこそ俺も殺すつもりで睨み返した。
…だが、そいつは一瞬嘲るような眼で俺を見た途端に背を向けて去っていった。
一本の刀を置いて。
「あいつは去り際に言っていた。この刀に向けて一言だけ」
―黎きソラに残る眼目は刃の如く痛みを伴い、それだけで事を〆(しめ)殺す
「黎天〆(くろあし)…そりゃあなんだぁ?ポエムなんかぁ?って思ったよ。」
「ふふ…あれは理から外れた者よ。ある種、新しい試みをする連中…とだけ言えばいいのかしら」
俺は店員が寄越してきたパフェにスプーンを入れながら「外れた者ねぇ」とあきれて返す。
「女神の常識で成る自身の魔力という事象の悉くを廃棄するという契約で得た理を持つ外法者。ゲレティゴと呼ばれるの。…この広い世界には指折りしか居ない存在よ。彼は外側からそれに魅入られた。それだけの事よ」
「簡単に言ってくれてよぉ。俺は運がよかったからいいものの」
「いいえ、運をあなたが引き寄せた。生存本能はそうやって様々な運命を手繰り寄せる事が出来る。“神は細部に宿る”と言うわ。生きる意識から来る指先や髪の毛の先まで通る姿勢が…その結果たらしめる。あなたはあなたの考えから生存し、また一つ強くなっただけの事よ」
俺はパフェを口に入れながら「へいへい」と返す。
「そういえば、あなたは甘いものが好きだったのね」
「いや、そういうわけじゃねぇんだけどなぁ。…あんたに殺されかけた“あの時”から、なんか無性に食べたくなるんだよ。」
「ふーん、そう。ちゃんと“生きている”のね。彼女」
「…そうかよ。まぁ、そんな話はどうだって良いんだよ。今度は何の用で俺の前に出てきたんだ?」
「あら、この席に来たのはゼタよ」
「意地の悪い返しは要らねぇよ。てめぇが人様の前に出るときってのは絶対何かあるんだよ。」
「ええ、よくできましたね。ゼタ。」
「あんたのママ活トークも聞き飽きた。いいから要件を言え。」
「そうね。紹介したい人がいるの…」
「紹介したい人?」
―それが、クラウス・シュトラウスと…魔業商との連中との最初の出会い。
そして、世界を壊す術を知った日でもある。