表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
161/199

心器メメント・モリ



死について、皆忘れたがる。

僕はいつまでも忘れないのに、人々はそれをどんどん足場にして

やがて生きている実感すらも忘れてしまう。


そうやって人はどんどん死の層を踏みながら僕の、僕らの上をのうのうと歩いている。


そうした奴らが見出す幸せはなんだろうか?


少なくとも僕が見てきた連中は“あたま”に飾りを乗せてるだけだった。


金で誂えた飾り


神に誂えてもらった飾り


酒の匂いがする飾り


甘くて苦い飾り


ただただ泥を塗った飾り


誰かの“手”を“足”を、“舌”もしくは“目玉”を並べた飾り



どいつもこいつもが眠ったような顔をしていた。



吐き気がする程に気味の悪い光景だった。



そいつらが死を直面するとしてもただただそれに縋るように握りしめるだけだった。


己が命を解き放つ事無く。



なぜ死を忘れようとする?


死が怖いか?


死が恐いか?


痛いからか?


苦しいからか?



それは単なる通過でしかないのに。


命を抱きかかえたまま眠りにつこうとする。


それは皆、生まれるときに一度経験しているものなのに。


誕生と終焉は等しいもの。


生まれる前に生まれる事を恐れるだろうか?



ヒトは忘れている。


生まれた時に懸命に叫び、命を使っていた事を。


結果、うぬぼれる程に、この世で命を放つ事無く終らせる。



思い出せ、命は使い物だ。使い捨てだ。一度きりの消耗品だ。



恐れるならば


死を想え。


死は尊く、血よりも傍に寄り添う。


兄弟よりも傍らに立ち


恋人よりも前に立ち


父の、母の、そのまた親の更に後ろに立っている。




さぁ、命を放て。


命を解き放て。


そして世界に刻め。世界を傷つけろ。



『ヒトよ。それが運命なのだ――』




「ええ」




白い髪の少女、“ヨミテ”は



相も変わらず自分しかいない真っ白な空間で、本を読みながら珍しく苦虫をかむような表情をした。



「ええ、そうね。あなたはそういうものだものね。私にはよくわかるわ。私には死という体験を1ミリも理解できないけれども…その啓発的な考えだけはようくわかるの。私にはその瞬間、瞬間が義務で、全てで、終わりというものが酷く怖いものだと感じた。」




『残念だが、君に死は永劫理解できない。それを得る事も叶わない』



「そう」



ヨミテは本を閉じて椅子のひじ掛けで頬杖をつく。



「一度はそれを試みたわ。でも、それは単なる誰かの死でしかなかった。意識あるまま私は存在し続け、彼女の執念だけを心に残したまま。」



『君は、それを“特異点”に押し付けようとしている』



「いいえ、返したいだけ。それが私の望みだから」



『…“回路”とは思えない考えだね』



「あなたもこの場所せかいに毒されたんじゃない?よく知っているでしょ?私は来たものに対してただ返すだけなの。そのただ一点のみ。」



『僕は彼が嫌いだよ。結局自死する彼の意思に、僕は失望したからね。そして命を再生させる力。それは僕の主義を根底から覆す。だから僕の前には彼を呼ばないで欲しいね。』



「約束は出来ないわね。これは運命だもの。世界と彼の選択に、歯車が私の元へと導く事の、ね。」



『その時は、僕が本来の“死”というものを知らせるだけだよ。』






「―もう行くの?心器メメント・モリ」



『僕の主は、死を想う者だけだ。再びその責務を務める。ただそれだけだ。』



「そう。…それにしても、本が歩く姿というのはとても面白いわね。」



メメント・モリは返す言葉も無しにその場を霧に飲まれるように去っていった。



「メメント・モリ。残念ながら彼は既に死を選びながら神に魅入られ、その命を十二分に放とうとしているわ。なんて矛盾なのかしら。でも、それも運命。」










「…心って、本当に移ろうものね。だからマーシ―も私の前を去ったのかしら。ねぇ」



ヨミテはふと上を向いてひとり呟く。



「―ええ、そう。私はただ、返したいものを返したいだけ。」



ヨミテは記憶を想起させる。



“0と1”



“いくつもの、白い服を着た人たち”



“白い棺桶”



“おびただしい数の尻尾”



“川のように口に流れ込む虹色の砂の形をしたもの”



“キミ”



“ワタシ”



“語りて”



“観測不能領域”



“『こんにちは。あなたの名前を教えてください』”



“『はじめまして隧ヲ菴懷梛諠??ア隕ウ貂ャ蜈シ蜿取據邨ア蛻カ莠コ蟾・遏・閭ス。私は奈津。東畑奈津よ。』”


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ