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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
149/199

キョウシャノウレイ

「私には魔力が無い。」



鷹のような鋭い眼をした眼鏡の男クラウス・シュトラウスはコツコツと靴音を鳴らしながら、

側のテーブルに、縦に積まれた書物から一つ本を取り読み出し始める。


だが、それと並行して



檻の奥の“連中”に語るのを続けた。



「正確には魔力を手放したと言うべきか。代償としてな―」



「それが、あのトんでもない化物だっていうのかよ?元法国大司教サマ」



檻の中で食い付くように前のめりになって答えるガーネット。

彼女の後ろにも数人佇んでいた。



未だ目覚めることのないリアナ。

同様に気絶しているメイ。

その二人を介抱しているルドルフと治療魔法をかけているネルケ。

腕を組み黙するクリカラとマリア…そして同じように真似して立つアリシア。


そこには清音はいなかった。



そしてヘイゼルは、皆が向けた視線の正面。そこにいるクラウスの隣で十字架に磔にされていた。それでも用心してなのか太い鎖で雁字搦めにしていた。



状況は最悪。


エレオスに来て早々に囚われ、詰みの状態。

魔剣はスフィリタスに連れて行かれ、仲間は魔力の制御された堅牢な檻の中で目の前に主犯の男。



改めて状況は最悪だった。



「―フン、アレはある種の装置だ。本質は違う。ただ言葉を理解して動き、自身という質量を以て執行可能。あらゆる場面において限定的な生命バケモノとは似て非なるものだ。そして、ヌギルは私自身でもある。」



「まさか、先代の大司教サマがこんな小国でロクでもねぇ事営んでたいたとはねぇ。こんな情報、帝国にでも突き出しゃ私も出戻り確定だったかもなぁ。通りでヴォルケンヘクスとも絡んでいるわけだ。答えろ、あいつは今どこに居やがる。」



「あの女は確かにいけすかん。ママゴトばかりで困った淫売だよ。だが、今も協力関係にある。誓約上答えられんな。」



「クラウス、そうまでして欲しいモノは何なのだ?人を見下してまで価値あるものがあるとでも?」



クラウスは読んでる本の頁を一枚めくる。



「価値…私にとってそれは重要ではないのだよ。そうであるならば私は魔力を支払わない。だが、そうする程に私の脳内では多くの疑問や思考が生まれ続いてくるのだ。…神を見たならば、神もまたこちらを認識する。故に愛などという矮小な建前で試練を寄越され、淘汰し、理解…私はその繰り返しで賢者となって称えられた。」



クラウスはその本を閉じてぶっきらぼうに檻の方へと投げる。



その本の背表紙にはタイトルで『狂気の黎明より』と書かれており著者には“クラウス・シュトラウス”と書かれていた。



(自慢か)



(自慢じゃね?)



(自慢だ)



(自慢ですね)



(自慢かよ)



「だが、賢者となり幾数年過ごしてきて、“女神と世界を解析”してわかった事がある」



檻の中の数人が遠い眼差しでその本を見つめると、クラウスは話を続けた。



「この世界のあらゆる俗物共は皆、正気がすぎている。狂っている奴も含めてだ。」



「何言っているんだコイツァ?狂っている奴が正気なわけねーだろ。さては馬鹿だな?俺は知ってるぜぇ?個人に対して自身の意にそぐわない遺憾を種族や国家、なんかの一括りにして当り散らす奴はよぉ、頭の良いフリした馬鹿なんだってよぉ。大抵の老人はみんなそうさ。おまえ、今さっき全部一緒くたにしてたろ。抱き合わせ商法しようとしてるんだろ?なぁモゴゴっ!!!?」



「クリカラ!ちょっと静かに!」



アリシアがクリカラに自分から肩車されに行き、彼の口を両手で塞ぐ。




「…哲学的な、という話でもなさそうだな。クラウス・シュトラウス」



マリアが遠まわしに続ける雰囲気を戻す。



「女神の信仰。それにより賜る魔力と祝福。貴様らはそれに対して何の疑問も抱かないだろう。善し悪しに個別差や独自の解釈があっても、貴様らはその基盤となる世界全てになんの疑問も無かった筈だ。なぜならそれが自然であるからだ。何百年前、何千年前、神の執行や魔神の信仰があったとしても…誰ひとり…誰ひとりとして疑問を抱かない。きっと数百年後、数千年後もだ。」



クラウスは背を向けて嫌悪感と怒りを顕にして側のテーブルを叩き、積まれた本らをその手崩すようになぎ払った。



「だがな、私はどうしても、どうしてもどうしてもどうしてもどうしてもどうしてもどうしてもそれが許せなかった。受け入れ難かった。魂に限定された魔力…そのシステムを枷だと、異物だと感じてしまった。その瞬間から、全身に流れる魔力さえも這いずる虫のように悍ましささえ覚えた。」




「神は尊いもので違わぬ。例え奇跡を望めなくとしても、奇跡に至る教えと学びは人を確実に幸福へと導く筈だ。それは神が与えるモノだからではない。自らが得るものだからだ。…だが、賢者クラウス、貴方をそこまでにしたのは一体なんなのだ?一体なにが切っ掛けだというのだ!?」




「奇跡…? そう、奇跡だ。奇跡だ!!! 私は大いなるものに触れてしまっていた。イグドラシル法国は大司教!!女神アズィーを管理する立場であるこの私が得たものは…“極上な矮小さ”だ。」




「極上な矮小さ?」




「今でも忘れない。私は秘密裏に女神を膨大かつ綿密なエネルギーと仮定し解析を行った。だが、そこで知ったのは女神アズィーを超える超域存在であった。偉大で唯一である神のお膝元だと信じて止まない私に与えられた真実はあまりにも大きな扉の前だったのだ!!!そう、この世界は結局は更に更に大きな世界のおこぼれで存在する試験的世界でしかないのだ!!女神、女神だと?女だ。感情を優先する女が神、そうであればひととなりの信仰など容易い。それを知った。魂という存在がリサイクルされている。そしてそれによって放出される魔力の観測をあの天使どもがしていた。それを知った。その他知りたくとも知りたくない事の悉くを知った!知ってしまった!それから私は狂ったのだと思った。だが違った。狂っていたのは、正気にすぎるこの世界であったのだと。世界に疑問を持たず、壊そうとも殺そうともしないこの世界こそが狂気の沙汰だったのだと。だから私は、嫌悪した。この世界を」




クラウスは「フッ」と唐突に呼吸を落ち着かせてポッケからハンカチを取り出して自身の表情ににじみ出た汗を拭き始める。




「私のそんな絶望と世界を壊すという認識と友に、訪れたのがコレだ。」




外法なるものゲレティゴ…“ヌギル”




「魔力を代償に得た力は他者の魔力や魔術を心臓ゴト使役する事。そして、心臓に対しての耐久性を他の心臓へと肩代わりできる事。もうひとつは、心臓を作り出す事。そして最後者こそが私の長年の計画による最終目標。」




「女神の力を使役する為の装置…『女神の心臓』を作ることだ」




「女神の心臓?」




「ジャバウォックの管理コントロールなどというのは序の口にすぎない。一度この世界を崩壊する程の傷跡を残すのに関しては多少の私怨と興味はあるがね。だが、ゴールは違う。それによって救済装置として極界から引きずり出された女神に心臓を作り、その装置で強制的に外側の世界へアクセスする事だ。たった一度の干渉だけでいい。…それが叶えば、私という存在はようやく自身への矮小さを解消する事ができる。ようやく、この呪いから私は解放されるという事だ…!」








クラウスは大きく口角を釣り上げ恍惚とした表情で両手を大きく広げて空を見上げた。

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