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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
141/199

106:天と禍



「人らしさというのものはとても、とても脆いものなのです」



そんな事を唐突に言い放ったのは小さな犬の姿を見せたアルメンだった。

地下の聖堂から戻り、皆が集う一室で皆が居る場所とは少し距離を置いた隅へと誘われた俺とアリシア。



アルメンが言っていた俺の未知なる能力

黄泉の國、ネクロ・パラドックス

それについての言及である最初の言葉がそうであった。



「ご主人様、あなたは少し認識を変えるべきなのです―」



今ようやくとは思いながらも、このマルクト王城で戻ってきてすぐだ。

アルメンの言葉は少し焦ってるようにも見えた。だからこそこんな回りくどい前置きを並べて

これから言おうとしているモノを強く見せたいのだろう。



『…続けてくれ』



「あなたは確かに剣だ。そして意識も心もある。魂でさえ揺らめくようにもっている。だけど、あなたには確実に無いものがあるのです」



『無いもんって…そりゃあ感覚か?』



「命です」



俺は嫌な気持ちを確かに…少しだけ感じた。

この世界で孤独だと思っていたが、アリシアをはじめ、多くの人達と言葉を交わし、思いを伝え、受け止めてくれる。


だが、そのきっかけは…全ての始まりは俺自身が俺を殺すという自殺行為だった。

それによる確執を俺は気づいていたのかもしれない。見て見ぬふりをしていたのかもしれない。



『命がなんだってんだ。俺が俺である事には変わりない。それでいいじゃねぇか』



「いいえ。違います」



搾り出すように出した抵抗の声も露の如く払われる。



「命は、この世界で生きていくうえで重要な意識の楔なのです。賭す事で得られるものも、守る事で得られるものもあり、それを命を通じて感じ取る事が出来る。そういう意味でならたしかに感覚という部分は間違いではないでしょう、そして同時に問題でもあるのです」



『お前は、俺に命が無いからこそ、考え方も思いも全て偽物だと言いたいのか?』



「いいえ、今は本物です。そうであって欲しい。これからも―」



『もういい、いい加減本題に入れよ。お前は、俺の何が気に入らなくてそんな事を言うんだよ』



「…すみません。否定をするつもりはなかったのです。言い方が悪いと今は自覚しています。けれども、あなたにも自覚して欲しい」



『何をだよ』



俺は徐々に苛立ちを覚えはじめてぶっきらぼうな物言いになる。



「ネクロ・パラドックス。それは、ええ、確かに人を生き返らせる能力なのです。あなたを構成する魂からうまれる多く魔力によって可能とするアルス・マグナを超える超規格外魔術です。人によってはとても欲しがる力なのです。神と崇める程には」



『それがなんだっていうんだ』



「あなたが、ニドの魔術研究所で多くの魔術を認識した事で、多くの属性を生み出す力を得た、そして属性全てを使役する事で魔力の根源に至る術を獲得していたのです。…あなたは、あの時多くの情報を受け止めきれずに止まれと言った瞬間、“時”が止まった事をしっていますか?」



『…覚えはある。そうか、あれは』



「属性全てをこの世界で使えるということを“世界”が承認した事で、あなたは一つの位置に立ってしまった。それが女神アズィーの座する神の領域。」



『だが、俺はすぐに女神に闇属性の魔術を封印された。だからこそ面倒な事に必要なものを用意する必要がある。あった。』



「それでも、あなたの中で生まれ続ける闇までは制御する事ができなかった」



『…どういう事だよ。』



「人の…いえ、生きているもの全ての内側は何色かわかりますか?」



『―なんのつもりだよ』



「知っていますよね?あなたがルドルフに言った言葉ですよ」



…気づいている。確かに気づいていた…だからこいつの質問の答えを俺は理解している。



「人はきっとその質問に対して、概ね“内側を開いた時の色”を答える。例えば、腸ならきっと赤やピンクと答えるでしょう」



『けどそれは光という観測あってこその…だろ』



アルメンは頷く。



「でも貴方は言った。結局のところ本質は“闇”だと。だれにも見られなければ腸でさえも真っ黒に違いない、と。そうです。もっと言えば、見るまではその中に本当に腸があるのかさえ確実に知る術は無い。少し頓智な事になりますがね。そうであるならば、そう認識するのならば、命を持たないあなたの内側でさえも、闇の温床に過ぎないのです。」



『途方にもねえ話だ。だから、だからこそなんだって言うんだよ』



「ネクロ・パラドックスはそんな命の無いあなたの内側にある闇を門として発動する事が可能なのです」



アルメンは小さな背をこちらに向けて黄昏ゆく景色を眺める。



「クリカラのときは、彼の死がトリガーでした。そのようにして人は内側に死を認めようとすると一瞬でも闇を覗かせてしまうのです。」



『つまり、俺は…神域魔術を使おうが使わまいがその蘇生魔術を使う事だけなら、闇を生み出して出来てしまうと言いたいのか?』



「そうです。あなたが観測したものに対して憐憫という感情を得てしまうからこそ、闇という引き金を生む。そして、ネクロ・パラドックスのリスクが何かわかりますか?」



『…膨大な魔力、か』



「いいえ、そうではありません。」



『なら―』



「あなたの認識の変化です」



『…認識の、変化???』



「女神アズィーもそれを使う事ができます。しかしそれを行わない。それは人を、生命を情報としてしか見る事が出来ないからです」



『傲慢だな』



「ええ、非常に傲慢な考えです。ですが、それは命という楔をあなたが周りの人達を見知って感じる事でようやく繋ぎとめたものなのです」



『つまりはだ、俺がいずれは女神アズィーのようになると言いたいのか?』



「…この世界には本来ここの生命では扱えない属性が二つあります。」



『一体なんなんだよそれは』



「一つは認識を遥か高みに置く事で、理解を研ぎ澄ませる“外側の目”。高尚な意識によってこの世界を単なる情報として扱う属性を世界は“天”と名付けた。そして、もう一つは堕ちゆくもの、人の認識で“我”という意識を世界だと考え、主軸が我であり世界と名乗る事で世界と共に融和していく主観的思考、“内側の目”。その属性を“禍”と人が名づけました。そして、世界の内側という不確定観測物を餌に育ち溢れていくのが、古の渦の魔物なのです。」




天と禍。それは俺の知らない…聞いた事もない属性だった。




『わからねえ、お前の言う事は難しすぎる…』



そんな“フリ”をする事で俺は精一杯ごまかしている。だが、アルメンの言う事は考えれば考えるほどに自分の中でどんどんと理解していってしまった。



「魔の本質は世界に存在する全ての情報そのものなのです。感情の塊…意識の原点とも言えます。世界でそんな生命の内側から漏れ出た情報を一気に集わせて生み出されたのが古の渦であり、魔そのものが堕ちゆく事で禍となるのです。そしてその逆、天はそれらの情報を理解し、魔を使役する。それがこの世界の仕組みなのです。」



『…』



「貴方は、今まさに魂を女神の居る“天”の位置に在ろうとしている。この世界での命という楔がないからこそ、単に観測者としての認識を強くしてしまおうとしているのです」



『それが、なんだよ。神だろうがなんだっていいじゃねえか。強くて便利なこった。いい気分なもんだな』



強がってみせているが、俺はしっていた。

思い当たりがあった。


ルドルフ…が生き返った瞬間の感情。

いままで酔いしれていた俺の憐憫が急に醒め切ったものになる時の困惑した感情。




ああ、俺はルドルフの命を命と感じる実感を得られなかった。

そうだ…まるでこの世界を都合よく作り直した本の中の物語のように――。





―あなたの心はあまりにこの世界に毒されすぎた。単なる本の中の物語に入り浸る事に幸せを感じてしまってる。



ヨミテの声が聞こえる。



『やめろ』



―あなたがあなた自身の意志ある行為を望むなら…私はそれを運命によって踏みにじる。



ヨミテの声が聞こえてくる。



『やめてくれ』




俺は急に耳を塞ぎたくなった。目をつむりたくなった。

少し…少しだけでいい。静かになれ、静かになってくれ…

だが、アルメンはそれを許さない。



「あなたが人を生き返らせれば生き返らせるほどに、あなたの魂は遠く天へと誘われ…いずれは悟ってしまうのです。人の命は、人の心はこうも安いものなのかと―…」






そうだよな。死んでも簡単に生き返っちまう…生き返らせる事の出来る物語なんてものほど、愛着の無い物語は無い。



「僕は、貴方の魂がどうか天に位置しない事を望みます」



















暫くして、俺たちは王城を後にした。

アリシアもアルメンとの話を聞いてから口を開こうとしない。


当然俺もおなじだ。



皆の会話を聞いては「ああ」だの「そうだな」だの、今思えば完全にうわのそらだった。





「―で、ジロ。何か収穫はあったのかしら?」



『えっ?』



気づけば空が紫色に染まっていた。

建物と建物の間の道に影が落とされ、それを明るくさせようと、火属性魔術の燈りが何本も並んで灯されている。

俺はリアナに声を掛けられるまでにはずっと呆けていたらしい。



『ここは…?』



「…?あんたたちどうしたの?大丈夫。返事もなんかそっけなかったけど。何かあった?」



リアナが心配そうに見ながら、俺を背負っているアリシアの頭を優しく撫で始めた。



「ううん、大丈夫。ちょっと、難しい事がいっぱいあって頭がいっぱいになってただけ」



『…というか、ここは?』



俺はもう一度リアナに質問する。

マルクト王国内にしてはあまり人気のない場所だ。

なんというか…住宅街にしてはあまりにも質素すぎるのだ。


だが、徐々に俺は音を意識していくと

何か鉄を打つ音が聞こえていた。



「ここはアンジェラの工房前だよ。彼女、先に仕事があるからって一旦私らと別れて工房に向かっていたのよ。」



『仕事?』



俺は目の前の建物に目を向け、そのまま見つけた扉の上にある看板へと目を向ける。…読めない



「アンジェラ工房。そのまんまよ。あなた、もしかして眉間に皺でも寄せた??」



ちょっとからかうようにリアナが言う。



「彼女、あの子の…キヨネの武器を作り直すとかなんとか言って先に戻ってたの。あと王様にはあまり会いたくなかったんだって」



『な、なるほどなぁ』



「でも、丁度いいんじゃない?ソレの使い道…ついでにアンジェラにでも聞いてみれば?」



『ああ…これか?』



俺はアリシアが右手に握り持つ神器へと目を向ける。

ヘル=ヘイムの核となる部分は、アルヴガルズの時見たモノよりもずっと色濃く、異様な寒気を感じた。



「おう、てめぇら。店の前でゾロゾロと鬱陶しいから中に入れ。人数分の椅子は用意できねえがな」



工房の扉からスッと鋭い眼光を覗かせるアンジェラに言われるがままゾロゾロと入る俺たち一行。




『なんだか、俺たちって進んだり、転んだり、それでも頑張って前へ一歩踏み出すとさ、なんかそれが自分にとって強い事だと思ってたんだ』



「なんだジロ、お前急に」



ガーネットが椅子に座って頬杖をつきながら俺を見る。



『得したっていうのか?…でもさ、それでもいっつも…知る事が増えるたびに辛い事が繰り返しあって、動きづらくなってさ。なんか生きる事が苦しいって感じるんだ―』



俺はそんな言葉をこぼしながら生きるという例えに自己嫌悪をしてしまう。

そうだ、俺は死んでるんだ。だからこんな身体だ。いいや、身体なんて言えないどうしようもない業の塊だ。



「なんだかセンチになってるようで申し訳ないけどよぉ。苦しいって思うのも、生きてるって事だろ?」



『そう思うか?こんな手足も無い、味も匂いも解らない、見て喋る事しか出来ない俺が…生きてるってお前は言えるのか?』



「持っているか持ってないかの話で生きる事を語るなって。持ってなくたって、持っていない事を持っている。それでいいじゃねえか。全部もってて願う事をしないやつよりかはマシだと思うね。望みさえありゃあ人は意志を持つんだ。意志さえあれば生きているってことだろ?」



『あったほうが幸せな事だってあるだろ。それが無いから気づかない事だってあるかもしれねぇじゃねえか』



「だったら持ってる奴に聞けよ。そんで自分には叶わねえならせいぜい羨ましがれ。自分の持ってるもんと持ってないもんで幸せの物差しなんか引いてる方がよっぽど気づかない事が多い」



『お前は考え方がさっぱりしてんな…』



「お前がいつになく女々しいだけだよ」



「ねぇ、そろそろいいんじゃない?ジロ、ここなら私たち以外に人は居ない。グロウリアスから何か預かってるんじゃなくて?」



『ああ』



そうだった。俺はアリシアに目配せをしてスクロールを取り出してもらう。

それをリアナに投げ渡し、王の言葉をそのまま伝える。



『今晩、6回の鐘、オルバー行き、赤211号だ』



リアナはスクロールを開き、顎に手をあてながら「ふぅん」と読み始める。



「そう、マルクト王の憂いがこうも関わっていたなんてね。」



『どういう事だ?』



「前に言ったでしょ?この国では人身売買なんてもんもザラなのよ。中央大陸の戦争のせいでね。」



それを聞いたガーネットのロールされたツインテールがピクリと揺れる。しかし、こちら側だと眼帯で表情が覆われていて

彼女の気持ちを汲み取る事は出来ない。



「どうやら、そんな身寄りのない人らを金で集めては、とある場所まで一気にまとめて連れて行ってるみたいね。魔業商が」



『奴らが?』



「ええ、あなたの復唱した王の言葉。それはこのマルクト王国から出発される列車の事よ」



『列車…するってぇと、王の言っていたオルバー行きってのは』



「確かに“オルバー行き”って王が言っていたのよね?」



『ああ』



「実はね、そんな行き先はどこにもないの。オルバーじゃなくてノルバー行きは確かにある。でも、それは5回目の鐘が鳴る時間にしか無いのよ。ここの列車では時間毎に鐘がならされるのだけどね。全てが5回目で運行が終わっているの。それでも6回目があるとなると、それはきっと誰にも知られないような行き先。希に貴族らとかの特別運行でそういうのがあるのだけど、それは決まって新しい列車600号以降の列車が使われる。とてもじゃないけど、赤で211号なんて古い列車が使われる事はない。」




『つまりだ、その6回目の鐘が鳴る列車に人身売買用の人らを乗せて』



「魔業商のある場所、エレオスへと向う可能性が高いの。それに―」



リアナはスクロールの中身を見せて指をさす。読めないんだがね



「その管理責任者にはゼタという男の名前が記載されている。」



『ゼタってあのメイの親父の創った剣を持ってるっていう、あいつか』



「ゼタ―」



ルドルフが添えるようにその名を呟く傍らで、メイが「みしてくれ!」とリアナの持つスクロールを奪うように取る。



「…リアナ、頼む。」



「ダメよ」



メイが内容を言う前にその願いは否定される。



「どうして!!」



「だって顔が怖いんだもの。長年に渡って色々な人を見てきたけど、そんな顔を急にして放っておいた人が碌な末路を辿った記憶が無いわね」



「ふん、長年行き過ぎて耄碌になったんじゃねぇのか?これは私の問題でもあるんだぞ?」



「だが、貴方の問題だけでは無いのだよメイ・スミス」



喧嘩腰になるメイをマリアが諌める。



『そうだ。お前は先走りすぎだ。ここにゃあ折角幾つものカードが揃ってる。誰もお前の気持ちを理解してないわけじゃない。だからこそ、お前が足並みを外すことを皆望んでいないんだ。わかってくれよ』



「…すまねぇ。」



メイはドカと壁に寄りかかってうずくまるように座る。



「いいのよ。それでも貴方の欲しいものは必ず見つけてあげる。約束よ」



「…ああ」



「しかし、良くもまぁこれほどの情報を持っておきながら、何故王は行動に移そうとしなかったのだ。このような人身売買などという狼藉をいつまでも泳がせるなどと」



「いいやマリア、私にゃあわかるよ。あの王は強かだ。これほどの情報を表沙汰にせず得るためにはきっと何人もの犠牲を払ったのだろうよ。同時に人としての感情を持っているか疑わしくなるがな」



『ガーネット。そりゃあきっとこの国を守る為さ。彼は義憤で訴えるよりも確実な行動力と結果のみを求めたんだと思う。それこそ表沙汰になればマルクトという国がどう目をつけられるか解らないからな。グロウリアス王は今でも誤った過去の礎を平和を守るという形で背負ってるんだよ』



「へぇ、ジロにしちゃあ随分と奴の肩をもつじゃねえか。そんな重荷を抱えさせられたっていうのにな」



『なんでかはわからねえさ。でも、彼の決めた事を俺はあまり否定したくなかった。ただそれだけだ』



「…ま、いいさ。それで?どうするんだ?この情報が本当だというのなら、5つの鐘が鳴り終わるのは真夜中手前になる頃だ。どうやって侵入するつもりだ?」



「そうね、この列車の配置と駅の構図を見て。ほとんどの列車が客間用の列車じゃなくてコンテナになってるの。監視の目もあるだろうから…少々手荒にはなるけど」



『列車が出発するタイミングで上へ乗っかるのか』



まさか今回も列車の上にお世話になるとはな。



「乗る瞬間に合わせて私の風魔術を使ってその場の監視員の目を瞑らせる。そしてそのままコンテナへ侵入する。その後は、ゼタが居る車両を探す。それでいいわね」



「え?」「ええ?」と流されるまま震えて聞いてたネルケを除いて皆が頷く。








「―パパ」



『どうした、アリシア』



「色々難しい事聞いたけど、今は目の前の事に集中する。だから、パパも今はアルメンの言った事を胸に閉まっておいて」



『…ああ、わかった』





暫くして、アンジェラがゴツゴツと重々しい音で足音を鳴らしながら奥の工房の扉から出てきた。



「よぉ、少し静かになったって事は話は決まったようだなぁ」



アンジェラが現れるやいなや清音がピクンと反応して彼女の方へとててと小走りで近づく。



「師匠のほうはどうなんすか?」



「ああ?メイ、私を誰だと思ってやがる?てめぇよりは数十年以上工房で槌だけ叩いてきたスミスだぞ?」



睨みつけた目とは裏腹に、その紅を塗った唇は半月に歪ませていた。どうやら思っている以上に上機嫌なようだ。

彼女はその手に持つ幾つものマテリアルをテーブルの上に並べた。いや、簡単に説明はしているが

この量をよくも簡単にその細腕で運べたもんだ。





「先ずは清音、てめえの武器からだ。」



アンジェラが指さした武器。それは当初みた奇怪な形をした刃と同等の大きさを見せるが

はじめて見たものよりも歪さは無く、思っていた以上に質素な仕上がりになっていた。



「“ヴェスペルティリオ”だ。いいか、こいつの名前だ。それだけ覚えておけ。呼べばあとはお前の思い通りに動く」



「え?」



え…?



説明簡単すぎない?


その疑問にメイが察したのか、そっと俺に彼女は耳打ちする。



「師匠の武器はちょっと特別なんでね。人に渡す時にゃあ使い方はその場で覚えろって感じなんだよ」



『マジかよ』



「それとガーネット、あんたのはこれだ」



ズブッ、バキッ、バコォッ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!」



―と、三拍子のエグい音に続くガーネットの悲鳴。



どうやら彼女の義足になんらかの仕込みをしたのだろう。

無理やり“ナニカ”をこじ開けて無理やり“ナニカ”を引き抜いて、そのまま“ナニカ”をぶち込んでいた。



「お前!アンジェラ!あ、アンジェラさんっ!?義足そこイジるときは神経が繋がってるから一度外してからって注意したのはあんただろおおおおお!!!」




「うるせぇな。あんなの単なる営業トークに決まってるだろうが。後は気合でなんとかするんだよ」



「意味わからねえんだがっ!?」



「テメェの足にブチ込んだのは特殊な魔術を組み入れた部品だ。いざという時に役に立つはずだ」



「ったく、こんなんで本当はピンチになったときは義足一本外して、それを爆弾代わりに投げるなんてしょうもねぇ事言わねぇでくれよ?」



「………」



「なんで黙るんだよ!?私は冗談のつもりで行っているんだからな!?否定ぐらいしろよ!!」





「ジロ、アリシア。テメェらにはこれを渡しておく」



アンジェラが渡してきたのは、小さな指輪だった。



『これは?』



「これも隠し玉だよ。いや、切り札…といってもいいか。兎に角、いずれ必要になる時は来る。てめぇらの為にもな――…………………ん?」




アンジェラは神器を見るやいなや、その目を大きく開き始める。



「おい、ジロてめぇ。それを何処で手に入れたんだ???」



『え、コワ。メンチ切らないでよ。グロウリアス王から貰ったんだよ。正確には押し付けられたっつうか…え?』



ガッ、とアンジェラは立て掛けられた神器を掴みとり、その水晶の部分をギチギチと目を異様なまでに見開きながら眺め続ける。



『あ、あの?アンジェラさ、ん??』



「…ちょっと黙ってろ」



『がべべっ』



俺の口を塞ぐように魔剣おれの視界にあたる部分を手で覆う。



「パパ、変な声ださないで」



『いや、でちまうんだなぁこれが…』





「―オルドワンス!!ノクト!!!!早く出てこい!!!!オルドワンス!!!!!ノクト!!!!!」



「はーいー!」



「お呼びで?」



工房の奥から二つの人影が現れる。


ひとりは女性の…いや、色々とデケェ!!(タッパもだが、なんというか…あの、胸とかその…胸とかっ)


もう一人は小さな体躯のメガネを掛けた少女。



「わりぃが、神器コレ借りるぞ。ノクト、持っていけ」



「承知」



アンジェラはメガネの少女に神器を渡すと、工房の奥へと持っていく。



「リアナ、例の列車まで時間はまだあるな?」



「え?え、ええ」



『ええ?』



「ジロ。もう一つだけ渡すものがある。それまで、少し待っててくれるか?必ず、時間までに完成させる」



『あ、ああ』



「あのクソ王。こういう回りくどい方法でしか私に“渡す”事ができねぇのか」



アンジェラの言葉に俺は妙に納得した気持ちになった。

なるほど…ここまでがどうやら予定調和だって事か。



『まぁ、都合がいいって言うのはこういう事だったんだな』



「オルドワンス。こっちの工房来るまえにジロの刀身磨いておけ」




「はーい、わかりましたよぉ。ご主人様」



『え?磨く?いやいや、そんな』



オルドワンスと呼ばれた女性がバインバインに胸を揺らしながらこっちに近づいてくる。いや、目に毒なんだがっ



「アリシア様、魔剣様を少々拝借しますね」



俺は少し小っ恥ずかしい気持ちになる。

刀身を磨くって、なんかちょっとエッチな気持ちになるじゃん?へへ

え?綺麗なお姉さんにお背中洗ってもらう的なあれに思うじゃん?へへ



…いけない、なんか解らんが変にテンションが高揚してきている。

どうにかこれを制さないとっ


「…パパ?」



いや、やめてくれ。そんな目で見ないでくれアリシア。これは不可抗力なんだよ?

この世界に来てようやく、男らしい男というなんかそのあれをだねこれで…ねへへ?



「はーい、魔剣ジロ様~。刀身を磨きますよ~」



『は、はぁ~い(声色)』



「なぁ、ご主人の声なんかキモくね?」



「黙っておけクリカラ」



オルドワンスさん、何で磨くのですかね?

まぁそんな事よりも、こんな巨乳のお姉さんに初対面ですぐにナニカしてもらうのってなんか


昔歯医者で初めて綺麗なお姉さんに当たったときに色々と当たってしまったあの時を思い出すんだァ。



「はぁーいでは、いきますよぉー」



『え?』



ギュム…という謎の効果音を耳にした。

というか、この視点…なに?



アリシアをふくめた皆が俺を見ているんだが?



今、おれ何されてるの?

俺は自身の刀身へと目を向ける。







『え?』








―何故か俺という魔剣の刀身はオルドワンスさんの大きな胸に挟まっていた。どうして?いや、正気かこの人?




「いっきまーーーーす!」



彼女オルドワンスは自身の大きい胸で強く挟んだ魔剣おれを大きく上へ上へと引っこ抜くようにスライドさせた。




『えっ?ヤダこわい。何がおきてっ…え?』



「えーーーーーーーーーーーーーーーいっ✩」



『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!??!』






なにそれええええええええええええええええええええええええええええっ!!

磨くって、そういう事ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!??!?!?!





ダイレクトパイオッスラァ2000兆点ポイントで終焉のファイナルラストフィニッシュエンドフィナーレ展開が俺を待ち受けていた。




※ここから俺は正気を失って記憶が暫くトんでいる。つまりは、ここから俺は正気を失って記憶が暫くトんでいた。


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