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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
139/199

104:生まれ続ける疑問



「リアナ殿、それにご一行様。我が王が是非にと―」



王国騎士団長ウィズヘルの早急な計らいによってマルクト王国正門をくぐり抜けた後

トントン拍子で兵士によって招かれながら俺たちはマルクト王城へと赴く事が出来た。

あの一件以降も姿を見せないアンジェラ。しかし、マルクト王国の義肢であるならば工房へと向かったに違いないとメイは俺の杞憂を払った。

しかし、とても厳重な警備だ。何人もの兵がこちらを警戒しながらも目を合わせるたびに一礼をしてくれる。

流石貿易によって大きな成長を遂げた国なだけはある。立派なもんだ。


王城の入口も大きい事。俺、こういう場所は本当に初めてで少しばかりドキドキしてしまう。



「パパ、はしゃぎすぎ。目線があっちこっちを見てるよ」



『え、わかんの‥?』



「私だって一応レディだからね。これぐらいで驚いてたら我がハーシェル家の名がすたるのよ。」



そんな大見栄、お前と出会って以来、今日び聞かないもんだ。



「あっ…でっか、ほぇ~」



「アリシアはこういう場所は初めてか?視線があちらこちらで目移りしているな」



「え?おばあちゃんわかるの?」



キョロキョロさせた青い瞳がマリアの一言で一瞬にこばわる。

ああ速さに特化したブーメランってこういうのを言うんだな。


暫く城内を見渡しながら歩いていると、とある一室へと案内される。

部屋の扉の前では数人のメイドが待機しており給仕用のワゴンの上で茶を慌てて用意している。


どうやら本当に突発的な事であったのだろう。リアナがなにかすごい奴だとはいえ、これは申し訳ない事をしたな。



「陛下が、謁見の間では畏まってしまうとの事なので。こちらの客室にて少々お待ち頂けますか?」



「あら、お構いなく。中で適当に待たせて頂くわね。騎士団長。」



ウィズヘルが一礼をするとその場を後にし、俺たちはゾロゾロと客室の中へと入っていく。

予想以上に大きい部屋だった。なんとも豪華な客間で、いくつもの装飾が施されている。



「うわぁ、街が一望できんぞここ。すげぇなぁ」



「ああ!すげぇなぁ!だが、俺の背中に乗ればもっと高く見下ろせるぞ!」



ガーネットの横でクリカラが両腕を組んでドヤ顔している。対抗心燃やすな。



「私がいうのもなんだけど、そこらへんに椅子もあるし楽にして頂戴。多分、暫くはおうさまも準備があるだろうから」



「では私も失礼させていただくよ」



「あっ、お菓子あんじゃーん!食お」



清音がルドルフのとなりでソファにドカ座りすると卓上に用意されているお菓子にすぐさま手を出した。



「ここが師匠の使えていた王国かぁ。やっぱあの人ってばすげぇんだなぁ」



「アリシアは座らなくていいの?」



「ん、大丈夫よヘイゼル、私も外を見てみたい。」



「そう」



「一緒にみようよ」



「うん」



『ああ、俺ん事はいい。適当に置いといてくれ。アルメンが見てくれるだろうよ』



「―ところでなんだが」



『ん?どうしたマリア』



どうにもマリアの様子が少し変だ。時折、クリカラを見ては何かを一考していた節がある。

それを気にした事で、俺もすぐさまに思い出す。ああ…そうか


俺が言う前にマリアのほうから話が先に出た。



「貴様はかつてのニーズヘッグ。そういう事でいいんだな?」



「ああ?なんだ。それがどうしたってんだよ」



「この馬鹿じろうの仲良しこよしで我々に付いてくるのは構わんが、今はっきりさせたい事がある」



「…なんだ、俺はお前に恨みを売った覚えはねぇんだが?」



「それは貴様の答え次第だな。恨みは売ってなくても、あるモノを売ったのかも知れないからなぁ」



「あるモノだぁ?」



マリアの静かでありながら圧の掛かった剣幕に皆が一気に静かになる。



「お前は、竜の棲まう島でドラゴマイト鉱石の管理をしていたな」



「ああ、ババアからやれあーしろこーしろとうるせえもんだからなぁ。仕方なくやってた事にはやってた」



「ならば、問う。お前は魔業商にその鉱石を渡した記憶はあるのか?」



「魔業商?なんだそいつはぁ」



「とぼけるなよ?いいか、これから殲滅しに行くのはその魔業商の連中だ。それがリョウラン組合からの依頼とはいえ、私には個人としての因縁がある。

起因するのは数ヶ月前の話だ。」



重々しい空気の中、メイドがそそくさと淹れた茶を卓においていくのを流し見しつつマリアは続ける。



「あいつらが南大陸にあったハーシェル家、その守り人であるリンドヴルムの結界をジャバウォックの詩篇を発動させて壊した。媒体には我が娘であるアリアの命。そしてその後は雇われの盗賊らを使って残った邸宅の者者を皆殺しにされたのだ。アリシアが魔剣と契約をしたのも、全てはそれが始まり。わかるか?ドラゴマイト鉱石は帝国でのみ独占管理されていたものだ。それを愚かな思想に狂った連中が手にしていたんだよ。帝国が関わっていないというのならば、その原因はお前しかいないんだよ。管理していたニーズヘッグ、お前がな」



「…」



ニーズヘッグは一考する。



「とぼけるつもりはねぇ。だからこそはっきり言う。俺は知らない。それと、お前らの話が理解出来ない。」



「どういう事だ?」



「何故それが魔業商がやったと解った?何故それがジャバウォックの詩篇だと解った?何故それを俺の管理しているドラゴマイトが媒体になったと確証を得たんだ?帝国が嘘をついている可能性は?」



「それは…」



クリカラ。こいつ、意外と冷静にものを話せるんだな。力の事だけで考えてない人間だと思っていた。



「それは、リンドヴルムからの手紙で見知ったのだ。彼女は、確かにお前しかいないのだと言っていた。」



「リンドヴルム…うぇ」



クリカラがその名をきいて苦虫を噛んだような顔をする。

以前も言っていたが、こいつ本当にリンドが嫌いなんだな。



「ちょっと失礼するぜ。元々帝国軍に追われている身だから庇うのも変な話だが、帝国軍は確かに使ってもいないし、そんな履歴も存在しねぇ。ドラゴマイトの管理にはこっちでも何重もの承認を得てやっと使える代物だ。その使用記録には帝王も目を通しているし、なんなら最終決定承認者は帝王がするものなんだ。それでもやっているのではと疑われたもんだから、軍規違反をする者がいるという疑惑を晴らすためにドラゴマイトの管理への監査を執り行ったが、それらしいアシもねぇ。何より数が減ってねぇんだよ。」



「いや、帝国への疑惑はない。なにより俺にとってきな臭く感じているのはリンドヴルムの方だ。」



『お前は、リンドヴルムを疑っているのか?』



「当然だ。…いや、少しばかり様子が変だったと言ったほうが正しいか。俺とリンドヴルムは人に対しての思想が相違している段階で、互いに毛嫌いしていた。目を合わせれば唾を吐き合うぐらいにはな。」



『唾を吐くリンドとか想像できねぇなぁ』



「いや、ものの例えだご主人」



『あ、ハイ』



「だが、それは互いに出会ったらこそだ。あの女はあの女なりに死にかけの自分を拾ってもらった恩義があったんだろう。互いに干渉をしない事で、袂を分かつ事を落としどころにしていた」



ちょっとまて。



『誰が、誰を拾ったって?』



「俺が、あの女をだよ」



『え、どどどどどどど、どいういう事?』



「パパ、驚きすぎ」



アリシア、そんなお前の顔も随分と白目剥いてるぞ。



「あいつは元々、ラース・フロウ出身のドラゴンじゃねえんだ。遥か東の大陸のそのまた東の端。今は帝国領となっている山々で育った竜だ。

随分昔に俺が東大陸を横断している時に見つけた死にかけの竜だ。あいつの眼は少しばかり特殊でな、同じ同郷の竜からは忌み嫌われていたんだよ。そんで故郷を追われた後にそら東大陸の方をドラゴンが闊歩してりゃあ帝国の連中に狩られるのは当然だろ。なんと逃げおおせた所を俺が拾ったんだよ」



意外にも無茶苦茶親密だった!?



『それにしても、弱肉強食本位のお前が、そんなリンドを助けるのも意外中の意外だ。』



「…まぁ、気まぐれってのは誰にでもあんだよ。今思えば、非常に後悔しているけどな。本当にあのまま野垂れ死にさせときゃよかったって」



気まぐれなんかじゃないだろうさ。お前はきっと、その時のリンドに対して過去の自分を重ねたんだろうよ。

俺はそう思いたい。



「話が逸れたな。まぁ、そんなだから。基本あいつとなんて、不可抗力でもない限り会うことはなかった。だが、あの時のあいつは違った」



『あの時?』



「お前らが、イヴリースが復活した騒動のあとの事だ。フレスヴェルグが目的の為に見つけた“常闇の姫”。あれを手に入れた後、俺たちは別々に別れてズラかる予定だった。けど、その前にあいつが現れたんだ。リンドヴルムが―」



クリカラは眉間に皺を寄せて憎たらしそうにその出来事を思い出していた。



「あいつは本気で俺を殺そうとした。まるで親の仇みたいに俺を見てな。そん時からどうにもあいつの様子はおかしかった。“まるで何かを知っている”ようでもあった。だがそれだけじゃねぇんだ」



『確かにあいつはお前を追うと言ってアルヴガルズには残っていた。お前のいうそれだけじゃないってのは何なんだ?』



「あいつからは、この世のものとは違う匂いがしたんだ。それは死者特有のとかそんなもんじゃねえ。まるで、生きている世界が違っているように感じた。」



生きている世界が違う?

どういう事だろうか…この世界じゃない場所…それは俺らが生きてきた世界の―



「ご主人の言いたい事はわかる。だが、そうじゃねえ。そうであるならば、俺はそう答える。だが、違うんだ。確かに同じリンドヴルムには違いない。だが、何かがズレているんだよ、あいつの何かが。だが、アンタが言っていた話を聞いて多少は腑に落ちた点がある。」



「どういう事だ?」



「リンドヴルムは何かを知った。何かを知っていたからこそ、俺に対しての殺意があった。もしもあいつの言葉を信じるというのならば、あいつはきっと何処かで何か違った事実を見知ったに違いない。」



「私からもいいかな?」



途中でルドルフが話に割って入る。



「あなた方の事情を以前マリアから聞いてはいた。アリシアとジロの一件も含めて。だが気になる事があるのだ。魔業商はアリシアの母君であるアリア殿の聖骸を目的として動いていた。だが、もしもハーシェル家の殲滅を目的としてジャバウォックの詩篇を発動していたのであれば、その段階ですでに目的は達成しているのではないか?何故ならば媒体として使われる段階で入手したも同然で、そのままアリア殿を回収すればいいだけの話です。もし、それが目覚めたリンドヴルムの手によって失敗してしまったとして、それ盗賊まがいにやらせる事はあまりにも稚拙かと。」



確かにそうだ。何よりも奴らの目的はアリアの回収ではなかった。




そう、魔剣である俺だ。

奴らはアリシアでさえも殺そうとしていた。



段々と俺の中で違和感が増え始めていく。


クリカラは言った、あいつの匂いが何か違っていると。

それに、彼の言っている事に思い当たる節がある。


そう、俺には心器、プリテンダーの能力がある。

それは偽る者の目線を知る事。

それを手に入れた後でリンドヴルムとアルヴガルズで再開したあの瞬間、あの瞬間だけ異様なまでにプリテンダーが反応していた。



それが一体何を意味しているのだろうか…

だが、同じく彼は言った。リンドヴルムの言う事に間違いがなければ彼女の見たものそのものの見解が違っているのではないかと。


そしてもうひとつ、ルドルフ曰く、アリシアの家族を殺したあの一件が魔業商の仕業であるなら一貫性が無い。



ならば、リンドヴルムも、アリシアも、一体誰に狙われたんだ?

クリカラの言う事に嘘は無い、確かにそうだ。それは俺が一番解っている。


彼がドラゴマイトを流出していないと言うのならば、誰がドラゴマイトを―…



いや、まて。クリカラは言っていた、「何故それがジャバウォックの詩篇だとわかったのか」

リンドヴルムは何を知っていて結界が壊された事をそう判断していたのか?


判断材料には、当初ガーネットの言うとおり竜由来の魔術だから相性が悪かったと言っていた。

それはどくという存在にはどくを以て制すという事が必然だからであろう。


ならそれが竜由来のジャバウォックの詩篇でなければ?

魔業商の仕業でなければ?



一体誰が――。



一抹の疑問から大きな疑問へと変わっていく。

どうやら、俺は…俺たちは初めから大きな勘違いをしていたのかもしれない。










この時の俺は、それでもまるで他人事のように第三者の手を考えていた。























真実を知るまでは。



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