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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
135/199

101:虚躯討伐戦

「うわあああああああ」


「きゃああああああっ」


「たっ、たすけてくれえええええ!」


「頼む!誰か!!わ、わしはマルクト王国内環境大臣じゃ!誰でもいい!たす―」



無防備な観光客ら一般人は叫び、荒れ狂うウオガラシに膝をついて屈み、動けないでいる。

バサバサと羽音を立てるそいつらの眼は最早正気を失っていた。


その飛び方すらも不規則。いずこへと向かう事も忘れ、全てが漆黒の雨の如く。




「“オーダー:バインドチェイン”」



しかしそれを無機質な呟きと共に、いくつもの光の鎖で縛りつける。



「コネクト、対象、ウオガラシ」



更に縛り付けた鳥々から幾つもの光の鎖が飛び出し他のウオガラシへと連鎖するように拘束させていく。


それは22の聖女の死体から由来するヘイゼルの能力、魔力リソースを必要なしに光魔術の根源へと要求する“オーダー”

そこから次いで接続の奇跡の能力を発動させ、同じウオガラシを対象に連鎖的に拘束させるものだった。




その乱雑なる狼藉が静止された隙を狙い、ネルケとメイがすぐさま一般人らを避難させる。

そして仕上げはルドルフによる重力魔術。それによってヘイゼルが拘束したウオガラシを地に叩き伏せる。



「ネルケ、あんたの方はどうだ?」



「は、はい!この人たちで全員です!」



「おっけー、あとはあの二人がなんとかするだろ」



「もぐもぐ…頑張ってんねぇー…もぐもぐ」



敢然と卓に座るまま食事を続ける清音。



「いや、お前も手伝えや!清音!!」




「いやはや、申し訳ないね。ヘイゼルさん。私の重力魔術では少しばかり周囲にも影響が出てしまう。あなたのそれと救助に徹する二人おかげで上手く事が進む」



「問題ない」



「だが、どうやらこれで暴れる鳥も全て抑えつけたでしょう…おや?」



ルドルフが確認する中で一匹のウオガラシだけがパタパタとまだ飛んでいた。



「しまった。一匹だけ取り逃したようですね。」



ルドルフとヘイゼルの猛攻を逃れた一匹のウオガラシはそれでも弱い勢いでよろよろと“ある場所”へと向かっていく。



「あ」



メイの頭上を通り抜け、そのまま清音のいる卓へと―…




「シュッ、パク」



「………………………………………………………………………………食べたぞあいつ」



「え、そのままなんですか…?」



「つかその鳥って、食えるの?」



逃げ切ったウオガラシの終着点はとある桃髪の少女の胃の中であった。



「まっず」


「グ、グオオオオオオ、オ、、オオオオオオ」



狂ったように長い首を揺らし猛威を振るう形の歪んだ化物。

ドポドポと黒い液体をまき散らしながらマルクト正門の浜辺で暴れ続けている。


直前に俺たちに襲い掛かる化け物の大きな腕、それを右端から差し込んでくるマリアの刃が火花を散らして払われる。

どうやら彼女はアリシアへの攻撃を防ぐ事に徹しているようだ。その中で攻撃できる隙を見極めている。



「ふん、泥のように溶ける身でありながら芯は硬く出来ているようだな。何度か切断を試みたが、どうにも弾かれてしまう」



『あの泥がそうさせているのか?』



「さぁな、解るのは攻撃する度に泥が零れ落ちていく事ぐらいだ」



俺は零れていく黒い泥に目をみやる。

白い砂浜にまき散らしたそれは何一つとして変化する様子がない。


真っ黒で、時経とうと変わる様子も無い。


魔物の肉体は基本死ねば残された血肉は時間と共に変化し、最終的にはそれを維持させている魔力を拡散させて塵に果てるのだと。

俺は以前ニドから聞いた事がある、魔力によって形成された魔物はその生態の維持を魔力によって補われている。

故に魔力が異常なまでに持っているからこそ変異をすると。しかし―



「へっ、この泥にゃあ魔力は感じられねえ。私の“眼”がそういってやがる。」



ガーネットの言うと同時に相手へ、解析魔力を使っていた。

…しかし、そのビジョンには魔力属性を表す色が示される事が無い。無属性というものが存在するのだろうか。


強いて言えば、俺にはこの黒い泥から魔力を感じる事は無い。

ただの無。どちらかと言えば喪失を経験した後に生まれる無。虚無に等しい。


モノ…本当に重い質量がそのまま暴れているという事実なのだろうか。



「だが、本体には刃が通らないぞ。少なくとも、有害性が無いと解っていてもな」



『…なら!魔力ならどうだ!!』



俺はイメージする。出来るだけ想像できる限りの数本の魔力の槍。



『雷槍!最大重奏!』



毎度おなじみになるであろう幾つもの雷の槍が頭上に顕現して、化物へと弾丸の如く何発も撃ち放たれる。

それらは化け物を貫き、動きを封じる。

だが、それに手ごたえを感じない。



「なら!もっと強い魔力でっ!!!!!」



リアナは化け物に向かって走り出し、反撃するように繰り出された化け物の腕を躱すと、それを踏み台にして真上に飛ぶ。



「“集え”“汝は心の隣人”“世界を凪ぐ意志あらば”“我が通りを塞ぐ其を薙ぐ術を”」



彼女の精霊杖、バンデルオーラに風が重く渦巻き密集していく。風の魔力を感じる。明滅する緑と、混ざる虹の煌めき

それによって空気が持ってかれるような感覚だ。




「ペネトラツィオン=デアヴェント!!!!」




大きく吐き出された風圧の大槍は真下へと降される。




「ゴウオオオオ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」



竜の姿を模した化け物はそれによって身体を地に叩きつけられる。

そして、余剰の勢いが砂浜を強く舞わせた


しかし、すぐに後の風がそれを吹き飛ばし視界を明確にさせる。



『効いているのかっ?』



隣でマリアが目を凝らす



「…いいや」



「まだ、みたいっ」



アリシアが続けざまに言葉を漏らし

途端に襲い掛かる黒い泥を魔剣で弾く。その横から追撃に対してマリアがフォローする。



『なんだこりゃ!?この泥…意志を持っているのか!?』



奴の姿が見えた時、それは先ほど以上の更なる異形の姿となり果てていた。

ドロドロと溶けた翼は意味を成さず、身に纏わりつく黒い泥がウネウネと活発に動き始めていた。

一方でハタハタと先ほどと同じように泥を零してもいる。


その攻撃は先ほど以上に多種多様になり

幾つもの泥が触手の様に動き始める。



「どうやらっ、魔術でもっ、駄目のようねっ」



『物理的には効いているみたいだがな!リアナ右からくるぞ!!』



俺の声に反応して襲い掛かる触手を、瞬間的に発動させた風精霊魔術によって自身の位置を少しずらして躱し

そのままバンデルオーラで弾き返す。



「魔力による殺傷性が浸透していないのか?それとも、魔力そのものを物理的にしか受け付けないとでもいうのか」



『さぁなっ!』



アリシアも縦横無尽に繰り出される攻撃をマリアと息を合わせて弾き返し、躱し続ける。

触手の攻撃を抜けきると、次にくるのは黒い影の如き巨躯による猛攻。


確かに形は曖昧なものだが、四足歩行なのは解る。

上体を少し持ち上げてその前脚を腕のように振るって切り掛かろうとする。



「ちっ―」



疾い。大振りな体にしては多少の俊敏性があるのだ。

アリシアが舌打ちをして魔剣でそれを受け止める。

力の拮抗、そこから感じる確かな物理的な威力。


しかし、それ以上でもそれ以下でも無い。



「魔力の事はわたし、あまりわからないけど…こいつの動きになんか見覚えあるのよね!」



どうするっ

ここで神域魔術を発動するべきか…。

いや、しかしこの後に迎えるであろうエレオス城での戦いを前にヴィクトルから受け取った黒耀の塊を使うのはいささか不安が生じてしまう。

エリクサー症候群なのだろうか?


そんなわけがない。これはゲームではないのだ

一度きりの事象、一度だけの観測。


いまこの選択で、安易な事を選べばいずれは瓦解する。


俺は感覚的な物言いで自身に慎重さを訴えかける。




考えろ!術は手に持つカードだけじゃない。

もっと知れ!もっと周囲をアテにしろっ


もっと事象を手繰り寄せろ。それをものにしろ




より、良い場所へと―






『―アルメン!!』



俺の呼びかけに答えるように鎖が魔剣と拮抗する化け物の腕に絡みつき、強くガチガチに締め付ける。



『アルメン!答えろ!“あれ”は使えるのか!!』



――使用魔術は光と地、問題なく使えます



成程、こういう意志の疎通は便利ではあるな。



『アリシア!踏ん張れ!!』



「んぐぐぐぐぐっ!」



『発動!ネフィリム=アカウント!!』



その言葉と共に俺の中で二つの玉がカンとぶつかり合うような音がした。



瞬間。アリシアの足元に二色の魔法陣が展開され、彼女自身の中に上からストンと何かが“降りる”のを感じた。



「えっ――あれれ??」




グンッと、化物の巨躯がアルメンによって縛り付けた腕を軸にして持ち上がり

そのまま大きくアリシアの真後ろへと投げ出されて、地面へと再び叩きつけられる。



『これが、あの時あいつがニーズヘッグに使っていた魔術か…』



「すっご」



思っている以上の膂力に少し驚いているアリシア。

はっきりいってヤバい。



「ズ…ヘ…グ…グ、ググ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」



何かを感じたのか、唐突に仰向けの化け物は咆哮を上げて花火のようにその身体の黒い泥を弾かせる。

しかし、ネフィリム=アカウントの発動したアリシアの身体は異常なまでの膂力を発揮しており

大砲の玉のように飛ぶそれらを何度も一振りで両断してしまう。


しかし、その隙に起き上がった化け物は再び触手を伸ばして周囲へと襲い掛かる。



アリシアはそれを搔い潜りながら、再び魔剣を構えて化物の懐へと近づく。



『そのまま斬り伏せろ!!この物理力ならいけるかもしれねえ!!』



「かもねぇっ!!!!!!」



首より下に入り込み、そのまま走る勢いに任せて魔剣を大きく振る。



「グガッ、グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」



外した!?

違う、アリシアと確かに斬った感触はあった。

けれども、それは水面を斬るような感触だ。この泥は、堅さを自在に操れるのか?実態の無い影…?




『まて…あれは?』



ウヨウヨと動く化け物の身体。そのアリシアが斬ったであろう一部に一瞬ではあるが赤いものが見えた。



『くそっ!一旦ひくぞ!!』



俺とアリシアは相手の反撃を受け流しながらそのまま距離をとる。



「くそっ!決め手がないんじゃラチがあかないぞ!!!」



『だけど少しだけ動きに鈍りが見えている』



違和感程度ではあるが、奴の動きに、いや、纏っている泥の動きが少し鈍くなっているのを感じる。

何度も何度も削り、切り続けてきた結果なのだろうか。



「こういうタイプは、どこかしらに核をもっていやがる!それを見つけ出すんだよ!」



ガーネットはそう叫びながら、自身に襲い掛かる泥を二本のダガーで捌きながら距離を詰めていく。



『ガーネット!!あいつの首の下!そこに一瞬だけ赤いものが見えたぞっ』



「腹部あたりかっ」



二本の刃は踊るように黒い触手を受け流し。

そのまま流れるように化け物との間合いを探っていく。



「ふっ」



その顔は笑っていながらも、それで余裕の無さを隔しているようにも見える。

はたまた、そのギリギリを楽しんでいるのだろうか。どちらにしてもすごい、

失った両足の代わりに拵えてきたアンジェラによって造られたその義足。時折魔力反応を見せるのは義足に施されたギミックなのだろうか?



「物理だけでも、魔力だけでも――」



ガーネットは一本のダガーを逆手に持って

刃を自身の義足に叩きつける、すると火花を放ちながらダガーはその刃伸ばすように変形させて赤く熱を帯びていく。



「フォローは私がする!」



リアナがガーネットの側に寄り、化け物の攻撃を弾き返していく。

そしてそのまま二人で化け物へとの距離を詰めていき。



「見えたっ」



「行ってこい!」



彼女は一気に入り込める隙を見つけてそのまま化け物の方へと駆けよっていく。


飛びつく様に襲い掛かる泥を弾き


伸びるように繰り出された三本の泥を切断し


大振りで襲い掛かる腕を滑り込むように躱すことで相手の腹の下まで入り込んでいく。



「物理だけでも、魔力だけでもダメだっていうのなら!同時にぶつけるのはどうだ!!」



魔力を帯びたダガーの刃を化け物の腹に奥まで、奥まで押し込めるように刺していく



「“躍動の使徒”“開きし遥かの祖”“紡がれよ”“怒れ”“怒れ”“怒れ”“辺は汝を伏す闇と知れば”」



早口で詠唱をかけるガーネット。

それと同時に刺した場所にアリシアと同様に二色の魔法陣が展開される。



「“臨界”“承認”“解除”―――こいつでも喰らいな!」



刺したダガーの柄を鍵を開けるように一度捩じると、そのまま手放して化け物の下から離れる。



「お前たち!一旦離れろ!!」



『えっ』



「起爆するぞっ―!!」




瞬間、視界に入ったダガーの刃が熱を帯びた赤から白く輝いていく



そして




「グアァアアアアアアッアアアアアアアア、アアアア!!!」



数回の赤と白による煌めきの後に


耳を劈く大きな轟音。

それと同時に下から放たれた大きな爆発に化け物が一度身体を膨らませながら少し上に飛び上がり

そのまま落下で地に叩きつけられる。




『なんなんだ、ガーネット!あれはっ!?』



再び舞い上がる砂塵とボタボタと落ちる黒い泥を眺めながら隣に居るガーネットに聞く。



「メイ工房印の起爆魔術を搭載した魔術ダガーだよ。この間依頼してたやつさ」



「無茶な事をして…ガーネット。怪我は無い?」



「大丈夫だっつーの!過保護すぎんだよ!お前は!!」



「けほっ、けほっ!それにしては威力でかすぎないかしらっ!」



アリシアは咽ながら自身の服を見下ろし、こちらまで舞ってきた砂埃をはたく。



「んなこと言ったって!リアナのだって同じぐらいだろうよっ」



『そんなことより!みろっ!』



俺は化け物の方へと皆の視線を促す。

瞬間的な爆風。それが収まる頃に、奴の黒い影が少しずつ見え始める。

そのかたちすらも曖昧だったそいつはその爆発による衝撃の咆哮に黒い粘着物の形を硬直させたままに動く気配を見せない。

この世界で言うのもなんだが、現代アートのオブジェのようだ。


だが、変化はあった。


その黒い泥の躰の中から赫赫とした球体が「クォーン」という奇妙な高音を響かせて覗かせている。



もし…ガーネットの言う通りならば、あの赤い球体が核に違いない。



『アリシアっ!』



「うん!」



彼女は俺の言葉に合わせて魔剣を構えて、その球体へと駆けよる。

そしてそのまま、俺と言う魔剣を持ちあげて、目前の球体へと叩きつけるようにぶつけた。



「まてっ!むやみに攻撃したらっ―――」




――――お、オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア



マリアの制す言葉が、いや…全ての音という音が唐突に歪む。

目の前の赤い球体はそのままに


視界だけが赤くその場所に吸い込まれるようだ。





お…、…べて、を………せ…



そんな気が狂いそうな音響の中で、誰かの声が聞こえた。

だが、聞き取る事が難しい。


俺は全ての意識を預けるように、その声に耳を澄ました。



おれの…




「おれの…」なんだ?









“俺の全てを返せ!!!!!!!!!!!”






――今度は確かに聞こえた。

その怒号。命の全てを賭した程に響く。その感情が耳を貫き、俺の内側にある魂にまで刺し殺さんとする強い意志。執着。



解ったのは、核から聞こえるその言葉が、大いなる呪いの叫びである事。



もう一つは、その声に覚えがあった。




『お前は…おまえなのか?』




どうして…。


いや、予兆は確かにあった。


それに気づきさえすれば、こいつがこうなってしまった事も

この場所に来てしまった事もある程度想像がつく








『ニーズヘッグ――』

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