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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
130/199

それはとある英雄の終局点







「確かにその誓…違えるなよ」










“この世界”で彼は何も変える事が出来なかった。

選ぶ意志を持たない者がたどり着いた結末。



彼は…何をする事も無く、世界に行く先を委ねた。


確かに幾つもの選択があった筈なのに。

彼の心は時を経る度に虚無が蝕んでいた。


そんな虚ろの世界で、彼は後悔を思い出していた。



幾千年を生きてきた彼にとっては少しばかりの日々は事足りるものでは無い。

どんどんと器だけを大きくして満たされなくなった身体は

まさに中身の無い髑髏に違いない。



けれども、少しばかりの日々に見出した“彼女”との出会いが



別れが



今更になって彼に小さな燈りを灯していた





けれども、目の前で己を影で覆い尽くすそれは

すぐにでもその灯火を飲み込もうとしていた。



翼は蝙蝠、肌は溶岩を潜ませるような荒地の如く。

眼は鋭く大きく灼熱を剥きだした様。

歯はカチカチと音を立てながら並び

奇妙に長い手足爪は円月の鈎爪に古の文字が彫刻されている。

その角は後ろに長く突き出され、しなるような髭

その全てを影が覆い、覆う影は周囲の彩を飲み込んでいく。



影の主、その姿は獣、悪魔、竜…悪意。不幸。そして虚無。意味を与えようともそれを飲み込んで喰らい尽くす。




「不動の蠍は喉を食いちぎる花の穏やかさに血を啜る雨。故に天使の指の孤独は皿に乗せられた老爺の爛々と貪る毒手。灰を漁る爪。廃を誘う夢。隷属する可能性は百路の果ての60の扉。楽園、強欲。首の採れた銀蝿が咥えた大剣に縋り付く重度の過労。銀色の梅は腸を食い破り赤子を散らす。三千もの愛を奪う時の末裔。枝切りばさみにとり憑くかもめの黄金と凶。試練の狭間に現れた試験的破壊と確定創造を否定する神と永遠の杯。濡れた暁に傷をつける木は朧朧と遥か。長い尾で斧を絞めて殺す子供はいつかの過去の私。十年後の不幸と十年後の粗相に相対する絶対強者は命の長椅子にて毛を舐める。やめられない情動に心臓を箱から取り出して歯を根に刺す。四隅に置かれた少女の眼球は朝食。だからこそ人の望む命の底は水面の毒を剥離して歪む車窓。だがそれは僕にとっての潜在意識の夕暮れなのだろうか。肯定しろ。それを森の木々たちは精霊の児戯なる良薬の反転。奪われろ、暗黙の空を奪われろ。烈空の将兵はアギトを咲く。命を裂く。みのり、枯渇の連絶。舌を転がす像の白きは血を踏み。これからもあなたを蹂躙する。」




意味のない言葉がその長い首の先から歌のように零れ、彼に迫ってくる。



これが世界に宛てられた傷跡そのもの。

これが英雄が共に歩んだ愛する盟友そのもの。




人が触れた忌みする真の厄災。

魔も、禍も、天も、運命も、神も蝕み殺された。


やがてこれはこの世界を終わりへと導く。



全てをひとつにするためにその“理解不能”で全てを覆う。




「すまない、ヘイゼル」




もう、“この世界”で彼の英雄に出来る事はもう、何もなくなった―




意志の無い存在は、後悔によって亡霊で在るしかない。





だからこそ託した。




差し込まれた特異点なる彼に、意志ある選択を―。









「後は…頼んだぞ。アリシア。ジロ」

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