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ドール=チャリオットの魔剣が語る  作者: ぼうしや
誓約都市エレオス
114/199

82:絶対防御


「おや?おかしいなぁ。君の神魔力は抑制したつもりだったんだけど?」



化物の姿に変貌したスフィリタスは骸のような頭を傾げる。



闇魔力を豊富に保持するリリョウを握り締めるアリシアは全ての属性が揃ったことで、自動的にアズィーの闇魔力封印状態から解放された“神域魔術”の発動している状態となっていた。



それを抑制する為の…ステュクス・ラエ

奴が初手で展開したものはエドの腕から発動したであろう“擬似神殺し”の能力。


このままであれば、奴の言うとおり俺とアリシアはそれに淘汰されまともに動けない状態だっただろう


しかし、かつてプリテンダーとの戦い同様に魂の複合乖離を発動する事で

属性毎に俺の魂を分け、そのどれか一つでもアリシアと俺の外に出せば

“神域魔術”の状態から外れる事ができる。そうなる事で、エドの能力から免れる事は出来る。


だが、リスクもある。

先述した通りこれは本来俺が持っていたとされる外側の魔力の構成を放棄する事。

元よりどのような仕組みか解らないものだが、アリシアに元々付与されていた“超再生”という能力。

それすらも放棄せざる負えないという状況。これには痛みも伴う。


だからこそマリアの力が必要であった。

アリシアになるべくダメージを負うリスクを減らす為には頼るしかない。



当然、この事をスフィリタス答える事は更に大きなリスクとなるだろう。奴の質問に答える必要もない。




「…まぁいいや。こんな姿にまでさせたんだ。僕の邪魔をした責任…取ってよね!!!!」




―刹那だった。



「ダァアアアアン!!!」



まるで子供の戦いごっこのように自身の行う攻撃に対して効果音を自分でつけて叫ぶ無邪気さとは裏腹に

目前の地を、その悍ましい程に爪を増やした大きく不規則な右腕で殴り穿つという暴挙に出るスフィリタス



「ぐっ…」



『疾ぇ!!』



今のはなんとか避けられた。が、



「アリシア!後ろだ!一歩下がったら、息を吸ってもう一歩右にズレろ!」



「おばあちゃん!」



「ダァアアアアン!ドォオオオオン!!!」



マリアの助言通りに一歩下がる。

目の前にスフィリタスの禍々しい大腕が一瞬で降り注ぎ、地を叩く。

そしてそのままアリシアはふっと息を吸い込み目を見開くと踵を返すように身体を一度回転させて右にずれる。

するとアリシアの真横すれすれで奴の腕から一本枝のように伸びていた大きな爪が風を切って掠れる。



「…すごい」



「手を止めるな!!そのまま大きく振れ!!」



「っ…それぐらいわかる!!」



アリシアはマリアの助言にムキになりながらも反射的に言われるがまま魔剣を振り上げて枝状に伸びた爪を切断する。



「小癪ダナァ!!!」



俺はは咄嗟にアルメンを後ろに投げ、アリシアを無理矢理ひっぱり

距離をとってスフィリタスの追撃を躱す。



…しかし見た目の大きな体躯に似合わぬ素早さは目で追う事は出来ず、

目前で止まった奴が拳を振り下ろす瞬間を視認してようやく反射的に躱せるのがやっとだった。


それはマリアとて同じだろう。


「ふん!目障りな腕だ!」


しかし、彼女は逆にそれこそが当たり前のように間合いを詰めると

下から持ち上げるように振り上げ反撃するエドの猛腕をスレスレで避け

密着した距離感を無駄にすることなく、即反撃へと移行する。


手に持つ刃を一度丁寧に下に降ると、そのまま「シッ」と呼吸に合わせて目前の蠢く肉塊を斬り上げて捌く。


化物は切り離された腕など気にも留めず

腕を上に上げると断面からいとも容易く再生させてそれをそのままマリアの頭上に振り下ろそうとする。



「拙いな」



マリアはそのまま身体を三回転させて自身の立ち位置を少しずらすと

そのまま隣で掠れたスフィリタスの腕を再び切り落とした。



「グッ」



「存分な再生能力があると見てからまさかとは思っていたが、貴様さては戦い慣れていないな?」



グアッ



大きな体躯が大きく動くときに聞こえる風を抉る音

それに合わせて、スフィリタスは身体を回転させて後ろ回し蹴りを繰り出す。


刹那、マリアは身体を少しだけずらし

自身の頬を横切った獣の脚に剣の刀身をあてがうと

瞬間的に横一閃に化物の身体を通過する。



「グアッ…!」



すごい…あまりに無駄の無い動き。スフィリタス以上に目で追えない疾さで

奴の肉体に一瞬で幾つもの斬撃を喰らわせている。


異常な再生能力と攻撃、疾さを持つスフィリタスだが、

それさえも百戦錬磨の戦闘技術と研ぎ澄まされた感覚には足元にも及ばない。



「…かっこつけた割にあたしたち何もしてないんだけど…もうおばあちゃんだけで十分じゃない?」


『連れない事いうなよ…』



しかし、スフィリタスの攻撃を躱して距離を取ったのがやっとの俺たちは

遠巻きにその攻防を見せられて割入る隙が全く無かった。



「バカニシやがって!!<空間解析><コロス><領域侵食><サイゲンナクコロス><斬撃耐性><ミジンニクダク>」



「む」



スフィリタスの周囲を文字で象った光の輪が何本も回り始める。

斬撃耐性。俺にだけはそう聞こえている。



『マリア!今のそいつには多分刃が通らねぇ!』



「ほお」



「<ツブレロ>」



エドの肉塊腕が大きな拳を象ってマリアの頭上で振り回される。

マリアはそれを舌打ちしながら剣の刀身で撫でるように受け流す。

しかしスフィリタスの猛攻はそれに留まらない。


受け流した後の隙を取られないよう大きな掌を模し、真ん中に大きな眼球が埋め込まれた両翼がエドのように拳を作り三連続のラッシュで襲いかかる。



『アルメン!!!』



俺は鎖を投げ飛ばし、一つの翼腕に絡ませ抑止させる。



「ぐぎ…」



アリシアが歯を食いしばる。想像以上の膂力なのだろう。綱引きをするので精一杯だ。

俺は鎖に這うように電撃を翼に伝わせる。



「<解析><黄><適正抗体生成><装填>」



『…なるほど』



俺はその言葉も、挙動も見逃さない。

アルカディアが雷属性を解析した後の“装填”という言葉。


それと同時に奴の翼の眼球が、解析した黄色の色と同等になる。

当然、その意味を俺は理解している。



『雷槍!!』



俺はひと振りの雷属性の槍をスフィリタス目掛けて狙い撃つ。

それもあえて抑止させている翼とは違う部分だ。


そして、予想通り雷槍はスフィリタスの腹部に直撃したものの

手応えは全くなく、避けるような挙動も無かった。



確証は得た。



光の輪による斬撃耐性は未だ健在。

翼一つによって、雷耐性の抗体をストック。



『物理的な攻撃ひとつと、両翼で属性二つ分…耐性の保持ができると言ったところか?』



…あの眼球に耐性のストックがされているのならば

翼で2属性

胸部に1属性…その眼球のストックが斬撃耐性であるのは希望的観測か?


こうなるとアルカディアの防御面に対しての性能は優秀なものだ。

実際問題、エドの“擬似神殺し”による多属性の使用を限定されているままだ。


だが、まだこっちのほうが優位ではある。


あとは俺という分離した魂がどこまで素早く動けるかによるか…



「ウヲオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」



「うぐっ………パパ!!」



アリシアが叫ぶ。どうやら考えすぎたか。

斬撃を受け付けない領域範囲内で、自身の鋭い反射を頼りに攻撃を躱し、斬撃耐性への抜け穴が無いか探りをいれて刃を差し込むマリア。しかし、どうやら奴の周囲一定の範囲内では何処においても斬撃での手応えは全くないようだ。

そして、その一連の戦闘の中で他のタスクに気後れをしない。

スフィリタスがマリアとの攻防を繰り返しながら、抑止されている翼を徐々に徐々にと引き寄せている。

腰を低くしながらなんとか抵抗するも、このまま一気に引っ張られたら奴に真っ直ぐ引き寄せられてしまう。



『魔剣を、刀身に突き刺してくれ!…そのまま堪えてくれ!!』



俺は外に出していた魂と内側の魂を入れ替える。

考えろ。イメージしろ。

刀身で地を穿ち、


魔剣おれに触れた全ての地は俺に従え…

根から岩を纏う感覚。引き抜けばそのまま連なる大いなる大地の剣―



「パパ!!パパ、もう…!」



『いいぜ!!もう十分だ!!そのまま奴に身をまかせろ!!』



「っ!う、うわぁあああああああああああああ!!」



アリシアは必死に引いて堪えていた膂力をほどき、今だと見計らって翼に絡む鎖を逆に強く一気に引いたスフィリタスになすがままに引っ張られる。そして、魔剣の刀身はそのまま大きな剣を象った岩となって引っこ抜かれる。



化物の姿となったスフィリタスの体躯の倍はゆうに超える大きさ。

無骨な面で揃えられた刀身。

その岩大剣を握り締めながら、勢いでスフィリタスへ近づき


アリシアは大きく『大地断衝ガイアガル』を振り抜いた。



『マリア!!避けてくれ!!』



「言われなくても!!」



堂々と攻め込む巨大岩斬にマリアはスフィリタスから距離を置く

しかし、当の攻撃対象にされているスフィリタス本人はそれに対して微動だにしない。


それもそうだ。奴の能力“斬撃耐性”。切り裂く攻撃に対しての絶対的防御への信頼。


だがな…お前は勘違いしている。



これが剣に見えているだろうが、こいつはそんな鋭利な代物じゃねえ。



『叩け!!!アリシア!!!!』



目一杯振り抜かれた無骨なフォルムの岩剣で娘はスフィリタスの横腹を強く殴りつけた。



「ぐがっ…!?」



轟く衝撃音に連なり岩が弾ける。

殴りつけた一撃と、はじけ飛ぶ岩の礫の衝撃。

スフィリタスは想像していたのと違う攻撃にさぞ面食らっただろう。



そうさ、これは斬撃なんかじゃねえ。剣に見立てた立派な衝打撃だ。



能面のような骸顔の口が、大きく開かれ

きりもみしながら大きく吹っ飛んだ。

抗うことも出来ず、スフィリタスの巨躯はそのまま建物の壁に突っ込む。



だが、問題はここからだ。

奴の、“アルカディア”のこの後の反応次第で、動きが大きく変わる―










「空間解析、侵食領域、打撃耐性」





『ッ!』




アルカディアの声が後ろからした





まさかっ




すでに俺たちの背後に!



『アリシア!後ろだ!振れ!』



「っ…!」



振り返る勢いに乗せて、魔剣おれを大きく振る。…大丈夫だ、あいつは現状斬撃耐性では無く打撃耐性のはず。

このまま振り抜けば―




「調子に乗らないで」




ガァン、と刀身が大きな守護壁によって弾かれる音

それは確かに間違いなく、マリアの攻防の時に使っていた斬撃耐性…



っそ!!見誤ったか!?



「あぐっ」



アリシアの身体が、大きな翼の腕に掴まれ持ち上げられる。

…まずい!なぜだ!!何故斬撃耐性のままだったんだ!?


確かに俺は聞いた。打撃耐性の―



「アルカディアの声が聞こえるからって、有利になったつもりなのかな?」



『!?』



奴の言い放ったその声は、スフィリタスの声ではなかった…


まさか―、騙された



『てめぇ…!自分の声をアルカディアの声に変えたのか!!』



「なに、簡単な話さ。僕の肉体なんてものは何度だって作り変えられるからね」



やられた…



「アリシア!!」



マリアは咄嗟に銃を取り出し、スフィリタスの頭目掛けて何発も放った。



「<装填解放>」



『っ!?』



奴のもう一つの翼腕、電気属性耐性を保持していた黄色の眼球が光だし

周囲に円を象った雷攻撃を解き放ち、放たれた銃弾がそれに接触すると抗う事も出来ないまま

銃弾が下にコロコロと落ちてしまう。



「ちっ」



マリアは、自身を通過しようとする雷撃を躱し

そのまま俺たちのところまで近寄ろうとする。



「君は来ちゃだめだよ」



「あっ、ぐ…ああああああああああああああああああああああああああああああ」



スフィリタスがアリシアを強く握り締める事で、ゴキンと何かが折れる音がする。



「アリシア!」


『くそっ』



まずい…一番に最悪の展開だ。



「ようやく捕まえたんだ。殺しはしないけど、君が近づいたらびっくりして握り潰しちゃうかもね?

…でも…おかしいなぁ“あの時”は腕をもぎ取っても何とも思わなかったのに今は折れただけでこんなに叫ぶなんてね。

演技?それとも何らかの条件があるのかな?気になるからもう少し強めに握り締めようかな??」



「あがあああああっ…ぎ、ああああああああああああああああああああああああ!!!」



『てめぇっ!!』



俺は咄嗟に魂を引き寄せて超再生の出来る状態に戻そうとする。

しかし、アリシアはそんな俺の乖離した魂に何かを訴えかけるように大きく目を見開いて首を横に振る。



…解っている。気づかれてはならない。

今の俺たちのロジックを奴に理解させてしまえば、それに対応した行動をするだろう。

だが…俺に、耐えろと…否、お前こそそれを耐えられるのか?アリシア…!!



マリアも迂闊には手を出せない状況で手をこまねいている。




「悪いけど…僕はこのまま魔導図書館に向かわせてもらうよ?魔剣もこの娘も文字通り掌握させてもらったんだからね」



スフィリタスは翼腕でアリシアと魔剣を握り締めたまま歩き始める。

そして、動けば握りつぶすと脅さんばかりに俺たちを上へ高らかに上げている。



考えろ…どうする…



外に出した魂は炎属性。だが、それだけで何かが出来る訳でもない

そして戻せばエドの能力対象になってしまう。


けれどアリシアがこのまま握りつぶされるわけにもいかない…

もしかしたら、致死的状態になってしまえば本当に死ぬかもしれない。



死ぬ…アリシアが死ぬ…?

ここまで来て、マリアにあそこまで大口を叩いて?



ダメだ…考えを止めるな…

何かを責めるのは全て終わった時の話だ



考えろ、考えろ…



思考をめぐらせる。



神殺し。アルカディアの魔力解析能力を有する眼球。属性…斬撃耐性。

アリシアの超再生を戻したとしてもエドの擬似神殺しによって俺たちは力を失う。

マリアの神速攻撃があったとしても、斬撃耐性がある。

それに、アルカディアから聞いた覚えのない単語。装填解放…

あいつは解析した雷属性の魔力を解き放っていた。

魔力を有する攻撃が出来る?しかし、今まで何故それをしていなかった?

眼球の翼は今でも黄色だ。有した魔力を保持できる?


相手の魔力を寄り代に…。スフィリタス自身が魔力を持たない…持つことが出来ない?

天使の血………

魔神の血、魔神の肉体…


俺の中で少しずつだが、奴を止める可能性を見出そうとしている。

…あとは奴の斬撃耐性をなんとかすれば…


俺はふと、ある事に気づく。


奴は…スフィリタスは逆に…何故、打撃耐性を重複しなかった?

…騙し討ちに頼る必要があった?





……………………………………………………………。





炎属性の魂である俺はそのままゆっくりとマリアに近づく。



『提案がある』



「なんだ…」



『――。』「――。」





…これは、いちかバチかの作戦だ。

これが失敗したときの事なんて考える余裕すらもない。

この作戦は順番が大事になる。


奴の能力を逆手に取った一手…



「……失敗したのならば、貴様にはどんな形になっても地獄を味わせてやる」



『俺にとって娘が辛いもの程に地獄なんてねーんだよ…』





そればっかりは本当なんだぜ…?






「…ん?」



スフィリタスの翼腕の中、握り締めていたアリシアの身体が白き癒しの光に包まれる。



「う…く…」



暫し気を失っていたアリシアが自信の傷が癒える感覚を感じ、身体をすこし動かす。



「何の真似だい??こんな事をしても意味が無いのに。さっきの超再生はどうしたの?」



アリシアの傷を癒す。

光の回復魔術、光癒。いくら傷が癒えたとしても痛みが抑えられているのかは本人しかわからないが…


目的はそれだけじゃない。とにかく光の魔術をありったけ吹き出すんだ。アリシアの傷を癒しながら…


アリシアの包む光属性の魔力が強まるのを感じる。

それと同時にアリシアを握る翼腕に異変が起きる…



「…君の狙いはこれなのか?」



光を握り締める奴の腕が少しずつ融解していく。

確証はなかったが、これは都合が良い…



このまま腕を溶かしてもいい…来い…来い…!



「無駄さ<解析><白><適正抗体><装填>」



アルカディアの声。俺はスフィリタスの翼腕の眼球が白くなったのを確認する―



氷結フリージング!!!』



俺はエドに視線を凝らし、大きな声を上げて詠唱する。

キン―、とエドの腕が氷に包まれて形をそのまま固定される。



当たりだ。



「何を―」



眼球は全部で三つ


ひとつは雷属性の装填

もう一つは光属性を装填

なら、アルカディアの反応が無い今


胸部の眼球の耐性は斬属性耐性のストックだ。


これ以上の耐性は作れない。



『マリア!!!!』



俺の声に合わせてスフィリタス目掛けて一直線に剣が投擲される。

しかしスフィリタスの領域には、斬る概念の攻撃は…当然通らない。知っているさ


目前で自信の耐性によって弾かれた剣に気を取られたせいで、奴は見逃した

神速の速さで近づいたマリアに。



「―なにを…ぐっ!!」



マリアは強く握り締めた拳で渾身の一撃をスフィリタスの顔面に食らわせる。


首がゴキンと捩れる音。



確かに打撃耐性は通ってる。

頼む、そのまま攻撃を止めず殴り続けてくれ…マリア!!


怯んでよろけるスフィリタスにマリアは再び懐に大きく一撃を入れる。



「がっ!!よくもお!!」



スフィリタスはその一撃に強い痛みを感じている。流石ホプキンス家の魔物殺しの呪いの力と言ったところだ

アリシアの一撃を入れてもビクともしなかった奴にダメージを与える事が出来ている。

奴は身体を持ち直しながら、暴れるように反撃をする。しかしエドを“氷結”させられて動きがままならない。



もっと…もっと殴り続けろ!!



「くっそぉ!!<空間解析><領域侵食><打撃耐性>」



胸部の眼球が光り、スフィリタスを囲む輪の色が変わる。

それと同時に、マリアの殴りつける拳はその領域内に手を出しても奴がよろける様子が無い。

その代わりに、マリアの拳がギチギチと骨の砕けるような音を響かせ、その手を引いた時には指がバラバラの方向を向いていた。



<解析><銀><適正抗体生成><装填>



黄色の眼球の翼腕が銀の色へと変化すると同時にエドの腕を氷結させていた氷が霧散する。



「いいのか!?この娘を握りつぶしても!!いいのか!?」



スフィリタスは声を荒らげて、翼腕で握り締めたアリシアを見せつける。



「やってみろ―」



刹那、マリアは既に、大きく腕を振り挙げていた。


それは上段の構え。剣を持たない状態で構えているのだ。



「…何のつもりだ??」



そのまま俺は直ぐ様、攻防の最中にアルメンの鎖を伸ばし回収していたマリアの剣を


そのまま空手で構えているマリアの方へと投げつけ



「ぬうぉおおおおっ!!!」



マリアは片手がボロボロになりながらも、その構えのままで受け取ると、大きく剣を振り下ろした。




斬―



空気が震えるような渾身の斬撃で見せつけたアリシアを握る翼腕の手首部位を見事に断ち切った。




「しまった―…!!!」




そのまま解放されたアリシア。

彼女は、魔剣を握る事も出来ないまま

そのままスフィリタスの足下に屈み、へたりこむ。



「う…」



やっぱり、いくら無理に回復出来たとしても痛みの記憶に気持ちが追いついていないのか…



だが、頼む。アリシア…



その痛みを、乗り越えて踏み込むんだ。それが、何にも代え難い強い意志と識って…!!




『アリシアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』




俺の叫びにアリシアは歯を食いしばって立ち上がり、見下ろすスフィリタスの顎下目掛けて飛び込むと








「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」







「ぐがぁああっ―!?!!?!?!??!?」






その両手で強く握り締めていた黒小剣『驪竜リリョウ』、を奴の脳に届く程に強く、強く突き刺した。











































「あがっ―」





























沈黙。



























「…やったのか?」



マリアが、握り締めた剣を下に落として、片膝をつく。




「…」





スフィリタスは顎下から頭部へと突き刺さったリリョウに何かする事も無く動かない。


いや、正確には動く事が出来ないと言ってもいい。



ウロボロスケイジを素材に創られたリリョウ。

ニドは言っていた。


この剣に直接触れた普通の人間…もとい、膨大な魔力を受け止めるだけの器を持たない魂がこれに触れると

その情報の処理に時間が掛かって思考だけが置いてかれてしまうと。



…アルカディアの処理範囲、魂が何処にあるかなんてもの、俺にははっきりとした事はわからなかったが



直接、脳にブチ込む発想が正解だったようだ。





どうにか




今回は運がよかったようだ…。




『運がよかった…ね』




今一度口にして呟く。

何事も無く生きていた頃の俺ならそれはきっと嬉しい出来事だったのだろう。



まさに神の采配?



その運で左右される一つの事象。


枝分かれする根源に宿った事実。




『神は細部に宿る…よく言ったものだな』




だが、今の俺にとってはそれが…そのたった一つの小さな事が



とてもとても悔しかった。

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