始まりの過去④
「母さん!ほら、もう時間だよ」
「ああ、わかっている。」
急かす娘の声に少々の溜息をつきながら
私は置いた剣を手に取って執務室を後にする。
―この狩人帽を被るのは、何年振りになるだろうか。
コツコツとブーツで床を叩くように歩き、屋敷の扉を静かに開ける。
「…」
少しばかりの惜しい気持ちを残し、一度振り返る。
「いってらっしゃい、母さん」
「ああ行ってきます。アリア」
私は待っていた言葉に返事をすると、向かいに待つ馬車へと乗った。
―カラカラと響く車輪の音を耳にしながら外の景色を眺める。
「今日はいい天気だな」
「ええ、ええその通りで。お日柄も良く、あなた様頭の中さえもどうやらそれと変わりないようで」
皮肉交じりに返すのは、ホプキンス家のまとめる執行者部隊の副長兼部隊長代理を務める男、ライオット。
こうやっていつもの皮肉を耳にするのは剣を置いたあの日以来で、久しく感じている。
「お前は相変わらずだなライオット。だが、長い間部隊をまとめてくれて感謝しているよ」
「いいえ。寧ろ好都合ってところで。暫くはあぐらをかいて顎を動かすだけで済みましたからね。
どうです?もう暫しお暇を頂いては?」
本当に相変わらずだ。部隊をまとめる責務は剣を振るうよりも大変だったろうに。
私への心配を誤魔化して皮肉るのだから。
「侮るなよ?私がお前を副長のままにしていたのは、いずれは必ず私が戻るつもりでいたからだ。
まだまだ、お前さんには席を譲らんよ。戻ってきたらみっちりとしごいてやる」
「それはそれは…」
ライオットの顔を見るにどうやら戻ってきてくれて嬉しいのと恐ろしいのとで半々なようだ。
「ところで、状況はどうなっている?」
「ええ、率直な感想を述べるなら、状況もクソも無い…と言ったところです」
先日聞いた隣国での大事件。
一夜にして全てが滅ぶ大爆発が起きたと言われる国シグムント。
ライオットが説明するに、爆発の跡にはもはや国の名残すらも無く、きれいな半月状のクレーターだけが残されていたという。
…無理も無い。
報告が確かであるならば、魔術でも禁忌指定にされているアルス・マグナによって放たれた爆発だ、一国が一夜にして滅ぶ“程度で済む”方がマシだと言いたい。
当然、この事態に周辺の国々が黙っている訳もなく。
他意的な爆発である可能性があるならば、周囲の平穏が脅かされるのは当然の事だ。
ましてや、それが魔神の仕業である可能性だって捨てきれない。
その為、我々執行部隊を含めた他国の部隊及び英雄一同が、エレオスの一件以来に再び招集される事となったのだ。
ああ、全くいやな事を思い出させるものだ。
「魔神…か」
―少し感覚が鈍っているのだろうか
喉から出かかる不安を私は未だに見出す事が出来ないでいた。
だが、それも時間の問題だった。
共和国中央都市エニア・メギストス
西の大陸の中央に位置する巨大都市で、周囲を囲うように連立した国々が互いの権利を尊重し合い生まれた
集合都市であり、かつて繰り返された隣国との戦争を戒めとする為に作られた象徴都市でもある。
現在ではニド・イスラーンでの指折りの巨大市場にもなっており
各国の文化をこの場所ひとつで網羅する事も容易だ。
そして、周囲の国から伝って隣国へと共和国の加盟が年を追って増えていき
それはまるで根をはった大樹に似たものだった。
そしてこのエニア・メギストスは同時に、各国の代表が赴いて会合する場でもあった。
「…ん?」
私はあるものを目にする。
多くの民が、荷馬車などを引いて行列を作っている。
そのものらの表情はとても困惑して憂いている。
「あれは、あの列は何だ?」
「ああ、避難民の方々ですか」
「避難民だと?この共和国でなにか災害でもあったのか?」
「ええ、確かに違いないでしょう。なんせ、あの指定災害であるヤクシャの一人…異端神官で名を馳せたセラの審判領域が
徐々に広がっているのです」
「セラ…セラ・ゼルクリンデか」
「ええ。乖離のヤクシャです」
「まさか、もう既にこの共和国近くまで審判領域が近づいているというのか」
ヤクシャ。『悪意の担い手』『厄災の代行者』…『絶対適正』
厄災とも呼ばれている、人の姿をした化け物共
その対処に現在我々が成す術もなく、ある程度の譲歩と対話だけで距離を置いた存在。
古より必要悪として存在し、その者らが純粋な生者として成立しているのかも定かではないと言われている。
あるヤクシャは何年も前から同じ姿をしており
あのヤクシャは世代を通して受け継がれ
あるヤクシャは唐突に我こそはと名乗りを上げ
あるヤクシャはいつからか人の姿をしており
あるヤクシャは人為的に概念を受け渡される
定かではない情報が多く、唐突に現れる者もいれば、以前から存在する者もいる。
そして今、世界に認知されているのが
女神アズィーを神ではないと否定し、己の中にある通ずる“何か”を神と信じて止まない盲目の異端神官セラ・ゼルクリンデ
そして、徐々に後が無い共和国に東の大陸との戦争をけしかけた双子の悪魔であるブラッドフロー財閥の総帥アシュレイ及びアシュリー
現在、西の大陸で頭を悩ませている存在こそがセラである。
彼女の審判領域は、何も知らずに侵入すれば問答無用で身体を物理的に両断され
その領域に居る事を許されるのは彼女の提唱する“神”を信仰している者のみ
しかし、今日に至るまでそのセラの提唱する神への信仰者は誰一人としておらず
後天的に“信じる者”でさえも許されない信仰であった。
そして、彼女はその領域を時を経て徐々に増やし
元々住んでいた住民はそこから立ち退きをせざるおえない状況にあるという。
「今じゃあ、本来とれるであろう資源が取れる事も出来ず、中央のお偉いさん方は中央大陸の獲得に躍起になって
帝国との戦争に心血を注ぎこんでいますよ」
「他人事のように聞こえてしまうかもしれんが、結局は何も変わらんな…この共和国も
結局、攻撃や侵略の対象が隣国ではなく隣の大陸に挿げ替えられただけだ」
「マリア、中央都市のど真ん中で滅多な事は言わないでください。共和国の肩を持つ訳では無いですが
あの審判領域に対して我々人が未だどうする事も出来ないままなのですから」
「…返す言葉も無いな」
乖離。その理はあるべくしたものにいずれ訪れる“別れ”。
たしかに我々の女神への信仰は彼女の信仰と乖離している。
だが、領域を徐々に広める理由は何なのだ?彼女が提唱する神の信仰とは一体なんなのだ?
果たして、未だに誰も住まう事の出来ない領域を拡大させる事に何の意味があるのだろうか?
彼女は一体“何を待っている”のだろうか。
それを知る由も無い。
いずれ、我々ホプキンス家が管理する領土も時間の問題か。
そう…我々にはどうする事も出来ないのだ…
それらを打ち崩す英雄でも現れない限りは…
やがて馬車が止まり、運転手が私たちに顔を覗かせて目的地に着いた事を示す。
馬車から降りた先は、中央都市の議会場。
大きな門の前には横一列に数十名の憲兵が並び、我らを見定めながら迎え入れた。
「ようこそ。話は既に伺っております。執行部隊の方々で間違いありませんね?」
憲兵の一人が威厳ある重い声で静かに問う。
「ああ、通るぞ」
「失礼します」
憲兵らを端目に、堅く閉ざされた門の前まで近づくと
重々しい音を響かせながら開門する。
ここに来るのはエレオスの件依頼だろうか、相変わらず広い敷地だ。
眼前で大きく広がる道を進み、議会場である中央までたどり着くと、見知った顔が何人も目に入る。
その一人が、こちらに気づくと嬉しそうに近づいてきた。
「やぁ!マリア。久しいね。エレオスの一件依頼だ!会えて嬉しいよ」
「ヴェン。すまないな、暫くはお前の酒に付き合う事が出来なくて」
「いいんだ。無理も無い。君も色々あったのだろ?その…マルスの事は残念に思う」
「ああ…もう、いいんだ。私に出来る事にも限りがある事を思い知らされた。それと同時に
私はもう少し、“弱さ”というものに対して色んな角度から見る必要があると学ばされた」
「…そうか」
周囲がマルスの一件に触れる事は、いままでほとんど無かった。
他の連中も無神経だとは思われたくなくてその話題を切り出すのはおっくうになるだろう
だが、こいつはそれでも黙っているわけにはいかなかったのだろう。
当時マルスに救われた者としては―
ヴェン・マッカートニー
希代の英雄とも呼ばれている竜殺しのエキスパート。
しかし、立派な肩書をもつにも関わらず実のことろその背景は竜に復讐する為だけに殺すという
異常な執着心をこの優男の内に秘めている。その為、竜を殺す技術しか持たない事もあって
ギルドの称号もゲオルークで留まっている。
今でも、竜の住まう山がある島と隣接している西の大陸で、竜と名がつくものの依頼を受けては転々としている変わり者だ。
マルスとはかつてパーティを組んだ事があり、当時は復讐心のあまり冷静さに欠けたヴェンを何度も諫め
一度死にかけた時にはマルスが神官としての力を全力で使い救ったという。
その繋がりがあった事から、時折ホプキンス家に顔を出しては酒の肴にマルスへの小言をよく言い合っていた。
だが、かつての王都エレオスで起きたレメゲトン討伐で重傷を負って暫く動けないままでいた。
マルスの魔剣による一件で顔も出せなかったのはきっと彼を救う事の出来なかった不甲斐なさもあって
今日まで私に顔向け出来なかったのだろう。無理も無い。竜殺し以外に関してならそこそこのチキン野郎ではあるからな。
「む…マリア。今、失礼な事を考えなかったか?」
「気にするな」
執行部隊の取り纏めはライオットに任せて
私はヴェンと暫し積もる話に花さかせていた。
そこで、話を一区切り終えてヴェンは一呼吸おく。
「なぁ、マリア。マルスの事だが…俺は本当の本当に残念だと思っている」
「その話はもうよせ。急に改まってどうしたんだ」
「…どうか、落ち着いて聞いて欲しい」
「なんなのだ。全く…お前にしては神妙な面持ちではないか」
「今回、俺たちに緊急で招集が掛けられた理由は知っているね」
「ああ、シグムントが原因不明のアルス・マグナによって滅んだ事だろ」
「そうだ。だが、もう一つ…理由がある」
「もう一つの…理由?」
ヴェンは一度背を向け「着いてきてくれ」と歩き始めた。
そして、言われるがままこの中央議会場とは少し外れた場所へと向かうと
コツコツと足音の響く大きな道で徐々に人気も無くなっていく
「なぁ、そろそろ教えてくれ。私たちがこの場に招集されたもう一つの理由を」
「…シグムントが滅んだ後、幾つもの調査隊がその焦土に足を踏み入れていた。
そこは地獄と呼ぶにはあまりにも綺麗に焼き払われて、あまりにも手がかりが見つからなかった」
「ああ。ライオットも言っていたな。『状況もクソもない』と手をひらひらとさせていたぞ」
「―あったんだ」
「何?」
「一つだけ、その何もかも忘却させられた焦土の中…調査隊が見つけたものがあるんだ」
「それは―」
コツ…。自分の足が反射的に止まり、心臓が跳ね上がったような感覚。
目前に居る『そいつら』に目を見開いた。
「貴様らは…っ」
私の声を耳にすると途端に身を縮こまって動揺する古の渦の研究者たち。
「ま…マリア・ホプキンス…!」
間接的でありながらもマルスに魔剣を握るようけしかけた連中
あの一件以来、顔すらも見る事はないだろうと思っていた奴らが、なぜ今この場所に居るというのだ!?
「まさか、魔神の形跡が―」
ヴェンはいまだこちらに背をむけたまま答える。
「…まぁ、似て非なるものだろうか」
研究者の連中を掻き分け、大きな扉に手を伸ばして開く。
「…っ!!!!!!!!」
どうやら連れてかれていた場所は大きな礼拝堂…だった場所らしい。
しかし、本来並べられている椅子は全て取り払われており
…最も注目すべきなのは―
「う、嘘…だ」
最も注目すべきなのは、中央に何重にも鎖で縛られ
周囲は多くの魔術要素によってつくられた強固な結界。
そして、そうせざる負えない“奴”がそこに在った。
『あら?気が変わったのかしら??あたしの為に、主を連れて来たの?』
淡々と喋る剣。魔剣…
魔剣…だと…?
「焦土と化したシグムントの中央で、これは発見された。君には当然覚えがあるだろう
魔剣グリム・トーカー。当時の研究者らもそう呼んでいたと聞く」
頭が混乱する。吐きそうだ。
揺さぶられる感情を必死で抑え込む。必死に…必死に…
「今はただ喋るだけの魔剣ではあるが、どうやら今回も“これ”は主をご所望らしい」
ああ、無理だ
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
私は考える事をやめて剣を抜いていた。
そして積もり積もった感情をゲロのように吐き出しながら強く地を踏み抜いて魔剣へ切りかかる。
魔剣…魔剣…魔剣!!!!
しかし、振り下ろされた刃は結界によって弾かれる。
だが、構わない…これは壊さないといけない…壊せ…壊すんだ…
こいつは…!マルスの!!!!!
剣で何度も結界を叩く。
「うああああああああああああ!!あああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「よせマリア!!やめるんだ!」
「やっぱりこうなりましたか!」
ヴェンと古の研究員どもが私を魔剣の封じ込められた結界から引きはがそうとする。
やめろ…離せ…!
『うるさい女ね。あんた、もうちょっと静かに出来ないのかしら?』
「ぐっ…」
魔剣から発せられる声は、かつて『アンドロマリウス』と名乗っていたそれとは違っていた。
そのせいもあるのか、一度に大きく叫び続けたせいだろうか
少しだけ気持ちを落ち着かせる気にはなった。
私は歯を食いしばりながら一度呼吸を整え…手に持っていた剣を鞘に納める。
「…」
『あら、いい子ネ。ちょっとは落ち着いたのかしら?』
「…」
『あなた名前は?どこの出身かしら?もしかして、魔剣を見た瞬間に発狂するぐらいの怒りを見せるんだもの
あなたもシグムントの関係者かしら?それなら本当に気の毒だわ』
「…黙れ…」
『黙っていられないわ。本当に申し訳ないと思っているの』
魔剣の言葉に自身の感情がふつふつと駆り立てられる
「黙れと言っているだろう!!どの口がそんなふざけた事を!!!!」
『そうね、あなたの怒りもごもっともよ…でも本当にごめんなさい。きっと、あなたが向けたい怒りの矛先…
前任者である“彼”はもう此処には居ないのよ』
「前任者…だと?」
『アンドロマリウスの事よ』
その名に覚えがあった。ひどく辛い記憶の中だ。
マルスの…魔剣の暴挙の最中に聞いた魔剣の真名ともいうべき単語。
まさか…?
『アンドロマリウスは魔剣としての本懐を成した。もう、此処には居ないわ。居るのはこのアタシ』
「お前は…」
『“ダンタリオン”』
魔剣の中身が違うだと??ダンタリオンだと??
「…マリア。もう一度いう…落ち着いて聞いて欲しい」
「ヴェン…?」
「滅んだ国の真ん中に置かれた魔剣。そして、発動したアルス・マグナ…どうみても起因したのはこの魔剣に違いないのは明確だ」
「魔剣が…アルス・マグナを…?」
「そして、彼女が…“ダンタリオン”が説明した。この魔剣の本来の力を…」
「な、何を言っているんだ?ヴェン…そいつは、魔剣だぞ?それの言葉を鵜呑みにするのか?声が?女だからか?
私は覚えている!!覚えているぞ!この魔剣は、マルスをたぶらかして!自身の正義等という意味の解らぬ矜持を翳し!
一つの村を血の海にしたんだ!!そして、持ち主であるマルスは使い捨てのように…文字通り塵と化した!!!」
「…マリア」
「私は決めたんだ!これは壊さないといけない!壊さなければ再びこいつは誰かを餌の様に食い散らかし…暴れまわる…
だからっ…だから…」
『だけど…出来なかった』
「…は?」
『それだけ敵意を剥き出しにしておいて、未だに魔剣はここに存在している。なんで?なんでかしら??ねぇ、どうして?』
「…っ」
『そんな危険なものだと知りながら、どうしてアタシがここに居るのかしら?どうして…シグムントが滅んだ場所に魔剣があったのかしら??』
少しずつ理解している。理解する程に…自分に追わされていた責任が次第に重くなっていくのを感じ始める。
『アタシ、あいつとは違ってお喋りだから…教えてあげるわ。魔剣の本来の力…そして、アタシたちの望みを』
「の…ぞ…み?」
『魔剣としての本懐と言ってもいいかしら。アタシたちは本来、この魔剣でアルス・マグナを所有者に発動してもらう様促す為に
封じ込められた72と続く魔神の人格なの。そしてアタシたち自身としての望みは、この狭い器の中からの解放。つまり
アタシたちがここを出ていくにはアルス・マグナによる膨大なエネルギーが必要なのよ。そして、アルス・マグナの発動に必要なもの…それは―』
「…膨大な魔力」
『そ。その為には主様には例え傀儡になってでもこの魔剣を振って振って振って振り続けて貰って、いーっぱいの魔力が込められた血を啜らないといけない。前任者のアンドロマリウスは他と違って、趣味人だったせいもあって時間が掛かって、あなたたちに迷惑を掛けてしまったかもしれないケド。アタシは違うわ。膨大な魔力を使ったアルス・マグナでシグムントを焦土に変えるような不幸な事はしない。本当はもっと良い事が出来たハズなのよ。アタシたちって。アルス・マグナの使い方さえもっとしっかり勉強していれば、誰かを幸せにする願いだって叶うはずなの。だから、ねぇ―』
『アタシの主になってみないかしら?』
ダンタリオンは、そっと添えるような声色でそう言った。
だが、今の私の内情はそれどころでは無かった…今知らされた事実が本当であるならば…
私は、あの時…
マルスを助ける以前に
あの魔剣を持って帰ってでも、すぐにでも破壊していれば
シグムントの滅亡を防げたのかもしれないのでは…?
私のせいで―
「うぐっ…」
その理解に至る事で、より一層自責の念が私を苛む。吐きそうだ…
だって、私が、シグムントを滅ぼした事に変わりないのでは―
「マリア!」
口元を抑えてよろける私をヴェンが強く支える。
「今は、この場を後にしよう。…すまないが、今はここまでだ。ダンタリオン」
『…いいわ。今は待っててアゲル。でもネ。たとえこの場の誰かが魔剣を、アタシを拒絶したとしても…いずれは
この力に“誰か”が赴き、求め…必ず私と言う魔剣の本懐を成す。それをゆめゆめ忘れない事ね…ヴェン』
「―もう、答えは決まっている。さぁ、マリア…行こう」
力が入らない私の身体を支えながら、ヴェンが礼拝堂の外へと連れ出してくれる。
なんと、みっともない…ザマだ。
これが、あのホプキンス家の当主なのだろうか?
宣言を撤回する。私は“弱さ”になんてちっとも向き合っていなかった…そう、自分の弱さに。