蘇る翼
こうして私の翼は可愛い双子の整備士さん、紅蘭さんと青蘭さんに託されたのだが・・・
二人は予想以上の腕前だった。
ここまで運んでくれた軽便鉄道の運転士さんが、べた褒めしていただけのことはある。
パワードスーツも使わず、旧来の油圧式ジャッキや滑車を使いながら、切り離された貨車からまず胴体を治具に載せ替え、ハンガー内で組み立てに入るとそれこそあっという間に私の翼はあるべき姿に戻って行く。
「青蘭、そっちもうチョイ上げて〜・・・よっしゃOK〜」
「紅蘭、右のフットペダル踏んで〜・・・チョイ戻し」
いざとなったら手伝わなきゃと見守っていた私の出番は一切無かった。
抜群のコンビネーションでどんどん作業が進んで行く、可愛らしい見た目に騙されるなよと言っていた機関士さんの言葉は正しい、この二人以上のコンビネーションプレイは地球の特殊工作機械にだって再現不可だよ。
「次、右翼の機銃いくで〜」
主翼が取り付けられると主翼内の燃料タンクとエンジンを繋ぐパイプの接続、昇降舵と操縦桿を繋ぐワイヤーの結束と調整、機銃と発射レバーとの連結が私からは見えないところで、物凄い勢いで進んでいっている。
やっぱり凄いな〜と感心して見ていた時だった、青蘭さんが操縦席に収まって紅蘭さんが右主翼の下に潜り込んで声をかけた。
「青蘭、脚だしてんか〜」
「しゃ〜ないなぁ、ちょっと待ってや〜」
そう答えてから青蘭さんが操縦席でゴソゴソし始めた。
あれ?なにかトラブル?引き込まれている着陸脚が出てこない。
「よっ、ほっ・・・ウチがなんぼスレンダーでも、チョイムリあるで〜」
と、言いながらニョッキリと操縦席からズボンの裾を捲り上げた青蘭さんの細っそりした足が生えてきた。
・・・ハイ?なにこのシュールな光景。
「・・・いや、アンタの貧相な生足ちゃうやん!この子の脚出してっちゅうてんねん」
あぁ、ここでも『ボケとツッコミ』なのね。
でも、紅蘭さんは主翼の下にいるから操縦席から繰り広げられる、このシュールな光景を見ていない。
「ちぇっ、せめて見てからつっこんで欲しいわ」
モゾモゾと生足を引っ込める青蘭さん、青蘭さんがボケ担当で紅蘭さんがツッコミ担当という事で良いのかな?
そんな小ネタも挟みながらどんどん作業は進んでゆく。
輸送中、油漏れ防止の為に抜かれていた潤滑油や燃料が注がれると、最後にプロペラが取り付けられて、微調整が済むと紅蘭さんが再び操縦席に乗り込んだ。
「エンジンと機銃以外の動作チェック終了や〜」
ヒョコっと操縦席から顔を出す紅蘭さん。
「ほな、最終チェックするさかい彩風はんはフライトスーツに着替え来てんか〜」
「更衣室はこっちやで、なんやったらウチが手伝ったろか?えへへへへ」
青蘭さん、指の動きがわさわさしてて怪しいです、あと表情がネタに見えません。
「せ〜い〜ら〜ん〜、またワイヤーで簀巻きにされたいんかぁ〜」
あ、やっぱりネタじゃ無いっぽい。
青蘭さんの背後でワイヤーを手にして睨んでる。
私はボストンバッグからフライトスーツを取り出すと、そそくさとハンガーの片隅に設えられた更衣室と言うより立派な休憩室へ向かう。
中は10畳くらいある広い部屋、床はなんと畳敷きだった。
しかも天然モノ、本物のい草を使った畳だった。
入り口で草履を脱ぎ、足袋を脱いで上がらせてもらう。
〜〜〜〜着替えシーンは割愛〜〜〜〜
〜〜〜〜〜異論は認めない〜〜〜〜〜
なにからなにまで古代準拠だけど、流石にあの時代の航空服では飛べない。そもそも日本海軍航空隊に女性操縦士なんていなかったらしいから、女性用の制服なんて情報残ってないもんね。
それに生命維持とか安全確保考えても、21世紀スタイルが一番だよ。
ちなみにヘルメットはしないよ?その代わりに飛行帽とゴーグルをセット。
それとツナギになってるフライトスーツだけど、デザインはぱっと見、当時の飛行服っぽくしてあるの。
これは私のこだわり、その1。
腰まである髪はアップにまとめてセット、この髪型のせいでヘルメット被れないってのもあるんだけどね。
飛行帽の耳当てのところにはヘッドホンが内蔵されていて顎紐は咽頭式マイクが仕込まれている。
あと、もう一つのこだわりは襟元を飾る純白のマフラーなんと天然シルクの逸品、お値段も凄かったけどね。
これは絶対譲れない。
元々は左右を見張る為に、良く首を回すパイロットが飛行服の襟で顎を擦って痛めない為と、機銃弾や破片で怪我をした時の止血帯としての機能もあったらしい。
顎の保護はともかく、止血帯は必要ないから別に無くても良いんだけど、私は『操縦士といえば純白のマフラー』ってイメージだったからこれだけは地球で必死に探して用意した。
なぜかちゃんと用意されていた姿見で全身をチェック。
「うん、バッチリ」
着てきた巫女装束を丁寧にしまって、部屋を出るとハンガー内には治具から降ろされ、しっかりと自分の脚で立つ私の翼、
零式艦上戦闘機一一型が私を待っていた。