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乙女の翼 〜戦空の絆〜  作者: ソロモンの狐
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リラバウルの車窓から

いつになったら飛んでる航空機が出てくるんだろう、このまま出てこないんじゃないだろうかと思ってたら、今回やっと出せました。

ほんのチョットですけどね。

カタンカタンと心地良いリズムを刻みながら軽便鉄道は海沿いの路線を進む。

「嬢ちゃんは戦空士なんだろ?」

機関室の左側、小さな椅子に腰掛けて前を向いたまま機関士のおじいさんが話しかけてきた。

「はい、とは言っても地球ではVRで訓練受けて免許取るときに訓練機で二回飛んだだけです。実際の空戦はした事ありませんし模擬戦もVRで10回程度ですけどね」

地球では人間が操縦して飛ぶ事が簡単ではない、何故なら『人間は必ずミスする』として人間が操縦する事自体がほぼ禁止されているからである。

空だけじゃない、陸も海もそう。

人類は安全を手に入れた代わりに操縦を手放した。運ばれるだけの存在になって、運転する楽しみを失くしてしまっていた。

なんて考えは地球では極々少数派で、大多数の普通の人達は安全こそ重要で違和感なんて一切感じていない。

私はもちろん極々少数派の一人、そしてそんな考えを持つ人は大体において地球を飛び出す。

そう・・・私みたいに。

地球での私は『規格外』の人間だった。

「なぁに、大体の連中はそんなもんさ。下手すりゃ飛行経験0のVRしか経験してない奴もいたな」

そうか、みんな似たり寄ったりなんだね。

「かく言う儂も、リアスに来るまで軽便どころか車の運転もした事無かったわい」

ガハハハと豪快に笑いながらレバーを操作して機関車を操るおじいさん。

そう言えば[圧力計]とか[速度計]とかメーターとかいっぱいついてるけど、さっきから見ている様子が一切無い。

・・・大丈夫なのかしら。

「心配せんでも、機関車こいつの調子なら目ぇ瞑っててもわかるわい」

アララ、バレてた。

「地球から来たばっかりの嬢ちゃんにはわからんだろうが、機械にも調子があってな・・・まぁ追々わかるようになるさ」

前方の信号機を見ながらレバーを何個か操作する。

プシューっと音がして、徐々にスピードが落ち始める。

緩いカーブを曲がると、左手に広大な空き地とぽっこりした丘のようなモノがいくつも見えてきた。

「あれがリラバウルの第一飛行場だ、嬢ちゃんの機体は第三ハンガーで良かったな?」

「はい、第三ハンガーでおねがいします」

今走っている線路は滑走路の東側を滑走路に並走する形で伸びている、ハンガーとか管制塔のような基地設備は滑走路を挟んだ反対側、滑走路の西側に集中しているようだった。

滑走路の真ん中を横断するわけにもいかないので、線路は一度滑走路の南端まで進んでそこから回り込んで整備所や倉庫のある所へと線路は伸びているようだった。

この広大な空き地っぽいのが滑走路なのね、上空から見ないと滑走路もただの広場にしか見えないんだ。そしてぽっこりした丘みたいなのは、よく見れば凸の形に中がくり抜かれていてエンジンが二個付いた中型機が翼を休めていた。

「あれが掩体壕というものなんですね」

「おう、双発以上の機体が入るやつだな。丸く盛り土した上にべトンを厚く塗って、固まったら中の土を掘り出して作るんだぜ」

へぇ、結構ワイルドな作り方なんですね。でもそんなので強度とか大丈夫なんでしょうか?

「・・・本物はな」

あ、やっぱり違うんだ。そりゃそうだよね、ホントの戦時中ならいざ知らず今の時代でそれはないよね。

それでもワザと荒い作りにされていて、カーブしている屋根部分には青々と草が生えて自然と一体化しているようだった。あれは上空から見た時の偽装の役目も果たしてるのかな?

「まぁな、ただのべトンじゃなんかあった時の強度が不足するし、それらしく見せかけてあるが一応火山弾の直撃にも耐えられるようになってるそうだ」

「へ~、本物って見たことないから比べられませんが、私にとっては充分本物ですよ?」

「そうか・・・そうだな、目の前にあるモンが本物だな、少なくともVRじゃねぇな」

そうこう言っている間にも列車は進み、滑走路の南側を迂回する区間に入っていた。

すると、轟音と共にレシプロエンジンを二基積んだ機体が頭上を飛び越して行くと、50メートルほど先の滑走路に土煙をあげて着陸する。

「ふわぁ・・・あれは確か一式陸攻?」

葉巻型と呼ばれる太い胴体に25m近いスラッと伸びた主翼、私は思わず機関車の窓から顔を出して着陸していった一式陸攻を目で追いかけた、でもその機体はすぐに視界から消えてしまう。

「さすがは戦空士だな、一発で見抜きやがった」

機関士のおじいさんに褒められた。

「あいつは火星一一型発動機積んだ初期型の一式陸攻一一型だな、たぶん哨戒飛行で小遣い稼いできた連中だろうよ」

先輩戦空士の華麗な着陸に見とれていた私に機関士さんが解説してくれた。

「でも凄いですね?」

「いや、毎日のように飛んでりゃあれくらい誰でも出来るようになるさね」

「違いますよぉ、この機関車の音の中でエンジン音を聞き分けちゃうおじさまですよ」

ここは走行中の機関車の中、ガチャガチャゴトゴトカタンカタンと騒々しい中で、エンジン音を聞き分けて、しかも機体すら見ずに型式まで言い当てるこのおじいさんも結構凄い方だ。

「ん?あぁ・・・まぁな」

被っていた帽子のつばをクイッと下げる機関士さん。

機関車はそこから徐々にスピードを下げて、あらかじめ切り替えられていたポイントを渡り、目的地の第三ハンガー横の引き込み線へと到着した。


「待ってたで~、あんたが綾風はんやな?」

微妙なイントネーションの『関西弁』と呼ばれる特殊な地方言語で呼ばれた。

「はい、お世話になりますっ。リンさん」

ここまで運んでくれた機関士さんにお礼を言って私は機関車から降り立ち、ここで私の愛機を組み直してくれる整備士さんに挨拶をする。

「ウチがあんさんの機体を担当する林・紅蘭リン・コウランや、よろしゅうにな」

私の目の前には大きなレンチを肩に乗せた女性が立っていた、薄いグリーンのつなぎを着た女性が立っていた・・・んだけど、え~っと・・・女性っていうか少女?下手すれば幼女?どう見ても子供だよね?私より幼そうなんだけど?

身長も私よりずっと低いし、顔だちも可愛いっていうか幼いっていうか・・・

確かに地球にいた時、メール使って組み直しを依頼した方だけど・・・あぁ、あの時執拗に全身像を出さなかったのはこういう事か。

「ほらなぁ、いっつもや・・・いっつも、そのリアクションや」

さっき聞いた声が、今度は背後から聞こえてきた。

「え?」

振り返るとそこにはリンさんが立って・・・はい?

どういうこと?瞬間移動?

「ネェちゃんがガキっぽいからやで、ホンマ迷惑するで」

後ろに立っていたリンさんが腰に手を当てヤレヤレといった感じで話す。

「なに言うてんねん、あんたとウチは双子やないかい!」

あぁ、これがツッコミとかいう古典芸能ですね。

もう一人(前にいた)リンさんが回り込んできて、もう一人(背後にいた)リンさんの胸を真っすぐに伸ばした手で叩いた。

つまり、私が依頼した整備士さんは可愛い双子の関西弁使いの整備士さんだったてことね。

「どうも~、ウチが妹の林・青蘭りん・せいらんや!よろしゅうな~」

二人で肩を組んでるんだけど、もう既にどっちがどっちか分からないんですけど・・・

「そのリアクションも、もう飽きたわ。あんな?右目のトコ、ココや、右目の目尻の横にホクロがあるんがウチ、紅蘭」

右の目尻を押さえながら向かって左のリンさんが説明する。

「そんで、左の目尻にホクロあるんがウチ、青蘭や」

今度は向かって右側のリンさんが左の目尻を押さえながら寄ってきた。

「あ~・・・はい、わかりました紅蘭さん、青蘭さん」

これじゃリンさんとは呼べないなぁ、両方が返事しちゃうもん。

「ところで、私の機体をお願いしたのはどちらのリンさんなのでしょう?」

実は私、メールでも『リンさん』としかやり取りしていない、どっちの『リンさん』なんだろう。

「「ん?ウチやで?」」

うん、完全にハモった。

「いえ、ですから・・・メールのお相手は紅蘭さんと青蘭さん、どちらだったのかなぁって・・・」

「「せやから、ウチらや言うてるやろ」」

今度もハモった、

「嬢ちゃん、そいつらの見た目に騙されるなよ。そう見えてリラバウル第一ここじゃかなりの腕っこきだぜ」

客車と機関車の切り離し作業を終えて、再び機関車に乗ったさっきの機関士さんが声をかけてきた。

「ホンマか?おっちゃん」

目をキラキラさせて機関士さんの方を向く『たぶん紅蘭さん』

「あぁ、職人の仕事に関しちゃ俺は嘘もおべっかも言わねぇよ紅蘭」

あ、正解だった。

「嬢ちゃん、こいつらの腕は俺が保証するぜ。まぁ任せてみなって」

それは良いんだけどね、結局どちらに頼めば良いのかな?

「ウチらは二人で一人やねん、せやから綾風さんの機体はウチら二人で組ませて貰うで」

「せやせや、別に二人でやったから言うて料金二倍ふんだくる様な真似せんから、安心してや」

いや、そう言う心配もしてなかったけど・・・

「では、改めてお二人にお願いします。紅蘭さん、青蘭さん私の翼、よろしくお願いします」

ペコリと二人に向かってお辞儀をする。

「「よっしゃ、まかせとき!!」」

二人は俄然やる気を出して、ハイタッチまでしてる。

「いくで!青蘭!」

「はいな!紅蘭!」

こうして私の機体はちょっと変わった双子の整備士に託された。




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