女子会?
痴漢された上に突き飛ばされた女の子は立ち上がる事も出来ずにまだホームにへたり込んでいた。
「悪い人達はもう連れて行かれました、もう大丈夫なのですアサヒちゃん」
痴漢バカ三人組に立ち向かっていた方の女の子がへたり込んでいる女の子の手を取って立ち上がらせる。
良かった、特に怪我とかはしてないみたいだね。
「助けていただきありがとうございました」
しっかりした方の子が私に向かってペコリと頭を下げる。
「私は駆逐艦・雪風の船霊です、こちらは艦長の平賀アサヒちゃんです」
え?この子達って二人共船霊さんだと思ってたけど、船霊さんと艦長さんだったんだ。
しかも痴漢されていた方が艦長さんだったとは・・・
「私達ワーカーロイドは人に悪意を持ったり、危害を加えられない様に作られているので、先程の様な状況だと手も足も出せなくて・・・本当に助かりました」
再び、今度は深くお辞儀をする雪風さん。
アイツらもワーカーロイドは人間に手出し出来ないと言っていた。
アイツらはそれが分かっていて手を出したんだ、考えれば考えるほど腹が立つ。
宇宙時代を迎えて人類は人類同士で争うことの愚かさに気付き、そしてその愚かな行為を棄て去った。
宇宙は過酷だった、宇宙と言う広大過ぎる新たなフロンティアは、人類にとって夢であり希望であり、そして地獄でもあった。
多くの犠牲を出しながら、多くの困難を乗り越えて地球人類は少しずつ版図を広げ、今の時代を築き上げた。
そんな中、人類がパートナーとして生み出したのがワーカーロイドだ。
人類をベースとした人造有機生命体でありながら、電子的ネットワークにも直接リンク可能な能力を持った生命体。
最初期こそ一部の人間が消耗品扱いや奴隷扱いするとか言う『人類の恥』を晒してくれたけど、彼らを頼もしいパートナーとして、また孤独を癒してくれるパートナーとして家族のように接していた宇宙船乗り達が立ち上がって、彼らの待遇改善と人権に準ずる権利を勝ち取ったと言うのは『第二の奴隷解放運動』と呼ばれ教科書にもキチンと載っている。
それなのに・・・
だからこそ、あのバカ三人組が一層許せなかった。
「こっちこそ、ごめんね」
私の口をついて出て来たのは、雪風さんに対する謝罪の言葉だった。
「ふぇ?」
驚いた様子の雪風さん。
「この時代に、あんなバカがいるなんて・・・恥ずかしいよ、マッタク・・・って、アレ?」
私は今になってもう一人の女の子、平賀アサヒさんの顔を見て驚いた。
「ねぇ・・・あなたって、この前ハルゼーさんトコで出逢わなかった?」
半べそかきながら雪風さんの背後に隠れる様に立っている子。随分雰囲気は変わったけど一緒に移民申請した子じゃないの?
確か・・・伝説の戦海士『御剣三笠』さんのひ孫で『御剣大和』君だったような?
その子は「うぐぅ」と言うと一層雪風さんの背後に隠れて再び半べそになった。
「え?えっと・・・これには深い訳がありまして」
どうやら込み入った話になりそうだったので、駅から出て近くの喫茶店に場所を移した。
痴漢事件の事情聴取に関しては、運転士さんと車掌のお姉さんが処理してくれるらしい。
ホームの危険防止用監視カメラの映像も残ってるし、痴漢被害者に事件の嫌な思いを思い起こさせない様にとの配慮もあって被害者への聴取は無いらしい。
「私、アイスカフェオレ」
レトロチックな喫茶店に入ると奥まった場所のボックス席に陣取った。
「私も同じで」
大和君?アサヒちゃん?も同じメニューを注文する、一方の雪風さんは・・・
「う〜ん、迷いますです」
写真付きのメニューブックを開いて真剣に悩んでいる。
「雪風ちゃん?」
「う〜ん、チョコレートパフェ、プリン・ア・ラ・モードも良いし、デラックスパンケーキもすてがたいですし。
あ〜っ、テンモンカンのホワイトベアーもあるっ」
真剣に深刻に悩んでるっぽいね。
「ん〜〜っ、プリン・ア・ラ・モードで!」
決まった様です、良かった良かった。
注文の品が出てくるまでの間に、雪風さんから事の経緯を聞いた。
「ふ〜ん、色々あったんだ。大変だね・・・アサヒちゃんも」
「え、えぇ・・・どうしてこうなっちゃったんでしょう」
彼?から聞いた話によると、初日わたしと別れてから平賀造船に行って、そこの所長さんにいきなりぶん殴られて、雪風ちゃんの艦に乗って海に出て、海に放り込まれて拾い上げられて、潜水艦を見学してたら飛行機が二機突っ込んできて、よくわからないけどそのうちの一機を撃墜して、服を着替えたら女の子用しか用意されて無くて、仕方なくそれを着てたらそのまま女の子扱いされる羽目になっちゃったらしい。
「その飛行機って、わたしだよ」
「「え〜っ」」
「どっち?ねぇ、どっち?」
「まさか撃ち落としちゃった方?わたしじゃないですよ?撃ち落としたのはイ−402の紫音さんですから、悪いのは紫音さんですから!」
アサヒちゃんは青くなって、雪風ちゃんは必死に弁明して責任転嫁してる。
「大丈夫大丈夫、わたしは前を飛んでた零戦で、むしろ助けて貰ったんだもん」
ホッと安堵の表情を浮かべる二人、それにしても姉妹かと思う程に・・・可愛い。
こうしてると、完全に女の子だよね。
って言うか、なんか私負けてない⁉︎
それからアイスカフェオレを飲み、雪風ちゃんのプリン・ア・ラ・モードをみんなでつついて、結局パンケーキもパフェもホワイトベアーも追加注文してちょっとした女子会になっちゃった。
「それじゃ、お言葉に甘えてご馳走になっちゃうよ?」
割り勘でと思ってたんだけど、アサヒちゃんと雪風ちゃんが助けて貰ったお礼にと譲らず、結局ご馳走して貰っちゃった。
「その代わり、今度うちの店に来てね。波止場元町電停の近所で『さくら』ってお店してるから」
「是非に」
まだ用事が片付いてない二人と別れて、私は路面電車に乗って帰途についた。
ーーーー波止場元町電停 1908時ーーーー
「ただいま〜」
すっかり暗くなった電停から歩いて家に帰って来た。
女子会?でスイーツを堪能しちゃったから晩御飯は良いかな?
冷蔵庫で冷えた麦茶をグラスに注いで、二階の居間でくつろぐ。
なんだか、今日も色々あったな〜。
こうしてリラバウルの平穏だけどバタバタしてて刺激的な1日が過ぎていった。