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乙女の翼 〜戦空の絆〜  作者: ソロモンの狐
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戸惑い

嫌な予感ほどよく当たる。

なって欲しく無い状況こそ訪れる。


現在行われているのは、

ブルーノ(零戦三二型)vsムトギン(紫電改)

覗き屋(百式司偵)vs曲者姉妹(P-38)

あぶれているのが私と国籍不明機。

あの国籍不明機がどう動くのか?

ピーピングトムの様に逃げの一手なのか?

それともどこかから私を狙っているのか?

ブルーノvsムトギンに手を出すとすれば、それは腕に覚えがあるのか、余程の馬鹿だと思うからこの線は薄いね。

覗き屋vs曲者姉妹に乱入かけてもタダで済むとは思えない、覗き屋ピーピングトムを撃墜したら、横取りされてブチ切れた曲者姉妹のP-38に撃墜(しぬ)まで追い回されること請け合いだ。

これも無いね。

それとも、今戦ってる二組みで撃墜機が一機ずつ出るまでこっそり隠れているつもりかな?

でも、それだと有料チャンネルを契約してる人が離れちゃうんじゃないかな?

残る可能性は、私狙い。

一番嫌な私狙い。

もうね、ダメリーノと正面攻撃して、直後にファントムブラザーズに襲われてね。

もう・・・お腹いっぱいなのよ。

実際お腹は減ってるんだけど、内容濃すぎるのよね。

って言うか、私狙われ過ぎじゃない?

新入りだからって歓迎され過ぎじゃない?

私の飛行高度は2500、これより低い高度から襲われる確率はゼロに限りなく近い、襲撃してくるとすれば直上か背後から。太陽は三時方向だから、真横から襲われる確率も低い。時速300キロを超える移動目標を自分も時速300キロで移動しながら真横から狙って当てるのは至難の技、三次元運動をする航空機に当てるなんて神業だよ。

だから後方を重点的に注意しながら飛ぶ、私としてはこのままブルーノさんとムトギンさんの決着がついて、ピーピングトムが紅蘭さん達にフルボッコされれば良いのになぁって思っていたら・・・

思っていたら突然来た!

それも完全に予想外のところからだ!

0時方向、しかも高度は私より下から来た!

真正面の下からカチ上げの弾道、4本の細い火線が私の目の前を貫く。

私は反射的に思わず操縦桿を引いてしまった。

道を歩いていて急に目の前に何かが飛び出して来たら?

普通驚いて仰け反るよね?まさにあの状態。

ミスった!

私はこの時二つのミスを犯した。

一つ目のミス、反射的に引いた操縦桿は素直に機首を上向ける。

つまり、下からやってくる敵機に対して一番無防備な機体下面を最大限に晒してしまった。

カンカンカンと甲高い打撃音が操縦席の後ろから響いてくる。

幸いにも20ミリクラスじゃない、12.7ミリクラスかそれ以下の音だ。

操縦桿の反応にも異常はない、ペラペラ紙装甲の零戦には7.7ミリでも致命傷になりかねない。

どうやら敵弾は胴体後部に何発か当たって跳ね返された程度、撃ち抜かれてたら中を通る操縦桿と水平・垂直尾翼を結ぶワイヤーを切られて操縦不能になるか、下手をすれば胴体後部で引き千切られて墜落判定を貰うとこだった。

正面攻撃で敵の弾丸速度に自分の機速が乗ってたのにこの程度で済んだのは、下からの打ち上げ弾道と小口径機銃だから助かったのかもしれない、こんな幸運は多分二度とない。

「何奴!」

もう一つのミスは上を向いてしまったことで、敵機からは私が丸見えなのに、私からは敵機を確認する事が出来ない事だ。

機首を10度前後上に向けたまま下を見る方法、しかも敵に対する面積を下げられる方法。

私は操縦桿を左へ倒す、機体は左へ一気に傾き左主翼は大地を右主翼は天空を指す。

操縦席から左を見れば下から来る敵機を確認出来るはずだった、けどいない!

正面攻撃ということは向かい合ってるはず、距離はあっという間に詰まって、今頃は私の真下を後方へ抜けているか、真正面を急角度で駆け抜けている筈だった。

ところがいない、影も形もない。

おかしい、この敵機はなにかがおかしい。

もう一度じっくりと見回すけど見当たらない、見つかるまで徹底的に見たいけどそうもしていられない。

私の機体は今横転状態、主翼は垂直方向へ向き揚力を失っている。

しかも機首はやや上を向いている、高度は徐々に上がっているがそれ以上に速度を失っている。

運動エネルギー(機体の速度)を位置エネルギー(高度)に変換している状態、このままでは失速してしまう。

高度が高ければ安全に回復できるけど・・・チラ見した高度計は2610メートルを指している。

ヤバイ、安全に回復出来るかどうかはかなり微妙、しかも回復中に襲われれば碌に身動きも取れずなぶり殺しにされちゃう。

仕方なく操縦桿を右に戻し、機首も下げて水平状態に戻す。

なんなんだろう、この相手は・・・奇妙すぎて気味が悪い。

と、思っていたらまたも下方からの銃撃。

今度は慌てずに対応できた、薄々そんな気がしていたしね。

今度は目の前じゃなくて左前方を四本の火線が抜けていく。

おかしい、おかしすぎる。

抜けていく火線も妙なの、火線の太さからしても7.7ミリ機銃。これは私の目の前にあるエンジン上部の機銃と同じ、機銃としてはかなり貧弱な部類に入る。

威力の低さを数でカバーしてるにしては、火線の相互間隔がおかしい。

翼内搭載にしては間隔が詰まりすぎてて密集してるし、かといってエンジン上部に四挺もの機銃を装備しているなんて機体聞いたこともない。

紅蘭さん達のP-38のような機体なら機首に集中搭載出来るけど、双発戦闘機最大の利点はそのスペースに乗せられる重火器の威力のはず、そこに7.7ミリ機銃では説明がつかない。

それに参加機の中に双発戦闘機は二機、今頃ピーピングトムの百式司偵を追い回しているはずの紅蘭さん達のP-38だけのはず、追い回されてるはずの百式司偵は非武装のまんまだったはずだし、アレの夜戦改造型は20ミリ機関砲二基だったはずだから計算が合わない。

もしかしたら、紅蘭さんか青蘭さんのどちらかだけがピーピングトムを追っていて、片方が私を狙いに来たのかとも一瞬思ったんだけど、それにしては照準の甘さが納得できない。

さっきは二・三発食らったけど、あれは私が慌てて被弾面積を増やしたからで、本来なら命中するような射撃精度じゃないもの。

その証拠にさっきから全然当たらない。

・・・なんなのよ、この敵機は?

しかも、最大の謎はこの銃撃がさっきからず~っと正面下方からのカチ上げ射撃だってこと。

普通、戦闘機の機銃は前を向いている。

つまり進行方向に撃っている、というかその方向にしか撃てない。

って事は、放っておけば火線の後に敵機が付いて来るはず。

それなのに敵機は一向に私の前を通過しない。

つまり、この敵機は私に進路と速度を合わせながら

『前に向かって飛びながら上を向いて撃っている』

ってことになるわけ。

そうか・・・

そういうことか・・・

やっとわだかまっていた違和感が解消できた。

今私が相手している敵機は戦闘機じゃない、単発の攻撃機・・・なんだ!

海軍の艦爆なのか艦攻なのか、はたまた陸軍の襲撃機や軽爆なのかは分からないけど、相手は真っ当な戦闘機じゃなかったんだ!

盲点、意外過ぎる盲点。

でも、非武装の高速偵察機で参加してくるバカがいるんだから、戦闘機以外が参加している可能性は充分にあった。

そういえば、『大空のサムライ』と呼ばれた日本海軍航空隊のサブロー・サカイも編隊飛行する艦爆隊を戦闘機と誤認して後ろから接近、艦爆の後方機銃で袋叩きにされて重傷を負ったんだった。


『思い込みで戦闘すると痛い目見るわよ』


師匠もそういってた。ゴメンナサイ、すっかり忘れてました。

となれば、探すべき方向は断続的に打ち上げてくる弾道の先、やや前方向の下側だ。

操縦桿を少しだけ前に倒し左斜め下を見る・・・

いた!

打ち上げてきた火線が『見えない敵機』の場所を暴露する。

地上のジャングルと同化するように濃い緑で明細を施された、やや大型の機体が高度2400メートル付近を私と並走するような進路で水平飛行している。

単発単葉の低翼機、コクピットの後ろに大きな動力銃座を乗っけている・・・

え?あの大きさの動力機銃ってなに?

あれってB-17の胴体下面ついてる球形銃座並の大きさしてない?

まさかの魔改造機?

たまにいるとは聞いてたけど、物好きっているのね・・・

魔改造機は禁止されてる訳じゃない、ただ一つ規制があってそれが大問題であるので滅多にしないだけ。


魔改造たった一つのルール、それは・・・

『原型機より高性能になってはいけない』

と言う無茶ルール、誰が好き好んで性能低下するような改造しますかっての。

例えば、私の零戦の機銃を全部7.7ミリにするのは火力の損失になるからOK。

まあ当てにくい20ミリを降ろして、携行弾数の多い7.7ミリにするのはアリっちゃアリなんだけど、F4Fみたいに防弾性能の高い戦闘機やB-17のように防弾性能プラス自動消火装置付きなんかだと苦戦するだけだから普通はしないよね。

逆に米軍機からの鹵獲品だぜ~って言って12.7ミリに積み替えるってのは無し、それは魔改造ルール違反になる。

だからみんな純正品状態で飛ぶの、でも私の相手はそうじゃなかったみたい。

おそらく運動性能の良い艦爆かなにかを魔改造して動力銃座を搭載したんだと思う、でも重いし艦爆あたりに乗せるには限界があって、やむなく7.7ミリ四挺なんて中途半端な火力にしちゃったのね。

「魔改造機とは面妖な、いざ尋常に勝負よ」

いくらか余裕を取り戻した私は再び『桜御前』として振る舞う。




しかし、無線から帰ってきた答えは私を再び困惑させることになった。









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