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乙女の翼 〜戦空の絆〜  作者: ソロモンの狐
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狩る者、狩られる者

『見てない敵機が貴女を墜とすわ』


ふと、師匠の言葉が頭をよぎる。

「いっただきだぜ、桜御前」

「俺たちはF4Fワイルドキャットの『ファントムブラザーズ』」

唐突に無線からおっさん二人の声が割り込んできた。

初単独撃墜の感慨にふけった時間は僅か五秒程度だった、だけどその五秒は命取りの五秒だった。

「いくぜ、ファントム2」

「おうよ、ファントム1」

慌てて振り向くと、ずっと私の後方上位をとっていた二機のF4Fが降下(ダイブ)しながら軸線を私に合わせていた。

単発単葉だけど零戦や紫電改のように胴体下面に主翼が付いているんじゃなくて、胴体の真ん中から主翼が生えている。

零戦みたいなのを低翼機、F4Fみたいなのを中翼機って呼ぶの。

ずんぐりむっくりで全体的に角張ってるし、私はあんまり好きじゃない機体なんだけど、ここで堕とされたら決定的に嫌いになりそうね。

好き嫌いは別にしてもF4Fは厄介な相手、真っ直ぐ伸びる12.7ミリを六挺も積んでるし、『グラマン鉄工所製』って言われてるくらい頑丈だから7.7ミリじゃ火も吹かない。

旋回性能では断然零戦が有利、水平速度でどっこいどっこい、上昇力は軽い零戦が有利だけど、降下速度では頑丈なF4Fの方が速い速度まで引っ張れるから降下して逃げられると追いきれない。

「逃さねぇぜ、桜御前」

「人気者はツライわね」

二機のうち一機の軸線は私の未来位置に、もう一機はそれをフォローするように軸線をずらしている。

今から慌ててフルスロットルにしても、降下速度のついているファントムブラザーズの方が優速だ、逃げ切れない。

左右どちらかに回避しようにも二機いるからどちらも対応される。

少しでも逃げようと降下しようにも、高度は2500。

降下したところで直ぐに地面だ、それに私の零戦は降下速度制限が厳しい事で有名だ。

実際、大昔の実機では試験飛行中に空中分解して殉職者が出ている。

あっという間に距離が詰まる。

「くっ・・・不覚」

こんな時でも役者はこなさなきゃいけない。


「弱いトコ見せちゃ死ぬのさ」

「残酷だがそれが戦闘なんだよ」


なにそれ、カッコいい。

腹が立つけどそのセリフ、カッコいいよ!

と、思いながらなんとか逃げようと考えていた時だった、不意に小悪魔双子姉妹の声が割り込んできた。


「せやな」

「ウチらも」

「「そう思うで!」」


突然だった。

もう少しで私を有効射程に納めるところだった二機のF4Fは、ほぼ直上とも言える位置から急降下してきた二機のP-38に機体上面をくまなく撃ち抜かれた。

そして辻斬りのようなP-38はそのまま突き抜けて行った。

「うぇ⁉︎」

「マジか⁉︎」

「「おかぁちゃ〜〜ん」

炎と煙を残して消え去った。

(と言っても、実際には撃墜判定くらって地上スレスレまで急降下して退場になったんだけどね、ナノネットワーク越しだと一瞬で撃墜されたように見える)


なにそれ、カッコ悪い。


「こちら管制塔、『ファントム1』『ファントム2』の被撃墜を確認、撃墜機は『ラウホア1』『ラウホア2』」


「ごっつぁんで〜す」

「桜御前、おゝきに〜」


やられた。

あの二人、私を餌にしてたんだ!

『ファントムブラザーズ』は正対戦を選んだ『ダメリーノ』を餌にして、わたしの背後をとった。

そんな『ファントムブラザーズ』の注意が私に向いている隙を、高空からあの二人は狙っていたんだ。


二人のP-38は一気に駆け降りてきて獲物を狩ると、腕力で引き起こしてまた高空へと戻っていく。

あれがP-38の一撃(ダイブ)離脱戦法(アンドズーム)、見事だわ。

「ラウホア1・2、お見事!」

私の零戦より100キロ以上速い速度で、40度以上の降下角で突っ込む。

30度を超えたら感覚的には降下というより逆落としだ。

一体どのくらいの高度から降下してきたのか知らないけど、高度2500からの引き起こしだって相当の腕力が必要になるはず。

少しでも遅れれば地面に激突して墜落判定を受けるというのに・・・あの小さな身体のどこにそんなパワーがあるんだか。

「さぁ、残りは七機。握り飯は五つ、食いっぱぐれるのは誰と誰かな?」

まだどこにいるかわからないムトギンさんの声、あと一人気掛かりなのは国籍不明・正体不明の機体。

この際、ピーピングトムには構ってられない。

「それならギンの字が遠慮すれば良いんじゃない?」

初めて聞く声、多分私の真上を飛んでいた青い零戦の人だと思う。

「ブルーノ悪いな、俺は遠慮とホヤが大嫌いなんだよ」

青野さん=あおの=ブルーの=ブルーノ

・・・なるほどね。

「そんなこと言わずに、是非遠慮して下さい。今度ホヤも奢りますから」

「そこまで言うなら、ブルーノ!貴様が遠慮しやがれ!」

「受けて立ちましょう」

真上を見ると、悠然と飛んでいた青い零戦の動きが変わる。

急に右へ機体を傾けたかと思うと、そのまま鋭い旋回を行なった。

「へっ、ちょっとはマシになってるじゃねぇか」

「やっぱりそこでしたか」

え?どこ?ムトギンさんはどこに?

青い零戦のいたであろう位置に4本の火線が伸びる。

その火線の先にムトギンさんがいるはずなんだけど・・・

「いたっ、あんな所に⁉︎」

思わず無線で叫んじゃった。ムトギンさんの紫電改は青い零戦の四時方向、斜め上からやや緩めの角度で降下していた。

「ムトギンは太陽を背にして飛ぶ癖がある」

なるほど、太陽と敵機を結んだ直線上なら太陽光の眩しさで直視出来ないから見つかり難いんだ。

「ブルーノ、バラすんじゃねぇよ」

「そろそろ、その癖直した方が良いですよ」

頭上では熾烈な空戦が始まった。

「てめぇら、手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

はい、絶対口も手も足も顔も出しません。

君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなし。

上空の激戦に気をとられる訳にはいかない、出来る事なら後学の為にも見ておきたいんだけど、油断も隙もない連中だらけだから、残念だけど周囲警戒に集中する。

「ノォォォォ、双子の悪魔だぁぁぁ」

どうやらピーピングトムが紅蘭さん達に捕捉されたみたい。

「性懲りもなく非武装で生き残り戦に出てきてからに」

「あんたらホンマモンのドMやろ?」

そう言って追い回してるお二人はドSですよね?

「No more WAR 人類皆兄弟〜」

「戦空は戦争ちゃうわ」

「あんたらと兄弟なんて最悪や!」

三機と四人の追いかけっこと漫才は始まったばかり。

そうなると、あぶれているのは私ともう一人。

例の正体不明機。

地上待機中にチラッとしか見られなかったんだけど、単発単葉機としかわからなかった。

な〜んか妙だったって言うか、変だったって言うか・・・

どこか違和感があったんだけど・・・

周囲を見回しながら考える。


現在高度は2500、速度はやや増速して400キロ。太陽を背に背後から襲われないように右旋回して太陽を三時方向へ持ってくる。


あの違和感はなんだったんだろう・・・


拭えない違和感が不安感となって私にまとわりついていた。





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